ラステイションの定期船乗り場に残っていた故障中の船を修復してもらったことで
私達は遂にこのゲイムギョウ界を構成する四つ目の国であるリーンボックスに到着した。
「やっと着きましたね。リーンボックス。街の様子はどうなんでしょうか?」
ネプギアの言葉に街の様子を観察してみる。山や川などの自然と調和している
その街並みはこれまで訪れた三国の街並みとはまた一味違った景観だった。
特に何か破壊活動やマジェコンの提供が行われているわけでもなく
一目見た限りでは特に変わった様子は見受けられなかった。
「今のところは変わった様子はないみたいね。下っ端とあのネズミが街中で悪事を働いていると思ったんだけど」
「でもリンダとあのネズミは一日前からこのリーンボックスに入ってるよね。定期便の破壊による妨害があったってことはまだ何か罠が仕掛けられてる可能性があるかも」
「舞さんの言う通り、気を付けて進んだ方がいいですね。下っ端さんとネズミさんが何かしたのかわかりませんが街の治安も少し悪そうに見えるです…」
「あいつらが何か悪いことをしてるのは間違いないにゅ。それに加えてこの国には他の三国と違って候補生がいないにゅ。完全に国を守護する女神がいない状態だから治安が悪くなるのも仕方のないことにゅ」
「これからどうするの? 下っ端とネズミを探しに行く? どこかで悪さをしているなら止めにいかなくちゃ!」
「先に教会に行けばいいんじゃない? ここの教祖がネプギアに会いたいってイストワールさんからの連絡にあったじゃない。それにアイツらとはどうせまたすぐに会うでしょ。無理に探さなくてもいいと思うわ」
「そうだね。教会はどこにあるのかな?」
「私が案内するわ。一応この国にも前に何度か来たことがあるから。どこに何があるかはだいだいわかる」
ラステイションとルウィーの時と同じ形で
アイエフの案内に従って私達はリーンボックスの教会へと向かう。
「こんにちはー…。あの、あなたが箱崎チカさんですか? 連絡を頂いたようなので会いに来たんですけど…」
教会に入ると薄緑色の長髪の女性がいた。
ネプギアが話しかけるが、その人物は沈黙を貫いている。
「あれ…。人違いだったのかな? もしそうならごめんなさい!」
「え…? あっ、ごめんなさい。少しぼーっとしていました。そうです。私がこのリーンボックスの教祖、箱崎チカです」
「「ん…?」」
その声を聞いて私とユニは奇妙な違和感を感じ取った。
どこかで聞いたことのある声だったからだ。声の出し方も無理をしているように聞こえる。
私の脳裏にある一つの可能性が浮かぶのだがこの人とは初対面なので確証が掴めない。
一度面識があればその違いから判断することができるのだが…。
「舞さん、ユニちゃん。どうかしたです?」
「いや、何でもないよ。そのまま話を続けてくれるかな?」
「アタシも何でもないわ。ただちょっと気になっただけだから、そのまま話を進めて」
「ええと、あなたはネプギアさんだったかしら?」
その言葉にますます怪しさが込み上げてくる。確かイストワールの話では
ネプギアに会いたいと連絡を入れたようだが自分が会いたい相手のことを忘れる物だろうか…。
「わあ…! 私のこと知っててくれたんですか? 嬉しいです! そういえば私に何か用事があるんですよね? いーすんさんから聞きましたよ?」
「用事…? あ、ああ! そうだったわね。自分からネプギアさんを呼んだのにどうして忘れていたのかしら…」
「ねぇ、一つ聞いてもいいかな?」
「え、ええ? 何でしょうか?」
「私のことって知らないよね? 初対面の人にこんなことを聞くのはおかしいかもしれないけど」
「ぎくっ…。ええ、あなたとは初対面よ。だからあなたのことは知らないわ。お名前は何というのかしら?」
「ごめんね。変なことを聞いて。私の名前は神奈 舞だよ。よろしくね。チカ」
「ええ…。こちらこそ…」
お互いに挨拶を終えたところで話を進めていくことにする。
