ルウィーの街の路地裏で行われていたのは新型マジェコンの売買であった。
国民に新型マジェコンが流通してしまったことによりシェアの急速な減少が起きたのだろう。
路地裏で新型マジェコンの売買を行っていたネズミを追跡魔法を頼りに追いかける。
ネプギア達と合流して追跡魔法の反応を追って私達がたどり着いたのは
雪国であるルウィーの中で緑が多く残っているアイリス草原と呼ばれる場所だった。
「この先だね…。絶対に逃がさないよ」
初めて訪れた場所なので辺りの様子を観察したりモンスターの情報を纏めておきたいのだが
今はそれをしている余裕が無い。一刻も早くルウィーのシェアを取り戻さなければ…。
特殊な女神化を発動して奥に進むと走りつかれたのか息を切らしたネズミがいた。
「追いついたよ。さぁ、覚悟してもらおうかな」
「ちゅ…。マイちゃんがここまで追いかけてくれたことに素直に喜べない自分がいるっちゅ…。でも、愛と仕事の両立はやっぱり無理っちゅ。マイちゃんとコンパちゃんを愛してしまった自分が間違いだったってことっちゅね…? なら、マイちゃんをここで倒すっちゅ!」
ネズミはそう言うと自慢の素早い動きで私に襲いかかってくる。
コンパと共に懲らしめた時と同じようにその素早さを下げてから攻撃するほうがいいだろう。
「その自慢の速さを下げさせてもらうよ、ディセラレイト!」
「ちゅ?」
私が使ったのは敵の素早さを下げる効果を持つ魔法。重ねてかけることにより
さらに素早さを下げることも可能だが、1回の効果で十分に動きを捉えられるようになる。
「バンツァーアックス!」
シェアを纏わせた戦斧で五回連続で斬りつける技。
こちらはネプギアの技を戦斧で繰り出しているので技名を少し変えている。
ネズミは私の攻撃を受けたがまだ力尽きる気配がない。シェアを奪ったことによって
リンダと同じくその強さを増しているのだろうか。油断はできない。
「マイちゃん、初めて会った時からかなり強くなってるっちゅね…。ならこっちも大技をマイちゃんに見せるっちゅ!」
ネズミは力を溜めるとそれを解き放つ。
「ワレテッカー!」
ネズミの体から放たれた強烈な雷撃が私達に襲い掛かる。
直撃は何とか避けることができたがその雷撃は私の左側を掠める。
「っ…」
パーカーワンピの左肩から手にかけての部分が焼け焦げたようで無くなっていた。
それによって露わになった私の左腕からは鮮血が流れ出し激痛が私の体を駆け巡る。
「うあっ…」
「舞さん…! 今助けます! ハイ・ヒール!」
ネプギアから放たれたシェアの光が雷撃が掠めた箇所を包み込む。
それによって痛みはかなり引いたが、傷はまだ残った状態になっている。
「ありがとう、ネプギア。まさかここまで強くなってるとは思わなかった…」
「マイちゃんの体に傷を付けるなんて本当はしたくなかったっちゅ…。でもマイちゃんとオイラは敵同士っちゅ…。お互いにわかりあうことができない以上はこうするしかないっちゅ!」
「体にここまで傷をつけられたのは初めてだよ。そういえばあなたの名前はなんていうのかな…。ずっと知らないままだったから教えてほしい」
「それは答えてもいいから言うっちゅ。ワレチューって呼んで欲しいっちゅ…」
「ワレチューって言うんだね。覚えたよ。今度は私の番。あなたの本気に応えてあげる…」
痛みに耐えて再び立ち上がる。私はここで負けるわけには行かない。
「ラム、ロム。補助魔法をお願いしてもいい?」
「わかった…。舞お姉ちゃん、わたし達の力、受け取って…」
「やられた分はきっちり返しなさいよね!」
ラムとロムの補助魔法によって私の身体能力はさらに向上する。
私は戦斧の刃にシェアを纏わせてワレチューの本気に応えるために駆け抜ける。
「受けてみて! 翔月双閃からの翔舞烈月華だよ!」
月を描く軌道で戦斧を二回連続で振ってワレチューを宙に浮かせる。
それに合わせる形で跳躍して素早く戦斧で三連撃を与えると
最後に下方向に斬りつけてワレチューを地面に叩き落とす。
「ま、負けたっちゅ…。マイちゃん、やっぱり強いっちゅね…」
「私はまだまだ弱いよ。これが今の私に出せる精一杯…」
ワレチューに勝利したのでワレチューが持っていた新型マジェコンを全員で破壊する。
ちなみに私はコンパに手当てを受けているので参加していない。
「舞さん、今回はかなりひどくやられたですね…」
「うん…。まぁ、ノーダメージはやっぱり難しいよね…。でも勝てたからよかったよ」
