再び目を覚ました私はひとかけらの光すら見えない暗闇の中にたった一人でいた。
私は誰なのか、どうしてこのような場所にいるのか何一つ思い出すことができない。
自分の右手にあるのは禍々しい紫光を帯びた一本の剣だけである。
私の心の中を支配するのは純粋な恐怖とここから出たいという気持ち。
出口を探すために道なき道を進むと一人の少女が私の前に姿を現した。
「ここからあなたを出すわけにはいきません」
現れた薄紫の髪の少女は私に一言告げると剣を構えて突然斬りかかってきた。
抵抗しなければ殺される。私の中の本能はただその事実を告げていた。
右手に持った剣で応戦しようとするが少女の剣は私の体を無慈悲に斬り裂いた。
斬られた箇所からは血が流れ出すと同時に強烈な痛みが私の体を駆け巡る。
私は何もしていない。私に攻撃を加えてくるこの少女にも会った記憶が無い。
それなのにどうしてこのような仕打ちを受けなければならないのだろうか。
(その子は君の敵だよ)
「て、き…?」
(君を暗い闇の中に閉じ込めようとする悪い人だよ)
「どう、すれば、いいの…?」
(簡単なことさ。君の邪魔をする悪い人はみんな倒してしまえばいい。今の君にはその剣があるじゃないか。それで悪い人をみんな倒してしまえば君を怖がらせる人はいなくなる)
「わかった…! みんな倒してしまえばいいんだよね?」
(物分かりがいいじゃないか。さあ、君の力を見せてあげるといい。今の君に逆らうことがどれほど愚かな行為なのかをわからせるんだ)
体の底から強力な力が湧いてくるのを感じ取る。
この力と右手にある剣があれば私を怖がらせる人を倒すことができる。
頭の中に響く声に導かれるままに内に秘めた力を解放して右手に持った剣で反撃する。
私の斬撃は少女の剣に受け止められるが体の底から湧き上がる力に乗せて押し切る。
少女の懐ががら空きになったところを見逃さずにその体を剣で貫く。
貫いた箇所から蒼い光が大量に漏れ出すとその少女は光となって消滅した。
「やった…!」
(お見事。でもそれで終わったとは思わないことだよ?)
「えっ…?」
暗闇の中に轟く銃声と共に私の左肩を一発の銃弾が貫いた。
「あっ…! あああああっ!」
(一人を倒しただけでは終わらないよ? ここから出たいのならみんな倒さなくちゃ!)
左肩を押さえながら後ろを振り向くと黒髪をツインテールにした少女がいた。
その少女の手には私を撃ちぬいた弾丸を放った黒い銃が握られている。
「どうして、私にこんなことをするの…? 私は何もしていないのにっ…!」
「アンタみたいな奴をここから出したらゲイムギョウ界が滅茶苦茶になるからよ」
(おやおや? 意味の分からないことを言ってるね? さあ、彼女も倒さないと君の体がハチの巣にされちゃう。生きてこの場所を出たいのならどうすればいいかわかるよね?)
何時の間にか彼女に撃ちぬかれた肩の痛みは消えていた。
着ていた服は流れ出した血で汚れてしまっているが気にしている余裕はない。
「倒す…! 私の邪魔をする人はみんな倒してやるっ…!」
私はこの闇の中から脱出するために駆け出した。
邪魔をする者を全て駆逐すること。それが今の私にできることなのだから。
「きゃははっ! 記憶と余分な感情を消去した無垢な女の子の反応は素晴らしいの一言だね。君が暗闇の中から抜け出したその時、救世の銀陽が繭から生まれるっ…!」
黒い繭の中で眠る舞に悪夢を見せるファントムハート。
人を弄ぶことに特化した能力は神奈 舞という一人の少女を追い込んでいった。
物語の舞台は再び革新する紫の大地プラネテューヌに戻る。
ノワール達はセレナと共に魔法の鍛練を行うためにイストワールの案内で闘技場に。
ネプテューヌとシエルはバーチャフォレストに向かった。
ギルドから入った緊急クエストのターゲットは危険種フェンリスヴォルフの討伐。
通常とは異なる様子が見られるということが気になるが二人で奥に進んで行く。
「あれ? フェンリスヴォルフってあんな色だったかなぁ…?」