「で? どうしてリーンボックスの教祖が他国の女神候補生であるネプギアを呼び出したの? よっぽどこの国の状況が悪いのかしら? 候補生がいないこの国はベール様以外の女神がいないわけだし、他国の候補生の力を借りたいっていうのはわからなくはないけど」
「えー…。何で呼び出したのだったかしら? あっ、思い出したわ! モンスターを退治してほしいのです!」
「わざわざ呼んでおいてモンスター退治だけ…? それと随分と忘れっぽいんだね?」
「ええ…。最近どうも物忘れが激しくて…。実はリーンボックスの街の近くにあるガペイン草原という場所にモンスターがたくさん棲みついて困っているのです。この国には候補生がいませんからモンスター退治も大変なのです。藁にもすがる思いで他国の女神候補生であるネプギアさんに力を貸してほしいと思い、連絡を入れたんですよ」
「そうだったんですか? なら、早速退治してきましょうか?」
「ありがとうございます! 危険種とかではないですからベテラン女神候補生のネプギアさんなら朝飯前だと思いますがお願いしますね」
「ベテランなんて、そんな…。私なんてまだまだですよ。みんなと一緒にこれから強くなるんですから! それじゃあ早速退治してきますね!」
「ベテランと称されて嬉しくなる気持ちはわかるけどネプギア、私達の目的を忘れるのはダメだよ」
「舞の言う通りよ。私達は何の目的でこの国に来たの?」
「あっ…。そうでした。あの、私達リーンボックスにいるゲイムキャラの力を借りに来たんです。チカさん。もし知っていたらゲイムキャラがどこにいるか教えてくれませんか?」
「モンスター退治から戻ってきたら教えてあげますよ。だから、まずはガペイン草原に棲みついたモンスターを退治してきてくれませんか?」
「ふ~ん。そんな簡単に教えてくれるんだね。本当にそうならさっさと倒しに行くけど…」
「早く倒しに行きましょうよ。舞さん! 教えるって言ってくれてるんですから」
「まぁ、いいけど。それとネプギア。浮ついた気持ちで戦場に出るのはよくないと思うよ。油断は敗北を呼ぶからね」
「あっ…。ごめんなさい…。少し調子に乗り過ぎました…」
「偉そうにいってごめんね。でも今のネプギアは危なっかしく見えたから…」
「あなたは随分とお姉さんのように見えますね。それではお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん。なるべく早く倒せるように頑張るよ。帰ってきたらゲイムキャラの情報よろしくね」
私達はリーンボックスの教会を後にする。
「ふう…。いきなり暴力女神がやってきたからマジで焦ったぜ…。へへっ。暴力女神もやっぱり間抜けだな。このアタイの完璧な変装を見破れなかったんだからな!」
舞達が去った後の教会でチカは呟く。その声は紛れもなく犯罪組織マジェコンヌが誇る
マジパネェ構成員にして舞の因縁の相手であるリンダの声だった。
だが、リンダは気付いていなかった。舞とユニが自分の事を疑っていたことを。
初対面で確証が掴めなかったので口に出さなかっただけだと言うことを。
「ねぇ、あの教祖怪しくない? 舞とユニもなんかずっと怪しい感じで見てたし」
「舞お姉ちゃんとユニちゃん…。ずっと怖い顔してた…」
「あいつに何か怪しいところでもあったの?」
「…。今から話すのは私の予想だよ。多分ユニも同じ考えだと思う」
「アタシも舞と同じだと思うわ。アタシもここに来る前にあの人に会ってたりしたらあの場で指摘できたと思うけど…」
私は教会でチカと会話する中で脳裏に浮かんだ予想をネプギア達に説明することにした。
「まず、あの教祖…。チカは偽物だと思う。その根拠はチカの声がある人物の声にものすごく似ていたから。それと話し方にも変な感じがした。まるで取り繕っているような感じがしたんだよね。それとネプギアを呼んだ理由もその場で即席で考えたかのように見えた」
