結晶の女神シエルと女神龍シオンの前に現れたのは鉄壁の防御を誇る不死身の騎士ジークフリート。戦場は女神龍クリスタルハートが誕生した場所を再現した空間。シエルは彼の動きに警戒を強める。舞から引き継いだ記憶があるが、ファントムハートの力で再現されている以上は記憶にない動きをする可能性がある。この戦いでは基本的な動作を主軸に堅実に攻めることを意識。生き残ることを第一に考える。
『はああっ!』
ジークフリートは光を放つ盾を構えると、凄まじい速度でシエルに突撃してきた。攻撃が当たる直前にシエルは蒼白の盾を構えて防御態勢に入る。甲高い音が鳴り響き、ジークフリートが怯む。これが弾き。防御ができる武器で相手の攻撃が当たる直前に防御を成功させることで相手の攻撃を無力化。隙を作る技術。タイミングを誤ると攻撃を直に受けてしまうので高い集中力が要求される。
「撃龍刃!」
蒼白の大剣に龍属性のエネルギーを纏わせて一閃。弾きによって生じる隙は僅かなのでこれ以上の追撃はしない。理由はジークフリートの持つ大盾の効果。隙が生じた時以外は正面からの物理的な攻撃は通用しない。
『見事…!』
体勢を立て直したジークフリートの反撃がシエルに襲い掛かる。右手に握られた大剣バルムンクとシエルの蒼白の大剣が激突。大剣を握る手に強烈な力が伝わった。
「うっ…!」
攻撃の速度は遅いが、威力が桁違いだ。これほどの物は体験したことがない。受けたら最後、再起不能になる程のダメージになる危険がある。
『簡単には通らぬか…。ならば、これはどうだ!』
ジークフリートが斬撃に続けて繰り出したのは大盾を使った盾アタック。他の攻撃と違い予備動作が無い技なので先に見切ることが非常に難しい。シエルはそれを何とか防いだが、あまりの威力の大きさに一気に後退させられてしまう。受け止めた瞬間に意識が飛びかけるほどの強烈な衝撃が体を駆け巡った程だ。
『逃がさぬ…!』
ジークフリートが大剣を地面に叩きつけると、放たれた衝撃波が地面を抉る。それはシエルに向かって行った。防御を突き破るほどの強烈な一撃にシエルの体は宙に打ち上げられ、地面に叩きつけられる。適応化能力でダメージは最小限に抑えられているが、体力を一気に削られたかのような感覚がシエルを襲う。
「流石に強いね…!」
『私は常に強者との戦いを望む…。弱者ならば私の前に立つ資格など無い』
「それなら、私があなたにとっての強者になってみせるよ。あなたの本当の主様に続いて」
『面白いことを言う…。ならば見せてみるがいい…!』
「本当なら使わないでおきたいところだけど、流石にあなた相手だと使わざるを得ないよ」
シエルの体が光に包まれる。光が晴れるとシエルの体に変化が表れていた。蒼の燐光を纏った女神龍の翼が背中に顕現。さらに両手と両足は本来の大きさではないが華奢な少女の物から女神龍の物に変化。それはまるで人間と龍が融合したかのような姿だった。これは女神化を改変した物。女神龍の絶大なる力を人の形を保った状態で行使することができるが、舞の極限女神化と同様にシエルの体には尋常ならざる負担がかかる。使い方を誤れば自分だけではない。大切な者達を傷つける恐れがある程の強大な力だ。
『力を上げてきたか…』
「大切なものを失うのは嫌だから。自分にできることは全部やるよ」
『中々の器だ…。続きを始めるとしよう…!』
「上等っ…!」
シエルとジークフリートは同時に駆け出した。最初に攻撃を仕掛けたのはジークフリート。跳躍から大剣を地面に叩きつける。直撃は回避したが強烈な冷気を帯びた大剣の一撃は周囲の地面を一瞬にして氷の大地に変貌させた。同時に空間内の気温はマイナスに。シエルは適応化能力をさらに発動。蒼炎を身に纏い、体力を奪い取る冷気を遮断したら、反撃に出る。
「はあっ!」
