ゲイムギョウ界の空に捕らわれた銀の女神の下に辿り着いた私の前に姿を現した存在。
それは金の女神ゴールドハートことセレナが守護していた金の大地を陥落させ、
他の女神の国をも奪おうとしたかつての女神の亡霊、ファントムハートだった。
戦いの果てにシルバーハートとゴールドハートに倒されて消滅したはずの彼女。
何の因果なのか彼女は女神の亡霊として今代のゲイムギョウ界に復活していたと言う。
シルバーハートを捕らえていた彼女との初戦は撃退という形で幕を閉じる。
それは彼女が去り際に残したように狂ったゲームの始まりを告げていた。
私と女神の亡霊との戦いはまだ始まったばかり。彼女はまた私の前に姿を現すはずだ。
私の…いや、私達の手で完全に消し去る。それが亡霊となった彼女に応える唯一の手段である。
私はシルバーハートを捕らえている赤い水晶を何とかしようとハンマーで攻撃を加えるが
かなりの硬さがあるようでヒビを入れることすらできない。
武器を変えて試みるが結果は同じだった。まるで壊れる気配が無い。
ファントムハートが無駄と言ったのは壊されない自信があったからなのだろうか…。
「どうすればいい…?」
私が持っている全ての武器で攻撃を加えたがまるで歯が立たない。
女神の力を吸収するアンチクリスタルを破壊する方法は何かあるのだろうか…。
「舞…」
「…?」
思考していると私を呼ぶ声が聞こえてきた。これまで私を助けてくれた声。
水晶に閉じ込められたシルバーハートが意識を取り戻していたのだ。
私を呼ぶその声は弱々しい。ハード・ユニゾンのことを教えてくれた時はまだシェアが
残っているから大丈夫と言っていたがその声を聞く限りではかなり弱っているように見えた。
「やっと、会えたね…」
「うん…。舞の顔を見ることができて嬉しいよ。見苦しい強がりの結果がこのザマなんだけどね…。まだ余裕があると思ってたんだけど…。見通しが甘かったかなぁ」
「どうすればこれを壊せるの?」
「これは武器や魔法で強引に壊せるものじゃないみたい。それでも手が無いわけじゃないよ…。舞にはつらい思いをしてもらうことになるけど、それでもいい?」
「私はあなたを助けるためにここまでやってきた。セレナとシエルにも約束したからね。あなたを助けて二人で帰ってくるって。そのためなら私はどんなつらいことにも耐えてみせる。せっかくボス戦をクリアしたのに目的を果たさずに諦めて帰るなんて私の選択肢には初めからないね」
「あはは…。本当に舞はすごいなぁ…。じゃあ私が考えた一手を言うね。それは舞と私でこのアンチクリスタルの力に抗うことだよ。具体的に何をするのかって言うと舞と私で同時にアンチクリスタルに触れる。当然シェアエナジーは吸われるけど、二人で一緒にその力に抗えば何とかなるかもしれない」
「シェアエナジーを吸収する力に抗う…か。なるほどね」
「最悪は命の危険を伴うけど…。それでも舞は私と戦ってくれる?」
「勿論だよ。一人で無理なら二人一緒に戦えばいい。あなたと一緒に戦うのは初めてだけど、私達ならできそうな気がするから。だから、一緒に戦って生きて帰る!」
「ありがとう。それじゃ、行くよ…!」
私達はアンチクリスタルに同時に触れる。
触れた瞬間にアンチクリスタルから放たれた赤い光が私の中に入り込んでくる。
「「くっ…!」」
私の大切な物が奪われていくような嫌な感覚が襲い掛かってくる。
シルバーハートも苦しそうな表情をしている。
「「負けない…!」」
シェアエナジーをを吸収されるがそれでも手は離さない。絶対に離す物か。
私とシルバーハートの意志は同じ。それはこの忌まわしい力に抗うことだ。
その思いが功を成したのか赤の光が少しずつではあるが私達の色に変わっていく。
「舞、このまま行ける…?」
「ラストスパートだね…! 行くよ…!」
私達の銀色の輝きは赤の光を塗りつぶし、ヒビが入り始めていた。
私とシルバーハートの間を遮る壁が壊れるまでもうひと頑張りだ。
「「はああああああっ!」」
互いに声を張り上げる。銀色の輝きがさらに強くなって赤の光を完全に塗り潰す。
ガラスが割れるような音とともにアンチクリスタルは粉々に砕け散った。
私の方に倒れてきたシルバーハートを抱きしめる。
「やったね…!」
「うん…! 私達の勝利だよ…!」
特に傷を負ったわけでもないが半端ない脱力感が襲ってくる。
