ギョウカイ墓場から帰還した私にアリアから伝えられたのは
今回採掘したアンチクリスタルを使っての鍛錬を明日行うとの知らせだった。
さらにネプギアが私を呼んでいるということで部屋に向かうと
忙しい姉達に女神候補生達で何かできることはないかという話に発展しており
ネプギアの提案でみんなでケーキを作ってプレゼントしようと言う結論に辿りつく。
ネプギアからのお願いを受けてケーキ作りに協力することにはなったのだが
その前にやらなければならないことがあった。それはラムとのクエストである。
これを乗り切れば四人の女神候補生とのハード・ユニゾンが成立するのだ。
強力な力である代わりに維持できる時間が短いため、改善が求められるところもある。
アリアの話では使えば使うほど維持できる時間もそれに比例して伸びていくようだ。
第四の試練の舞台は黎明の亡都。ブラッドフェンリルの咆哮が空に響き渡っている。
戦場に降り立った私達は武器を構えて索敵をしながら奥に進んでいく。
今回の私の武器はジェネラルドラゴンとの戦いの際に使った神を喰らうための武器。
前と違う点は刀身の部分。短剣だった部分が今回は大剣に変化している形だ。
「どこにいるの…?」
ブラッドフェンリルの咆哮は一定の間隔で聞こえるのだがその姿が確認できない。
再度咆哮が響き渡ると私達の前に複数のモンスターが姿を現した。
姿を現したのはラステイションのセプテントリゾートにいたボーンフィッシュ。
ルウィーのアイリス草原に生息しているムーランルージュ。
プラネテューヌのダークネス60で観測されるクリスタルゴーレム。
早速攻撃を加えようとするが、モンスター達の体が光に包まれる。
光が晴れるとモンスター達の体は邪悪とも言える黒色に染まっていた。
「これって…!」
「汚染化だね…。どうやらブラッドフェンリルの力が変質してるみたい」
モンスター達の体が変化したこの現象は汚染と呼ばれている。
犯罪組織マジェコンヌが出現してから特定のモンスターに観測される現象。
その身に犯罪神の影響を受けているようで体が黒く染まると戦闘力が大幅に増大する。
イストワールから聞いた話ではネプテューヌ達がギョウカイ墓場に幽閉された当初は
汚染化モンスターによる被害が後を絶たなかったらしい。
汚染状態になってしまったら完全に消し去るしか対処法がない。
汚染化モンスターはその場に存在するだけで他のモンスターに影響を及ぼすからだ。
「でも、決して勝てない相手じゃないよね。ラム、行くよ!」
「新しい魔法の実験台にしてあげるわ!」
ラムは後方で魔法の詠唱に入る。最初に狙うのは汚染ムーランルージュだ。
植物系モンスターの弱点である火属性を突くためにクリスタルを使用する。
使用する際に後方にいるラムに見えるようにして敵の弱点属性を教えるようにする。
「火竜爪!」
火属性の魔力を纏わせた大剣を振って敵を薙ぎ払う。
汚染化モンスターと言うこともあって通常種と比較するとタフなところがある。
敵同士の距離を離すことができたところで続けてラムの魔法が炸裂する。
「ハイ・フレイム!」
ラムが放った火球が汚染ムーランルージュに直撃して消滅させた。
次に狙うのは汚染ボーンフィッシュ。水棲系モンスターなので弱点は雷属性。
汚染ボーンフィッシュは硬い骨の尻尾を振って攻撃してきた。
「…!」
シールドを展開して防御するが思った以上に威力が強く後退させられてしまう。
「舞、わたしの魔法の後に続けて攻撃して! ライトニング!」
汚染ボーンフィッシュの体に小さな雷が落ちる。
ラムの魔法で怯んだ隙を見逃さずに攻撃を叩きこんでいく。
「サンダークラッシュ!」
大剣を力を込めて縦斬りをお見舞いすると追撃で落雷が二度発生する。
今日の朝の鍛錬でハード・リンクが発現したネプテューヌの技の一つ。
雷の魔力を纏わせた大剣で敵を防御ごと叩き斬る技だ。
汚染ボーンフィッシュを倒したら最後に狙うのは汚染クリスタルゴーレム。
弱点がわからないが直感で判断した結果、風のクリスタルを使用することにした。
汚染クリスタルゴーレムは硬い腕で私を殴り飛ばそうとしてくるが
シールドで防ぐと後退させられると思ったのでこちらはしっかりと回避する。
「スカイツイスター!」
ラムの放った小さな竜巻が汚染クリスタルゴーレムに炸裂する。
防御が固い敵には魔法で怯ませた隙に近接攻撃に繋げるのが定石だ。
「エアロスラッシュ!」
風の魔力を纏わせた大剣で一閃。
汚染クリスタルゴーレムの体は真っ二つに両断され光となって消滅した。
現れた汚染モンスターを全滅させたところで建物の上に視線を移す。
「来たね…」