「誰かが教祖さんに変装してるってことです?」
「そういうこと。そしてそれを実行しているのは奇しくも私の因縁の相手。ここまで来たら誰がチカに変装しているのか…。わかるよね?」
「下っ端ね…」
「そういうこと。でも証拠がないから私とユニはあの場で言い出すことができなかった。ユニの言った通り初対面じゃなければ違いがわかって即座に指摘できたんだけどね」
「そういうの本で読んだことがあるわ。舞の言う通りあいつは偽物なのよ。本物とすり替わってるんだわ!」
「わたしも同じ本をラムちゃんと読んだ…。舞お姉ちゃん、どうするの? あの人のところに戻って正体を突き止めるの…?」
「やっぱり証拠が欲しいかな。誰かチカのことを知ってる人がいればいいんだけどね。その人に聞けば最近何か様子がおかしくなったとか、変化を知ることができるはずだからね」
リンダが変装している可能性が強いとはいえこちらから仕掛けるには
チカのことをよく知っている人物から情報を得る必要がある。
「とりあえずガペイン草原のモンスターをある程度倒しに行こうとは思う。どうしても証拠が見つけられないなら最終的に私とユニで仕掛けてみようと思う。本当にリンダが変装しているのなら私とユニで挑発すればすぐに乗ってくるはずだよ。ユニ、その時はお願いしてもいいかな?」
「任せなさい」
「なら、この件はアンタとユニに任せるわ。まずはモンスターを倒しに行きましょう。」
「…」
「ネプギア、さっきのことを気にしてるの?」
「はい…」
「私の尊敬する人が言ってたんだ。自分より弱い相手と当たることがあった時は負ける可能性もしっかり考えろってね」
「負ける可能性をですか…?」
「そう。戦いという物は何が起こるかわからない。ネプギアは確かに強いと思う。勝ちに行くことが一番大事なんだけど、さっきみたいに舞い上がった気持ちで戦闘に臨むと思わぬことがおきたりする。私はゲームの中だけどそんな慢心が原因で雑魚に殺された奴らを何人も見てきた。さっきのネプギアの姿がそいつらと重なってしまってね」
「そうだったんですか…。確かにベテランと言われて舞い上がっていたのは事実です。舞さんの言う通り、これからは気をつけていきますね」
「うん。まぁ、私もまだまだ直さなきゃいけないところはたくさんあるから、みんなと一緒に頑張って行こう?」
「はい!」
ネプギアが元気を取り戻したところで私達はガペイン草原へと向かう。
ガペイン草原はリーンボックスの街から南の方角に下ったところにある。
プラネテューヌのバーチャフォレストと同じくらいの広さを持つ草原だが
言われた通り確かにモンスターの数が多い。女神不在の影響が表れているのだろうか。
生息しているモンスターは段ボールのような体に羽と足と王冠を持った鳥のようなモンスター。
向日葵の花の姿をしたモンスターにカボチャの被り物をしたモンスターがいる。
特に注意しなければならないのは危険種と思われるドラゴンである。
外見はエンシェントドラゴンと似ているが恐らくその強さは別格だろう。
さらに原理は不明だが危険種の中には受けた傷を自動的に回復するモンスターが多いらしい。
つまり相手の回復力を上回る一撃を与えない限り倒すことができないということだ。
改めて危険種の恐ろしさを再認識したところで私達はモンスター退治を開始する。
モンスターの数が多いので手分けして確実に倒していく。
「ハンマースロー!」
私は早速クロから貰ったハンマーを使っていた。最初に使ったのはハンマーを投げる技。
ハンマーを使う時は敵に接近して直接殴るのが基本だがこのように敵に向かって投げる技もある。
私が投げ飛ばしたハンマーの直撃を受けたモンスターは光となって消滅した。
ちなみに投げ飛ばしたハンマーは自分で取りに行かないといけないと思ったが
ハンマーは地面に落ちるとすぐに私の手の中に戻ってきてくれた。
