誰一人として欠けることなく全員で生きてこのプラネテューヌに帰ってくる。
その誓いの下で、私達はプラネタワーの最上階から決戦の舞台へと飛び立った。
ネプギア達はトリック・ザ・ハードが待つギャザリング城に到達する。
入口の大きな扉を開けて内部に侵入すると緑色の人魂が複数漂っていた。
それはかつてここに住んでいたと言われる王の一族の魂だろうか。
それとも内部に眠ると言われる財宝を狙って魔物の餌食になった者達の魂か。
こちらに危害を加えてくる物ではないので特に警戒する必要は無いのだが。
ネプギア達は内部を徘徊するモンスターの視界に入らないように慎重に進んで行く。
ダンジョン内を徘徊する雑魚モンスターはその視界に入らなければ追いかけてはこない。
視界に入ってしまった時は全速力で逃げれば追跡を諦めて元の場所に戻る習性がある。
これはギャザリング城に限らず他のダンジョン内のモンスターに適用される。
危険種以上のモンスターはこちらが危害を加えない限りは戦闘にならない。
このギャザリング城内部に生息している危険種はドラゴン族のニーズヘッグ。
見た目はエンシェントドラゴンとさほど違いは無いがその強さは雲泥の差と言ってよい。
モンスターに注意しながら奥に進むと階段を発見した。
二つある階段の行き先はギャザリング城の地下か二階である。
どちらに進むか協議した結果、二階に向かうことになったので階段を上る。
一階と比較すると二階は窓が多いのか外から差し込む太陽の光で随分と明るい。
さらに一階とは違うモンスターが徘徊しているので視界に注意しながら奥に進んでいく。
奥にある非常に広い部屋の天井には豪華なシャンデリアが設置されている。
かつてはあの輝きの下で舞踏会などが催されていたのだろうか。
それと印象に残ったのが奥の部屋に続く大きな扉の側面にある二つの女神像。
左にある像は太陽の杖を、右にある像は月の杖をその手に持っている。
アリアとセレナに似ているが何か関係があったりするのだろうか。
二つの女神像の間にある大きな扉を開けて中に入る。
「ようやく来たか…。待っておったぞ。本音を言うなら来てくれるのは幼女二人だけでよかったのだがまあいい。邪魔な年増女神を倒してお楽しみタイムと行かせてもらおうではないか!」
「お断りよ! この変態! あんたは今日ここでわたし達がやっつける!」
「ルウィーを滅茶苦茶にしようとした上に、わたし達を洗脳して舞お姉ちゃんに怪我させようとした…! 絶対に許さない…!」
「アクククク…! 以前に言ったとは思うが吾輩は変態という名の紳士なのでな! 変態は褒め言葉と言ってもよい! お喋りはこの辺で切り上げて始めようではないか!」
「アンタの悪行もここまでよ! 戦友と交わした約束を守るために、ゲイムギョウ界の未来を担う子供達のためにアンタを倒す!」
「あなたが例えどれだけ強くても私達は負けません!」
女神候補生とトリックの戦いの火蓋が切って落とされた。
ネプギア達のシェアの輝きはこれまでと比較にならないほど強力になっている。
「レジストダウン…!」
「アーマーダウンよ!」
先手として放たれたのはラムとロムの魔法。黒い光がトリックの体に入っていく。
物理攻撃に対する防御力と魔法攻撃に対する抵抗力を減少させる魔法である。
「ユニちゃん、行くよ!」
「アタシ達の合体技、受けて見なさい!」
ネプギアとユニは同時に左手を前に突き出す。
二人の前に赤い魔法陣が現れるとシェアエナジーが収束していく。
「「シュタルクヴィータ!」」
収束したシェアエナジーが巨大な光の奔流となってトリックに放たれその体を飲み込む。
「年齢二桁以上はババアだ! ババア二人の攻撃など痛くも痒くもないわ!」
ネプギアとユニの合体技を受けたトリックの体には傷がついていたが
トリックの強力な自己再生能力の効果で即座に回復されてしまった。
素早い舌の一撃が二人を薙ぎ払おうとするがプロセッサユニットを駆使して回避する。
「前に戦った時以上の回復力ですね…」
「最初の攻撃が簡単に通ったら苦労はしないわ。これも想定内の結果よ」
「ババアの攻撃など無力! 何度やっても無駄だ!」
「無駄かどうかは最後までわかりませんよ? 私達は絶対に諦めませんから」
ネプギア達の中に諦めるという選択肢は存在しない。
あるのは誰一人欠けずに生きてプラネテューヌに帰ると言う選択肢だけである。
「次はわたし達の番よ! これでもくらいなさい!」
「ラムちゃん、お願い…!」
ロムが月の杖を掲げると魔力が収束して巨大な魔力弾が次々と生成される。
それをラムが魔力を込めた太陽の杖で弾いてトリックに飛ばしていく二人の合体技。
これが二人の力で実現するゲフェーアリヒシュテルンである。
「ぐはぁ! 幼女の攻撃…! 最高ぉぉぉ!」
「気持ち悪いこと言わないでよ! この変態っ!」
「これほどまでにパワーアップしているとはなぁ…。幼女の成長を心から祝福しようぞ! 吾輩もそれに応えなければ!」
トリックはラムとロムを捕まえようと高速で舌を飛ばしてくる。