「いや、おかしい…。あんな色のフェンリスヴォルフは見たことがないよ…」
二人の視界に映ったフェンリスヴォルフの姿は確かに通常とは異なっていた。
蒼の毛皮は銀色に染まっていて、口からは紫色の息が漏れ出している。
その様子を離れた場所から観察しているとフェンリスヴォルフが行動を起こす。
雑魚モンスターが集まっている場所に移動すると何とそのモンスターに襲い掛かった。
「えっ!?」
「なっ…!」
危険種は基本的に危害を加えてくる物にしか襲い掛からない。
それが自ら他のモンスターに襲いかかるという暴挙に出たのである。
モンスターを巨大な爪で拘束すると鋭い牙をむき出しにして獲物に喰らい付いた。
フェンリスヴォルフに喰われたモンスターは蒼い光となって消滅する。
周囲のモンスターを全て喰らい尽くした魔狼の眼は二人の守護女神を捉えた。
「わっ! こっちに走ってきた!」
「一体何が起きてるの…?」
女神化を発動させて空に飛び上がるが、フェンリスヴォルフは
シエルとネプテューヌを見上げた状態でその場を動かない。
(どうやら、我らが降りてくるのを待っているようだな…)
「このまま私達が逃げれば、街まで追いかけてくるでしょうね…」
どうやら目を付けた獲物をどこまでも追いかける習性を持っているようだ。
狂った銀色の魔狼から逃れるにはこの場で討伐する以外に方法は無い。
「それに、似たような物を舞のゲームの記憶で見たことがあるわ。あれと同じようなモンスターなら倒すことができるはずよ。攻撃に注意しながらダメージを与えていきましょう」
ネプテューヌは過去に舞とのハード・リンクで流れてきた記憶を元に判断する。
舞がプレイしていたゲームではウイルスに感染したモンスターが狂ったように暴走する。
その眼に移る全ての生物は例え守護女神であっても捕食対象と見なされてしまうようだ。
戦うことを決意したネプテューヌとシエルは地面に降り立つ。
フェンリスヴォルフは狂ったような鳴き声をあげて襲い掛かって来た。
(身体能力も上がっているというのか…?)
無双していた頃のアリア程ではないがシエルの危険種の討伐数も相当な物。
危険種の攻撃パターンや弱点とする属性についても粗方押さえてはいる。
だが、目の前にいるフェンリスヴォルフは見たことのない動きを見せてくるのだ。
フェンリスヴォルフの攻撃パターンは発達した爪を主軸にした攻撃が主ではあるが
強烈な体当たりをしてきたり、さらに濁った銀色のブレスまで吐いてくる始末。
その猛攻を潜り抜けながらダメージを与えていくがまだ倒れる気配はない。
「きゃあっ!」
(ぐっ…)
遂にその鋭い爪の一撃がネプテューヌとシエルの体を捉える。
攻撃を受けると二人の体に濁った銀色の光が纏わりついた。
(何だ、この光は…! シェアの力を喰らっている…?)
「シエル、このまま攻撃を続行するわ。私の中にある舞の記憶通りなら纏わりついた銀色の光はそれで無力化できるはずよ」
ネプテューヌは魔法の詠唱を開始する。足元には紫色の魔法陣が現れた。
シエルは突撃してきたフェンリスヴォルフを尻尾の一撃で吹き飛ばす。
その隙を見逃さずに龍属性を纏わせた爪の一撃を連続で叩き込む。
シエルがその場から離れると詠唱が完了したネプテューヌの魔法が炸裂する。
「スパークウェブ!」
電気の渦が発生してフェンリスヴォルフの体を飲み込む。
内部に巻き込んだ敵に連続してダメージを与える雷属性の中級魔法。
(銀色の光が消えた…? それにこの湧き上がる力は一体…)
「どうやら成功みたいね」
二人に纏わりついていた銀色の光が消えると蒼と紫の光が二人の体から出ていた。
それはシエルとネプテューヌを象徴するシェアの輝きである。
「このまま一気に決めましょう。この効果もいつまで持つかわからないわ」
(承知した)
シエルは翼を羽ばたかせて飛び上がると足爪の一撃をお見舞いする。
それだけでは終わらない。尻尾から放たれた一筋の蒼い光がその身を貫いた。
(ネプテューヌ、とどめだ!)