この技は後方支援を行う敵やハンマーで直接殴るのが困難な敵に対して使うことが多い。
「続けていくよ」
柄についている赤いボタンを押して斧形態にチェンジする。
これまでと同じように敵の攻撃を空振りさせて隙を作って接近し攻撃を加えていく。
「孤月閃!」
三日月を描く軌道で斬り上げる斧の初級技。上級技へ繋ぐ際にも使いやすい技である。
モンスター自体の強さは大したことないようだがやはりその数が問題である。
減ってきていることは確実なのだが全て倒しきることが中々できない。
「まだいるね…」
斧をしまって今度はランスに持ち替える。力を溜めて次の技の発動準備に移る。
「シルバーグライド!」
銀色のシェアを槍に纏わせて強力な突進突きをお見舞いする。
本来は紅いオーラを纏わせて突進突きを放つのだが紅いオーラは出せないので
名前を変えて発動することにした。本当の技名はクリムゾングライドである。
「よし…。これでだいだい一掃できたかな」
周りを確認するとモンスターは全滅していた。
時間が経てばまた復活してしまうとは思うが、今の私達にできるのはここまでだろう。
目的を達成したので街に帰ろうとしたその時、離れた場所から大きな音が響いた。
誰かがモンスターと戦っていると判断した私達は音が聞こえる方へと向かう。
「あの人は…?」
私達がその場所にたどり着くとツインテールの赤い髪の女性がモンスターを退治していた。
モンスターの攻撃を全て見切っているかの如く回避してその手に持った鋏状の武器で
一閃を加えていく。確実に戦い慣れている。私はその人の動きを見てそう感じた。
その手馴れた動きから私達が手を出す必要はないと思ったが
その人の背後からモンスターが近づいていたので何とか倒そうとすると…
「ここは私に任せてくれませんか?」
ネプギアが前に出る。剣に自身の象徴である紫色のシェアの力を纏わせて振る。
剣を振った軌道に合わせて紫色のシェアの刃が構成され、ネプギアはそのままさらに振り抜く。
「絶風刃です!」
紫のシェアの刃は不意打ちを仕掛けようとしていたモンスターに直撃してその体を消滅させる。
ネプギアは確実に強くなってきていた。この調子だと大技である秘奥義を習得するのも
時間の問題だろう。私もネプギアにああ言った手前、負けていられないと思った。
「どうやら助けられたようね」
モンスターを全て倒した赤い髪の女性がこちらに近づいてきた。
「必要なかったですか?」
「いや、あなたが倒したモンスターには私も気が付いていなかった。だからお礼を言わせてもらうわ。ありがとう」
「いえ…。私にできることをしただけですから。どうしてモンスター退治をしていたんですか?」
「仕事のような物と言えばいいのかしら。そう言うあなた達こそどうしてこの草原に?」
「教祖様に頼まれたからみんなでここのモンスターを退治しに来たんだよ。モンスターがたくさん棲みついて困ってるから倒してきてーって言われたから」
「チカに会ってきたのね…。チカの様子はどうだった? あなた達の目から見てチカの姿はどう映った?」
「挙動不審だったにゅ。舞とユニは下っ端が教祖に変装しているって予想しているにゅ」
「変装ね…。確かにそれならチカの様子がおかしくなったのも説明がつくかもしれない」
「チカの事を知ってるの?」
「ええ。そういえば自己紹介がまだだったわね。私の名前はケイブ。リーンボックスの特命課というところに所属しているわ。チカは昔からの友人で仕事の関係上よく会うのだけど、ここ最近チカの様子がおかしくなったことに不信感を抱いていたの」
「聞かせてもらってもいいかな? この国で最近何が起きたのか…」
「構わないわ。あなた達ならなんとかできるかもしれない。初対面だけど何となくそう感じたから」
ガペイン草原で出会ったのはリーンボックス特命課に所属するケイブ。
彼女の口から語られたのはリーンボックスの教祖であるチカが
犯罪神崇拝の規制を解除したという驚きの事実であった。