「させません!」
「二人に手は出させないわ!」
ネプギアとユニが二人の前に出てトリックの舌を弾き飛ばそうとするが…。
「邪魔をするな! 年増女神はこうしてくれる!」
ネプギアとユニを長い舌で絡め捕るとそのまま勢いよく地面に叩きつけた。
「あぐっ…!」
「うあっ…!」
「吾輩と幼女女神達との戯れを邪魔した罪は万死に値するのだぁ!」
トリックはネプギアとユニに対女神用のウイルスを大量に含んだブレスを吹き付ける。
ブレスをまともに浴びた二人の姿は赤い煙に包まれて見えなくなった。
「ネプギアちゃん…! ユニちゃん…!」
「我が同志マイに使った物よりさらに強力なウイルスだ! さ~て、邪魔な年増女神がいなくなったところでお楽しみタイムと行こうではないか!」
「二人はまだやられてなんかない!」
「アレに耐えられるのは我が同志マイくらいだ。さあ、早くその体をぺろぺろさせておくれ…!」
トリックは息を荒げながらラムとロムに舌を飛ばしてきた。
その一撃は両者の間に入り込んで来た何者かに弾き飛ばされる。
「ぬうっ…! まさか新手か? 条件を破ったなら国が消えて無くなるのを忘れたのか?」
「違いますよ。条件は何一つ破っていません」
トリックの舌を弾いたのは何とネプギアだった。
髪の色は淡い紫色から白色に変化して髪型がドリル状のツインテールに。
その身に纏うのはブレイブとの戦いで新たな姿を獲得したユニのプロセッサユニット。
(アタシもいるってこと、忘れないでよね!)
「ユニちゃんの声が聞こえる…!」
ネプギアが行使しているのは何とユニとのハード・ユニゾン。
マジェコン工場攻略からの鍛練で新たに発現したアビリティである。
「それが何だと言うのだ! もう一度これを受けるがいい!」
トリックは再びネプギアに対女神用ウイルスを大量に含んだブレスをお見舞いする。
再び赤い煙にその体が飲み込まれるがそれはシェアの輝きの元に打ち消される。
「汚い息を吹きかけないでくれる? それはアタシ達には通用しないわ」
光の中から現れたのはネプギアのプロセッサユニットを纏ったユニ。
髪の色は淡い紫色に変化していて、髪型はツインテールを解いて降ろした状態だ。
(今度は私がユニちゃんの中に…)
「ネプギアの声だわ…! あの瞬間に入れ替わったって言うの?」
この二人のハード・ユニゾンと舞主体のハード・ユニゾンの違いがこれである。
舞はアリアの力を借りている継承者だが、本物の女神ではないのでかかる負担が大きい。
特に融合者を逆転させたリバースを行使した場合は舞は融合者の体内で眠りに就いてしまう。
候補生と言っても本物の女神である二人がハード・ユニゾンを行使する場合は
デメリットはほぼカットされると言っていい。リバースの行使についてもそれは同じ。
先程披露したように自分の好きなタイミングで入れ替わることができるのだ。
「年増女神の分際で調子に乗るでない! お前達の攻撃では吾輩の体に傷を付けることはできぬのだぁ!」
「なら試してあげるわ。ロム、手伝ってくれる?」
「わかった…!」
ユニの手にあるのは二つの双剣を重ね合わせて作り上げた輝剣。
その刀身にロムの水色のシェアの輝きが上乗せされる。
「アンタの技を借りるわよ…戦友ッ! ブレイブソードッ!」
さらに闘気を上乗せして放つ強烈な一閃がトリックの体に直撃する。
「ぐはぁ! あの漢の技を使うか…! だが、こんな傷…」
トリックの傷は回復するかと思ったがその傷は一向に再生する気配が無い。
「ば、馬鹿な…!」
「傷をつけることができないって言ったのはどこの誰だったかしら? アタシ達の攻撃はまだ終わってないわよ」
ユニの体が光に包まれると今度はネプギアが姿を現した。
「ラムちゃん!」
「今度はわたしがお手伝いする番ね?」
ネプギアの手にあるエクスマルチブラスターの銃口に氷の魔力が集結する。
さらに自身のシェアの力を上乗せするとそれを解き放つ。
「ブリザード・カノン!」
猛吹雪の具現とも言える氷のレーザーがトリックに直撃してその体を凍てつかせる。
「ぐふぅ! まだだ! まだ終わるわけにはいかんのだぁ!」
体が動かなくなっても武器である舌はまだ動くのでそれを振り回して抵抗する。
だが、今のネプギア達を前にそれは無駄な抵抗でしかない。
「最後は二人の番だよ?」
「わたし達の…?」
「あの変態をやっつけるのは今しかないわ! ロムちゃん、行くわよ!」
ラムとロムの体が光に包まれるとその身に纏うプロセッサユニットが変わる。
桃色を基調とするのは変わらないが頭のパーツがウサギ耳を模した形に、
翼のパーツはさらに大きく、足の装甲はさらに分厚い物に変化した。
さらに二人が持っていたクリスタルがその変化に呼応するように宙に浮かび上がる。
クリスタルから放たれた暖かい桃色と水色の光が二人を包み込む。
その光の中から姿を現したのはこの場にいないはずの人物だった。
「なっ、我が同志マイ! 何故お前がこの場にいる!」
「ま、舞さん!?」
(どういうこと?)