シエルは盾アタックを放つ。今のシエルの力は通常時の比では無い。直接ダメージを受けなかったが、想像を遥かに凌駕した衝撃の強さにジークフリートは怯む。隙は絶対に見逃さない。怯ませると同時に跳躍して体を回転させながら頭部に斬撃を叩き込む。型はこれに限らないが舞がプレイしていたゲームに登場する『兜割り』と呼ばれる剣術の奥義を再現した物だ。
『見事な剣術…! だが、隙だらけだ!』
攻撃後は相手に背中を向けた状態で着地するので背中ががら空きになるが、それはゲームの中だけ。シエルは即座に振り向き、ジークフリートの大剣を受け止めた。
「技の利点と欠点は把握済みだよ」
受け止めることはできるのだが、彼の異常な怪力の前に押し切ることができない。激突の度に生じる凄まじい剣圧はお互いの体に傷を刻む。シエルの体から鮮血が流れ、ジークフリートの体からは蒼い光が漏れていた。両者共に譲らない攻防が続いている。
「蒼龍烈刃!」
大剣にシェアを纏わせて力一杯振る。大剣を振った軌道に合わせて生成された光の刃が飛ぶ斬撃となり、ジークフリートに向かって行った。対するジークフリートは氷の魔力を纏わせて同じように振る。振った軌道に合わせて生成された氷の刃がシエルの放った光の刃と激突。互いの刃は喰らい合い相殺された。
『これが楽しいと言う感情なのか…? あなたと戦っていると心の中から熱き何かが滾る…!』
「あなたがあいつの力によって再現された偽物で無ければ、心から楽しめたと思う。だから、解放してあげるよ。あなたをこのゲイムギョウ界に強引に縛り付けている邪悪な力から」
『この感覚…。初めて我が主と打ち合った時と同じ物だ。今の私にはこの混沌とも呼ぶことのできる邪悪な力に抗う力は残されていない。言葉を交わせる内に聞かせてもらおう。あなたの名を教えてほしい』
「シエル。私の中にいるのが女神龍シオン。私達の真名は
『よき名だ…。私の名はジークフリート。この命と肉体が尽き果てる時まで強者との戦いを望む者なり! シエル殿、シオン殿、私は本来この世界には存在してはならぬ者。故に望む…! この悪しき力からの解放を…!』
ジークフリートの体から邪悪な瘴気が噴出。彼の意識は途絶えてしまった。
「助けるよ。私はこの世界を守る女神だから…!」
(貴殿の願い…! 確かに受け取った…!)
シエルは蒼白の大剣と盾を構え直して、ジークフリートと向き合う。邪悪な女神の亡霊の力に侵蝕された彼を救済する時。結晶の女神と空虚なる騎士の最初で最後の剣舞の終幕の時が迫る。最初に動いたのはジークフリート。大剣による突きを繰り出してきたが、シエルは横ステップで回避。生じた隙に攻撃を叩き込み、さらに女神龍の足による蹴りをお見舞いする。
勢いに乗る形でシエルは続けて攻撃を入れるが、体勢を立て直したジークフリートは大盾を使って防御。直後に強烈なカウンターがシエルに襲い掛かるがタイミングを合わせて防御態勢を取ることで弾き、さらに連撃を叩き込む。タイミングを外していれば逆に自分が大剣の錆にされていた。手に汗握る攻防はさらに加速。
ジークフリートは跳躍から大剣を叩きつける。地面が抉れ、飛び散る礫がシエルの体に傷をつけたがこの程度では怯まない。地面に喰い込んだ大剣に自分の大剣を叩きつけて動きを封じるとその隙を利用して斜め・縦・横斬りと繋げて最後に胸の部分を突いた。
二人の剣舞の終幕の時が訪れる。再びジークフリートの大剣とシエルの大剣がぶつかり合い、鍔迫り合い状態に。凄まじい衝撃波が周囲の建造物を粉砕。剣圧によって刻まれる傷はさらに広がる。続けて同時に盾アタック。鈍い音が響き渡ると同時に動いたのはシエル。側転で背後に回り込み、ジークフリートの胸を大剣で貫いた。貫いた箇所からは鮮血の代わりに蒼い光が噴水のように噴き出した。
「終わりだよっ!」
武器を蒼白の大剣からラグナの大太刀に持ち替えて最後に一閃。龍属性の黒雷を纏った一閃を受けたジークフリートは仰向けに倒れ、最後に光となって消滅。結晶の女神と空虚なる騎士の剣舞は終幕となった。
『礼を言わせてもらう。シエル殿・シオン殿。我が主を…。舞様を頼む…!』
