Ex Game:真・ねぷのプリン
超次元ゲイムギョウ界を構成する四つの大国の内の一つ。革新する紫の大地プラネテューヌの教会の一室にある二段ベッドの下の方で眠っていた一人の少女が目を覚ました。薄紫色の髪に十字キーの髪飾りを二個つけている少女の名前はネプテューヌ。またの名を革新する紫の大地が守護女神パープルハート。
「あれ…。なんでこんなに早い時間に起きちゃったのかな…?」
思い当たる原因はある。隣の部屋にいる親友と二段ベッドの上の方で眠っている自慢の妹だ。仕事のある平日であろうと昼まで寝るのは当たり前だった自分の生活習慣が変わったのは二人の影響と言っていい。仕事のある平日は朝早い時間に親友と妹に起こされ、バーチャフォレストの秘密の場所で小一時間程の鍛練を行う。朝の鍛練が終わって教会に帰ってきたら教祖のイストワールから出される仕事をクリアして自由な時間を作ることに全力を注いでいる毎日。気がつけば自分の生活習慣は今までの生活が嘘のように感じる程に新しい物に変化していた。
「ネプギアはまだ寝てるみたいだね」
二段ベッドの上で眠るネプギアはまだ夢の中。いい夢を見ているのかとても幸せそうな寝顔だ。衝動的に自分のNギアのカメラアプリを使い、ネプギアの寝顔を撮影。気付かれないようにシャッター音は切っている。続けて壁にかかったカレンダーに目を移してみると今日は休日だった。仕事から逃げられる唯一の日に早起きしたはいいが、何をしようか思いつかない。何だか損をした気分になる。
「着替えよう…」
寝間着から普段着ているパーカーワンピに着替える。ネプギアを起こさないように注意しながら準備を整えたら部屋の外に出る。教会の中はいつも以上に静まり返っていた。
「舞は起きてるかな?」
自分の部屋の隣にある親友の部屋に入ってみることに。部屋の扉を慎重に開けて中に入るとベッドの上で眠る親友の姿があった。彼女の頭にはNのマークが入った白いヘルメットのような物が装着されている。それから伸びているコードはテレビの前に置かれているハードに接続されていて、テレビの画面には海底に沈んだ巨大遺跡を舞台に黒い体を持った巨大な海竜型モンスターに立ち向かうパープルハートの姿があった。
舞の頭に装着されているのはネプギアが開発した精神フルダイブ型ヘッドマウントコントローラの『ネープギア(仮)』。自らの意識をゲームの世界にダイブさせることができるという夢のようなデバイス。舞の誕生日にネプギアがプレゼントした物なのだが、まだ市場には出回っていない。近々開催予定のプラネテューヌの最新の家電製品の発表会に出品され、最終的に商品化されるとのこと。
『休日なのに随分と早起きだね? 今日は何か面白いことが起きる気がするよ』
ベッドに眠る舞の体の中から銀色の光の玉が現れる。光が弾け飛ぶと小さな妖精のような少女が現れた。彼女の名前はアリア。舞をこの世界に導いた銀の女神。本来は舞と同じ体格の少女なのだが、とある戦いが原因で小さい姿になっているのだ。
「なんか、急に目が覚めたんだよねー。舞は起きてるのかなって思って来てみたらこの状況だよ。このゲーム、いつからやってるの?」
「昨日の夜からさ。進みだしたら止めるタイミングを見失ったみたい。普段なら自分でタイミングを見つけて止めているところだけど、休日だから一種のリミッター解除の状態になっているみたいだね。こうなった舞は誰かに呼ばれない限りは自分の限界までゲームを続けるよ。用があるなら通信で舞の意識を呼び戻せるけど」
「ならこの戦いが終わってからにしようかな」
ネプテューヌはテレビの前にあるソファに座ると戦いを観戦し始める。舞の意識が操作するパープルハートが相手にしているのは本編のラスボスを倒した後に挑戦できる隠しボスの一体。背中から放たれる大放電は戦場である海中そのものを凶器と化す程の恐ろしい威力を誇っている。
「嘘!? 一撃で体力の四分の三が吹き飛んだよ!?」