コンパの手当てを受けた私はワレチューの元に向かう。
「教えて、ワレチュー。誰がルウィーのシェアを下げる作戦を指揮しているの?」
「ちゅ…。この作戦を指揮してるのはトリック・ザ・ハード様っちゅ…。犯罪組織マジェコンヌの四天王の一人っちゅ。マイちゃんは確かに強いっちゅ。でも四天王は強さの次元が違うっちゅ。いくらマイちゃんでも勝てないと思うっちゅよ…」
「マジェコンヌの四天王…。これはまたすごい人物が出てきたね。でも勝ち負けはやってみなければわからないよ?」
「テメェがトリック様に勝てるわけねーだろ! この暴力女神! 寝言は寝てから言いやがれ!」
背後から聞こえてきた声に振り向くとリンダがいた。
「リンダ…。相当自信がある言い方だね。四天王って言うからにはそれだけの強さを持ってるとは思うけど、勝負はやってみなくちゃわからないよ。それは現実でもゲームの世界でも同じことだと私は思ってる」
「テメェはトリック様と戦う前にここで始末してやるよ。戦うのはアタイじゃねーけどな」
「どういうこと…?」
「それを今から見せてやるよ!」
リンダはコートのポケットから怪しい光を放つ結晶を取り出して掲げる。
その結晶が放つ強烈な光が私達の視界に入るが特に私の体には異常は起きない。
「逃げて…!舞お姉ちゃん…!」
「えっ…」
なんとラムとロムが手に持った太陽と月の杖で私に攻撃を加えてきた。
「なによこれ…。体が言うことをきかない…! このままじゃ、舞を傷つけちゃう!」
「二人に何をしたんですか!」
「へへっ。この結晶はトリック様から預かったんだ。コイツにはシェアのない弱った女神を洗脳して操る効果があるんだよ。どういうわけか知らねーがまだ自我が残ってるみたいだが、テメェをぶっ潰せればそれでいいさ。さぁ、仲間同士で精々殺しあえよ」
「舞、逃げてっ!」
ラムの太陽の杖から放たれた魔力弾が私に向かってくる。
戦斧をハンマーに戻してそれを別の方向に弾き返す。
「くっ…。どうすればいい?」
「下手に攻撃ができないわね…。ラムとロムにこんなひどいことをさせるなんてどこまで腐ってるのよ!」
「そいつは褒め言葉として受け取らせてもらうぜ? なんせアタイは悪党だからな。前にも言ったとは思うが悪党が汚ねぇ真似をして何が悪いんだって話だよ! さぁ、余興はまだまだこれからだぜ?」
リンダの手に握られた結晶がより強力な光を放つ。その輝きに呼応するように
結晶の力で操られたラムとロムから放たれる強烈な魔法が私に向かってくる。
なんとか回避するがこのままでは本当にやられてしまう。
何かいい方法はないかと思考していると二人に変化が現れた。
ラムの瞳は金色に、ロムの瞳は銀色に染まって女神の印が発現した。
特殊な女神化の状態のようだが何が起きているのだろうか…。
「うう…舞お姉ちゃん…」
「こんなことしたくないのに…!」
二人は涙を流してその場で立ち止まっていた。
自分の意志に反することを無理やりやらされているのだ。嫌なのは当然である。
「おい! 何泣いて立ち止まってんだよ! さっさと暴力女神をぶっ潰せ!」
『舞…。聞こえる…?』
「うん。聞こえるよ」
『今、ラムちゃんとロムちゃんは自分の中に入り込んできた悪い力と必死に戦ってる。特殊な女神化に加えてウイルスの克服から生まれた抵抗力が体の中で働いているんだよ。それに今の二人の中には私とあの子のシェアが入ってる。二人が悪い力を追い出すまであと少し。舞、まだ頑張れるよね?』
「勿論だよ。二人が頑張ってるのに私だけ頑張らないわけにはいかないからね」
『そうこなくっちゃね! もう時間みたい…』
それから銀の女神の声は聞こえなくなった。話ができる時間が短くなってきているようだ。
ラムとロムは抵抗を続けているようだが二人の意志で抑えきれない力が
暴走した魔法となって私に襲い掛かってくる。
「くっ…」
私はその魔法の隙間を何とか潜り抜けてラムとロムの元にたどり着く。
手に持った武器をしまって二人を優しく抱きしめた。
「ラム、ロム! 頑張って! 私も一緒に頑張るから!」
「舞お姉ちゃん…」
「舞…」
私達は銀色と金色のシェアの光に包まれる。ゲイムギョウ界を明るく照らす光…。
その輝きはラムとロムの体に入り込んだ邪悪な力を浄化する。
光が晴れると私達には新たな変化が表れていた。
私の体から出ているのは2つの白い光。それが私とラムとロムを繋いでいる。
そして私達の記憶が共有され私の方には二人の魔法を中心とした技の動作が流れ込んでくる。
