ギョウカイ墓場の最奥部に辿りついた私達の前に真の姿を現した犯罪神マジェコンヌ。体から放出される邪悪な力は前回の時を遥かに上回る。今まで戦ってきた強敵達の中で桁違いの威圧感。流石は神の呼称を持つだけはあると言ったところか。
「絶望の宴を始めよう…」
手始めにマジェコンヌは得物の両刃槍の斬撃を繰り出してきた。プリズムハートでそれを受け止めることで鍔迫り合い状態に。それから何度かぶつかり合うが、その度に激しい力の奔流が吹き荒れる。雷鳴はそれに合わせる形で激しさを増した。
「流石に強いね…!」
「誇るがいい。貴様達は我が今まで戦ってきたどの女神達より強い。だが…」
マジェコンヌの体から放出される邪気が身を守るように吹き荒れた。視認できるということはそれだけ強力な物である証拠。
「…っ!」
シェアの障壁を即座に展開。直接のダメージは無いが、強い衝撃が私達の体を駆け巡った。障壁の展開が遅れていたらと思うと恐怖を感じる。邪気はマジックの時と同じ強固な障壁を形成。これを破らないと本体に攻撃は届かない。
「あの障壁をブチ破るよ! フォーチューンハート!」
「わかったわ! わたし達の力、見せてあげるわ!」
フォーチューンハートの手に握られているのは漆黒と純白の長剣。漆黒の長剣には紫色の雷を、純白の長剣にシェアの力を纏わせる。ネプテューヌの固有能力の紫電と四人の女神の力だ。
「久々に元の大きさに戻ることができたから派手にいかせてもらう」
ルミナスハートの武器は銀色の大太刀。セレナとシエルの金色と蒼色の炎に刀身に纏わせると、フォーチューンハートとタイミングを合わせて振り抜いた。
「煌めきの一閃…! グリッタースラッシュ!」
「紫電の飛刃! ブリッツエッジ!」
二人から放たれた飛ぶ斬撃がマジェコンヌの体を守る障壁に直撃。障壁に罅が入るとガラスが割れるような音が響き、障壁が砕けた。
「我が守りをこうも簡単に破るとは…。見事だ」
障壁が砕けた隙を見逃さない。マジェコンヌとの距離を一気に詰める。振るわれた両刃槍の連撃を回避。
「シャインセイバー!」
プリズムハートによる威力重視の三連撃。蒼い光が僅かに出た。
「この力…。思いの力か…。成程、これは手強いな。お前達は世界中の思いを背負い、ここまでやってきたというわけか…」
「そうだよ。みんなの明日を壊そうとするお前は今日ここで絶対に倒すから」
「ならば、我も応えなければならないな…。長き時の中で積み重なった負の思い、急造の思いの力で簡単に破れるとは思わぬことだ」
犯罪神マジェコンヌは遥か昔の時代から今に至るまで守護女神達との幾度の戦いを繰り広げてきた。今までにできたのはウラヌスの言ったように力を弱め、封印にこぎつけることまで。長き時の中で積み重なった負の思いの力の総量は計り知れない。
マジェコンヌは血のように赤黒いオーラを放出。力がさらに上昇したことを感じ取った私達は警戒を強める。左手を突き出すと負のエネルギーが収束し始めた。
「見るがいい…」
収束された負のエネルギーは極太の砲撃となる。シェアの力と魔力の運用技術の収束から放たれた極太の砲撃は私達がいる場所に着弾。背中のプロセッサユニットに力を込めて飛翔。散開したことで直撃は回避したが、着弾した場所の地面は綺麗に抉り取られていた。これがゲイムギョウ界の歴史の中で積み上げられてきた負の力。
「逃がさぬ…」
マジェコンヌの周囲に負のエネルギーが再び収束。赤黒い球体が複数生成されると、凄まじい速度で空中の私達に向かって飛んできた。回避しても方向転換して再度私達に襲い掛かる。シェアの力を纏わせた斬撃でそれを斬り裂いて消滅させる。それを見たマジェコンヌは背中の翼で飛翔。私達の戦いは空中戦に移行する。
