Game91:業火の女神と機械姫
女神の亡霊ファントムハートの手によって黒き繭から解き放たれた舞。
魔剣ゲハバーンをその手の中に携えた舞とネプギア達の死闘が始まった。
各地で待ち受ける六魔将と対峙したネプテューヌ達も目の前の強敵に立ち向かう。
サプライ道に辿り着いたノワールの前に現れたのは黒い髪に紫の瞳を持った少女。
「黒の女神…。ここに来ると思ってた…」
「私の国を落とされるわけにはいかないからね。あなた達の好きにはさせないわ。戦う前に一つ聞かせてもらってもいいかしら?」
「なに…? 答えられることなら答えてあげる…」
「どうしてあなたの体から機械音が聞こえるのかしら?」
目の前にいる少女は一見した限りでは普通の少女と変わりが無いように見える。
だがノワールは彼女の体内から聞こえる無機質な機械音を聞き逃さなかった。
「私の体の七割は機械でできている…。生きるためにはこうするしか方法が無かった…。いつも通りだと思っていたある日、私の体は壊れた…。それを救ってくれたのがファントムハート様…。だから私はあの人に忠誠を誓った…」
当時の緋色の女神と出会う前の彼女は機械が好きな一人の少女だった。
あらゆる機械の知識を身に着けて、国や人の役に立つ物を発明したい。
それが彼女が抱いていた夢だったのだが、その夢はある日突然壊される。
彼女は自分が住んでいた国にある機械の知識を専門的に学ぶ学校に通っていた。
成績は非常に良好で、国の未来を担う発明家になることが期待されていた。
しかし、夢に向かって真っ直ぐに進んでいた彼女にある悲劇が襲い掛かる。
両親と一緒に参加した工場見学の最中に大規模な爆発事故が起きた。
爆発に巻き込まれた彼女の四肢は無残にも焼け爛れて動かすことすらできない。
さらに工場内に充満した有毒ガスが内臓器官を蝕み、命の灯火は消えかかっていた。
彼女は無事に救出されたが、もはや生きていること自体が奇跡と言ってもいい状態。
幸いにもこの国は医療技術が非常に発達していたということもあり、
損傷した肉体を機械で補うことでその機能を復活させるという治療方法があった。
その治療法を使った結果、彼女は一命を取り止めたのだが失った物が大きすぎた。
彼女を支えてくれていた両親は件の爆発事故によって帰らぬ人となってしまった。
さらに手を動かすなどの簡単な動作をするだけで無機質な機械音がする。
機械化の影響で表情は固定され、笑うことも泣くこともできない状態に。
周囲の人間達は彼女を拒絶し、仲がよかった友達にも拒絶される始末。
助けてくれる人など誰もいない。彼女の現実は破壊されてしまったのである。
国を出て一人彷徨っていた彼女がたどり着いたのが緋色の大地。
多くの人が行きかう街道を歩いている自分に突然声をかけてきた一人の少女。
その人物こそ緋色の大地が守護女神、スカーレットハートだった。
「君は変わった体を持っているね? 当てが無いのなら私の所に来るといいよ」
彼女に手を引かれてやってきたのは教会という建物だった。
最上階にある部屋に案内された彼女は自分の体が機械化した経緯を話す。
「なるほどね…。それにしても酷い話だ。大切な物を全て失った君はこれほどまでに苦しんでいるというのに…。その国の女神は君を助けなかったんだね?」
教会に助けを求めるという方法は既に試みていた。
女神は留守にしているとの一点張りで門番に追い返される毎日。
結局女神には一度も会うことができずに国を出ることになったのだ。
「女神って何の為に存在してるの…? 私は助けを求めてあの場所に行ったのに会わせてもらえないなんてどう考えてもおかしい…」
