Game1:始まりは墓場から?
薄暗い部屋にカチカチとボタンを押す音が響いている。部屋のベッドに寝転がってゲームをする一人の少女がいた。少女の手には白色の携帯用ゲーム機。画面が上と下に分かれているタイプの物で3D表示機能が搭載されているのが最大の特徴。
「今日はここまでにしておこう」
ゲームのメニュー画面を呼び出してゲーム終了を選択する。ゲームデータをセーブしますか?と画面に出てくるので「はい」を選択。セーブが完了しましたと表示されて少し経過するとタイトル画面に戻ってきた。ゲーム機のパワーボタンを押して電源を切る。これが彼女の一日の終わり。次に取る行動は基本的に睡眠一択。
「明日攻略するゲームは…」
現在私は複数のゲームを掛け持ちしている。来月には新しいゲームを買う予定なので、放置していると俗に言う積みゲーと呼ばれるものができてしまう。今まで私がしていたゲームも続編と言うかさらにパワーアップした物が発売されることが既に発表されていてデータの引き継ぎが可能とのことなので少しでも有利な状況で開始できるように準備を進めている。
だからと言って根を詰めてしたところで劇的な変化が現れるわけではないので自分のペースで進めている。これが私の現状。
「明日はこれ。明後日はこれにしよう」
それぞれのゲームのケースに日付だけを記入した付箋を貼りつける。私は布団を被り、目覚ましをセットして眠りに就いた。
眠りに就いた私の意識は思わぬ形で覚醒する。耳に入る激しい雷の音。まるで地面に寝ているような硬い感覚。目に映るのは私の知らない場所。
「ここはどこ…?」
血を連想させるかのような赤に染まった空。分厚い黒雲。周辺に積み上げられたゲーム機と思われる残骸。緑色の人魂のような光が漂うこの場所はまるで墓場のようだった。
困ったことに辺りに人の気配は感じられない。助けを呼ぼうにもスマフォがないのでどうしようもない。とりあえず、自分が置かれている状況を把握するために歩いてみようと思ったところで大きな音が聞こえてきた。それはまるで誰かが戦っているような音。ただ事ではない。音が聞こえた場所に私は走って向かう。
「これは…」
私の目に映ったのは巨大な斧を手にした黒い大きな人物。人と呼んでいいのかわからないが、禍々しい雰囲気。かなり強い。そんな印象を感じた。戦っているのは淡い紫色の髪を持った少女。少女が手に持っているのはビームガンブレイド。銃と剣が一体になっている武器。ゲームで見たことがある。
先に動いたのは淡い紫色の髪を持った少女。黒い人物に攻撃を仕掛ける。最初に剣で斬りかかり、一撃、二撃と加えて浮かせると続けて銃身から弾丸を撃ち込む。再び剣で突きを繰り出すと距離を取り、止めの一撃とも言わんばかりに太いビームを発射する。着弾と同時に彼女が後ろを振り向くと大爆発を起こした。黒い人物はそれに飲み込まれる。
「この程度か…?」
驚いたことにその体には傷一つついていない。明らかにおかしい。あれだけの攻撃を受ければ傷の一つくらいついてもいいはず。単純に少女の強さが足りていないというのもあるかも知れないが。
「そんな…私、また負けちゃうの?」
少女は自身の力の無さを嘆いた。先ほど繰り出した連撃が彼女の最大の攻撃だったのだろう。事実上の与ダメージゼロ。これは絶望するしかない。私が少女と同じ立場でも絶望してしまうと思う。
「ここまで弱い奴の相手などつまらぬぅぅ! まとめて吹き飛びやがれぇぇぇ!」
黒い人物は動けない少女にさらに攻撃を加えようとする。少女は既に戦意を喪失していた。この状況を変えるためにはどうすればいいか急いで思考する。その結果、思い付いたのはこの方法しかなかった。
「やめてっ!」
私は黒い人物と少女の間に割り込み、少女を守るように立つ。目の前には巨大な斧を持った黒い人物。一言で言わせてもらうと怖い。足が自然と震えている。
「なんだ貴様はぁ!? 俺様の邪魔をする気か!?」
黒い人物は私に怒鳴り散らした。それでも私はその場を動かない。両手を広げて少女を守るように立つ。
「邪魔するってんなら、貴様から先に吹き飛ばしてやる! 覚悟しやがれ!」
黒い人物は斧を振り回して襲いかかってきた。先ほどの戦いの際に落ちたのか、少女のビームガンブレイドが目に入ったので、急いで拾い両手で持つ。一方的にやられるのは私が最も嫌いな展開。殺されるのなら最後の最後まで抵抗してやる。
「うおおおおおおおっ!」
黒い人物が声を上げて振る斧の一撃を私はビームガンブレイドで受け止める。これまでに感じたことのないほどの力が私にかかる。私の体も痛みという危険信号を発している。少しでも気を抜けば意識が飛ぶ。
「うっ…。負けるもんかぁ!」
