アイエフとコンパの案内で私とネプギアはギルドと呼ばれる施設に着いた。
「さて、舞はこの世界に来たばかりだから当然でしょうけど、ネプギアもギルドは初めてよね?」
「そうですね。名前は聞いたことはありますけど、実際に来るのは初めてです」
「私は初めてとは言えないかな。この世界のギルドが私の知っている物と同じ役割を果たしているのかはわからないけど、ここに来る途中にある程度の予想は立てることができたよ。それを話してもいいかな?」
「もしかして、ゲームにギルドが出てきたです?」
「察しがいいね。ゲイムギョウ界に来る前に私がしていたゲームの中にもギルドがあった。ギルドでは色々な人の依頼を受けることができる。例えば、モンスターが悪さをして困っているから倒してほしいとか、特定のアイテムを集めてきてほしいと言った感じでね。それをクリアしてお金と素材をもらって、それらを使って自分を鍛えて先に進むという形式で進めるゲームだった。ゲイムギョウ界のギルドも似たような物かなと思ったの」
「舞が言ったことで正解よ。説明の手間が一気に省けたわ。少し違う点を挙げるとすればクエストを達成すればその国のシェアを少しだけど上げることができるの。勿論、舞が言ったようにお金とか素材と言った報酬も手に入る。イストワール様から連絡が入るまではクエストを達成してプラネテューヌのシェアを少しでも取り戻す。これが今の私達の目的ね。ここからは口で説明するよりかは実際にやってみた方がわかると思う。出ている依頼はこの掲示板で確認できるわ」
クエストの掲示板を確認してみるが、出ている依頼が一つしか無かった。
「おかしいですね? 普段はもっと依頼が出ているところですけど…」
「バーチャフォレストでのモンスター討伐…。ターゲットはスライヌ…?」
私は依頼の内容に目を通してみる。一体どんなモンスターなのか。一文字違う名前のモンスターなら知っているが。
「依頼が一つしか無いのが気がかりだけど、丁度いい内容の物が出ているわね。スライヌはゲームで例えるなら、序盤に出る雑魚モンスターだから簡単だと思うわ」
「経験者のアイエフが言うなら大丈夫だね。バーチャフォレストというのは?」
「それはこの街から出たところにある草原のことですよ。あいちゃんの言った通りスライヌは強いモンスターではないです。舞さんとギアちゃんの初戦の相手としては丁度いい練習相手になると思うです」
「大丈夫でしょうか…。私、また何もできなかったら…」
どうやら三年前の戦いが一種のトラウマになっているようだ。私達に三年前の話をしていた時、ネプギアは自分には何もできなかったと後悔し続けていた。
「これから頑張ればいいよ。最初から何でもできる人なんて普通はいない。これからできることを増やしていけばいいと思う。だから一緒に頑張ろう?」
「舞さん…」
「つらい時は遠慮せずに周りに頼るといいよ。私だけじゃない。コンパとアイエフも一緒にいるんだからさ。ネプギアは一人じゃないでしょ?」
「はい…! 私も…頑張ります!」
「決まったようね。早速バーチャフォレストに向かいましょう。と言いたいところだけど。舞の武器を先に何とかしないといけないわ。流石に武器が無い状態で戦闘に臨むのは危険よ」
アイエフに指摘されてその事実を改めて認識した。黒い人物と戦った時はネプギアの武器を使っていたけど流石に貸してもらうわけにはいかない。今の私はゲームで例えるならば装備無しの状態と同じ。その状態で戦闘に臨もうとするのは自殺行為もいいところだ。せめて剣と盾は欲しいところではある。
「困っているみたいだね?」
私達の背後から声が聞こえてきた。声をかけてきた人物は黒いコートに加えてフードを被って顔を隠しているため表情がわからない。声だけで判断するなら女性と思われる。彼女の手には剣と盾があった。特に目立つ特徴の無い物で、序盤に貰える剣と盾と言った雰囲気がある。
「これをあなたにあげるよ」
「怪しいわね。いきなり現れて初対面の人に武器を渡すなんて」
「ふふっ。確かに君の言う通りだよね。初対面の人に武器を譲るようなおせっかいなんて普通はいない。君達の話を聞いて困っているみたいだったから手助けしようと思っただけさ。ちなみにこの剣と盾は私の親友が初めてスライヌと戦った時に使ってた武器だよ。所謂お古ってやつだね。残念ながら性能は店で売っている安物の武器と殆ど変わらない。スライヌが相手ならこれで行けると思う。強い敵が相手だと厳しいところだけど」
「わかった。使わせてもらうよ。剣と盾が欲しかったから」
「戦いは初めてかな? 慣れないことは多いと思うけど、経験を積めば人はどこまでも成長できるよ。頑張って」
「ありがとう。私は神奈 舞。よかったらあなたの名前を教えてもらえる?」
「私の名前…? どうしよう。今はどう名乗ればいいかな…」
自己紹介をするのに悩む理由があるのか。不思議な人だ。
「よし、これにしよう。私の名前はクロ。即席で考えた名前だけどね。訳あって今は本名を名乗ることができないの。スライヌの討伐、頑張ってね?」
クロはギルドから出ていった。
「本当に謎だらけの人物だったわね…。結果として舞の武器が手に入ったからよかったけど。早速バーチャフォレストに向かいましょう」
