ガペイン草原で出会ったケイブの口から語られたのは
犯罪神崇拝の規制が教祖であるチカの手によって解除されたと言う事実だった。
「つまり、今この国で犯罪神を信仰しても全く罰せられることはないってことかな?」
「そういうことよ。あなた達も知っているとは思うけど、このリーンボックスには女神候補生がいない。3年前に四女神がギョウカイ墓場に幽閉されたことによって女神不在の状態が続いているの。それを機に犯罪組織の活動は活発化したわ。犯罪神を崇拝する者が日に日に増えていったのよ」
リーンボックスを守護する女神であるベールさんが捕らわれたことにより
この国の守りはかなり薄くなっていると思われる。
その結果がケイブが語ってくれたリーンボックスの現状なのだ。
「それでも、教祖であるチカを中心に最低限の秩序は保たれていた…。チカはベール様が捕らわれてからも自分にできることを一生懸命頑張っていたわ。ベール様の国は自分が守ってみせるって意気込んでいたのよ…。そして数日前にあることが起きた」
「それが…」
「そう。犯罪神崇拝の規制解除よ。本来であれば女神を信仰せず犯罪神といった邪神を崇拝して布教活動を行えば厳重な処罰が課せられる。それはこの国だけじゃない。プラネテューヌ、ラステイション、ルウィーでも同じことよ。それが教祖であるチカの手によって解除されてしまった。それによって今この国では誰もが自由に犯罪神を信仰できるようになった」
「どうして教祖さんがそんなことをしたです?」
「そうね。良い方と悪い方。二つの意味合いで解釈することができる。良い方に解釈すれば秩序の乱れという重荷を背負ってでも国民の生活を安定させようとした。犯罪組織に身を置けば少なくとも日々の食事に困ることは無いもの」
「じゃあ悪い方は?」
「乱心という言葉が適切ね。チカに何が起きたのか私は理解することができなかった。でもあなたにはその原因に心当たりがあるのでしょう?」
「うん。私の因縁の相手がチカに変装している可能性がある。ケイブの話を聞いてそれが確実になったと言えるかな。本物のチカをどこかに閉じ込めてすり替われば犯罪神崇拝の規制を解除して国の情勢を乱すことができるよね」
私の予想が正しければリンダがチカに変装して悪事を働いているということだ。
この国の治安を回復するためには本物のチカの居場所を吐かせる必要がある。
「ね~。はんざいしんすうはいきせいかいじょって何よ? わたしとロムちゃんにもわかるように説明してよ」
「舞お姉ちゃん…教えて?」
「ん…。簡単に言うと、悪いことをしても怒られないようになったってことでいいのかな…。悪いことをしたら怒られるのはわかると思うけど、今のこの国では悪いことをしても誰も怒ってこない。だから悪い奴らが好き勝手にできるようになったってことだよ」
「ふ~ん。じゃあ、やっぱり舞の言う通りすり替わってるんじゃないの?」
「まぁ、これで間違いないだろうね。後はもう一度会って仕掛けてみようと思う」
「私から話せるのはこれくらいね。そのチカに変装している相手というのはどんな人物なの?」
「リンダって言う名前でね。今このゲイムギョウ界を騒がせている犯罪組織マジェコンヌの下っ端だよ。私の因縁の相手なんだ。ここに来るまでに三回戦ったよ。きっとこのリーンボックスでも戦うことになると思う」
「ルウィーなんて下っ端のせいで国が滅びかけたにゅ」
「下っ端…。その人物がチカに変装しているとしてどうする気なの?」
「簡単だよ。挑発してボロを出させる。私が質問した時も怪しい雰囲気だったからね。というかこの際候補生みんなで挑発しようと思う。最初はユニと私だけでやろうと思ったけど。ルウィーでの悪事に飽き足らずここまで好き勝手やってるのならこっちにも考えがあるよ。ケイブ、話してくれてありがとう。これで仕掛けに行くことができるよ」
「役に立てたのならよかったわ。その件はあなた達にお願いしてもいい?」
「任せて。教祖に変装して悪事を働いているリンダは私がきつく懲らしめておくから」
「頼もしいわね。私はここで失礼するわ。あなた達とはまた会える気がするわ」
「その時はよろしくね」
ケイブと別れた私達はガペイン草原を後にしてリーンボックスの街に戻る。
頼まれごとの報告を兼ねて早速仕掛けに行こうと教会へ向かったがチカの姿はなかった。
「いないですね…。どこかに出かけてるんでしょうか?」
「仕方ない。もう少し時間を潰してからここに来よう。もし出会えなければ明日仕掛ける」
時間潰しに街でクエストをこなしてシェアの回復を行う。
何度か教会に足を運んだが結局チカに会うことはできず夜になってしまった。
