ケイからもらったゲームソフトを始めてどれくらいの時間が経ったのだろうか。
私は未だゲームの画面に集中したまま黙々とクエストを消化していた。
「あっ! ネプギアとユニが起きたよ!」
私の隣でゲームを見ていたREDが声をかけてくれた。
イヤホンをしているとはいえ他人の声が聞こえないことはないので私はその声に手を止める。
「舞さん、何をしているんですか…?」
「ケイにもらったゲームソフトだよ。二人が起きるまでしてたの」
「それアタシも持ってるわ。通信して協力プレイもできるから難しいようならアタシが手伝ってあげてもいいけど?」
「ユニはどこまで進んでいるの?」
「一人用クエストは最後のクエスト以外は全て消化しているわ。今は多人数向けクエストのAランクまでは進めているけど敵が強いから装備の更新をかけているところね。アンタがここまで来てくれれば、かなりの戦力にはなると思うけど」
「流石だね。私はまだ一人用クエストのCランクを解放するためのクエストが出たところだからユニのところまで追いつくのはまだまだ先の話になりそう」
「Cランクの解放クエストの相手はなんだったかしら?」
「えっと、フェニックスだね。鳥系の大型モンスターみたいだけど。」
「まぁ、アンタなら楽勝でしょ? さっさとアタシのところまで来なさい。待っててあげるから」
「まぁ、頑張るよ。ネプギアとユニも起きたことだから、これからゲイムキャラのところに行ってみようか。二人とも準備はいい?」
ユニのいる場所は銃使いという点だけではなくゲームの中でも遠いようだ。
そこに到達するにはまだまだ時間が必要だ。だからと言って焦る必要はない。
自分のペースで進めていけばいい。短時間で劇的な強さを得るのは無理な話だ。
そう考えながら私はネプギアとユニに確認を取る。
「アタシは大丈夫…。と言いたいところだけど。銃が無いのよね。ネプギアとの戦いで壊れたみたい…。一応剣は持ってるけど、銃に比べたら扱いが劣るところがあるわ。」
「私のビームソードも使えないみたいですね。あの時刀身が完全に消えちゃいましたから…。」
ユニとネプギアは私の問いに答える。正直に言うとすっかり忘れていた。
二人の武器が一騎打ちの時に壊れてしまっていたことを…。
「じゃあネプギアとユニはこれを使って」
私は銀の長剣をネプギアに
銀の双銃の片方をユニに渡す。
「これはありがたいけど、アンタは大丈夫なの?」
「ユニちゃんの言う通りですよ。これだと舞さんの武器が…」
「私には短剣と銃が残ってるから大丈夫。これからそれを使ってくれたらいいよ」
スライヌ討伐クエストに挑む前の私みたいに装備無しの状態ではないので問題は無い。
銀の女神のプロセッサユニットのグローブを使えば格闘戦も一応は可能である。
「アンタが大丈夫ならありがたく使わせてもらうわ。ありがと」
「私も大切に使わせてもらいますね。舞さん、ありがとうございます」
ネプギアとユニの二人ならきっと武器の強さを最大限まで引き出してくれるだろう。
武器の問題を解決した私達はホテルを出てそのままセプテントリゾートへと向かう。
「舞さん、ゲイムキャラさんはまだ奥の方にいるですか?」
「うん。ここからもう少し奥に進んだところかな」
「まぁ、あの教祖も今さら嘘の情報を舞に渡すとは思えないし、もう少し進んでみましょう」
私達はセプテントリゾートの奥に進んで行く。
テコンキャットと戦ったのはそこまで奥の方ではなかったようだ。
「ここだね」
その場所には台座に置かれている灰色のディスクがあった。
バーチャフォレストの最奥部にあった物と同じ物のようだ。
「やっと見つけることができましたね! 下っ端もいないみたいですから今のうちに話をしたほうがいいんじゃないですか?」
ネプギアの言葉に周囲を見渡すがリンダの姿は見当たらない。
邪魔が入る可能性は大いにあるので今のうちに話を進めるのが得策だろう。
「私にゲイムキャラと話をさせてほしいんだけど、いいかな?」
ケイの忠告を聞いているのは私だけなのでそれを意識して話を進めたいと言うのが理由だ。
素直に要求が飲んでもらえるとは思わないほうがいい。ケイの忠告が頭によぎる。
それに私には協力を取り付けるだけではなく、個人的に聞きたい案件もある。
ネプギア達は無言で頷いてくれた。大きく出たからには結果を示したいところではある。
「あなたがラステイションのゲイムキャラ?」
私の言葉に応えるようにディスクが光を放つ。
「ん…? お前は何者だ? その瞳は銀の女神の物か…。これは予想外の来客だな。さらにプラネテューヌとラステイションの女神候補生に加えてパープルディスク、お前も一緒にいるとは思わなかったぞ」
