ゲイムギョウ界の空の上に捕らわれている銀の女神を救出するために
私は真の姿を取り戻した銀翼のプロセッサユニットでプラネタワーの屋上から飛び立つ。
軌道は真っ直ぐに。ただひたすらに上を目指して飛んでいく。
分厚い雲が私の目の前に現れるが、恐れずにそれを突き抜けると速度を落として停止する。
ルウィーで倒れた時に銀の女神と会話したあの場所に私はたどり着くことができた。
「ゲイムギョウ界って、こんなに綺麗なんだね…」
私が今いる場所からはゲイムギョウ界が一望できる。
視界に映るこの光景が私達が守ろうとした世界であり、彼女が愛した世界なのだ。
ネプテューヌ達を救出することはできたが犯罪組織マジェコンヌの脅威はまだ残っている。
現状マジェコンヌ側は行動を起こしてはいないが、その兇刃はゆっくりと私達に迫っていた。
「銀の女神はどこにいるのかな…」
捕らわれている銀の女神を探し出すために私は行動を開始する。
感覚を頼りに進んで行くと私の視界に赤い光を放つ大きい水晶が映る。
今いる場所からではよく見えないが、その中に誰かがいるように見えた。
確認するために私はその場所に近づいて行く。
「あっ…」
赤い水晶の中に入っていたのは少女だった。身長は私と同じくらいで銀の長髪を持つ少女。
少女は私と同じプロセッサユニットを纏っているが所々に破損が見受けられる。
それは私に語りかけ旅の手助けをしてくれた銀の女神、シルバーハートであった。
赤い水晶に捕らわれた彼女の瞳は閉じていて、その体には傷がついている。
「この水晶を壊せば…」
私はハンマーを取り出して銀の女神を捕らえている水晶を破壊しようとする。
「無駄。それを壊そうなんて考えは捨てたほうが身のためだよ?」
「誰っ…!?」
突然背後から聞こえてきた声に振り向く。
「へぇ…。あなたが銀の女神がこの世界に呼び寄せたっていう継承者なのかな? まさかこんなところまでやってくるとは思わなかったよ。やっとの思いで手に入れた私のオモチャに手を出すのはやめてくれないかな?」
「その眼は…あなたも女神なの?」
黒いコートに身を包んで姿を現した人物の瞳には女神であることを示す印が発現していた。
「ふふふ…。かつては女神だったと言うべきかな。私は確かに一度倒された。シルバーハートと私に国を奪われた愚かな女神であるゴールドハートにね…。そのおかげで私が欲しかった他の女神の国を手に入れることも叶わなくなった…。何の因果かわからないけど、あの戦いに敗れて消滅した私はこうして復活した。それもあの時より強い力を持ってね」
「まさか、あなたは…」
「そう。一度は消滅した女神の亡霊。ファントムハートと名乗らせてもらおうかな。復活した私はあの二人に復讐を誓った。手始めにあの愚かな女神、ゴールドハートの大切な物を奪ってやるってね…。今やシルバーハートは私のオモチャだよ。シルバーハートを閉じ込めてるその赤い水晶が何だかわかる?」
「わからない…。この水晶は何なの?」
「わからない君のために教えてあげるよ。これはね、アンチクリスタル。女神のシェアエナジーを吸収する効果があるんだよね。最終的に女神の命を奪うらしいけど、せっかく手に入れた私のオモチャが無くなるのは嫌だからシェアエナジーを全て吸い尽くさないように少し細工してあるけどね。シェアエナジーを吸い取られる時のこの子の苦しそうな表情と声がたまらない…! 本当に素晴らしいオモチャだよね」
「狂ってる…! あなたは一体何がしたいの?」
「何がって? 私はただ自分の欲しい物を手に入れようとした。それを邪魔したシルバーハートとゴールドハートが許せないだけ。ゲイムギョウ界を明るく照らす太陽と月? バカバカしいにも程があるね。あなたはシルバーハートを助けにきたみたいだけど、それはさせないよ? 君にも私のオモチャになってもらおうかな。幸いにもアンチクリスタルはまだここに残ってるし…」
ファントムハートの手には大きさは小さいが
シルバーハートを捕らえている水晶と同じ物が握られていた。
「私はあなたのオモチャになんてならないよ。シルバーハートを助けて二人で帰るって約束したんだ。あなたの狂った野望も今日を持って終わりにしてあげる」
