舞の命と四つの国を賭けた負けられない戦いが始まった。
六人の守護女神がプラネタワーの屋上から六魔将が待つ戦場に飛び立ち、
四人の女神候補生達は姉達を見送った後、その場に待機することになった。
彼女達の視線はゲイムギョウ界の中央に位置する山の方角に向いている。
かなりの距離があるので今いる場所からはそれを視認することができないが、
強い意志が宿った瞳は闇の中で暗躍を続ける倒さなければならない相手と
助けなければならない大切な人が捕らわれている山の頂を見据えていた。
戦いの前にプラネテューヌの教会に集まって作戦会議をしていた時に遡る。
ファントムハートとアリスが去った後に教会に帰還したネプテューヌ達は
朝まで休息を取ってから教会内の大会議室に集まる。
「ネプギアさん、そのディスクを貸していただけますか?」
イストワールは受け取ったディスクを大会議室の中にある映写装置の中に入れる。
一際大きな画面に映し出されたのはゲイムギョウ界全体の地図だった。
地図の中には六つの星印が記されている。いずれもダンジョンの位置を示しているようだ。
「指定されている場所はレツゴウアイランド、パナンジャングル、忘却の遺跡、サプライ道、トリニティ湿原、ヘルファイア洞窟の六つだね。どれも強力なモンスターが生息しているダンジョンだよ」
この六つのダンジョンには超接触禁忌種の生息が確認されている。
これまでに訪れたダンジョンと比較するとその危険度が非常に高い。
「レツゴウアイランドとパナンジャングル、忘却の遺跡はプラネテューヌの領土内にあるから私達が条件を破った時に真っ先に落とされるのはプラネテューヌだと考えたほうがいいかな」
四国の中で最も技術が進んでいるプラネテューヌは狙われやすいようだ。
実際にトリックとマジックはリーンボックスにて搖動作戦を展開することで
本命であるプラネテューヌを陥落させようと目論んでいたのだから。
「あの子が言ってた条件を破らなければ大丈夫なんだよね? でも、ファントムハートの直属の部下ってだけで怪しい感じがするなぁ」
「あの時のアリスの目は本気だった。嘘はついてないと思うよ。私達六人で復活した六魔将を押さえることができれば国を滅ぼされる危険は無くなる。最初に決めるのは誰がどの場所に向かうかだけど、六つの内、二つは既に決まってるね」
「サプライ道には私が向かうわ。サプライ道はラステイションの首都に近い場所にあるから」
「トリニティ湿原もリーンボックスの首都に近い場所ですわ。自国の領土内にある以上は私とノワールで対応に当たらせていただきます」
「妥当な考えね…。幸いにもルウィーの領土内には敵に指定されている場所が無いから私はどこでもいい…。最後に残った場所に向かわせてもらう…」
「私は離島にあるヘルファイア洞窟に向かうよ。後はセレナとネプテューヌとブランで残りの三か所を決めればいいと思うな」
「ネプテューヌからどうぞ。私もブランと同じで残った場所のどちらかに向かうから」
「ありがとー! じゃあ、私はレツゴウアイランドに行ってもいいかな? 結構好きな場所なんだよね」
「わかった。後は私とブランだね? どうしようか?」
「セレナが先に決めてちょうだい…」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね? 私は忘却の遺跡に向かうよ」
「ということは私がパナンジャングルね…。誰がどの場所に待ち構えているのかまではわからないのよね…? セレナは六魔将のことをどこまで知っているの…?」
「一応全員と戦ったことはあるけど、私が過去に戦った時と同じとは限らない。ファントムハートのように復活したことで新しい力を身に着けている可能性も否定できない。でも、私達もみんなで頑張って新しい力を身につけたから六魔将とも十分に渡り合うことができるはずだよ」
ここで六魔将にはどのような人物がいるのかを整理することに。
六魔将はリリム、ヒナ、エリカ、フェリア、アリス、ラグナの六人。
彼女達は女神の力を受け入れることのできる適合者でもあった。
ファントムハートが行っていた女神の力を人間に転写する実験において
醜い怪物にならなかったのは六魔将だけなので実験の成功体と言える存在。