お互いに抱き合ったまましばらくそのままでいると…。
「舞の体…。温かい…」
「あなたの体も温かいよ。やっと触れ合えたね?」
「舞と出会えてよかった…。ここまで来てくれて、私を助けてくれて本当にありがとう…!」
「私もあなたと出会えてよかった…。あなたが私をこのゲイムギョウ界に呼んでくれたから私はネプギア達と出会えて大切な物を手に入れることができた。本当にありがとう…!」
「改めて自己紹介するね? 私の名前はアリアだよ。女神としての名はシルバーハート!」
「じゃあ私も改めて…。神奈 舞だよ。よろしくね? アリア」
「うん…! よろしくね! 舞!」
銀の女神とその継承者は互いに自己紹介を終える。
「あっ…! ごめん。舞に抱き着いたままだった…。離れるね?」
「別に私は気にしてないよ? 無理に離れなくてもよかったのに」
「私が男の子だったら確実に落とされてるよ…。ねぇ、舞は元の世界に帰りたいって思ってる?」
「元の世界か…。そういえば帰る方法とかあったりするの? 犯罪組織マジェコンヌを倒してゲイムギョウ界の平和を取り戻したらゆっくり探そうかなとは考えてるんだけど…」
「私が使った術で舞はこの世界に来た…。術式の構成も滅茶苦茶で苦し紛れの賭けのような物だったから、帰す方法が現時点では無いに等しいんだけど、舞はこの世界と自分が元いた世界。どっちを選ぶ?」
「難しい質問だね…。元いた世界だと私は引きこもりのゲーム三昧の生活だった。私は自分自身の世界に閉じこもってたような物だったからね。あっちにも友達はいるし、実際に会ったわけじゃないけどゲームの中でお世話になった人達だっている。二つの世界を行き来できればそれが一番だけどどちらかを選択しなければならないとなると答えはまだ示せないかな…」
「そっか…。これから舞はどうするの?」
「まだマジェコンヌの脅威は残ってるから当面は自分を鍛えることになるかな。みんなと過ごす時間も大切にしたいね。まだ幸い何か行動を起こしそうな感じじゃないみたいだから。それにマジェコンヌだけじゃなくてアリアを捕らえてたファントムハートとの狂ったゲームにも勝利しないといけないから仮に帰る方法が既にあったとしても帰れない状況になってるんだよね」
「私も手伝わせてもらう。シェアがあんまり残ってないから昔みたいに無双はできないけど、舞とネプギアちゃん達を支えることはできるから。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね? 私だけじゃなくてセレナとシエルも喜んで舞達の力になってくれるはずだよ」
「銀と金と結晶の三人の女神か…。これほど頼もしい味方は無いんじゃないかな?」
「嬉しい言葉だけど、今の私達より舞とネプギアちゃん達の方が強い気もするけどね。さらなる強さを目指すなら、私達に教えられることは全部教えるよ」
「ありがとう。じゃあそろそろ帰ろうか? アリアは飛ぶのが無理そうだよね? あっ、こうすればいいか…。嫌かもしれないけど我慢してね?」
私はアリアをお姫様抱っこする。女の子の体重に触れるのはよろしくないのだが、軽い。
アリアのプロセッサユニットは破損してしまっているため飛行はできない。
「嫌じゃないよ…! 舞って恋愛系のゲームの経験あるの?」
「いや…。私がやるゲームは基本的にアクション系が多いから、ないよ? それがどうかした?」
「なんでもない…。このままお願いするよ」
「わかった」
私はアリアをお姫様抱っこした状態で銀翼を使いゆっくりと降りていく。
シェアエナジーは私も吸収されたがプロセッサユニットは問題なく動いてくれる。
ゲイムギョウ界の景色を二人で見渡しながら最後にプラネタワーの屋上に降りたつ。
「ふう…。帰ってこれたね…。とりあえず降ろすけど歩ける?」
「大丈夫だよ。さっきよりかは随分楽になったから。それにしても懐かしい光景だなぁ」
プラネタワーの屋上からはプラネテューヌの街並みが一望できる。
私はここから見る夜の街並みが一番好きだ。見ていると気持ちも落ち着いてくる。
今はまだ昼間だがプラネテューヌの街並みは近未来的な雰囲気が強いので特に好きだ。
「とりあえず教会に報告に行こうか。みんな待ってくれてるだろうし」
「うん。ねぇ、手を繋いでくれない?」
「ん? いいけど…」
私とアリアは手を繋ぐ。女神化を解除するとアリアの髪は私と同じ黒に戻る。
