Game73:新たな戦いの幕開け
四人の女神候補生とのハード・ユニゾンを成立させたことに加えて
ネプテューヌ達に最高の贈り物をプレゼントすることができた三日目は終わりを告げた。
月は沈み太陽が昇ると超次元ゲイムギョウ界もまた新しい朝を迎える。
今日もいつも通りに恒例の朝の鍛練から始まる。
その後にアンチクリスタルを使用した合同鍛練を行う予定になっている。
朝の鍛練の相手は女神化したシエル。対する私はネプギアとのハード・ユニゾン状態。
『前日の約束通り、今日は我が相手を務めさせてもらおう』
私の頭の中に響くシエルの声。改めて聞くと普段の話し方と随分違うので不思議な感じだ。
(女神化すると口調が変わるってお姉ちゃんみたいですね?)
「それは言えてるね。女神化すると口調って変わる物なのかな…?」
『女神化を行使した時に生じる変化には様々な物がある。我やネプテューヌのように普段とは違った口調と姿になることもあれば、アリアやセレナのようにその姿以外の目立つ変化が現れないこともある。普段と性格が全く違う物に変化する者がいるという話も聞いたことがあるな。共通しているのは力が増大する点くらいだ。その力に溺れることなく、鍛練にて己が制御下に置き、正しく振るう。これはさらなる高みを目指す上では決して忘れてはならないことだ』
力に飲まれて闇雲にそれを振りかざせばそれはただの破壊者だ。
強大な力を手にした以上はシエルの言った通り、完全に自分の物として
その力を正しく使うことが求められる。力に支配されているようでは前に進めないのだ。
「やっぱり歴戦の女神の言葉は重みがあるね。早速私達の挑戦を受けてもらってもいいかな? 結晶の女神様?」
『いいだろう。全力でかかってくるがよい。我はお前達の力に応えるのみ!』
女神化したシエルが天に向かって咆哮を上げると体の各部に着いた結晶が蒼く光り輝いた。
(物凄い迫力ですね…。これが女神化したシエルさんの力…)
「相手にとって不足は無しだね」
今のネプギアの武器である銀と金の長剣を構えるとシエルとの模擬戦が始まった
シエルが腕を振るとその軌道に合わせて光の刃が形成されて私達に襲い掛かってくる。
その攻撃を回避して剣舞を加えようとするとシエルの体が一瞬で消えた。
「なっ!?」
(舞さん! 後ろです!)
ネプギアの言葉に振り向くと既にシエルの口から蒼い光球が放出される。
何とか回避は間に合ったので私とネプギアにダメージはないが
反応が遅れていたらこの時点で光に飲み込まれて試合終了にされていたところだ。
『うむ。見事な反応よ。苦境に立たされたとしても決して敵の姿を見失わないことだ』
シエルの体を奮わせると蒼色の結晶が辺りに飛び散る。
その体から放たれた赤黒い電撃が結晶に当たると複雑に曲がって襲いかかってきた。
(舞さん、これはどうですか?)
「なるほどね。早速試してみようか」
結晶に反射されて私達に向かってきた電撃を長剣で受け止める。
「はああああ!」
二つの長剣の刀身にはシエルが放ってきた赤黒い電撃が走っていた。
これは敵の攻撃や自然現象を利用して剣に一時的ではあるが属性を付加させる技。
効果時間は短いが、属性クリスタルと比較すると強力な効果を得ることができる。
実際に私がプレイしたゲームでは落雷を剣で受け止めて属性を付加するのだ。
「竜撃斬!」
赤黒い電撃を纏わせた二つの長剣でシエルの体に攻撃する。
『ぬうっ…!』
私達の攻撃はシエルの強靭な腕に阻まれてしまったが効果はあるようだ。
「これって龍属性だね? 昨日セレナと話してた属性ってこれのこと? まさかこっちの世界にもあるとは思わなかったけど…」
『その通りだ。女神化を行使する前の我は光属性を使うのだが、女神龍になっている時はこの属性を使えるようになる。まさか我の属性を逆に利用するとは…。流石だな』
龍属性はドラゴンが生まれながらにして体に宿している力のこと。
ゲイムギョウ界でドラゴン族モンスターの殆どが危険種に分類されている理由でもある。
ドラゴンの攻撃に自然と付加されているので並みの防具では簡単に貫かれてしまうのだ。
現状では龍属性を武器に常時纏わせることができないかと研究が進められているらしい。
「それと同時にドラゴンが苦手とする属性でもある。当然例外もいると思うけどね…。シエルの場合は適応化を使えばそれにも対応できるんでしょ?」
『それを習得する場合は直接その攻撃を何度か受け止める必要はあるがな…。その時は練習に付き合ってもらっても構わないか?』
「勿論だよ。さあ、残りの時間も全力で打ち合おうか! ネプギア、まだ行けるよね?」
(はい! みんなで強くなるんですから!)