アリアとセレナ、当時の守護女神達も実際に戦った際は苦戦を強いられている。
セレナは当時の記憶から情報を引き出してネプテューヌ達に説明するが、
ファントムハートのように新たな能力を習得していると対応が難しいのが現状。
それでも、舞を取り戻すためには立ち向かわなければならない。
新たな能力を習得していたとしても落ち着いて対応すれば勝機は見えてくるはずだ。
これから戦う六魔将については一旦ここで切り上げて次の話に進むことに。
「次はネプギアちゃん達だね。舞を助け出すための絶対条件として魔剣ゲハバーンを破壊する必要がある。魔剣ゲハバーンで体を貫かれたら最後、命は無い。私の姉さんもあの禍々しい刃に貫かれて消滅したからね…」
「ゲハバーンを破壊すれば舞さんを元に戻すことができる…ということですか?」
「少なくとも誰かが死ぬという危険は消える。ゲハバーンを破壊した後はひたすら耐えてほしい。ネプギアちゃん達が表で頑張ってくれている間にアリアがきっと裏側から何とかしてくれる」
「アリアはまだ生きてるの? アイツは消滅したって言ってたけど…」
「今だから言えることだけど、実は私とセレナの二人で共有してた秘密がある。それはアリアとのハード・リンクはまだ切れていないこと。アリアが今どんな状態にあるのかはわからないけど、アリアも私達と同じように舞ちゃんを助けるために戦ってると思う」
「極めて困難な条件だけど、それをクリアできれば私達に勝機が訪れる。これまで舞と一緒に培ってきた自分の力を信じて。ネプギアちゃん達の思いは必ず舞に届くから」
「あの人、舞お姉ちゃんの記憶を消したって言ってた…。舞お姉ちゃんの記憶を元に戻すことはできるの…?」
「舞の記憶を取り戻すにはファントムハートに断たれたハード・リンクの繋がりを取り戻す必要があるね。舞の中で生きてるアリアも記憶を持ってるけど、奪われた記憶を完全に元に戻すには舞と強く繋がっていたネプギアちゃん達とのハード・リンクも取り戻さないといけないよ。それは舞とアリアを助け出してからでも大丈夫だと思う」
「それならよかったわ! 助け出してもわたし達のことを忘れたままだと嫌だもん! わたし達の力で絶対に思い出させてあげるんだから!」
「舞さんとアリアさんを助け出して一緒にプラネテューヌに帰ってきます!」
「今度は誰一人として欠けることなくね!」
「離れていてもみんな一緒…。わたし達みんなの力で舞お姉ちゃんとアリアさんを助ける…!」
絶望に満ちていた女神達の心にも希望の光が差し込んできた。
十人の守護女神達の心は一つ。全てはこの夜を越えて明日を迎えるために。
そして時間はネプテューヌ達が戦場に飛び立った時まで戻る。
最初に指定された戦場に到着したのはネプテューヌ。
レツゴウアイランドはプラネテューヌの南東の海にある人工の島。
島の形が大文字のNの形になっているのが一番の特徴と言える場所である。
モンスターの住処となっているのだが、何故かモンスターは一匹もいない。
新たに出現する気配も全く無い。不気味な静けさが空間を支配していた。
「誰だろう…?」
ネプテューヌの視界に映ったのは一人の少女。
紅色の髪と瞳を持ち、闇を連想させる漆黒のドレスを纏っている。
鮮やかな紅色の瞳には薄らと女神の印が浮かび上がっていた。
「あら? あなたが私の相手かしら?」
声をかけてきた少女には明らかに人と違う点がいくつか見受けられる。
頭から生えている歪に曲がった黒い双角と背から生えている一対の黒き翼。
翼の先には黒い鉤爪がついていて禍々しい雰囲気を漂わせていた。
「これが気になるって表情をしているわね?」
「うん…。あなたは人間なんだよね? セレナから聞いた話なんだけど、六魔将は女神の力を転写されても怪物にならなかった人達だって…。それなのにどうして角や翼が生えてるの?」
「こんな姿をしているけど私は人間。角と翼が生えている理由は私の先祖の中に悪魔と交わった人間がいて、私はその血を特に強く受け継いでるからよ。 主様が私の家系を調べてくれて発覚したことなの。周りから拒絶されて住んでる場所からも追い出された私を主様は受け入れてくれたわ」
自分達と違っている者を恐れ、拒絶しようとするのは人間の性と言ってもよいかもしれない。
