業火を最終段階にシフトさせたノワールと機械の身体を持つ六魔将ヒナの決闘。
新たな姿を獲得した業火の女神と機械姫の決着の時が近づいていた。
「確かに業火の力は強力ね…。でも、あなた自身がその能力を制御できていない…」
「返す言葉もないわ。でも、今の私があなたに勝つためにはこれしかないのよ」
今の自分の実力だと維持できる時間は通常の女神化の半分以下である。
親友がゲームの世界で討伐したという紅蓮の世界を創造せし炎帝の力。
万物を灰塵に帰す業火の力は女神と言えどもその手に余るほどの力なのだ。
「このまま一気に決めさせてもらうわ」
「あまり調子に乗らないで…。簡単にやらせはしない…」
ヒナの機械の身体にある砲門が全て開き、膨大なエネルギーが蓄積され始める。
対するノワールは大剣を横に構え、ありったけのシェアと業火の力を込めた。
次に来る全力の攻撃は回避などできない、真正面から打ち破るしかないと判断する。
「これがあなたに破れる…?」
「それがどんなに大きな壁であっても、越えてみせるわ」
「黒の女神と大地の力、見せてもらう…」
ヒナは自らの肉体に蓄積された膨大なエネルギーを解き放つ。
それは小さな都市程度ならば一瞬にして廃墟に変えてしまう凶悪な一撃。
紫色の極太レーザーがノワールを消滅させようと一直線に向かっていく。
対するノワールは業火による障壁を何重にも展開して真正面から突撃する。
レーザーと激突した瞬間、重く凄まじい痛みがノワールの身体を駆け巡った。
「はあああああっ!」
これを打ち破ることができなければ自分もラステイションも終わる。
声を張り上げ、今の自分に出せる全力を乗せた大剣でレーザーを切り裂く。
「なっ…!」
「遠慮はしない! これで決めてあげるわ!」
ノワールが繰り出すのは親友との鍛錬の際に教えてもらったある剣士の秘奥義。
大剣をヒナの身体に叩きつけて、空中に打ち上げるとさらに追撃をかける。
落下するタイミングに合わせ炎を纏わせた蹴り技を叩き込み、吹き飛ばした。
翼のプロセッサユニットの出力を最大まで上げてヒナとの距離を詰める。
最後に大剣を振りぬいて一閃すると、炎を纏った無数の剣閃がヒナの身体を捉えた。
「斬空刃無塵衝!」
無数の炎の剣閃に打ち上げられたヒナの身体は勢いよく地面に叩きつけられる。
同時に業火と女神化が解除され、剣を支えにして何とか立っている状態。
「これで、どうかしら…?」
「これで私はまたガラクタになっちゃった…」
ノワールの攻撃で破損したのかヒナの機械の身体からは黒煙が吹き上がっていた。
「この勝負は私の勝ちね」
「私が負けたのはこれで二度目…。当時の私は銀の女神に倒されたから…」
六魔将は当時最強の力を振っていたアリアにヒナを含めた三人が倒されている。
アリスはセレナが、残りの二人はセレナと共に当時のゲイムギョウ界を
守護していた二人の守護女神が自身の国を賭けた激しい戦いの後に倒した。
「私はどうして負けたの…?」
「あなたは一人で戦っていたからよ。あなたは一人で何でも背負い込もうとしていた昔の私によく似ているもの」
「一人で戦っていたから…? あなたは一人じゃないって言うの…?」
「ぼっちってバカにされることはあったけどね。あの子のおかげでバラバラだった私達の思いは今一つに纏まっている。離れてはいるけど心は繋がっているとでも言えばいいのかしら?」
「それがあなたや銀の女神の本当の強さだと言うの…?」
「そういうことよ。私達守護女神は人々の信仰心が集まって初めて本当に強い力を振るうことができる。あなたの主が破れた理由…。これは私の想像に過ぎないけど、あなたの主が得ていたのが能力によって作り出された偽りの信仰心だったからだと思うわ」
六魔将は女神の救済を受けることができなかった悲しき六人の少女達。
彼女達が緋色の女神に抱いていたのは本物の忠誠心だったが国民は違っていた。
緋色の女神を心から信仰していた者達も中にはいたのだが、
彼女の洗脳能力によって強制的に信仰させられていた者達がほとんどだった。
偽りの信仰心で得た力の本質は本来の女神の力と大きく異なっている。
それが残った三国の民の心からの信仰心をその身に受けていたセレナ達との違い。
「ファントムハート様に忠誠を誓った私達は間違っていたの…?」