シエルとシオンの頭の中に彼の声が響いた。彼女の記憶から再現された彼の主は舞。戦いの果てに守護女神となった彼女と。出会った仲間達と共に生きる。彼女と交わした約束。シエルの心に灯った希望は絶対に消えることはない。大剣と盾をしまい、仰向けに倒れると同時に空間が歪み、元の中央広場に戻ってきた。
「シエルさん!」
「無事でよかったよ。他のみんなは?」
「後はセレナさんと舞さんの二人です…。シエルさん、動けないんですか…?」
「情けないことにね。無茶した結果がこれだよ。体に力が全然入らない」
シエルの手足は元の人間の物に戻っているが、手足は動かせない状態になっていた。時間が経てば治るのだが、当然時間はかかる。女神の亡霊と戦っている舞の手助けには残念ながら行けそうにない状態だった。それはシエルだけでは無い。ネプギア達とネプテューヌ達も同じ状態。仮に動けるだけの余力が残っていたとしても消耗した状態であの二人の戦いに割り込むことは自殺行為だ。故に待つことと祈ることしかできない。銀の女神と金の女神が無事に帰って来ることを。誰かが欠けてしまっては意味が無いのだから。
舞台は緋色の大地の教会内に移る。狂女神化を行使した舞と本気を出したファントムハートの攻防によって教会内は戦いの激しさを物語る程に荒れ果て、壁には巨大な罅が無数に走っている。この教会自体が崩壊するのも時間の問題だった。
「用意したオモチャの内の三体が倒されたか…。私達の舞踏会の邪魔になる守護女神共を潰せればよかったけど、消耗させると言う目的は達成できたから良しとしよう。後は銀の女神となった君を喰らうことができれば全ては私の思うがままだ」
「何が言いたい?」
「君は銀の女神と言う存在に疑問を抱いたことはないかな? 何故、国を持っていないのに他の守護女神を上回る程のシェアの力を有しているのか。クエストから得られるシェアの力など知れている。それだけでは君の強大な力の証明にはならないのさ。改めて考えると守護女神にしては随分と不自然な点が多い」
「それが何だと言うの? つまらない戯言は止めて」
「つれないことを言うね…。君を
「意味のわからないことを言わないで。私達はお前に喰われるつもりはない。言ったよね? 私の全てを賭けてお前を消し去ってやるって…!」
「なら最後の手段を使ったらどうだい? 狂女神化だけで私に勝てないことは既に分かっていると思うけど? 私はこの最高の舞台で極限まで到達した絶望の宴を楽しみたいのさ。それを使うまでは君を喰らうつもりは無い。あまり渋るようなら他の守護女神を潰して君を怒らせると言う手があるけど…」
女神喰いに存在を喰われた彼女の瞳に映る物は全て玩具に過ぎない。自らの欲望のままに他者の命と心と体を弄ぶ。彼女の言葉を聞いているだけで吐き気がする程だ。彼女の言葉に乗せられるのは癪だが、使うしかない。ネプギア達は無事だけど、かなり消耗している状態だ。彼女をネプギア達の元に行かせるわけにはいかない。
「極限女神化、発動…!」
私の手の中に電源ボタンのマークの形をした黒色の結晶が現れる。それを胸に当てると黒い結晶は私の体の中に溶け込み、体の内からさらなる力が湧き上がってきた。銀色の髪は本来の黒髪に変化、漆黒のプロセッサユニットが装着される。アリアの力のおかげで彼女に操られていた時とは違い暴走はしていないが、危険な力であることに変わりはない。安定した女神化に改変できればいいのだが、まだできていない状況。
「お望み通りに発動してあげたよ。あなたの言葉に乗せられたのは本当に癪だけど」
「あははははっ! 最高だよ! その怒りに満ちた瞳は特に! さあ、私達の舞踏会の最終章と行こうじゃないか! 君と言う存在を…世界を喰らう時だ!」
銀の女神と女神喰い。二人の戦いは更なるステージに進む。絶望の宴とも呼ぶことのできる狂気に染まった死闘はまだ終わらない。残る戦いは後二戦。この戦いの先に待つ結末まであと僅か。全ては