「私は主様に忠誠を誓ったわ。世界を主様のような人が統一すれば、私みたいに覆すことができない特別な事情を持ってる人達も拒絶されることはなくなる。本当に苦しい思いをしている人に目を向けようとしない守護女神なんていらないのよ。あなたはどう? 私のような人が目の前に現れたとしたら、受け入れてくれるのかしら?」
ネプテューヌは頭の中で投げかけられた質問の答えを考える。
守護女神として、また一人の少女として自分は何を伝えることができるのか。
「流石の私でもあなたみたいな人が目の前に現れたら驚いちゃうかなー。でも、拒絶する理由にはならないよ? 周りと違うからって、友達になれないってことはないと思うから。友達を傷つけようとする悪い人がいるなら、私がみんなやっつけて守ってあげる! 綺麗事かもしれないけど、私はやるって決めたら何が何でもやり通してみせるんだから! 主人公に不可能はないっ!」
「ふふっ。あなたは面白い考え方を持っているようね。世界があなたみたいに優しい人ばかりなら私のような存在でも救いがあったかもしれないわね。残念なことに世界はあなたのように優しい物ではないのが現実よ。そういえば、名前を聞いていなかったわね? 教えてくれるかしら?」
「ネプテューヌだよ。そしてこの姿になった時はっと…!」
ネプテューヌは女神化を行使する。
さらに輝きを増した紫のシェアの輝きがその身を包み込む。
新たな能力である紫電を纏って彼女は自らの守護する大地に降臨した。
「革新する紫の大地が守護女神、パープルハートよ」
「女神化すると随分と印象が変わるのね? 本当に面白い子…。私の名はリリム。魔神の烙印にして我が主、ファントムハート様を守護する六魔将の一人よ。互いに自己紹介を終えたところでこの祭りを始めるための合図を上げさせてもらうわね」
リリムは右手を上げると手の中に赤い光を集めて光の玉を作り出す。
それを空に向けて放つと光の玉は空中で破裂して美しい赤光を散らした。
同様に離れた場所からも色は違うが同じ光の玉が空へと上がっていた。
ある程度の高さまで上がると破裂して儚く散るそれは花火のようにも見える。
「どうやら私達が話している間にネプテューヌの仲間達もそれぞれの舞台に辿り着いたみたいね。後は主役の女神候補生に大舞台へと上がってもらうだけ…」
同時刻、プラネタワーの屋上で待機していたネプギア達の前にアリスが現れた。
「大変お待たせしました。これより四人の女神候補生の皆様を舞様とファントムハート様が待つ山の頂へご案内させていただきます」
アリスは黒い魔術書を取り出して魔法を発動する。
ネプギア達の足元に巨大な銀色の魔法陣が展開された。
「ただの転送魔法ですから警戒する必要はありませんよ。その場から動かないでください」
銀色の光がネプギア達を包み込み、数秒後に祭の大舞台である山の頂に到着した。
星達が輝く夜空は黒い瘴気に覆われていて、まるで闇の中にいるかの如くである。
ネプギア達の視界に映ったのは黒い大きな繭と舞を連れ去った女神の亡霊。
「ファントムハート様、女神候補生の皆様をお連れしました」
「お疲れ様ー。アリス、君も自分の舞台に早く戻って。女神候補生達の送迎を頼んでおいてなんだけど、あまり待たせると君の師匠に怒られちゃうよ?」
「了解しました。後のことはファントムハート様にお任せします」
アリスは再び転移魔法を使って山の頂を後にした。
「ようこそ。女神候補生の皆さん。君達がこの大舞台に上がったことで全ての準備が整ったよ。楽しいカーニバルの始まりだ。今夜は盛大に楽しませてもらうよ?」
「ふざけないでください。あなたの野望は私達の手で砕いてみせます」
「その決意が繭から誕生した舞を相手にどこまで持つかな? 時間も惜しいから早速会わせてあげるよ。君達の大切な人に」
ファントムハートが指を鳴らすと黒い繭が光となって消滅していく。
繭が消滅したその場には黒い瘴気が立ち上っていて舞の姿が見えない。
「さあ、目覚めの時だっ!」
その言葉と同時に黒い瘴気が消えて一人の少女がネプギア達の前に姿を現した。
黒から銀に染まった髪は風に靡いていて、髪とプロセッサユニットからは彼女の
シェアの力とこの場に残った犯罪神の力が融合した濁った銀色の光が漏れ出している。