両刃槍に赤黒いオーラを纏わせると私に向かって来た。どうやら私を優先的に狙っているようだ。マジェコンヌにとっての脅威であるプリズムハートを持っているのが私だからだとは思う。再び振るわれた凶刃を受け止めた瞬間に体からシェアエナジーを解き放ち、マジェコンヌを怯ませる。怯ませた隙にフォーチューンハートとルミナスハートが擦れ違い様に一閃を与えた。確実に効いてはいるが、まだ足りない。
「忌々しいシェアの光よ。纏めて消し去ってくれる…」
体勢を立て直したマジェコンヌは背中の翼でさらに高い位置に飛び上がると、両刃槍を上に掲げる。それに合わせてギョウカイ墓場の空を覆う黒雲から轟雷が次々と降り注いだ。回避と防御に専念するが、流石に無傷とまではいかない。幸い余力はまだ十分だが、その威力は桁違いだ。ギョウカイ墓場を器にしていることで雷などの自然現象を自らの思うがままに操っていると思われる。マジェコンヌは私との距離を詰めてきた。
「お前は最優先で消去せねばな…。残る女神は十分な脅威ではあるが、我にとっての最大の脅威はお前だ」
「…っ!」
マジェコンヌの両刃槍の一撃が私の右腕を守護するプロセッサユニットに直撃。破壊されたことで素肌が露わになるが、それは普通の人間の物ではなかった。無機質な銀色の素肌に蒼い光が無数に走っている。
「貴様…。その腕は…」
「あなたから分離した
「だから私達は最後の時まで、ここにいるみんなと、冒険の中で出会った仲間達と生き続けるよ。お前のように滅びを齎す奴らが来たとしてもみんなの力で乗り切ってみせる」
「わたし達は今代のゲイムギョウ界を守護する女神として妹達と仲間達と一緒に二人を支え続ける。これがわたし達の総意よ。世界の未来を閉ざそうとするあなたはここで消えてもらうわ」
私達はシェアの力を全開放。吹き荒れる力がギョウカイ墓場の黒雲を完全に打ち払う。
「まだ抗うと言うのか…?」
「当然。最後の時まで生き続けるって言った以上は抗い続けるよ。それに私達の体はまだ動かせるからね。あなたを倒して全員で生きて帰るから!」
私は翼のプロセッサユニットに力を込めてマジェコンヌとの距離を一気に詰める。プリズムハートの一撃は両刃槍に止められるが、力をさらに上げて押し切る。
「ブレイドダンスッ!」
プリズムハートの刀身に纏わせるシェアエナジーの出力を上げて手数重視の十連撃を叩き込む。
「馬鹿な…」
「まだ終わらないわよ。フラッシュザンバー!」
フォーチューンハートの体が一筋の光となる。マジェコンヌの体に二筋の傷が刻まれた。
「次は私達の番だね。銀陽の太刀【月華蒼龍の舞】!」
三色の炎を纏わせたルミナスハートの太刀による八連撃。太刀による舞の型の銘はまだ他にある。
「ぬう…! まだだ、まだ終わらせるわけにはいかぬ…! 女神などに破れてなるものか…!」
マジェコンヌが両刃槍を地面に叩きつけると私達の足元から負の力が吹き出した。それに飲まれた私達の視界が暗闇に染まると共に体に激しい痛みが走る。
「負けない…っ!」
「このゲイムギョウ界の未来のために…!」
「この程度の痛み、乗り切ってみせる!」
これを乗り切れば勝利までの道ができる。私達は手を繋ぎ声を張り上げた。
「「「はああああああっ!」」」
「な、何だと…!」
負の力の領域が完全に消し飛ぶ。ハード・ユニゾンが解除されたが、通常の女神化は維持されているので問題は無い。後はマジェコンヌにとどめの
「これで終わらせるよ。犯罪神マジェコンヌ!」
最初に動いたのはネプテューヌ達。四人の力を合わせた
「私とベールで斬りこむわ!」
「わたくし達の連撃に耐えられるかしら?」
業火の斬撃と烈風の槍撃が凄まじい速度で交差する。この時点で二十四連撃。