ネプテューヌは声を上げてしまった。アリアの話によると雷耐性が非常に高いプロセッサユニットを使っているらしいのだが、それでこの威力である。雷耐性がマイナスならば即死確定だ。雷耐性を極限まで高めてこの威力まで下げることができるのだ。回復アイテムを使い、失った体力を完全に回復したが手持ちの回復アイテムはこれが最後。左上に表示されるタイマーを見ると戦闘開始から既に三十分が経過していた。
「勝負所だね。この状況からどう出る?」
ネプテューヌの頭の上に乗っているアリアは戦いの終わりが近づいていることを感じ取っていた。パープルハートは手に持った太刀で背中の電気が放出される水晶に連撃を叩き込み破壊するが、反撃の体当たりで体力が半分消し飛ぶ。
『最後の時まで諦めない…! はああああっ!』
パープルハートの太刀の一撃が肉質の柔らかい腹に直撃。渾身の一撃を受けた海竜は生命活動を停止。体が光となって消滅。素材が散らばったので回収を行う。
『頭は壊せなかったか…!』
「舞、お疲れ様。偶然起きてきたネプテューヌと一緒に見させてもらったよ」
『アリア…? ネプテューヌが一緒にいるの?』
「やっほー! たまたま目が覚めたから舞の部屋にお邪魔させてもらったけど、ここまで白熱した戦いが見られるとは思わなかったよ。舞の操る女神化後のわたしの戦いを見てたら何だか変な感じがしたけどね。今度強い敵と戦う時はわたしを呼んでよ! 舞の操るわたしの戦いをまた見てみたいから!」
『わかった。その時は呼ぶよ。消費したアイテムを補給したらログアウトするから後少しだけ待ってもらえる?』
三分程かけて消費したアイテムを全て補給。次の強敵に挑む準備をしたところでゲームデータを保存。ログアウトを行うとベッドで眠っていた舞が起き上がる。意識がゲームの世界から現実の体に戻ってきたのだ。
「待たせたお詫びと言っては何だけど今からプリン作ってこようか?」
「おお! 舞の手作りプリン! 朝から最高のデザートだね!」
「ふふっ。何なら一緒に作ってみる?」
「わたしにできるかなぁ…?」
「大丈夫。私が傍について教えるから。仮に失敗したとしても練習を積み重ねればいいだけ。ネプテューヌは才能の塊だから何とかなると思うよ」
「んー。舞が言うならやってみようかな! 主人公オブ主人公の才能をプラネテューヌ信者のみんなに見せてあげよう!」
「その意気だよ。早速厨房に行こうか。アリア、お留守番をお願いしてもいい?」
「任されたよ。最高のプリン、期待してる」
私達は厨房に向かう。平日なら教会の職員の食事を作る料理人達が一生懸命頑張っているが、今日は休日なので人がいない。故に事実上私達の貸切状態だ。一応私は料理とかお菓子作りの練習ということで何度かお邪魔しているので冷蔵庫に入っている材料は決められた限度を守れば使っていいと許可を貰っている。
「さて、プリンを作るのに必要な材料はこの三つだね」
「砂糖と卵と牛乳だけでいいの?」
「ネプテューヌに出してるプリンはこの三つで作ってるよ」
「ふーん。作る側に立ってみると色々なことがわかって面白いねー! それで、最初は何をすればいいのかな?」
「最初はカラメルソースからかな。この小さいお鍋に砂糖と水を加える」
さらにコンロの火を点ける。強さは中火でよかったかな。
「中火に当てながら鍋をゆする。これを茶色になるまで続けて」
ネプテューヌの対応力の高さには目を見張る物がある。いつの間にか慣れた手つきになっているのだから。
「あっ! 茶色になったよ!」
「なら火を止めて水を加えようか。水は大さじ一杯分だね。次はそれをプリンの容器に流し込んで、固まるまで待つ。次の作業に進むけど、行ける?」
「大丈夫だよ! 次は何をすればいいのかな?」
「次はプリン液を作るよ。卵を割ってボウルに入れる。さらに砂糖を加えてかき混ぜようか。ここは力加減が重要だよ。泡立てないように注意してね」
ネプテューヌは力を抜いて慎重にかき混ぜる。本当なら全力全開でかき混ぜたいところだが、それでは親友と作る最高のプリンにはたどり着けない。一旦混ぜるのを止めてネプテューヌはある手段を行使することに。目を閉じて集中。体内でシェアの力を爆発させて特殊女神化状態になった。
「まさか特殊女神化を使うとはね…」
「これなら落ち着いて進めることができるわ。まだ続ければいいの?」