私達はプラネテューヌの街を出てクエストの目的地のバーチャフォレストに向かう。街から出て少し歩いたところでバーチャフォレストに到着した。街の周囲に広がっているのどかな草原地帯で川の水が流れる音が聞こえる。吹き抜ける風も心地よい。モンスターがいなければ昼寝ができると思った。
入口から少し進むと早速モンスターが現れる。その数は四体。青いゼリー状の体に犬耳と尻尾をつけた可愛いらしいモンスターだ。これがターゲットのスライヌ。随分昔にしていたゲームの序盤に登場する敵と似ている。
「早速出てきたわね。準備はいいかしら?」
アイエフの両手に光が集まる。両手にはカタールが握られていた。ここに来る途中にアイエフから聞いたのだが自分の武器は普段は粒子化して周囲に漂わせておき、戦闘になった時にそれを具現化するようだ。
「はいです!」
コンパは自分の身長よりも大きい注射器を両手で持つ。注射器を武器にしている人は今までプレイしたゲームの中にはいなかったので何だか新鮮な感じがする。
「はい!」
ネプギアの手にはビームソード。刀身は刀本体から出るエネルギーで構成されている。切れ味の劣化の心配が無い便利な武器だ。
「練習台になってもらうよ」
クロから貰った剣と盾を構える。
「一人一体ずつで倒すわよ!」
「ぬ、ぬらっ!?」
アイエフの声を合図に私達はスライヌに攻撃を仕掛ける。真っ先に動いたのはアイエフ。戦闘に慣れているのか無駄な動きが無い。両手に持ったカタールの斬撃と蹴りを合わせたコンボをスライヌに叩き込む。アイエフの戦い方は素早さと手数に重点を置いた戦い方だ。攻撃を全て受けたスライヌは光となって消滅した。
次はコンパ。スライヌの体当たりを回避してビンタをするとその体に注射器を突き刺した。中に入っていた液体がスライヌの体に注入され、全て注入されたところでスライヌは活動を停止。光となって消滅した。注射器の中の液体の正体が非常に気になる。
三番目はネプギア。三年間のブランクがあるが、動きに問題は無いみたいだ。ビームソードの斬撃をスライヌに確実に当てることで、体力を削る。手数と威力のバランスが取れている戦い方だ。五回連続で斬りつけるとスライヌは光となって消滅した。
最後に残った私はスライヌの動きを観察。攻撃手段は単純な体当たりのみ。特に警戒は必要ないかな。今度は私が攻める番だ。
「そこっ!」
スライヌの体当たりを防いだ直後に盾アタックを繰り出して隙を作る。その隙を見逃さずに右手の剣で一撃、二撃と加える。まだ終わらない。スライヌの体に剣を突き刺して持ち上げると、一回転した後に地面に叩きつける。地面に叩きつけられたスライヌは少し地面を転がると光となって消滅した。最後の決め技はフィニッシュブローと呼ばれるとどめの技である。
「終わったようね。ネプギアと舞も中々やるじゃない」
「そうですか? 上手くいってよかったって気持ちでいっぱいですけど…」
「私もネプギアと同じかな。たまには体を動かすのもいいよね」
「ギアちゃんも舞さんもすごいです!」
現れた四体のスライヌを全滅させた私達は辺りを観察する。
「ん? あそこにもう一体いるわね? この際だから討伐しましょう」
最後の一体を討伐してクエストクリアと思ったが、予想外の事態が起きる。
「ぬ、ぬらーっ!!」
スライヌが声を上げると多数のスライヌが姿を現した。その数は十体以上はいる。
「ぬっ、ぬらー!」
「なっ…!」
「どこかに隠れていたですか…?」
「何をするつもりでしょう…?」
「嫌な予感しかしない。これだけの数が集まってやることは…」
嫌な予感ほど当たる物はない。
「ぬらーーっ!!」
集まったスライヌが一斉に声を上げるとスライヌ達が合体していく。スライヌ達が合体を完了させると巨大なスライヌが現れた。大きさは先ほど戦ったスライヌとは比較にならない。
「ぬーらー!」
声も若干野太い。これはボス戦の流れだ。ゲーム好きの私の勘が告げていた。
「流石にこれは予想外だわ…。ネプギア、女神化はできないの? 戻って来てから一度も使っていないみたいだけど」
女神化。それは内に秘められたシェアの力を解放することで守護女神としての力を最大限に行使するという物らしい。私はネプギア達と同じ守護女神の瞳を持っているからできるかもしれないけど、やり方がわからない。この力のことをもっと知らなければ。
「これもリハビリのうちよ。女神の力を見せてやりなさい」
「女神化して戦う…」
ネプギアは女神化を使おうとしたが、脳裏にある光景が甦った。
「ダメ、できないよ。怖いっ…!」
ネプギアは涙を流しながら蹲ってしまった。
「ぬーらー!」
ビッグスライヌが体当たりを仕掛けて来る。私はネプギアの前に立ち、盾を構える。普通のスライヌより重量が数倍になったビッグスライヌの体当たりが私に襲い掛かる。防御を突き破られるかと思ったが、何とか踏みとどまることができた。それと同時に足の部分に何だか暖かい力を感じたので視線を移してみる。私の靴が銀色のブーツに変わっていた。
「今はこいつを討伐しないといけないね。コンパ、ネプギアをお願い!」
「はいです!」
コンパはネプギアを連れて離れた場所に移動した。
「アイエフ、行ける?」
「仕方ないわね」
私とアイエフは武器を構えてビッグスライヌに立ち向かう。黒い人物に続いてのボス戦。負けられない戦いが始まった。