「きゃはははっ! そうこなくっちゃね! 無抵抗なままオモチャになってもらうのも悪くはないけど、やっぱり徹底的に痛めつけて持ち主に逆らうことがないようにしないとね…。かかってきなよ。シルバーハートが選んだ継承者の力を見せてもらおうかな」
ファントムハートはプロセッサユニットを展開して黒い刀身を持った剣を具現化させる。
対する私も銀の長剣を具現化させて構える。
「私は…。あなたを許さない…。絶対に倒して見せる!」
私の剣とファントムハートの剣がぶつかり合い、鍔迫り合い状態になる。
「人間にしてはやるね? 君と言う存在がますます欲しくなってきたよ」
ファントムハートは私の剣を押し返すと私のお腹を狙って蹴り技を繰り出してくる。
「かはっ…!」
蹴り技を受けた私は後退させられる。鎧のプロセッサユニットのおかげで
生身で受ける場合と比較して格段に衝撃を和らげることができているとは思うが
それでも鈍い痛みが体に走る。力はファントムハートの方が上のようだ。
「簡単には終わらせないよ? 楽しませてもらうから」
「私だって簡単には終わらない! シルヴァーテイル!」
繰り出したのはとある地方の伝承に残された剣術をネプギアが我流で習得した物。
威力よりも手数を重視した八連撃である。私が使えるのはハード・リンクのおかげなのだ。
それによってできたファントムハートの僅かな隙を見逃さずに斬撃を叩きこむ。
「おお…。戦い方は素人かと思ってたけど…。なら、ここで面白い力を見せてあげようか」
ファントムハートの体が黒い光に包まれると
足のプロセッサユニットの部分に刃のようなパーツが追加で現れる。
その状態から繰り出された蹴り技を回避するが、攻撃はまだ終わっていない。
ワンテンポ遅れる形で黒い光の刃が私に襲い掛かってきた。
「くっ…!」
銀翼のプロセッサユニットで飛ぶことでギリギリ回避する。
直撃を受けたらタダでは済まなかっただろう。
「いいね。面白い。この能力はあのシエルって言うドラゴンに変身する女神から奪った力だよ。亡霊として甦った私が新たな力として手に入れたのが相手の能力を強奪する力。私が欲しいと思った物はその時点で全て私の物になるべきなんだよ?」
「ふざけないで…。シエルとセレナから奪った女神の力も返してもらうから」
長剣をしまって次に構えるのは銀の二挺拳銃。
シェアを込めてファントムハートを狙い撃つ。
「剣だけじゃ終わらないってことかな? 私もそれに応えてあげるよ」
ファントムハートは黒い剣から黒い二挺拳銃に武器を変える。
私が放った銃撃はファントムハートの銃撃に簡単に相殺されてしまう。
「くっ…!」
「行くよ?」
ファントムハートが二発の黒い光の光弾を銃から放つ。
複雑な軌道ではなくただ真っ直ぐに向かってくるだけだったので普通に回避するが…。
「甘いよ」
「えっ…? うあっ…!」
回避したはずの光弾が方向転換をして背後から私に襲い掛かってきた。
二発とも被弾してしまったことで私は膝をついてしまう。
「あははっ! いい感じになってきたね?」
「終わらないよ…! やられた分はやり返す…! フルバスターッ!」
銃を交差させるように構えてから込めたシェアの力を放出する。
銃の内部で圧縮されたシェアの光弾がファントムハートに向かって行く。
普通に狙っているだけなので簡単に回避されてしまうが私の反撃は終わらない。
「ターンッ!」
「なっ…!」
放ったシェアの光弾を自分の意志で操ることでファントムハートを背後から攻撃する。
先程私が受けた攻撃と全く同じ手法だ。敵の技術を盗むのも時には必要になることがある。
「私の技を盗むとはね…。面白い、面白すぎるよっ! 君ほどの面白い奴は中々いないと言ってもいいね! こんな楽しい遊びを終わらせるわけにはいかないよ…」
私の攻撃を受けてもファントムハートは不敵な笑みを崩さない。
ダメージは入っていると思われるが、完全に倒しきるまでは気を抜くことは許されない。
「さ~て、次はこの力だよ。愚かなゴールドハートから盗んだ力を見せてあげる」
銃をしまったファントムハートから濁った金色のシェアの光が放出される。