太陽と月の杖を持ち、ラムとロムのプロセッサユニットを纏った舞。
髪の色は銀色ではない。桃色と水色が混じりあったような色をしている。
その瞳の色も左目が桃色、右目が水色になっていて二人の特徴を受け継いでいた。
この舞は当然本物ではない。二人が憧れるもう一人の姉と言ってもいい優しい少女。
その憧れが姿形を持って具現化した存在。この瞬間、二人は一つになった。
「これで決めてあげる。地獄に落ちることだね、この変態」
トリックに死刑宣告をしたところで魔法の詠唱に入る。
足元に展開されたのは赤と青と緑、三つの色を持った大きな魔法陣。
「ありったけの魔法の連撃、受けてみて! 唸れ、炎!」
トリックの体が銀色の業火に飲み込まれる。
「舞え、吹雪よ!」
続いて発生したのは巨大な吹雪。
「斬り裂け、風よ!」
竜巻がトリックの体を巻き上げる。
「これでとどめっ! ディバインパウア!」
最後に頭上に生成されたシェアの槍がトリックの体を貫いた。
「幼女…! ばんざぁぁぁい…!」
シェアの槍が貫いた箇所からは大量の蒼い光が漏れ出している。
舞の体が光に包まれると今度はラムとロムが姿を現した。
「ア、アクククク…! 幼女と我が同志の手にかかって散る…か。ならば本望…! 幼女を愛した我が生涯に一片の悔い無しっ…!」
その言葉を最後にトリックは光となって消滅した。
「最後まで欲望塗れの奴だったわね…」
「あはは…! 二人が消えたと思ったら舞さんが出てきたから驚いたよ」
「どうして舞お姉ちゃんの姿になれたのかわからない…。どうしてかな…?」
「難しいことはわかんない。確かにあの時、舞の事を考えてたりしてたけど…。結果としてあの変態を倒せたんだからそれでいいじゃない! セレナに見てもらえばきっとわかるわよ!」
トリックとの戦いに勝利したネプギア達はギャザリング城を後にした。
それから時は舞達がガペイン草原に辿り着いた時まで遡る。
「マジック…!」
「来たか…。それではこちらも始めるとしようか」
「三年前のリベンジ、果たさせてもらうわ!」
「ここで終わりにしてあげるよ。あなたも、犯罪神も!」
「ふっ…! ならばこちらも全力を以てお前達に応えなければならないな」
マジックの体から強力な闇のオーラが立ち上ると空に上がっていく。
それがガペイン草原一帯の青空を覆い尽くした。太陽と月の光は届かない。
「空が黒くなった…! これがあなたの本気ってことなのかな…?」
「そのように解釈してくれて構わない。犯罪神様の力でもあるがな…。お前達五人を相手に手を抜くのは無礼だと判断したまでのことだ」
「今まで戦ってきた誰よりも強力で邪悪な力だね…! でも相手にとって不足は無い」
「シエルの言う通りだね。それでも、私達は絶対に負けられない。あなたを倒してみんなで生きて帰る。約束したからね」
「この闇の中であっても輝きを失わぬか。ならばその輝きを全力で撃ち砕かせてもらうとしよう。大人しく犯罪神様の糧となるがいい…!」
「断る! ゲイムギョウ界を守る為、あなたをここで倒す!」
私達は犯罪組織マジェコンヌの四天王マジック・ザ・ハードに立ち向かう。
光の届かない昏い闇の中での戦いが今始まる。