ブラックディスクと話をしている私達のところに現れた灰色の大きなネズミ。
犯罪組織の一員という事実が明らかになり私達はネズミと戦うことになった。
その相手をするのは私とコンパ。
ネプギア達はネズミが呼び出したフェンリルを抑えてくれている。
「ちゅーーー!」
ネズミが凄まじい速度で私に迫ってくる。その攻撃を新たに発現した
背中のプロセッサユニットに力を込めて素早く横に移動することで回避する。
ネズミは小柄な体のおかげなのか素早さと回避能力が高い。
私とコンパも決定的な一撃を与えることができない。ネズミの攻撃手段は爪での一撃に
風の魔法を使ってくるようだ。ネズミが繰り出してくる攻撃にはまだ被弾していないが
それに捉えられるのも時間の問題だろう。長引けば私達が不利になる。
「ネズミさん、速いです…」
「あの魔法が使えれば行けそうだけど…。今の状態でできるかな?」
魔法の回数制限は一回の戦闘においての回数制限なので現時点での運用は可能ではある。
素早い動作を繰り返すネズミ相手に魔法の詠唱の時間を稼ぐのは難しいのだが…。
「ここは無理やり行かせてもらうよ。多少のダメージは覚悟する」
私は魔法の詠唱を開始する。それを見たネズミは私の方に突っ込んでくる。
コンパが私を庇おうと前に立つがネズミはその横をすり抜けて私に攻撃を加えてくる。
回避はせずそのまま攻撃を受けるが、痛みに耐えつつ詠唱を続行する。
ネズミはさらに攻撃を加えて詠唱を中断させようとするが私はこれを狙っていた。
「ダークホロウ!」
私の足元に展開された魔法陣から黒い煙が立ち上る。黒い煙がネズミを包み込む。
「ちゅ? 前が見えないっちゅ!」
「コンパ、今だよ!」
「はいです!」
コンパが煙に包まれて慌てているネズミに注射器での連続打撃を与える。
鈍い打撃音が響く。注射器の打撃はネズミをしっかりと捉えていた。
「痛いっちゅ!」
私が使った魔法の効果はここで終わりではないと言っておこう。
「体が重いっちゅ…」
ネズミの動きは先ほどと比較するとかなり遅くなっていた。
ダークホロウの真の効果は相手の素早さを下げることにある。
「効いたみたいだね。さっきの仕返しをさせてもらうよ」
私は銃を取り出してネズミに発砲する。動きが遅くなったネズミは的のような物なので
下手な私でも十分に銃撃を当てることができる。銃撃を受けて怯んだところを見逃さずに
短剣での連続攻撃を叩きこむ。一撃の威力は低いが攻撃を繋げればそれなりの威力になる。
ネズミが元の素早さを取り戻す前に一気にとどめをさしたいところだ。
「コンパ、行ける?」
「はいです」
最初に動いたのはコンパ。ネズミに近づくとなんと素手でビンタを叩きこむ。
「舞さん、お願いします!」
ビンタを三回当てると最後に注射器を振りまわしてネズミを吹き飛ばす。
私のところに飛んできたので浮遊した状態から蹴りを叩き込みその体を宙に浮かせる。
そこに残りの弾丸を全て撃ち尽くし最後に短剣で横に一閃を加える。
「レイシーズダンス…。には遠く及ばないけどね」
ここに来る前にしていたゲームで登場した技の1つだ。
本来はサマーソルトキックで敵を浮かしてそのまま空中で蹴り技のコンボを決め
最後に横に一閃を加える技だが、そのままの形を再現できそうになかったので
空中でのコンボの部分を銃撃に変更する形になった。
「我が生涯に…。一片の悔いなしっちゅ…」
どこかで聞いたことのある台詞を言い、ネズミは地面に倒れ伏した。
コンパのビンタを受けた頬は赤く腫れ上がっていた。
どれほど強烈なビンタだったのだろうか…。
ネズミを懲らしめた私達はネプギア達の方に視線を移す。
ネプギア達はフェンリルと戦っていた。
私がネプギアとユニに渡した武器は女神化により新たな姿を獲得していた。
ネプギアに渡した銀の長剣は銀色はそのままに可変式の武器に変化していた。
刀身を折りたたむことができるようで折りたたむと隠れていた銃身が姿を現す。
状況に応じて剣と銃の形態を自在に変えることができるようだ。
ユニに渡した銀の銃はネプギアと同じく色はそのままにかなり大きめの銃になっていた。
エクスマルチブラスターほど大きくはないが銃身が銃撃に合わせる形で回転するようで
連射性能に特化していると思われる。
「アイエフさん、REDさん! 後は私とユニちゃんで決めます! ユニちゃん、行くよ?」