「あれが、ブラッドフェンリル…」
建物の上に立って私達を見下ろす巨大な狼がいた。
全身を覆う白い体毛と背中から伸びているのは鮮血を連想させる紅の触手。
さらに前足は岩の如き重厚な装甲で覆われていて右目は既に潰されている。
あの世界の私の分身がつけた傷と全く同じことに気がついた。
ブラッドフェンリルが咆哮するとまた新たなモンスターが二体出現した。
現れたのは中型サイズの蒼い体を持ったヤドカリ型のモンスター。
山のような形をした大きなヤドを背負っている。
「見たことないモンスターだ…」
「わたしも初めて見たわ。こいつらを同時に相手にしろってこと?」
新たなモンスターを呼び寄せたところでブラッドフェンリルは建物の上から降りてくる。
私達を見ると天高く響く咆哮を上げる。その体から血のような赤黒いオーラが立ち上った。
戦闘開始の合図だ。私とラムはひとまず散開して同じ位置に固まらないようにする。
ブラッドフェンリルはモンスターを呼び寄せて狂暴化させる能力を持つ上に
その戦闘能力も非常に高いので単体であっても十分な強敵である。
岩のような硬い装甲に覆われた腕に炎を纏わせると火球を生成して投げつけてきた。
攻撃の隙を突こうとするが召喚されたヤドカリがそれをさせまいと攻撃を仕掛けてくる。
どうやらヤドカリは氷属性に特化しているようだ。命名すると氷山ヤドカリと言ったところ。
激しく動き回るわけではないが冷気の塊を飛ばして来たり、私達の足元に冷気を集めて
氷の槍を作ったりと随分と器用な攻撃で私とラムの邪魔をしてくるのだ。
「もう! 邪魔しないでよ! エクスプロージョン!」
ラムが放った火の魔力の爆発が氷山ヤドカリに直撃するがこれだけでは倒せない。
「くっ…!」
ブラッドフェンリルの腕の一撃をシールドを展開して防ぐが攻撃の重さに苦しめられる。
耐えきろうと踏ん張るがそのまま防御を突き破られて吹き飛ばされてしまった。
「うああっ!」
「これでもくらいなさい! アイスホールド!」
氷の魔力で作られた結晶がブラッドフェンリルの体に直撃する。
胴体部分は比較的柔らかいので攻撃が通り易い。弱点の氷属性ならさらに通る。
弱点属性の攻撃にブラッドフェンリルは怯んだが…。
「きゃあああ!」
足元から突如現れた氷の槍がラムを襲う。後方に控える氷山ヤドカリの攻撃だ。
戦場をかき乱すブラッドフェンリルの能力に苦戦を強いられる私達。
ラムの一撃が効いたのか私への攻撃を止めて後退して建物の上に逃げる。
そして再びの咆哮と同時にその体から赤黒いオーラが立ち上ると新たな変化が起きる。
召喚された二体の氷山ヤドカリの体が光に包まれると体色が黒く変色した。
さらに狂暴化した汚染氷山ヤドカリは私達に牙を向く。
ブラッドフェンリルはどうやら私達を弱らせてから叩こうとしているようだ。
その証拠に建物の上に登ってからは降りてこないのだから。
戦場においては卑怯などと言う言葉はもはや通用しない。
どのような手段を使っても最後に生き残った者が勝者になるのだから。
「でも、これはチャンスだね。また降りてくる前に氷山ヤドカリを倒す!」
「さっきはよくもやってくれたわね! コテンパンにしてあげるわ!」
ヒールポッドで受けたダメージを回復して汚染氷山ヤドカリに立ち向かう。
汚染化の影響なのか激しく動き回りながら冷気の塊を乱射してくるので余計に性質が悪い。
武器を銃形態に変えて銃身に込めた銀のシェアを連射してその動きを強引に止める。
「黒こげにしてあげるわ! フレア・ブラスト!」
汚染氷山ヤドカリの足元から炎の柱が立ち上りその身を焼き焦がしていく。
再度武器を剣状態に戻して斬りかかる。右・左と薙ぎ払うように斬ってから次の動作に。
「捕食!」
刀身を根元から飲み込むほどの巨大な黒い顎のような物が現れて
汚染氷山ヤドカリの体に喰らい付く。殻を強引に食い破ると氷の魔力が私の体に流れ込む。
喰らった魔力の影響で私の身体能力はさらに増大する。
食い破った殻の部分に剣を深く突き刺してやると汚染氷山ヤドカリは光となって消滅した。
残るもう一体の汚染氷山ヤドカリの攻撃を捌いて同様の方法で始末する。
「来るよ!」
召喚したモンスターを倒したことでブラッドフェンリルが建物の上から降りてきた。
その口からは炎が漏れ出し、紅い触手からは火の粉が舞い上がっている。
これが怒り活性化状態。氷山ヤドカリを強引に汚染化させたのは活性化時の能力だ。
活性化すると攻撃力の上昇だけでは止まらず元から素早い動きにさらに磨きがかかる。
私達を視界に捉えると強靭な筋力と体のバネを駆使して高速で突進してきた。