服装は白を基調としたドレス。どこかの国のお姫様に見えなくもない恰好である。
私達は手を繋いでプラネテューヌの教会に帰還する。
「ただいま~」
「お邪魔しま~す」
教会の扉を開けるとイストワールとゲイムキャラが出迎えてくれた。
「舞さん、おかえりなさい。お隣にいらっしゃるその方が…」
「銀の女神シルバーハートこと、アリアだよ」
「初めまして。教会って何気に入ったことないから新鮮な気分だよ」
「そうでしたか。初めまして。私はプラネテューヌの教祖、イストワールと申します。アリアさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ。それにみんなも久しぶりだね。いつ以来になるのかな? こうして会うのは…」
「あれからかなりの年月が過ぎましたからね。本当にお久しぶりです。シルバーハート。またお会いできて嬉しいです」
「随分と力が落ちてしまったようだが、それでもお前の輝きは健在といったところか?」
「まあね…。まぁ、舞と一緒に練習して早く取り戻せるようには努力するよ」
「ゴールドハートには会いに行かないのですか?」
「あなたの大切な相方も心待ちにしているのでは?」
「そうだね。また後で顔を見せに行くよ。セレナはここにはいないのかな?」
「セレナはセプテントリゾートでブラックディスクの代わりにラステイションを守護してるからね。連絡だけでも入れておく? 連絡なら私のNギアで取れるけど…」
「お願いしてもいいかな?」
私はNギアを取り出してセレナに連絡を入れる。
これまでは登録名がクロだったが今はセレナに変更している。
通話を選択したらアリアにNギアを渡す。画面にセレナが映し出される。
「セレナ、久しぶり! 帰ってきたよ」
『懐かしい顔と声…。おかえり、アリア…!』
「舞のおかげで帰ってこれたよ。セレナも舞の手助けをしてくれてたんだよね?」
『私はアリアから預かってた武器を渡しただけだよ? 魔法タイプの私に近接戦闘を無理矢理習得させようとして渡したままにしてた』
「あ~。そういえば私が持ってる近接系の武器の半分近くをセレナに渡してたね。まだあまり練習してない武器の扱いをマスターするのに必死だったからすっかり忘れてたよ…」
『ふふっ…。舞は渡した武器をすぐに使いこなしてたよ。流石はアリアが選んだ継承者だって思ったから。舞に代わってくれる?』
アリアからNギアを受け取る。
「セレナ。あなたとの約束守ることができたよ」
『うん。私の大切な友達を助けてくれて本当にありがとう…! あいつはどうなったの?』
「撃退扱いだね。本気を出してたのかすら怪しいところもあるけど…。また私の前に必ず現れるはずだよ。その時にセレナとシエルの奪われた力も取り返すから」
『そっか。それでもあいつと互角にやり合ったってことだよね? 舞は本当に強くなった。私も魔法の扱いなら多少の自信はあるから、これからの練習の時は頼ってくれたら嬉しいな』
「その時はお世話になるよ。今日はちょっと無理だけど、またそっちにアリアと一緒に行くことになるから」
『わかった。今日はゆっくり休むといいよ。それじゃ、またね!」
セレナとの通信を終了する。
「ごめん。ちょっと今日は無茶したから休ませてもらってもいいかな? ネプギア達にはちゃんと帰ってるって伝えといてくれる?」
「わかりました。アリアさんも遠慮せずにくつろいでくださいね」
「ありがとう。私も眠くなってきた…。お腹も空いてるけど今は寝たい気分かな」
「本当にお疲れ様でした。皆さんには私からお話をしておきますのでお二人はゆっくり休んでください」
私とアリアは私がゲイムギョウ界に来てから使わせてもらっている部屋で寝ることにした。
言い忘れていたがこの部屋のベッドは大きいので二人一緒に寝ても狭いと言ったことは無い。
布団を被ると戦いの疲れから私達は即座に意識を手放す。
これから注意しなければならないのはマジェコンヌ側の動きである。
四女神救出からは特に目立った動きはないようだが必ず近い内に行動を起こすはずだ。
そしてアリアを捕らえていた女神の亡霊、ファントムハート。
彼女もマジェコンヌの動きに乗じて何か仕掛けてくるかもしれないので注意が必要である。
常に気を張っていても滅入ってしまうので頭の片隅にでも入れておこう。
とりあえず今はみんなの力で取り戻したひと時の平和を楽しみたいと思った。