『いい気迫だ。我もそれに応えよう!』
それからハード・ユニゾンの限界時間が来るまでシエルと打ち合った。
朝の鍛練を終了したところで休憩を入れてから予定していた合同鍛練に移る。
「さて、昨日話した通り今日は舞とシエルが採掘してきてくれたアンチクリスタルを使っての合同鍛練だよ。内容は通常の女神化をした状態でアンチクリスタルを手に取ってその力を無力化すること。苦しい時は無理せずに手放して。それじゃあ、早速実践していこう!」
アリアの言葉を合図に合同鍛練が始まる。
私は女神の力を解放して早速挑戦することにした。
「くっ…!」
アンチクリスタルを手に取ると赤の光が
私の体内にある銀のシェアエナジーを求めて入り込んでくる。
「負けるもんか…!」
アンチクリスタルの力に抗い続ける。それを握ったまま絶対に離さない。
私の体から放出される銀のシェアの輝きが赤の光を少しではあるが塗りつぶし始めた。
「はああああっ!」
さらに放出するシェアの力を上げると赤の光が完全に塗りつぶされる。
手を開いて確認するとアンチクリスタルの色が赤色から銀色に変化していた。
「はぁ、はぁ…。これは一体…?」
アリアを救出した時は粉々に砕け散ったのだが、私の手の中にあるのは銀色の結晶。
先程とは違ってシェアを吸収される嫌な感覚はもう襲ってこない。
「舞さんも…。同じことになったみたいですね…?」
息を切らしているネプギアの手の中には薄紫色の結晶があった。
無力化とは自分の色で塗りつぶして別の物質に変換するということなのだろうか。
仄かに暖かい銀と薄紫の結晶は何かに使えそうな気がする。
それから鍛練は続いて全員がアンチクリスタルの無力化に成功したところで終了となった。
それぞれの色に染まったアンチクリスタルだった結晶は各自で持っておくことに。
どのような効果を秘めているのかわからないが私達にとっていい物だと思う。
「なるほど…。アンチクリスタルを無力化する鍛練の際に生まれた結晶ですか…」
プラネテューヌの教会に戻ったところでイストワールに結晶を調べてもらう。
「イストワール、何かわかりそう?」
「この結晶の中には一人一人のシェアエナジーが入っていますね。例えばこの薄紫色の結晶の中に入っているのは全てネプギアさんのシェアエナジーです。それ故に色がその人に応じた物に変わっているのではないかと。シェアクリスタルとはまた違った物質と言ったところでしょうか…。ただ、現時点では何も反応を示さないようですね」
「今すぐには使えないけど、使える時が自ずとやってくるってことかな?」
「私の予測に過ぎないので確実にそうなるとは言い切れませんが、持っておいて損は無いと思いますよ? 調べた結果、アンチクリスタルと違って害を及ぼす要素が全く無いことも確認できましたから」
「お守りみたいな物だね。それとギョウカイ墓場の様子はどう?」
「これまでに溜まった負のエネルギーが限界点を迎えようとしています…。恐らくもう…」
イストワールが次の言葉を発しようとしたその時、巨大な地震が起きる。
「この揺れは…!」
「な、何が起きてるんですか?」
「揺れ方が尋常じゃないわね…」
30秒足らずの地震は収まる。
「遂に恐れていたことが起きてしまったようですね…」
「遂に犯罪神が復活したってこと…?」
「その前兆と言ったところでしょうか…。皆さんがこれまでの旅の中で各国のシェアを奪還してくれたおかげで進行を遅らせることはできていましたが、ギョウカイ墓場に集まった負のエネルギーの総量が遂に限界を迎えたことによってこの地震が発生したと思われます。今のギョウカイ墓場で一体何が起きているのかは私にもわかりません」