突進は何とか回避できたが同時に両腕から噴出された炎による大爆発が私達を捉える。
「くっ…!」
「い、痛くなんかないんだから…!」
獄炎の指輪の加護によってダメージは抑えられたがそれでも十分な威力なのだ。
私達は体を駆け巡る痛みに耐えて反撃の一手を狙う。
「ラム、これを受け取って!」
私は武器を銃形態に変えてラムにある物を放った。
それは汚染氷山ヤドカリを捕食した時の氷の魔力で作り出した特殊な弾丸。
敵を捕食して作り出した弾丸を味方に当てると同じ様に身体能力を上昇させることができる。
「力が溢れてくるわ! よーし! 行くわよ!」
魔法の詠唱を始めたラムの足元に水色の魔法陣が現れる。
ブラッドフェンリルがラムに狙いを定めるが後足に斬撃を叩きこんで怯ませる。
詠唱を中断させないように前衛である私がしっかり頑張らなければならないのだ。
「氷の刃よ。降り注いで! フリジットコフィン!」
ブラッドフェンリルの足元から発生した氷の粒がその体を巻き込みながら上がっていく。
それが空中に集まると一振りの氷の剣が生成される。ラムが太陽の杖を振ると
氷の剣はブラッドフェンリルに一直線に向かって行き、その体を貫いた。
私はのけ反った隙に大剣を構えてシェアの力を最大まで溜めてから一気に振り下ろす。
「チャージクラッシュ・ブレイカー!」
銀のシェアを纏った大剣の一撃はブラッドフェンリルの体に深く喰い込んだが
お返しと言わぬばかりにその体から強烈な炎を放出して暴れまわる。
直接の被弾はないがあまりに強烈な炎に肌が焼かれるような痛みが走る。
「まだ終わらないっ…! ラム、私達も行くよ!」
「やっと来たわね! 私達の力、その身に刻みなさい!」
私とラムは手を繋いで内に秘めたシェアの力を同時に解き放った。
「「ハード・ユニゾン!」」
白い光の柱の中で私とラムが一つになっていく。
髪の色はラムが女神化した時のピンク色に、ラムのプロセッサユニットが装着される。
私の手の中には太陽の杖。この瞬間、四人の女神候補生とのハード・ユニゾンが成立した。
(さあ、一気に決めてやりましょう!)
受け取ったのはラムが行使する氷属性の魔法の中でも最強の魔法。
「絶対零度の冷気からは逃げられないよ。アブソリュート・ゼロ!」
太陽の杖を掲げると私の体を覆うように水色の魔法陣が現れる。
内に秘めた氷の魔力を解き放つとそれはブラッドフェンリルに向かっていく。
集まった魔力は巨大な氷の結晶を生成してその体を氷の領域に閉じ込める。
「これでとどめだよ。砕け散って!」
太陽の杖を回転させてその上からさらに氷の魔力を重ねる。
結晶はさらに大きくなり最後には勢いよく砕け散った。
ブラッドフェンリルの体には大量の傷がついていてまだ倒れてはいなかったが
最後に咆哮を上げると地面に倒れ伏して光となって消滅した。
ブラッドフェンリルが消滅した後には一枚のディスクが残されていたのでそれを取る。
表面に狼の顔が描かれているそれはツインサーペントとの戦いで入手した物と同じようだ。
(舞がロムちゃんに渡してたのと同じ形のディスクよね? これって何に使うの?)
「これから先の戦いの役に立つ物だよ。これはラムが使ってあげて。使う時はラムの魔力をこのディスクに込めればいいから。戦闘以外では使わないでね」
(わかったわ。舞、一つ聞いてもいい?)
「何かな?」
(犯罪神が甦ったらルウィーもわたし達のゲイムギョウ界もここみたいに壊されちゃうの…?)
「犯罪神の存在意義は全ての破壊。復活した犯罪神を倒せなかったらゲイムギョウ界という世界ごと私達は滅ぼされる。ここはまだ跡が残ってるけど、それすらも残らないんじゃないかな…」
(舞とわたし達の力はさいきょーだと思ってる。それでもやっぱり怖い…。わたし達の世界とみんなとの思い出は壊されたくないよ…!)
「そうだね。でもみんなの力を合わせればきっと乗り越えられる。私はそう信じてる。出会う前はみんなバラバラだったけど、捕らわれたネプテューヌ達を助け出すことができた。だから、みんなで頑張って行こう?」
(そうね…! ありがとう、舞! おかげで気持ちが落ち着いたわ)
「それはよかった。さあ、帰ったらみんなでケーキ作りだよ。頑張ってる女神達に最高の贈り物を作ってあげよう?」
(うん! よーし! みんなと一緒に最高のケーキを作ってやるんだから!)
「ふふっ! 気合十分だね? じゃあ、みんなが待つ場所に帰ろうか!」
ブラッドフェンリルの討伐に成功した私達はプラネテューヌの教会に帰還する。
誰一人として欠けることなく生きて帰ってみせる。私は決意を新たに次の一歩を踏み出した。