「ここで牛乳を少しずつ加えるよ。私がいいと言うまで続けて。疲れた時は手を止めて大丈夫だから。落ち着いて進めていこう」
「わかったわ。完成までに後どれだけの作業があるのかしら?」
「後半分かな。真・ねぷのプリンの完成は近づいている」
特殊女神化状態のネプテューヌの力でプリン液が無事に完成。プリンの容器に入れたカラメルソースが固まったことを確認したらプリン液を流し込み、ラップをかける。今回は自分達の分と合わせてアイエフ・コンパ・イストワール・ネプギア・アリアの分を作るので合計で七人分だ。アリアとイストワールの分は大きさを調整している。
「次はこの蒸し器を使って進めるよ。これに水を入れて沸騰させる。沸騰したら火を止めてプリンを中に並べる。この時に蒸し器にラップが触れてると溶けて大変なことになるから注意が必要だね。ここから先は待つことの方が多いから特殊女神化は解除していいと思うよ」
ネプテューヌは再び目を閉じて気持ちを落ち着かせる。
「疲れたぁ…。プリンを作るのって何気に大変だね?」
「慣れたら苦ではないよ。さあ、次は蓋をして弱火で十分間蒸したら、火を止めて十五分ほど放置だね。この間に使った器具の片付けをしようか」
Nギアの時計アプリの中にあるタイマーを仕掛けて待つ。片付けを終わらせたらタイマーが鳴るまで雑談。ゲームの話で盛り上がると時間はあっという間に経過。私は蒸し器から出したプリンのラップを剥がして中央に串を刺してみる。プリン液が流れ出てこなければ大丈夫。全員分を確認したら後は冷蔵庫で冷やすのみだ。
「後はネプテューヌの部屋にある冷蔵庫で冷やしたら完成だよ」
「おお! 後の問題は味だけだよね…?」
「ネプテューヌが頑張って作ったプリンだから大丈夫だよ。みんなを部屋に集めて真・ねぷのプリンのお披露目会をしようか」
ネプテューヌの部屋に戻ると真・ねぷのプリンを冷蔵庫に入れる。起きていたネプギアにみんなに見せたい物があるから、呼んできてほしいと言いアリアと一緒にアイエフ達を呼びに行ってもらった。私達の呼びかけに全員が集まったが、まだお披露目までは時間がある。
「ねぷねぷ、わたし達に見せたい物ってなんですか?」
「ふっふーん。机の上に置いてあるわたしのNギアのタイマーが鳴ったら見せてあげるよ」
「舞さん、お姉ちゃんと一緒に何をしていたんですか?」
「それはまだ秘密。呼びつけておいて悪いけど、後少しだけ待ってほしい」
「舞が一緒なら期待できるわね。ネプ子だけで何か用意したって言うなら変な物を想像するけど…」
「まあ、舞さんのおかげでネプテューヌさんの自堕落な生活も随分と改善されましたからね…。ここは期待させていただきましょうか」
机の上に置いてあるNギアが鳴り響いた。
「ネプテューヌ、お披露目の時だよ」
「オッケー!」
私は机の上に人数分の食器とスプーンを用意する。それを見たアイエフ達は何が出るのかを理解したようだ。
「括目せよ! これが! 真・ねぷのプリン! わたしの手作りプリンだよ!」
「ねぷねぷの手作りですか!? すごいです!」
「まさかプリンを食べてばかりのネプ子が自分でプリンを作るとは思わなかったわ」
「舞さんと一緒に作ったの?」
「私は作り方を教えただけだよ。味見はまだしてないけど、最高の味になっていると思う。このプリンにはネプテューヌの心が籠っているからね。さあ、みんなで一緒に食べようか」
「よーし! 真・ねぷのプリンで乾杯だー!」
真・ねぷのプリンを乗せたグラス型の食器を持つ。ちなみにアリアとイストワールは専用の小さい食器。
「プラネテューヌに! みんなで過ごす平和な日常に! そして! このゲイムギョウ界に!」
『かんぱーーーい!』
真・ねぷのプリンの味は大好評だった。これはプラネテューヌの平和な日常の一幕に過ぎない。私はこの平和な日常がいつまでも続いてほしいと思った。この日常を破壊しようとする奴らが現れたとしても私は絶対に屈しない。この世界で出会った大切な親友達と一緒に平和な日常を守り抜いてみせる。この世界に来て一年目となる記念日の誓いとなった。