その金色の光がその手に集まると一冊の本が姿を現す。
ファントムハートの手の中に収まった本の表紙には月が描かれていた。
「シルバーハートが武術の達人ならゴールドハートは魔法の達人。この本はゴールドハートが作り出した魔法が書き記された原典と言ってもいい。これの力の片鱗を見せてあげるよ。これも私のお気に入りのオモチャだからね」
その言葉に続く形でファントムハートの手に収まる本のページが勢いよく捲れていく。
「コルダ・テンペスト!」
氷の魔力と風の魔力の融合によって作り出された竜巻が私に襲い掛かる。
「っ…!」
なんとか直撃は回避できたが、その余波の影響なのか私の体には傷ができていた。
「本当にすごいよ。この本は。魔法と言う力の無限の可能性を示している。特に目を引くのが複数の属性を複合させた魔法。まだまだたくさんあるよ。私が今使ったのはその中のほんの一部にすぎない」
「確かにすごい…。今まで見てきた魔法の中でも上位に匹敵するね…。でも私は他人から盗んだ力で大きな態度を取ってるような奴に負けるつもりはないよ」
「言ってくれるね…。ゴールドハートから奪った時点でこの力は私の物なんだよ?」
「私はそうは思わない。本来の持ち主であるゴールドハートが使ったらもっとすごい威力が出ると思うけど? 魔法を使うならこっちも魔法で対抗する。これまでずっと練習してきたんだ。もう二度と倒れないためにもね…」
「中々の大口を叩いてくれるね。なら、その練習の成果を見せてみてよ!」
銃をしまうと太陽と月の杖を具現化させて構える。
当初の燃費の悪さから回数制限がかかっているのだが練習の積み重ねのおかげで
攻撃魔法の回数制限は私一人で行使する場合は三回、補助有りの場合は四回になっている。
最初は補助有りの状態で一回の行使が限界だったが、これもみんなのおかげなのだ。
「属性の複合を見せてくれてありがとうと言うべきなのかな…。おかげで私はまだまだ強くなることができる…。見せてあげる。これが私の魔法だよ。デュアルキャスト!」
私が使うのは魔法を二回連続で使用するアビリティ。
これを使ってラムとロムが使っている魔法を放つことで新たな魔法が誕生する。
私が選択するのは火のフレイムラッシュと風のウインドストーム。
「銀の太陽の力を宿した烈風よ。悪しき物を切り刻み、我が道を切り開け! クリムゾンストーム!」
銀の女神のシェアを乗せて放つのは火属性と風属性の複合魔法。
灼熱の風がファントムハートに向かって行く。
「これが…!」
ファントムハートは驚いた表情をするが、再び不敵な笑みを浮かるとそ自らその魔法を受ける。
「今の動き…。本当は回避できたのにわざと当たったよね…?」
「流石に分かっちゃうよね。これが私の望んだゲームの始まりなのかもしれない…。この勝負はどうやら私の負けみたいだね…。シルバーハートより面白いオモチャに出会えたことに感謝しなくちゃいけないね。せっかくだから、君の名前を教えてもらおうかな?」
「神奈 舞だよ。銀の女神シルバーハートの継承者」
「ふふふっ…。舞か。覚えておくよ。これは楽しいゲームの始まりに過ぎないよ。君は必ず私のオモチャにしてあげるから…!」
「丁重にお断りするよ。あなたは必ず私が倒してみせる。何度出てきても負けないから…!」
私がそう言うとファントムハートの体が歪み始め、空間に溶け込むように消えていった。
消えた後にはまるで最初から誰もいなかったような奇妙な雰囲気だけが残されていた。
今回の戦いは私の勝利に終わったが、事実上の撃退扱い。本気を出していたのかすら怪しい。
ファントムハートに奪われたシエルとセレナの力も取り返さなければならないのだ。
彼女を倒して奪われた物を全て取り返す。これを成し遂げなければ本当の勝利とは言えない。
「後はこの水晶を何とかするだけだね…」
私はシルバーハートを捕らえている赤い水晶を見据える。
女神のシェアエナジーを吸収する効果を秘めたアンチクリスタル。
彼女はシェアを奪われる苦しみの中で私に力を貸してくれていたのだ。
今度は私が彼女を助ける番だ。彼女を連れて二人で帰るために
私は銀の女神を捕らえているアンチクリスタルを破壊すべくハンマーを強く握った。