「私が彼女達について行きたいと言ったのですよ。銀の女神の継承者と女神候補生達がこの先に作り出すゲイムギョウ界の新たな未来。それを私は間近で見てみたいと思ったのです。結果として自分の守護する土地を離れることにはなりましたが」
「なるほど。そこにいる銀の女神の瞳を持つ少女。確かに不思議な感じがする…。お前が古の女神と交わした約束を放棄してまで動いた理由もわからなくはないが、約束を放棄するのは感心できんな」
「責められるのは覚悟の上ですよ。特に交わした約束を必ず守る堅物の貴女に指摘されることは予想できていましたから」
「言ってくれるな…。まぁ、いい。銀の女神の継承者よ。名はなんという?」
「神奈 舞だよ」
「舞か…。それでお前達は私に何を望む? これほどの面々がわざわざここまでやって来たと言うことは、よほど重要な案件であると予想するが」
「私達に力を貸してほしい。ギョウカイ墓場に幽閉されている女神達をみんなで助けたいんだ。そのためにはあなたの協力が必要なの」
「なるほど。薄々と気付いてはいたが、女神達は捕らわれていたということか。3年前のある日から女神の存在を感じ取ることができなくなった理由がお前の言葉を聞いてようやくわかった」
「答えはどうかな?」
実はこの時、彼女の出す答えは既に予想できていた。
「ふむ。事情は把握した。お前達と一緒に行くことはできない。これが私の答えだ」
「私の予想通りの答えだね。そう言うと思ってたよ」
予想通りの答えを返してきたブラックディスクに私は言う。
「そんなっ…。どうしてですか?」
「ネプギアの言う通りだよ! 女神様達が捕らわれているっていうのに!」
私もこの返答が予想できていなければ二人と同じ反応をしただろう。
「アンタが古の女神と交わした約束が理由ってわけ?」
「そういうことだ。ラステイションの女神候補生よ。私の役目は女神の身に何かが起きた時、その代わりにこの土地を守護することだ。お前がプラネテューヌの女神候補生について行くのは構わないがそれに加えて私がこの土地を離れると言うことはその間この土地を守護する者が完全にいなくなることを意味する。パープルディスクはそれを理解した上でお前達に同行しているようだがな」
「それじゃ、アンタは女神が捕まったままでいいって言うの? それは守護者としてはどうかと思うけど」
「私の役目はあくまで女神の代理だ。女神を助けることではない。銀の女神の継承者には確かに興味はあるがここを離れる理由にはならない」
ケイが忠告してきた理由がわかった気がする。彼女は思った以上の堅物だ。
力を貸してもらうことだけでもできればいいのだが…。私は考えていた。
舞達がブラックディスクと話をしている同時刻に少し離れた場所にある人物がいた。
人物と呼んでいいのかはわからないが…。
「どこにいるっちゅ…? 探していないのはもうこの辺りだけしか残っていないっちゅ。他のダンジョンも探したし残るはここしかないっちゅが…」
コンパと舞が手当てをした灰色の大きなネズミがいた。
「愛しのコンパちゃんとマイちゃんにも会えないっちゅ…。恥ずかしくてあの場から逃げ出してしまったのが後悔っちゅ…」
どうやらネズミはコンパと舞の事が好きになってしまったようだ。
「あぁ…。ついにコンパちゃんとマイちゃんの幻覚まで見え始めてきたっちゅ…。いや、違う! あれは本物のコンパちゃんにマイちゃん! 愛しの天使っちゅ!」
ネズミは猛スピードでコンパと舞の下へ向かう。
「きゃあっ? この間のネズミさん? どうしてここにいるです?」
「元気になったみたいでよかったよ。ただ今大事な話をしているところだから少し静かにしてほしいかな…」
私は突然現れたネズミに言う。この前と同じく目にハートの模様が浮かんでいるように見える。
大事な話の途中なので終わってから話をしたいと思ったのだが…。
「舞の言う通りよ。静かにしてなさい」
「マイちゃんがそう言うなら大人しくしてるっちゅ! って、ああああああ! そこにいるのはもしかしてゲイムキャラ!?」
この驚きよう…。このネズミもゲイムキャラを探していたようだが
それと同時に私の脳裏に嫌な予感が走った。嫌な予感ほど当たる物はない。
「ネズミさんもゲイムキャラを探していたですか?」
「なんという幸運な一日っちゅ! コンパちゃんにマイちゃん。ゲイムキャラが同時に見つかるなんて!」
ネズミの喜びようが凄まじい。これは私の悪い予感が的中ということでよさそうだ。
「そうだ! コンパちゃん、マイちゃん! 一緒にあいつをやっつけるっちゅ!」
「何を言ってるです? ネズミさん」
「ネズミ、アンタまさか…。マジェコンヌの…」