「任せなさい」
ネプギアとユニはフェンリルにとどめを刺すために動き出す。
最初に動いたのはユニ。銃身にシェアの力を込めると引き金を引く。
「デスペラード!」
込められたシェアは光の弾丸となり間を置かずにフェンリルに次々と直撃する。
実弾だけではなくシェアを込めることもできるということを知った瞬間であった。
「ネプギア、決めなさい!」
「うん!」
ネプギアはプロセッサユニットに力を込めて飛び上がるとフェンリルの背に乗る。
「これで、とどめです!」
剣を両手で持ち、そのままフェンリルの背に深く突き刺す。
突き刺した箇所から蒼い光の粒子が大量に漏れ出し、フェンリルはその場に力無く倒れる。
ネプギアがその体から剣を引き抜くとフェンリルは光に包まれて消滅した。
「どうやら私達の勝ちみたいだね」
「ちゅ…。コンパちゃんとマイちゃんとの恋に破れた挙句に仕事も失敗。幸運な日というのが幻覚だったっちゅ! 今日は最悪の厄日っちゅ! うわあああん!」
ネズミはそう言うと一目散に逃げていきその姿はあっという間に見えなくなった。
逃げ足の速さはあのリンダに匹敵するんじゃないだろうか。私はそう思った。
私は体の力を抜く。銀の女神のプロセッサユニットはそれに合わせて消失した。
「舞さん、ネズミさんにやられたところを見せてください。お手当するです」
そのままコンパの応急処置を受ける。最近は怪我をすることが地味に増えてきた気がする。
多少のダメージなら我慢してもいいという思考が原因だろう。最近はそう考えることが多いのだ。
「ありがとう、コンパ」
「もう少し自分を大切にしてほしいです。最近の舞さんはちょっとくらい怪我しても構わないって思ってるですね?」
「事実だから否定のしようがない…。ごめん、気を付けるよ。それで大怪我とかしたら洒落にならないよね」
これからは大変だとは思うが可能な限りはノーダメージ勝利を目指すようにしよう。
「あれが、今のゲイムギョウ界に仇なす敵…。お前達が倒さなければならない存在と言うわけか。あのネズミからはそれほど強大な力は感じなかったが、女神を打ち破るほどの猛者があちら側にいるということか…」
「まだリンダとあのネズミしか知らないけど、犯罪組織の上の奴らはきっと強い。私がこの世界に来た時に戦った戦闘狂はかなり強かったし、女神達を打ち負かした赤い髪の女性のこともある。それ以外にもきっと恐るべき強さを持った奴らが向こう側にいると私は考えてるよ」
「今のでアンタの居場所が向こうに知られちゃった訳だけど、それでも私達に協力することはできないって言うの?」
「しばらくは身を隠すしかなさそうだな。私の答えは先ほど舞に言ったことと変わらない。お前達と一緒に行くことはできない」
「どうしても…ですか?」
「できぬと言った。パープルディスクと同じように見られては困る。私には古の女神と交わした約束を守るという使命があるのだ。お前達について行くということはそれを放棄するということだからな」
「頭固いな~。今はゲイムギョウ界中が危ないんだよ? 自分の住んでるところだけを守っても女神様は喜ばないと思うけどな~?」
「少なくとも銀の女神は喜ばないでしょうね。あなたも知っているとは思いますが彼女の二つ名が自由の女神ですからね。しきたりやルールによる行動の制約を彼女は嫌っていました。困っている人を助けるのに定められたルールが邪魔をするならそんな物は破壊してやると言っていましたよ」
「そういえば、そんなことを言っていたな。実に銀の女神らしいと言えるところだ。ふむ…。ただ守っているだけでは守れぬものもある…。ということか。銀の女神の継承者にプラネテューヌとラステイションの女神候補生よ。」
「答えは変わりそうですか?」
「やはり私はこの地を離れることはできない。あいにくと自分から約束を破ることができない性分でな…。代わりがいてくれるというのなら話は変わってくるが」
「代わりってアタシじゃだめなの?」
「お前は自分の意志でプラネテューヌの女神候補生に同行することを決めたのだろう? ならばその意思を貫くがよい。自分で考えて決めたことは最後までやり通すことだ。お前の姉、黒の女神は決めたことは最後までしっかりとやり通していたぞ。」
「そうだったわね。アタシはこの結論を出すだけでも時間がかかっちゃったし、お姉ちゃんにはやっぱり敵わないところよね。そういうところは」