「こいつで叩き斬ってやる…!」
絶氷の戦斧の一撃がマジェコンヌの体を打ち上げる。
「この攻撃に全てを出し切る!」
最後を締めるのはネプテューヌの紫電を纏わせた二つの長剣による一閃。これが今代のゲイムギョウ界を守護する四女神の合体技。名はガーディアンフォースである。だが、マジェコンヌの器の破壊にはまだ至らない。
「久々の三人の合体技、見せてあげる。舞、体を借りるよ」
アリアが元の大きさに戻れるのはルミナスハートの時だけ。私は体を操作する意識をアリアに譲渡。プリズムハートを一旦粒子に変換したら、先程まで使っていた銀の大太刀を取り出す。
「最初は私からだよ。金の月光、裁きの槍となり、我が敵を貫け!」
セレナの月の魔術書の頁が凄まじい勢いで捲れる。マジェコンヌの周囲に光の魔力で生成された金色の槍が現れ、四方八方から体を貫いた。
「次は私達の番! シオン、行けるよね?」
『勿論だ。我らの意志の力、彼奴に届けてやろうぞ』
続けて二体の女神龍が降臨。口から蒼い光のレーザーが放たれ、マジェコンヌの体を飲み込む。
「世界の未来を閉ざす者は私達、
銀の大太刀に銀色の炎を纏わせると一気に振り抜いた。斬撃と共に放たれた銀の炎はマジェコンヌの体を包み込み、体を焼いた。
「ぐあああっ…!」
「あと少し…! 次はネプギアちゃん達の番だよ!」
「はいっ!」
ネプギアとユニが先陣を切って突撃。二人の息の合った斬撃と銃撃のコンビネーションが炸裂。
「ラムちゃん…!」
「次は私達の番よ!」
太陽と月の杖を交差させて魔法を発動。特大の氷の結晶がマジェコンヌを閉じ込めた。
「舞にきちんと繋げなさいよね!」
「これがわたし達の全力全開ですっ!」
ネプギアは両手を突き出して、シェアの力を解き放つ。薄紫色のシェアの力の奔流がマジェコンヌの体を飲み込む。
「舞さんっ!」
ネプギアの声を受けた私が最後に突撃。
「プリズムハート、出力最大…! これが、未来へと託す永劫の剣っ!」
全ての力と思いをプリズムハートに込めて振る。右斜め、左斜め、縦、横斬りと繋げる。
「斬! 空! 天! 翔! 剣!」
最後にプリズムハートでマジェコンヌの体を下から斬り上げた。マジェコンヌの体に刻まれた傷からは蒼い光が大量に漏れ出していた。
「ぐあああっ…! この器を…持ってしても…破れる…というのか…!」
「私達の勝ち…だね?」
「ぬう…。見事だ…! 強き者共よ…。しかし…我にも…意地…と言う物はある…!」
マジェコンヌは最後の力を振り絞ると私の体を掴む。
「…っ!」
「このまま…貴様達に…破れたまま消えるわけには行かぬ…!」
マジェコンヌが何かの術式を発動したのを感じ取る。体から放たれた黒い光が私を飲み込む。
「舞さんっ!」
ネプギアの私を呼ぶ声を聞いたのを最後に私の意識は飛ばされた。何が起きたのかはわからない。
「ここは…」
どれだけの時間が経過したのかはわからないが、私の意識は再び覚醒した。視界に映ったのは真っ白な空間。
「目が覚めたみたいだね?」
「舞さん…! 大丈夫ですか?」
「アリア…。それにネプギア…?」
「アタシ達もいるわよ。何が起きたのかはわからないけど」
「見たことのない場所…。どこなのかな…?」
「ここにいるのはわたし達だけみたい…」
「犯罪神があの時に何をしたのかはわからないけど、私達は無事みたいだね」
ネプギア達女神候補生。アリアとセレナ。シエルとシオンはいるが、ネプテューヌ達の姿が確認できない。
『わたしならここにいるわよ。もう一人のわたし達は残念ながらここにはいないみたいね。わたしが存在しているということは無事だと思うけど…。本当に何が起きたのかしら?』