「女神の存在意義はこの世界を守護することさ。自分達を守ってくれる存在だと捉えている人が多いけど、それは違う。自分が守護する大地に国を創って、国を発展させるという大義名分を振りかざして、君のように苦しんでいる人達がいる現実から目を逸らしているだけなのさ。私はそんな面白くない奴等とは違うけどね。君が望むのなら私は君の力になるよ。君はこれからどうしたい? 何が欲しいのかを言ってごらん?」
問いかけてくる緋色の女神の瞳は全てを見通しているかのようだった。
「今さら何を望めばいいの…? 自分が何をしたいのかもわからないし、あなたに何かをもらったところで私に何ができるのかもわからないのに…」
「なら、君に力をあげるよ。君なら女神の力を受け入れることができそうだ」
緋色の女神は教会の地下に隠していた装置で彼女に自身の女神の力を転写した。
女神の力に適合した彼女は自身の内から沸き起こる力を感じ取る。
「これが、守護女神の力…?」
「そうさ。君の邪魔をするバカ共はその力で懲らしめてやるといい」
「女神はこれだけ強い力を持ってるのに、私のことを助けてくれなかったんだね…。決めた、私はあなたに全てを捧げるよ…。役に立てるかどうかはわからないけど…」
「それはとても嬉しい話だけど、君はそれでいいのかい?」
「うん…。もう考えるのが馬鹿らしくなってきたから…。私を受け入れてくれたあなたに尽くす…。それが私のやりたいこと…」
「なら私は君を歓迎させてもらうよ。そう言えば君の名前を聞いていなかったね? 教えてくれるかな?」
「ヒナ…」
「いい名前だね? ヒナ、君には私の直属の部下になってほしい。実は君と同じように女神の救済を受けることができずに国を追われた子達が何人かいてね。あの子達にも君と同じように女神の力を転写してある。君を入れて六人いる私直属の精鋭部隊。部隊の名前はまだ決めてないけどね」
そして彼女は後に六魔将と呼称される部隊の一員となり、緋色の女神に忠誠を誓う。
緋色の女神の能力によって作り出された偽りの忠誠心ではないヒナの本心であった。
機械化した自らの肉体に銃火器などの兵器を仕込み、刃向う愚者を駆逐する機械姫。
これが機械の体を持つ六魔将の一人、ヒナが誕生するまでの物語である。
「ファントムハート様の敵は私の敵…。国を発展させることばかり考えて、現実から目を逸らしている守護女神も同じ…。黒の女神、あなたはどう…? あなたの統治の裏で苦しんでいる人たちがいるという現実から目を逸らしてはいない…?」
「仮に私があなたの国の守護女神だったとしても、当時のあなたを絶対に助けられたとは断言できないわ。守護女神になって長い時を生きてきたけど、救えなかった人は数えきれないほどいる。このラステイションも色々な問題を抱えていて、中には人々の生活を脅かしている物もあるのも事実よ」
ノワールが守護する黒の大地ラステイションは重工業が盛んな国ではあるが
一部の地域では工場から排出されるガスによる大気汚染や有害物質を含んだ
排水による水質汚染などの問題も報告されており、それらが原因で重い病気を患って
苦しんでいる人達がいるのもラステイションが抱えている大きな問題である。
だがノワールはそれらの問題に毎日立ち向かっている。
それでも国が抱える様々な問題を何の犠牲を出すことなく解決することは
いかに優れた指導者であっても不可能であると言ってもいい。
「守護女神になってラステイションを治めるようになったばかりの私は一人で何でもできるって思い込んでいたわ。その慢心が原因で取り返しのつかない失敗をしたこともある。国が抱えている問題や私の統治の裏で苦しんでいる人達がいる問題を解決することは自分と国民のみんなの力が一つになって初めてできるようになる。私はそれに気づくのが遅すぎたのよ。長い時の中で後悔も数えきれないほどしてきた」