ブラックディスクの言葉にユニは再度自分の決めたことを認識する。
自分はネプギアと一緒に行くと決めた。それが今の自分にできることだと思ったからだ。
「じゃあ私はどうかな?」
今度はこの場にいないはずの人物の声が聞こえた。
私は聞き覚えがあるが、その人物は確かにここにいないはずなのだ。
それ以前にどうしてこの場所を知っているのか。
「クロ…」
「久しぶりだね。舞。それと初めましての人は初めまして。私はクロだよ」
その名の通り黒のコートを着込み、フードで顔を隠した人物、クロがいた。
「何者だ…?」
「あれ? 私のこと忘れたの? まぁ、こんな恰好じゃ仕方ないよね。なら、これでわかるかな?」
私はクロの体から力があふれ出すのを感じ取った。
見た目はまるで変化していないのだがこれまでに感じたことのないほど
強力な力を目の前にいるクロから感じ取った。
これは謎に包まれた彼女の力の一部にすぎないのだろうか。
「なっ…。この力は。生きていたのか」
「勝手に殺さないでほしいな。でもあの子に出会えなければ死んでいたのは事実だけどね」
「まさか、あなたは…」
「ストップ。それ以上は駄目だよ」
「それで、どうする? 舞達と一緒に行く? 頑なに約束を守るって言うなら止めないけどね。それに舞の事が気になるんでしょ? だったら一緒に行けばいいと思うけど」
「まさかお前が出てくるとは思わなかった。だが…。私は…」
「昔の約束だとかに縛られてたら本当にやりたいことなんてできないと思うけどね。もし舞達について行くならここの守りは私が引き受けるよ?」
「お前がこの場に現れたことで意地を張ることもできなくなってしまったな。ならば答えを変えるとしよう」
「やっぱり素直が一番だよね。じゃあ舞達にきちんと伝えようか。」
「くっ…。お前はあれと同じくらいに私が苦手とする相手だからな。銀の女神の継承者にプラネテューヌとラステイションの女神候補生よ。お前達の旅に私も同行させてもらおう。お前達が作り出すゲイムギョウ界の未来を見せてもらう」
ブラックディスクが答えを変えた。先ほどまではできないの一点張りだったのに。
「いいんですか?」
「ああ。プラネテューヌの女神候補生よ。これを受け取るがいい」
ブラックディスクから放たれた灰色の光がネプギアの中に入っていく。
「ありがとうございます! あの、クロさんとはどういう関係なんですか?」
「それは私も知りたい。出会うたびに謎が増えてる人だから」
「アンタの知り合いなの? アタシから見ればかなり親しい関係に見えたけど」
「古い友人とだけ言っておこう。私から言えるのはここまでだ。いつか話してはくれるだろう。今はその時ではないようだがな」
「苦手とか言ってるのに友達認定してくれるんだね?」
「余計なことを言わなくていい。では任せたぞ」
「任されたよ。これから先は大変だと思うけど頑張ってね。舞。最後にこれを渡しておくよ。おせっかいの私からの贈り物第三弾だよ。あっ、この間の話は近い内に舞にお願いするからその時はよろしくね」
クロの手に光が集まるとその手には二本の杖が握られていた。
それぞれの杖の先には太陽と月の飾りがついている。
「もういらないって言っても渡すんでしょ?」
「うん。流石、舞。私のことが少しはわかってきたかな?」
「いや、それほどでもないけどね。これはありがたくもらうよ。クロが自分の事を話してくれるのを待ってるから」
「うん。あの子が好きになった理由がよくわかる気がする。私はここに留まるね。次の目的地はルウィーかな?」
「ん? そうなのかな? 私はわからないけど。」
残っているのはルウィーとリーンボックス。
どちらから回ることになるのか私はわからなかった。
「クロが言ってることで正解よ。次の目的地はルウィーになるわね。行く前に一応教会に報告をしておきましょう」
「わかった。それじゃあ、クロ。私達は行くね? 本当にありがとう」
「気にしないで。じゃあ、頑張ってね」
クロは手を振って私達を見送ってくれた。
目的を達成した私達はセプテントリゾートを後にしてラステイションの街に戻る。
次に控える舞台は夢見る白の大地ルウィー。私達を待ち受ける出会いは楽しみだが
戦いはラステイションの時より激しさを増してくるだろう。気合いを入れて臨みたい。
私達は決意を新たに次なる舞台への一歩を踏み出した。