銀色の瞳には女神の印が顕現しており、右目を覆うように銀の炎が燃え盛る。
自分達を導いてくれた彼女が持っていた優しい雰囲気はもう残されていない。
怒りに満ちた鋭い視線をネプギア達に向けていた。
「おはよう。気分はどうかな?」
「最悪だよ…。悪い夢から目覚めて最初に映ったのが夢の中で私を殺そうとした人達とはね…」
「夢の中で何度倒したところで意味は無い。今度は現実世界で君を殺そうとする奴らを倒さないと、君はまた闇の中に逆戻りさ。それは嫌でしょ?」
「当たり前のことを聞かないで。四対一でも私は負けるつもりはない…。夢の中だけでは飽き足らず、現実の世界でも私を殺そうとするなんて…。私が何をしたって言うの? あなた達の事なんか知らないし、恨みを買うようなことをした記憶も無いのに…」
「本当に理不尽な話だよね? でも今の君にはそれを覆す最強の力がある。君に逆らうことがどれほど愚かな行為なのかを現実世界でもわからせてあげるといい」
「わかった…。理由はわからないけど不思議と体の底から力が湧き上がってきたよ…。正直、誰にも負ける気がしない。私の邪魔をするならこの剣で斬り裂いてやる」
舞の右手に握られているのは禍々しい紫光を帯びた一振りの長剣。
ゲイムギョウ界の歴史の中で数多の守護女神を喰らってきた邪悪なる凶刃。
その剣の名は魔剣ゲハバーン。その刃は今も女神の命を求めているのだ。
「あれが、魔剣ゲハバーン…!」
本物の魔剣を目にしたネプギア達に緊張が走る。
多少掠る程度なら問題は無いかもしれないが貫かれたらそれで終わりとなる。
舞を助け出すためにはその猛攻を凌いでゲハバーンを破壊しなければならないのだ。
「あなた達には夢の中で散々酷い目に合わされたからね。その借りは返させてもらうから」
「舞さん、私達の力であなたを悪い夢から救ってみせます! 私達は負けません! みんなで一緒にプラネテューヌに帰るんです!」
「意味の分からないことを言わないで。私を混乱させようとしても無駄だよ」
「本当にアタシ達のことを忘れているのね…。なら、アタシ達の力でアンタの目を覚まさせてやるわ! 何が何でも連れて帰ってやるッ!」
「さっきも言ったけど、あなた達のことなんて知らない。私の何を知ってるのかはわからないけど、馴れ馴れしい口を聞かないで…」
「例え舞お姉ちゃんが相手でもわたし達は負けない…。わたし達は一人じゃないから…! わたし達の背中はお姉ちゃん達が支えてくれてるもん…!」
「そういうこと! わたし達は舞を連れて帰るためにここまで来たんだから! あんたにやられるって選択肢は始めからないわ!」
女神化を行使したネプギア達は武器を構えて舞と向き合う。
ネプギアは銀と金の長剣、ユニは銀の銃、ロムは月の杖、ラムは太陽の杖。
「どうやらこれ以上の対話は無駄みたいだよ? 戦うなら早く始めようじゃないか」
「そうだね。意味のわからないことばかり言って…。聞いてるだけで頭が痛くなってくる。やられるのはあなた達の方だよ。私の邪魔をするなら容赦はしないっ!」
「望むところです! 私達は負けませんっ!」
繭から解き放たれた銀陽の女神と四人の女神候補生の死闘が始まった。
同時に各地で六魔将と対峙している守護女神達も各々の戦いを始める。
長い夜を越え、舞とアリアを助け出して明日を迎えることはできるのだろうか。
(遂に始まったか…! 私も頑張らないといけないよねっ…!)
ひとかけらの光すら見えない闇の中に一人の少女がいた。
彼女の行く手を遮るように闇から生まれ出た異形が前に立ちはだかる。
(どいてっ!)
体を維持しながら銀の太刀を振るい、邪魔をする異形を蹴散らして進む。
舞への供物とされ、消滅したと思われていた彼女はかろうじて生き延びていたのだ。
本来なら銀の炎を纏わせて無双するところではあるがそんな余力は残されていない。
(ネプギアちゃん達が表から攻めるなら、私は裏から行くよ…! 舞、必ずあなたを助け出してみせるから!)
銀陽の女神は親友を助けるために昏い闇の中を駆け抜けていく。
体は今にも消えかかっていて、いわば残り滓のような状態だが進撃は止まらない。
絶対に諦めない。舞と同じ銀色の瞳には誰よりも強い意志の力が宿っていた。