「あなたも当時の守護女神と同じね…。時代が変わっても守護女神の本質は何一つ変わっていない…。守護女神なんて何人いても無駄な存在…。統治者は一人だけでいい…。私を救ってくれたファントムハート様だけで…」
「人のことをオモチャとしか見ていないあいつに私の大切な友達とこのゲイムギョウ界をこれ以上好きにさせるわけにはいかないわ。あなたは私が倒す。あなたの主の野望もこの夜を以って終わりにさせてあげる」
「させない…。ファントムハート様の邪魔をする敵は私が駆逐する…」
ヒナの体が紫色の光に包まれ、その光が晴れると真の姿を現した。
年頃の少女の肉体として残っているのは首から上の部分と心臓がある胸のみ。
それ以外の体の部位は全て無機質な機械でできた物に変貌している。
「それがあなたの本当の姿なのね? なら私もそれに応えるわ! アクセスッ!」
主に仇なす物を駆逐するために真の姿を現したヒナに応えられる手段は唯一つ。
シェアの輝きと新たな能力である業火を纏い、彼女は大地に降り立った。
「重厚なる黒の大地が守護女神、ブラックハート…! 親友を取り戻すため、ゲイムギョウ界を守るためにあなたを倒すわ!」
「六魔将ヒナ…。ファントムハート様の命により、黒の女神を駆逐する…!」
お互いに決意の言葉を示したところで黒の女神と機械姫の戦いが始まった。
最初に動いたのはノワール。自身の武器である大剣に炎を纏わせて斬りかかる。
「障壁展開…」
ヒナの右腕に仕込まれた結晶が光を放つと非常に強固な障壁を形成する。
「固いっ…!」
三年前に自分達が対峙した赤き死神の障壁の強度をも凌駕していた。
「隙だらけ…」
ヒナの左手の指先に光が集まると紫色のレーザーが発射される。
危険を察知したノワールは即座に後退して距離を取ることで直撃を回避した。
「これはどう…?」
今度は本体から切り離されたヒナの両手がノワールを執拗に追い回す。
切り離した箇所に光の刃を作り出すとノワールに接近して追撃をかける。
「くっ…」
放たれるレーザーに加えて追撃として襲い掛かるヒナの剣舞に苦戦を強いられる。
レーザーは業火の能力で形成した障壁で防ぐが、破られるのも時間の問題だ。
だが、ノワールも押されてばかりでは終わらない。
ヒナの猛攻の合間に生じる僅かな隙を見逃さずに反撃の剣舞をお見舞いする。
「インパルスエッジ!」
トリコロールオーダーによる三連撃の後に
力を込めて剣を振ることで発生させた衝撃波で追撃する剣技。
業火の力によってノワールの剣技は全て強烈な炎を纏うようになっている。
「無駄…。その程度の攻撃では私の障壁は破れない…」
強固な障壁を形成しているのは体に埋め込まれたシェアクリスタル。
ヒナが抱いていた純粋な信仰心をファントムハートが結晶にした物。
それはヒナの機械の体を動かす為の動力源でもあるのだ。
「なら、もっと強力な一撃を撃ちこむまでよ」
「見せてもらうわ…」
ノワールは両手で大剣をしっかりと握るとヒナに向かって駆け出した。
近づかせまいとヒナは体に仕込んだ銃火器を乱射して弾幕を張る。
業火の出力を上げて弾幕を強引に突破するとさらに強力な一撃をお見舞いする。
「ガンブレイズ!」
炎を纏わせた大剣に力を込めて上方向に斬り上げる技。
元々火属性が付加されている剣技だが、威力は業火の力で倍以上になっている。
ノワールの技の中でも威力重視のパワー系統の剣技だが、これでもまだ破れない。
この結果はノワールも予測していたことなのでここからさらに繋げていく。
「バニシングバスター!」
自身のシェアの力を火の魔力に変換して業火の力に上乗せする形で放つ魔法剣。
敵の防御を崩すことに特化したブレイク系統の剣技である。
「この力は…!」
「はああああっ!」
ノワールの炎の連撃に障壁がガラスが割れるような音を立てて砕け散った。