「結局、会うことはできなかったわね。仕掛けるのは明日になりそう?」
「そうだね。あっ、ネプギアとラムとロムにも協力してもらうからよろしくね」
「えっと、何をすればいいんですか?」
「簡単だよ。この紙に書いてある台詞を私が合図したら言ってくれればいいから。見ながらでもいいからね」
私はネプギアとラムとロムに考えた挑発する際の台詞を書いた紙を渡す。
「わかりました! これを次にチカさんと会った時に読めばいいんですね?」
「うん。ユニともう打ち合わせは済んでるからね。最悪棒読みでも構わないから」
「アイツの驚く顔が目に浮かぶわね」
「なんかイタズラするみたいで楽しみになってきちゃった!」
「ルウィーをめちゃくちゃにしようとして他の国でも悪いことをするなんてゆるさない…。舞お姉ちゃんと一緒にこらしめる…」
仕掛けの内容は簡単だ。次にチカにあったら私がリンダの話を切り出して
そこから挑発をどんどん入れていく。私の挑発を合図にネプギア、ユニ、ロム、ラムと
言った順番でリンダに対する挑発を繰り返してボロを出させるといった物だ。
言ってもらう台詞を書いた紙を渡して準備を整えたところで大歓声が聞こえてきた。
「みんなーっ! ボクの歌を聴けえええぇぇぇ!」
その声に呼応するかの如く再び大歓声が響き渡る。
「何でしょう? どこかでイベントでもやっているんでしょうか?」
「ライブだよ! ライブ! 向こうでやってるみたいだよ! 見に行ってみようよ!」
「すごい大歓声ね…。このまま明日まで何もしないのも何だし見に行ってみましょうか」
「きっとすごい歌手さんがいるですよ。行ってみるです!」
私達は大歓声が聞こえてきた会場に向かう。会場の中は大勢の人で溢れかえっていた。
「今日はこんなに集まってくれてありがとう! ライブはまだまだこれからだから、遅れて来てくれた人たちも一緒に盛り上がっていこうね! さあ! 次の曲はこれだよ!」
ステージの上に立つヘッドホンをつけてギターを持った青い髪の少女が言うと
会場のテンションはさらに上昇する。人前であそこまで輝ける彼女を見て正直にすごいと思った。
「素敵な曲ですね。舞さんもそう思いませんか?」
「うん。確かにすごいと思う。こういうライブに来たのは初めてなんだけどやっぱり実際に聞くのはいいよね」
「皆さん聞き入っているです。あの女の子はそれだけすごい歌手さんってことですよね」
「この光景だけ見れば、犯罪組織の脅威に晒されてる国とは思えなくなってくるわね。舞の世界にもあんな人はいたの?」
「いたよ。テレビでは歌番組とかたくさん組まれてたからね。私はあまり見てなくて興味は持ってなかったけど…。私の友人がそういう人の大ファンでライブに参戦してくるってよく報告を入れてくれてた」
「舞はこういうところに行ったことはないの?」
「うん。私の世界だと有名な人やグループのライブはチケットを取るだけでも大変だからね。会場によってはそこに行くまでにお金と時間もけっこうかかるし…。それにお金と時間を費やすくらいならゲームに充てたいっていうのが私の考えだったから」
「アンタらしい考え方ね」
私達はそのままライブを鑑賞する。新たな曲が始まるごとに
会場の熱気とテンションはどんどん上昇していった。
「あ~! クソッ! まだ肩が痛ぇ…。慣れねぇことはやっぱりするもんじゃねーな…。それに何だよ。この耳障りな音は! のんきにライブなんかしやがって…。」
そう愚痴をこぼすのは犯罪組織マジェコンヌが誇るマジパネェ構成員のリンダであった。
「こっちは慣れねぇことさせられてストレスが溜まってんだよなぁ…。ちょうどいい。ウサ晴らしにこのウザいライブをぶっ潰してやる!」
リンダはそう言うとライブを潰そうとその場から駆け出した。
「この曲もいいよねー! アタシ、すっかりファンになっちゃったよ! よし、マイやネプギア達と同じように嫁にしてやるぞー!」
「ん? あれは…」
「アイエフ、どうしたの?」
「舞、あそこを見てみなさい」
アイエフが示した方向に視線を移すとリンダの姿が確認できた。
「いい気分だったのに…。見たくないものを見ちゃったわ。でも放っておくわけにはいかないし…」
「私が行ってくるよ。何か悪いことをしてるならついでに懲らしめてくるから」
私はリンダがいるところに向かう。人が多くて進みにくいがその隙間を縫って進んで行く。
「まだまだ行くよー! みんな! ちゃんとついてきてねー!」
「あれ? 舞さんはどこに行ったんでしょうか? まだライブの途中なのに…」
近くにいた舞がいなくなっていたことに気が付いたネプギアは辺りを見渡していた。
「こんな胸クソ悪いライブ、今すぐにぶち壊してやるぜ! 馬鹿な観客どもが大騒ぎするザマが目に浮かぶぜ!」