「はぁ…。悪い予感ほどよく当たる物はないよね。ビッグスライヌやM-3カスタムの時もそうだったし」
この的中率を他に活かしたいくらいだ。
「ゲイムキャラをやっつければご褒美がもらえるっちゅ! コンパちゃんとマイちゃんも特別待遇でマジェコンヌに入れるっちゅよ?」
「マイとコンパが助けたネズミ、敵の一員だったの!? 流石のREDちゃんもびっくりだよ!」
「ダメです! ゲイムキャラさんを倒したりしたら…」
「そうっちゅ! このゲイムギョウ界がまた一歩マジェコンヌの物に近づくっちゅ! 四女神がいない今のゲイムギョウ界はもう後少しで我々の物だっちゅ! コンパちゃんもマイちゃんも今のうちにマジェコンヌに入ったほうがいいっちゅよ?」
私はそれを黙って聞いていたがあんまり調子に乗られると困るので
この辺りで一回きつく言ってやろうと思ったが…。
「やめてください! ネズミさん!」
「コンパちゃん…?」
「わたしは女神さん達を、わたしの大切な友達を助けるためにギアちゃん達と旅をしているです! だから、ネズミさん…。あなたはわたしの敵です!」
「そんな…!」
コンパの言葉を聞いたネズミはこの世の終わりを見たかのような表情をする。
「世界をこんなにして、わたしの大切な友達と日常を奪っていったマジェコンヌなんて大っ嫌いですっ!」
「大っ嫌い!? マイちゃんはそんなことはないっちゅよね!?」
まさか私に振ってくるとは思わなかった。コンパに任せておけば大丈夫かと思っていたので
返す言葉を用意していなかった。完全に不意打ちだと思った私がその場にいたが…。
ちょうどいい言葉がタイミングよく私の頭の中に浮かんだのでそれを使わせてもらおう。
「あなたは私の事を好きでいてくれたのかな?」
「大好きっちゅ! だからマイちゃんも一緒に!」
「そっか…。少しでもそう思ってくれてるのなら嬉しい。でも、コンパはあなたのことを敵って言ったよね? なら私が取る行動はもう決まってるよ」
私は銀の銃を取り出してネズミに向ける。
そしてあるゲームに登場するキャラクターの言葉を言う。
「仲間の…。友達の敵は、私の敵だよ…!」
「マイちゃん…。うわあああああん!」
私の言葉がとどめとなったのか、ネズミは暴れ出した。
「あははは! マイとコンパに振られてダメージ二倍だね!」
REDはネズミを見て笑いながら言う。私も本気で恋心を抱いていた相手に振られたら
泣いて暴れ出したりしてしまうのだろうか。経験が皆無なので何とも言えないが…。
「恋に破れた以上は仕事に生きるしかないっちゅ! コンパちゃん、マイちゃん! 覚悟するっちゅ!」
ネズミはそう言うとディスクを空中に投げる。
投げられたディスクから光が飛び出し、それはモンスターの姿を形成する。
逆立った蒼い毛と鋭い爪が特徴的なモンスターだ。
バーチャフォレストで見たフェンリスヴォルフと瓜二つだが…。
「フェンリルじゃない。中々強めのモンスターを連れてきたわね。危険種に比べたらまだ楽な方だけど」
どうやらフェンリスヴォルフとは別のモンスターのようだ。
「こいつは私達に任せて。アンタとコンパであのネズミを一度懲らしめてやりなさい!」
「そうだよ! 悪い奴は懲らしめないと!」
ネプギアとユニは女神化を使い既にフェンリルと向かい合っている。
ならば私達が取る行動は一つ。コンパと一緒にあのネズミを懲らしめるだけだ。
「ということだけど、コンパ、行ける?」
「はいです! 舞さんと一緒にネズミさんに立ち向かうです!」
『いい感じのシチュエーションだね。この辺りでもう一段階上げていこうよ!』
銀の女神の力を解放しようとした私の頭の中にその本人の声が響いてきた。
その声に導かれるままに私はその力を解放する。
「これは…」
私の体はほんの少しではあるが浮いている。
後ろを確認すると小さいが銀色の機械的な翼がついていた。
『本当はもっと大きく…。大空を舞うための翼だけど、今はまだここまでだね。頑張って! 舞!』
その言葉を最後に銀の女神の声が聞こえなくなる。
思えば彼女に名前を呼んでもらったのは今が初めてだった。
私は内心喜んでいた。名前を呼んでもらうのはこれほどまでに嬉しいことだと改めて実感した。
「新たな力の覚醒…。これが銀の女神の継承者か。ならばこの目で見届けさせてもらおうか」
「彼女の強さには終わりがありません。あなたも見てあげてください。彼女の輝きを」
ブラックディスクとパープルディスクはその場を離れて戦いを見守る。
私とコンパはネズミに、ネプギア達はフェンリルに立ち向かう。
この戦いの先でブラックディスクの協力を得ることはできるのだろうか。