私の手の中にいつの間にか握られていたNの形をした紫色の結晶から聞こえるのはネプテューヌから分離したパープルハートの声。彼女は本体のネプテューヌとは独立した別の意識を持っている特異な存在。
「マジェコンヌはどうなったのかな?」
「わからない。でも、この空間内に私達以外の存在を一つだけ感じるよ」
『先程戦った彼奴のような邪な物ではないようだが…。行けば何かわかるかもしれぬな」
「なら、行ってみよう。ここにいても何も解決はしないだろうから」
私は立ち上がると感覚を研ぎ澄ませる。確かにシエルとシオンの言う通り、私達以外の何かの存在を感じ取ることができる。一体誰なのだろうか。私達はその存在の気配を感じる場所に向かう。
「あれは誰でしょうか…?」
私達の視界に映ったのは白いコートを着た黒髪の少女。
「来たか…」
呟いた少女は私達の方を見る。その姿に私達は驚きを隠せなかった。
「わ、私…?」
「舞さんが二人…?」
「どうなってるのよ…」
私と違っている点は瞳の色だけ。目の前の私の瞳は濁った金色の瞳。女神の印は浮かんでいない。
「あなたは誰なの…?」
「犯罪神マジェコンヌだった者と言わせてもらおう。あの時、我は最後の抵抗でお前の体を器にしようとしたが、それは叶わなかった。最後の抵抗に失敗した我はそのまま消滅したのだが、我が消滅しても消えずに残った僅かな思念が今の我を形作ったのだよ。それはお前と激闘を繰り広げた我の最初の器である四天王の思念でもある。奴らの心に最も焼きついていたのがお前の姿とお前との再戦を望みたいという意志だった。故にこの姿を取る形に至ったというわけだ」
「あなたはもう一度私と戦いたいということでいいのかな?」
「そういうことになるな。今の我の中に残っているのはお前との再戦を望む意志のみだ。
「望むなら相手になるよ。それとここはどこなのかあなたは知ってる?」
「ここはギョウカイ墓場が崩壊した後にできた虚無なる領域。あそこに見える渦のような物は次元の入口だ。どこに通じているのかまではわからぬがな。お前達が元いた世界なのか、異なる別の世界なのか」
「そっか。なら、あなたに勝ってここを通してもらおうかな」
「ふっ…。勝負と言う物はやってみなければわからないのではなかったか? 今の我の力は所詮は犯罪神の残滓に過ぎない矮小なる物だが、それでもお前に立ち向かう意志はあるのでな。この先に行きたければ我を倒してみるがいい」
私の姿をした犯罪神だった者の体が光に包まれ、プロセッサユニットを纏った存在が姿を現した。白を基調としたプロセッサユニット。頭を守護するのは二本の角のような意匠が特徴的な兜。胴を守護するのは私と同じサイズに合った白のボディスーツ。腕と足を守護するのは分厚い白色の装甲。腰を守護するのは長いスカート状の防具。最後に背に顕現した翼は色合いと大きさは異なるが犯罪神の翼と同じ物だった。
「なら、私もあなたの思いに応えるよ。一対一の真剣勝負ということでいいかな?」
「ああ。情けないことに女神候補生と国を持たぬ三女神を相手にするだけの余力はもうないのでな。その提案は今の我にとってはありがたい…」
私は女神化を発動して前に出る。ネプギア達に視線を移すと無言で頷いてくれた。
「犯罪神だった者というのは何だか呼びづらいね。あなたの名前は無いの?」
「名前か…。デルフィナス…とでも名乗らせてもらおうか。我が誕生する遥か昔にギョウカイ墓場に君臨していた王の名前ではあるがな」
「いい名前だと思うよ。始めようか、デルフィナス。本当の最終決戦を…!」
「望むところだ。
互いに力を解放した私達が駆け出したのは同時だった。一つの物語の本当の最終決戦がここに開幕。この戦いの果てに待つ結末がどのような物になるのかはまだ誰も知らない。