「わかったわ! これが私の必殺技パート2よ!」
ネプテューヌがゆっくりと空中に浮かび上がるとその体が光に包まれる。
光の中から現れたのは何と黒と紫のカラーリングの戦闘機だった。
凄まじい速度で空を縦横無尽に飛び回るとミサイルを発射して爆撃を行う。
危険を悟ったのかフェンリスヴォルフは逃げ出そうとするがもう遅い。
放たれたミサイルは全弾命中。凄まじい爆発がフェンリスヴォルフを飲み込む。
「切り札は最後まで取っておくものよ…!」
これがパープルハートの第二のエクセドライブ、ハード・ネプテューヌである。
ミサイルによる集中砲火を受けたフェンリスヴォルフは力なく地面に倒れ伏した。
その体内から濁った銀色のシェアの光が現れると銀色に変化していた体の色は元に戻る。
生命活動を停止したフェンリスヴォルフはそのまま光となって消滅した。
「これがフェンリスヴォルフを狂暴化させていた原因みたいね…」
(舞とアリアのシェアのようだが、この濁りは一体…)
「持ち帰ってセレナといーすんに見てもらいましょう。何かわかるかもしれないわ」
ネプテューヌは紫のクリスタルを取り出すと保存していたシェアを体内に取り込む。
今度は空になったクリスタルを近づけて濁った銀色のシェアを回収する。
目的を達成したので女神化を解除して帰路に着こうと思ったがシエルが足を止める。
「ねぇ、二人に見てもらう前にパープルディスクにこれを見てもらわない?」
「おぉ! それはいい考えだね。確か、この奥にいたよね?」
ゲイムキャラは四女神を救出してからそれぞれが守護する国に戻っている。
シエルとネプテューヌはパープルディスクがいるところに向かう。
「誰かと思ったらあなた達でしたか。お久しぶりです。ネプテューヌ、シエル」
「久しぶり~! 突然だけどこれを見てもらってもいいかな?」
ネプテューヌは濁った銀色のシェアを取り込んだクリスタルを見せる。
それと併せて舞とアリアがファントムハートに連れ去られたことを説明する。
「舞とアリアのシェアみたいなんだけど、いつもより濁ってるんだ…。それを取り込んだフェンリスヴォルフが狂暴化して、他のモンスターに襲い掛かってたから私達で倒したんだけど…」
「そのようなことがあったのですね…。ネプテューヌが見せてくれた濁った銀色のシェアですが、どうやら邪悪な力と混ざり合ったことで別の物に変質してしまっているようです。それがフェンリスヴォルフを狂暴化させたのは間違いありません。過去にも同じ事例がありましたから…」
「それは私がセレナと出会う前の話なのかな?」
「そうなりますね。彼女がまだ金の女神になったばかりの話なのですが、ある場所からゲイムギョウ界中に広がった邪悪な力の影響で危険種モンスターが狂暴化するという事態に陥ったことがありました。それがゲイムギョウ界の中央に位置する山の頂なのです」
「そこって特別な場所だったりするの?」
「はい。そこはギョウカイ墓場からゲイムギョウ界に顕現した犯罪神マジェコンヌを魔剣ゲハバーンを手にした緋色の女神が倒した場所なのです。彼女は最後にその場で魔剣に喰われて消滅しました。その場に残留した彼女のシェアの力と犯罪神の邪悪な力が混ざりあった物がゲイムギョウ界中のモンスターを狂暴化させるという大災厄が発生したのです。そして私達ゲイムキャラの力を以てその場所を魔剣ゲハバーンと共に封印することで何人たりとも立ち入ることができない場所にしましたが、それが再び起きたということは…」
「その封印が破られてるってことになるよね。ということはファントムハートと舞はその場所にいるのか…。どうやってその封印を解いたのかわからないけど、山の頂に乗り込めば舞とアリアを取り戻すことができるね」
「後はネプギア達が立ち上がってくれればいいんだけど…。やっぱりまだ無理だよね…?」
「四人の女神候補生は舞ちゃんと特に強く結びついていたからね。悲しみを乗り越えて再び立ち上がれるかどうかはネプギアちゃん達次第だよ。ネプテューヌだってネプギアちゃんのことを信じてるでしょ?」
「うん! 私の自慢の妹だからね! ギョウカイ墓場から助けてもらった時、本当に強くなったって思ったから! だから私は信じてるよ。ノワール達も同じことを考えてると思う」
「じゃあ、私達はそれまでにできることをしよう。今度こそ誰一人として欠けること無くみんなで帰るためにもね」
「私も微力ながらお手伝いさせていただきます。各国のゲイムキャラにも再度協力を仰いでみてはいかがでしょうか? 事情を話せば協力してもらえると思います」
パープルディスクは紫色の光の玉になってネプテューヌの中に入って行った。
「頼もしい味方が付いてくれたね! いーすんとノワール達に伝えにいこうよ!」
「そうだね。それにパープルディスクが言っていた大災厄が再び起ころうとしているのなら、このプラネテューヌだけじゃなくて他の三国にも影響が出ているかもしれない。教会に戻ったらイストワールに連絡を取ってもらって確認してみよう」
シエルとネプテューヌはバーチャフォレストの最奥部を後にする。
舞とファントムハートがいる場所は古の時代に犯罪神との戦いの舞台となった山の頂。
二人を取り戻すためには六人の守護女神と四人の女神候補生が揃わなければならない。
不穏な空気が漂い始めたゲイムギョウ界ではあるが僅かに希望の灯が見え始める。
銀の女神奪還作戦が本格的に始動するのであった。