ネプギアと同じようにハード・リンクが私と二人の間に発現したことを示していた。
「舞お姉ちゃんの記憶…。この魔法とかすごい…。わたしにも使えるのかな…?」
「これがハード・リンクなのよね? それに悪い力も消えたみたいよ? 力があふれてくるわ!」
「二人とも、元に戻ったみたいだね。本当によかった…。さぁ、一緒に行こうか!」
ハード・リンクを発現させた私達は武器を構えてリンダと向かい合う。
「洗脳が解けただと? そんな…バカなことがあってたまるかよ!」
「ラムとロムは自分の力で乗り越えたんだよ。私はそれを後押ししただけ。さぁ、新技を受けてもらおうかな」
私は銀のシェアの光弾を複数作り出してそれをハンマーでリンダの方に飛ばす。
ルウィーを守護する女神にして二人のお姉さんであるブランさんの技だ。
ラムとのゲーム対決でも登場したその技を今度は自分の体で再現する。
「弾幕はパワーだよ! ゲフェーアリヒシュテルン!」
シェアの光弾は凄まじい速度で飛んでいきリンダに直撃する。
「うわああああ!」
「今度はわたし達の番よ。ロムちゃん、準備はいい?」
「うん…。舞お姉ちゃん、見ててね?」
私に続く形で二人は新たな魔法の詠唱を開始する。
元々魔法の才に長けているのでそれを解き放つのにそこまで時間はかからない。
「「スノウホワイト!」」
魔法によって作り出された強烈な吹雪がリンダの体を飲み込む。
私がしていたゲームでは魔法を二回連続で放つアビリティを使う際に
氷属性の二つの魔法を組み合わせるとたまに発動する合体魔法である。
「くそがああああ!」
吹雪が収まるとリンダは満身創痍の状態になっていた。
ラムとロムを操っていた怪しげな結晶は粉々に砕け散っている。
「私達の勝ちだね?」
「ちくしょう! トリック様になんて報告すればいいんだよ! 覚えてやがれ、この暴力女神!」
リンダはそう言うと見慣れてきた凄まじい速さでその場を後にした。
ワレチューも懲らしめたので後はミナに報告して国内に流通した新型マジェコンを
何とかすればルウィーのシェアも元通りになるだろう。私達はルウィーの教会に帰還する。
「新型マジェコン…? そんな物が流通していたのですか?」
「うん。人目につかない路地裏で新型マジェコンの取引がされてたよ。マジェコンを流通させてた奴は私が懲らしめたし、そいつが持ってたマジェコンもみんなで全部壊したから、後は既に国内に流通したマジェコンを回収すれば大丈夫だと思う。それは任せてもいいかな?」
「わかりました。それではこれから教会の職員を総動員して新型マジェコンの回収に取り掛かりますね。皆さん、本当にありがとうございました!」
ミナは教会の職員を集めて国内に流通した新型マジェコンの回収命令を出す。
教会の職員が次々と街へ出ていく。全て回収するのにそこまで時間はかからないだろう。
「…」
「舞さん、どうしたんですか? 難しい顔をしてましたけど…」
「ん? あぁ、ごめん。ワレチューが言ってたことが気になったんだ」
「あのネズミ、トリック・ザ・ハードって言ってたわね。犯罪組織マジェコンヌの四天王の一人がこのルウィーのどこかに潜んでるってことなのかしら?」
「多分そうだと思う。リンダも様を付けて呼んでたから幹部クラスってところなのかな。そいつを見つけ出して倒さないとまた同じことの繰り返しになると思う」
犯罪組織マジェコンヌの四天王の強さは未知数である。
ワレチューの言葉を信じるなら相当な強さを持っているのは間違いないだろう。
どこに潜んでいるのかわからないが、そいつに勝たなければこの騒ぎは収束しない。
「ミナちゃん、怪しい人がいそうな場所ってないの?」
「そうですね…。アタリー湿原はどうでしょうか? まだ行ったことはないですよね?」
「それはどこにあるの?」
「アイリス草原をさらに奥に進むとアタリー湿原というダンジョンに入れます。中は入り組んでいる上に比較的強力なモンスターが集まっているので人がよりつくことがない場所ですね。悪い人が潜んでいるとしたらアタリー湿原に潜んでいる可能性が大きいのではないでしょうか…」
「怪しい場所、みんなで見に行ってみる…。ルウィーの平和を取り戻さなくっちゃ…」
「そうだね。少し休んだらそこに行ってみようか。可能性が少しでもあるなら行く価値は十分にあると思うよ」
教会の大部屋で休息を取ってから、私達はアタリー湿原に向かう。
この騒動の背後にいる犯罪組織マジェコンヌの四天王との邂逅が迫っていた…。