その隙を見逃さずにヒナの体に高速の斬撃を叩きこみダメージを与える。
ダメージは確かに入ったがヒナは表情一つ変えない上に声も発していない。
「いい一撃だった…。でもそれは私にとって痛みとは成り得ない…」
「痛覚を消去するなんて正気の沙汰じゃないわね。それはあなたが望んだことなの?」
「私は身も心も捧げるって決めたから…。私の全てはファントムハート様のモノ…」
それは人の体を弄ぶことに特化したファントムハートの能力による物。
ヒナはいかなる致命傷を負っても泣き叫ぶことはない。
体が消滅するか戦いの意志を放棄しない限りヒナが戦いを止めることはない。
「やられたからには反撃させてもらう…」
ヒナの指先から射出されたのは非常に高い強度を持つ鋼糸。
熱に強い特殊な素材で作られた鋼糸がノワールの体に巻きつき拘束する。
「なにこれっ…! 解けない…っ!」
「すぐに楽にしてあげる…」
ヒナは体から電撃を放出する。
放たれた電撃が鋼糸を伝いノワールの体内を駆け巡った。
「あああああっ!」
「いい悲鳴…。私の新しい能力の実験台にしてあげる…」
ヒナは地面に倒れ伏したノワールから何とシェアエナジーを搾取し始めた。
これが復活することによって新たに獲得した女神を殺すためだけの力である。
シェアエナジーを吸収したことによってノワールが破壊した障壁も復活した。
「うあっ…!」
女神化が強制的に解除されてしまい、攻勢が完全に逆転してしまった。
「もう終わりだね…?」
「まだよ…。私は諦めない…! 妹達や他の皆が頑張っているのに私一人がリタイアするわけには行かないわ…!」
「じゃあ、その状態で何ができるの…?」
「何でもできるわ。私の親友が言ってたの。この体が消えて無くならない限りは抗うことをやめないってね。諦めるわけにはいかないのよっ…!」
鋼糸に拘束された状態で立ち上がるとそれを力づくで引きちぎろうとする。
ノワールの肌に鋼糸が食い込み、そこからは鮮血が滲みだしていた。
「…?」
高電圧の電撃を受けてシェアエナジーを搾取したにも拘わらず
女神化時とほぼ変わらない力を発揮するノワールにヒナは疑問を感じていた。
「はああああっ!」
体を駆け巡る激痛に耐えて声を張り上げる。
それに呼応する形で体を拘束していた鋼糸が鈍い音を立てて引きちぎれた。
「はあっ…! はあっ…!」
「鋼糸の拘束を力ずくで解くとは思わなかったわ…」
「言ったでしょ? 絶対に諦めないって…!」
ノワールが持っていたアンチクリスタルを上書きした黒の結晶が現れる。
力強い黒の光を放つそれがノワールの体内に入り込むと新たな変化が起きた。
突如発生した炎の柱がノワールを包み込む。あまりの高熱に景色が歪んで見える。
(これが業火の最終段階…。今の私に扱えるかはわからないけど…!)
「気温の異常な上昇を確認…。まだ進化するというの…?」
何かが破裂するような音が響くと同時に強烈な熱波がヒナに襲い掛かった。
即座に障壁を展開して防ぐが、放たれた熱波はそれをいとも簡単に破る。
「…!」
炎の柱の中から現れたのは女神化したノワール。
髪と瞳は燃え盛る炎を連想させるかのような赤色に染まっていた。
さらにその身を守護するプロセッサユニットは何と本物の炎を纏っている。
これが業火の最終段階。逆らう者はその炎に身を曝すことになる。
「それがあなたの最大の力…?」
「まだ完全にコントロールできていないけどね。でもあなたを倒すには十分よ」
「言ってくれるわね…! なら、その力を私に示してみるといいわ…」
「望むところよっ! さあ、続きといきましょう!」
業火の女神と甦った機械姫は再びぶつかり合い火花を散らす。
世界と少女の命を賭けた長い夜の戦いはまだ始まったばかりなのだ。