「私もその馬鹿な観客の中に入ってるのかな?」
「決まってるだろ! ってこの聞き覚えのある声は…!」
「また会ったね。リンダ。ルウィーで散々調子に乗ったのにリーンボックスでも悪事を働いてるみたいだね。このライブを台無しにしようって言うなら私が相手になるけど」
「げっ…! 暴力女神! テメェもいやがったのか!」
「私もこんなところで会えるとは思わなかったよ。ちょうど聞きたいこともあったからいいタイミングと言えるけどね」
「クソッ…! この場でぶっ潰してやりたいところだが今はテメェとやり合うわけにはいかねぇんだよ! ここは逃げさせてもらうぜ!」
リンダは持ち前の逃げ足で即座にその場を離れる。観客を無理やり押しのけて逃げていく。
「相変わらずの逃げ足の速さだね。この状況じゃ流石に追いかけられないか…」
「どうしたの?」
私に声をかけてきたのはガペイン草原で会ったケイブだった。
「私の因縁の相手がこのライブの妨害をしようとしてた。向こうも何か企んでるみたいで私が声をかけたらすぐに逃げていったよ。流石にこの状況じゃ追いかけるのは無理だと思ってね」
「確か下っ端と言う人物だったわね。そいつがライブの妨害を…?」
「うん。そう言うケイブはどうしてここに?」
「特命課の仕事よ。ライブの警備に当たっていたの。もう少し早ければ追跡ができたのだけど…」
「特命課って大変なんだね? モンスターの退治もしてライブの警備もするなんて」
具体的にどういう仕事をするのか知らないが
幅広い業務をこなしているのは間違いないと言える。
「今日はありがとー! みんな大好きだよー! また来てねー!」
「わあああああああ!」
ライブの終了を告げる彼女の言葉に周りの観客が大声を上げたので思わず耳を塞いでしまった。
「今日もいい盛り上がりね」
「彼女は? 有名な歌手みたいだけど」
「彼女の名前は5pb.よ。このリーンボックスに住む人たちの中でその名を知らない人はいないと言われる歌手で特命課の間接的な協力者なの」
「このライブ、すごい盛り上がりだったけど妨害とかあったりするの?」
「ええ。彼女は歌の力で人々を勇気づけて、犯罪神崇拝から目覚めさせようとしている。だから彼女のライブは犯罪組織の妨害を受けやすい。特命課は常に人員を派遣することでライブの警備に当たっているわ。人員が少ないこともあって厳しい状況ではあるけど…。もしあなた達がよければ特命課に協力してくれると嬉しいわ」
「それは構わないよ。みんな優しいからきっと協力してくれるよ」
「本当に頼もしいわね。あなた達のパーティは。そういえばあなたの名前は何と言うの? あの時に聞きそびれてしまっていたわ。」
「そういえば忘れてたね。私の名前は神奈 舞だよ。好きに呼んでくれたらいいからね」
「舞ね…。覚えたわ。そういえばチカの様子がおかしい原因は突き止められそう?」
「うん。ガペイン草原から帰ってきたら仕掛けようと思ったんだけど、会えなかったから明日教会に行って仕掛けることにしたよ」
「私がもっと早く気づいていればこんなことにもならなかったし、舞達の手を借りることも無かったのでしょうけど…」
「ん? でもチカの様子がおかしいことは知ってたんだよね?」
「私は人の機微に疎いのよ。言動が変わっていても外見が本物と同じなら簡単に騙されてしまうのよ」
「ふ~ん。まぁ、全ては明日に明らかになるよ。きっと私の予想通りだと思うけどね」
「私も同行させてもらっても構わないかしら?」
「いいよ。私はみんなのところに戻るけどケイブも来る?」
「ええ」
私とケイブはネプギア達の元に戻る。
「あっ、舞さん! どこに行ってたんですか?」
「アイエフがライブを妨害しようとしてたリンダを見つけてね。懲らしめようとしたんだけどすぐに逃げられたよ。今は私とやり合うわけには行かないってさ。これはもう確実だよね。それと頼もしい助っ人を連れてきたよ」
「あなたはあの時の…。ケイブさん?」
「大体の事情は舞から聞かせてもらったから、あなた達に協力させてもらうわ」
「これは頼もしいわね。それじゃあ今日はどこかの宿屋で休む?」
「私が案内するわ。これからお世話になるわけだし。これくらいはさせて」
ケイブの案内で私達は教会の近くの宿屋に入る。
ネプギア達女神候補生を部屋に集めて簡単に最後の打ち合わせを行って眠りに就く。
リンダが変装したチカの正体を暴いて本物のチカの居場所を吐かせなければならない。
プラネテューヌ、ラステイション、ルウィーに飽き足らずリーンボックスでも
悪事を働くのならばたとえ強くなっていても何度でも懲らしめてやるだけだ。