私は声を張り上げる。その時、私は体の中からこみあげてきた不思議な力を感じ取る。とても暖かい力だ。これなら何とかなるかもしれない。
「ぬっ! この俺様の一撃を!? それに貴様、その瞳はっ!」
「はあああああっ!」
私の力が黒い人物を上回り、斧の一撃を弾き返す。その隙を私は見逃さない。痛みに耐えて体を無理やりに動かし、黒い人物の懐に飛び込む。今の私にできる一撃をお見舞いしてやる。
「ターンスラッシュ!」
私は過去にプレイしていたゲームに出てきた技名を叫び自分が操作していた画面の中のキャラクターと同じ動作を行う。剣に力を込めて回転切りを繰り出すことで周囲を薙ぎ払う。初期から使うことができる技だ。
「ぬぐっ!?」
私の一撃を受けた黒い人物は後退する。私が斬りつけた箇所に僅かではあるが傷がついていた。
「この俺様の体に傷をつけたなぁぁぁ! 許さん、許さんぞ! 貴様ぁぁぁ!」
黒い人物はさらに激昂する。戦闘狂は下手に傷をつけると大概このようになる。黒い人物は私に再び襲いかかってきた。さっき感じた暖かい力も消えてしまい、あの強烈な一撃を受け止める余裕はもう残されていなかった。
「ええええいっ!」
もう駄目だと思ったその時。今度は少女の声が聞こえた。その声と同時に投げつけられた綺麗な結晶が黒い人物の目の前で強烈な閃光を発する。
「ぐわあああああ! 目が! 目があああああ!」
黒い人物は結晶から放たれた閃光を受けて苦しみ出した。どうやら効果は抜群のようだが、それを使った少女は体力の限界が来たのか意識を失い、倒れてしまう。
「殺す! 目が戻ったら俺様に傷を付けた貴様を真っ先に殺して、残った奴らも全員皆殺しにしてやるうううう!」
黒い人物は怒鳴り散らす。今の内に逃げないと皆殺しは避けられない。
「ここは逃げるしかなさそうね。コンパ! ネプギアをお願い! 私はあの人を!」
「は、はい!」
コンパと呼ばれた少女は気を失った薄紫の髪の少女を抱える。
「立てる?」
「何とか…」
「私が肩を貸すわ。とにかく今はここから離脱しましょう」
私達はその場から離脱する。道中、怒り狂う黒い人物の叫びが響いていたが、ここまでは追いかけてはこないみたい。どうやら助かったようだ。
「ギアちゃん、意外と重たいですぅ…」
「助けられたのはこの子だけか…。頼みの綱だったシェアクリスタルは砕けちゃったし、イストワール様ともう一度作戦を練り直す必要があるわね。それに、あの戦いに突然割り込んできたあなたのことも気になるし。その瞳のことも含めて」
「その瞳、ねぷねぷやギアちゃんと同じですね? あなたも女神なんですか?」
「女神…? 私は人間だよ」
女神という単語はゲームの中で聞いたことはある。先ほどの黒い人物との戦いを切り抜けた以上、普通の人間と主張するのは無理があるかもしれない。さっきの黒い人物も私の瞳を見て驚いていたように見えた。鏡があれば二人の言う私の瞳の事が何かわかると思う。今は情報が欲しい。自分が置かれている状況を把握しないと何をしたらいいのかわからない。
『お二人とも聞こえますか?』
茶色の髪の少女が手にしている通信端末から声が聞こえてきた。私が使っていたスマフォに対してガラケーと呼ばれている端末に似ている。
「はい、聞こえます。すみません。ネプギアしか助けられませんでした…」
『悲観することはありません。ネプギアさんを助けたことだけでも十分すぎる成果です。そして、ネプテューヌさん達女神と同じ眼を持つ彼女。まだ希望の灯は消えてはいません。ネプギアさんと彼女を連れて一度プラネテューヌまで帰還してください。まずはお二人を休ませる必要があります。詳しい話はそれからにしましょう』
「わかりました。状況が呑み込めていないところ悪いけど、今イストワール様がおっしゃられた通り、一度プラネテューヌまで戻るわ。いいかしら?」
「お願いするよ。私もわからないことだらけだから」
ゲームを終えて自分の部屋のベッドで寝て起きたら知らない場所。自分で割り込んだとはいえ初戦にしては厳しすぎる戦闘狂とのバトル。不思議な力とゲームの知識を使っての一撃。私の瞳のこと。本当にわからないことだらけだ。知ることから始めるしかない。ゲームで言うところの情報収集だ。
「決まりね。あ、自己紹介が遅れたわね。私はアイエフよ」
「私はコンパです。あなたの名前は何ですか?」
「アイエフにコンパか。私の名前は…」
世界が変わったとしても変わらない物。両親から貰った私の大切な名前。
「
「よろしく。舞」
「よろしくです。舞さん」
私はアイエフに背負われたままイストワールと呼ばれる人物が言っていたプラネテューヌと呼ばれる場所に向かう。墓場から始まったゲーム好きの少女がこれから体験する奇妙なお話はまだ序盤。どうなるか予測できない物語が今スタートした。