犯罪神の本体が顕現している可能性も否定はできないが
いずれにしてもギョウカイ墓場で何が起きているのか確認する必要がある。
「私が先行して見てくるよ。イストワール、ギョウカイ墓場に転送してくれる?」
「待ってください! 私も舞さんと一緒に行きます!」
「抜け駆けは感心できないわね。アタシも一緒について行くわ」
「わたしも…舞お姉ちゃんと一緒に行く…!」
「わたし達は五人揃ってさいきょーなのよ? 抜け駆けはダメなんだから!」
「みんな…! ありがとう…!」
「これが舞さんと女神候補生達の絆ですか。それでは、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「うん。私達が先行組としてギョウカイ墓場の様子を確認してくる。アリア達とネプテューヌ達は後続組という形で突入をお願いしてもいいかな?」
「任せて! 私達だって戦えるんだから、ちゃんと頼ってよね!」
「了解したよ。舞、気を付けてね…。何だか嫌な予感がする…」
「わかってるよ。この時の為に今までみんなで頑張ってきたんだから」
「それでは先行組である舞さん達にはこれからギョウカイ墓場に向かってもらいます。その後に続く形でアリアさん達とネプテューヌさん達の後続組に突入してもらう形ですね。十分に注意してください。危険と判断した際はすぐに撤退するように」
「了解!」
イストワールは転送装置の核となる。アリアの言った嫌な予感は私自身も感じ取っていた。
だが動かなければ状況の把握はできない。マジェコンヌ側が進撃を再開してからでは遅い。
転送装置の光に入って先行組である私とネプギア達でギョウカイ墓場に突入する。
時は舞達がギョウカイ墓場に突入する前、巨大な地震が起きる直前まで遡る。
「ちゅ~…。疲れたっちゅ。下っ端と一緒にいるとロクなことがないっちゅね。はあ、マイちゃんとコンパちゃんに会いたいっちゅ…」
ギョウカイ墓場の黒い塔の付近を歩いているのは
舞とコンパとの恋に破れた大きな灰色のネズミ、ワレチューだった。
「それにしてもジャッジ・ザ・ハード様を倒すなんて…。マイちゃんはいつの間にあそこまで強くなったっちゅ? マイちゃんと最後に会ったあの時から随分経ってるっちゅ…。まさか、マイちゃんはあの時よりさらに強くなってるっちゅ!?」
ワレチューのその予想は見事に的中していた。
ネプギア達と楽しい日常を過ごす傍らで舞は鍛練をしているのだから。
さらに当時ではネプギアとしか行使できなかったハード・ユニゾンも
今では四人の女神候補生全員と行使できるようになっている。
「なんかマイちゃんが雲の上の人みたいっちゅ…。もうマイちゃんには手は届かないっちゅ…?」
舞のことを好きになってしまったワレチューはやはり舞のことが諦めきれないのか
ため息を漏らしながら黒い塔の付近を歩いていた。塔の真下に来たところで異変が起きる。
「あわわ…! 何事っちゅ!?」
ギョウカイ墓場を震源地とする地震が発生した。
地面に亀裂が走るとその中から紫色の靄のような存在が姿を現す。
「何か出てきたっちゅ! 何者っちゅか!?」
「…」
「気味が悪いっちゅ! あっちに行けっちゅ!」
「器に…なれ…」
紫色の靄のような存在は一言だけ呟くとワレチューに纏わりつく。
「か、体の中に入ってきたっちゅ…? それにこの力は…! この感情は何っちゅか!?」
その存在はワレチューの体に全て入りきる。
「うううう…! ぢゅーーーーー!」
「ふふふ…。ほんの一部とは言えようやく復活を果たされた…。恐らくあいつもこれを感知してここに向かってくるだろうな…。さて、あの時と比べてその実力がどれほど成長しているのかをこの辺りで見せてもらうとしようか…」
犯罪組織マジェコンヌの四天王の一角、マジック・ザ・ハードは
ワレチューの様子を見ながらこれからここにやってくる舞のことを考えていた。
それから時は現在に戻る。マジックと舞が再度出会う時が近づいていたのだった。
ギョウカイ墓場に突入した私達は辺りの様子を観察しながら慎重に奥に進む。
「今のところ、おかしなところはないですね…」
「何か心配して損したって感じよね?」
「油断しちゃダメ…。ゲイムギョウ界を壊そうとしてるならわたし達でやっつける…」
「でも、あれだけの地震があったのに、特に何も起きてないなんて逆に不気味だわ…」
「今回はあの黒い塔の近くまで行ってみよう。危険な時はすぐに引き返す」
私達は特殊女神化状態を維持しながら黒い塔が立っている場所に近づいて行く。
「この音は…?」
私の聴覚が捉えたのはまるで特撮物に登場する怪獣が歩いているような足音。
私達の方に近づいてきているのか、その足音は徐々に大きくなってきた。
「ぢゅーーー!」
「ワ、ワレチュー!?」
私達の前に姿を現したのはワレチュー。体は異常に巨大化していた。
その身に何が起きたのかはわからないがその体は毒々しい紫色に染まっている。
「ぢゅーーー!」
巨大ワレチューが再び野太い鳴き声を上げるとその体が光に包まれて消えた。
「消えた…? まさか、ゲイムギョウ界に向かったの…?」
「急いでゲイムギョウ界に戻りましょう!」
「そうね。あんなのが暴れまわったらダダじゃ済まないわ!」
巨大ワレチューの進行を阻止するため、来た道を引き返そうとするが…。
「意気込んでいるところ悪いが、タダで帰れるとは思わないことだな…」
「マジック…! 私達の邪魔をするつもり?」
「久しいな舞。その質問の答えは肯定だ。アレには復活を果たされた犯罪神様の力の一部が宿っているのでな。お前達に潰されるのを黙って指を咥えて見ているはずが無いだろう?」
「邪魔になる私達を始末しに来たってこと? 私達がここに来ることも分かってたよね?」
「ふむ…。始末しに来たと言うのは少し違うな。お前の力を試しに来たと言わせてもらおう。ジャッジを倒したあの時からどれほど成長したのか気になったのでな。ここで朽ち果てるかはお前達の実力次第だ。アレを追いかけたいのならば、その力を私に示すがいい」
「私達の力があなたの目に適えば、見逃してくれると捉えていいのかな?」
「いいだろう。だが、お前達の力が私の目に適わなければここで死んでもらう」
その言葉と同時に襲い掛かってくる殺気。
ジャッジを倒した時とは違い、今度は動かなければ殺される。
「わかった。私だってジャッジを倒してから何もしなかったわけじゃない。ネプギア達と一緒にできることは全部やってきた。だから、私達に出せる全力をあなたにぶつける!」
「いい気迫だな。あの時と比較すると成長していることが窺える。それでは、始めるとしようか。全力で来るがいい!」
「上等っ! みんな、行くよ!」
私達は犯罪組織マジェコンヌ四天王のマジック・ザ・ハードに立ち向かう。
三年前に四女神とネプギアを単身で打ち破った死神に私達の力は通用するのだろうか。
遂にゲイムギョウ界の存亡を賭けた戦いの火蓋が切って落とされるのであった。