「どの女神を信仰するのかは個人の自由よ。そこに正しいも間違いもないわ。昔は信仰の違いによる差別の問題も確かにあったけど、あなた達が緋色の女神に忠誠を誓ったことは間違いじゃないと私は思う。でも、これだけは言えるわ」
自分の率直な意見をヒナに伝えると、続けて言葉を紡ぐ。
「緋色の女神、今のファントムハートは守護女神として根本的に間違っている。他人の大切な物を奪って、自分の能力で人の体と心を弄ぶ…。それは絶対に許されることじゃない。彼女が元々そんな人格だったのかは知らないけど、これだけは確かに言えることよ」
ヒナはノワールの言葉を黙って聞いていた。
自らの主を愚弄された物だが不思議と反論する気が起きなかった。
「もう時間みたい…」
戦いに敗れたことでヒナの体は半透明になって今にも消えそうになっていた。
ノワールは剣を支えに何とか近づいて彼女の体を優しく抱きしめる。
「黒の女神、最後に一つだけ約束してくれる…?」
「何かしら?」
「私のように大切な物を失った人達に救いの手を差し伸べてあげて…。今のゲイムギョウ界がどうなっているのかは知らないけど、あなた達の統治の裏で苦しんでいる人達は必ずいるはずよ…」
「約束するわ。そんな人達が安心して暮らせるゲイムギョウ界をみんなと一緒に作ってみせる」
「その言葉、信じる…。ほんの短い間だったけど、あなたと戦って言葉を交わすことができてよかったと思えた…。あなたのような人が私の国の守護女神だったら私の運命も変わってたかもしれないなぁ…」
その言葉を最後にヒナはノワールの腕の中で目を閉じると光となって消滅した。
消える直前、彼女の瞳から一筋の涙が流れていたのは奇跡なのかもしれない。
機械姫の願いを受け取ったノワールの手の中には一振りの剣があった。
「涙、流せるじゃない…。あなたの願い、確かに受け取ったわ」
ノワールはヒナの願いを心に刻み込むと腰を下ろして心を落ち着かせる。
業火が最終段階にシフトしていなければヒナに勝利することはできなかった。
ノワールの綺麗な肌には拘束を力づくで解いた時の痛々しい傷が残り、
さらに完全に制御できていなかった業火の力が火傷を負わせていた。
「私もまだまだよね…。他の皆は大丈夫かしら?」
各地で他の六魔将と戦っているネプテューヌ達。
山の頂で繭から解き放たれた舞と戦っているネプギア達。
誰一人欠けることなく全員が勝利することが明日を迎えるための条件。
「そういえば…」
皆の勝利を願うノワールの胸の中に一つの疑問が浮かんでいた。
ヒナの問いに答えた時に自分が口にした言葉の一部分を思い返してみる。
緋色の女神スカーレットハート、今は女神の亡霊ファントムハートだが、
本当に元からあのような破綻した人格だったのかということである。
守護女神となった彼女の人格を変えるほどの何かが過去にあったとしたら?
本質とも言える人を弄ぶことに特化した能力の起源も謎に包まれている。
仮に何か原因があったとしても今の彼女は絶対にここで倒さなければならない。
女神の亡霊となった彼女を倒せるのは銀の女神として覚醒した親友のみ。
ノワールは親友が妹達と共に無事に帰ってきてくれることを祈っていた。
そして時は少し遡り、次なる戦いの舞台はパナンジャングルに移る。
ブランは内部に立ち込めている深い霧の中を特殊女神化状態で進んでいた。
視覚を中心とした感覚を研ぎ澄まして周辺を警戒しながら歩を進める。
「初めて来る場所だけど、普段から深い霧が立ち込めてるのか…?」
現状、自分に襲い掛かって来るモンスターの気配は感じられない。
深い霧を発生させているのは奥に待ち構えている六魔将であると推測する。
「白の女神、あなたはどこまで私を楽しませてくれるのかな?」
「誰だっ!」
どこかから問いかけてくる少女の声はブランの問いには答えない。
返答の代わりにブランに飛んできたのは無数のナイフ。
研ぎ澄ました感覚と上昇させた身体能力でそれを回避する。
木に突き刺さったナイフの刃先には紫色の粘りのある液体が付着していた。
刃先に塗られたそれが猛毒であると判断したブランは警戒を強める。
「姿を見せやがれっ!」
「クスクス…。今のはただのご挨拶。戦う前に私の姿を見せてあげる」
少女の言葉を合図に内部に立ち込めていた霧が晴れていく。
現れたのはおとぎ話に出てくる魔女を連想させる深紫の衣装を着た少女。
特徴的とも言える黄色の瞳から放たれているのは殺意が籠った視線。
「六魔将にしては随分と姑息な手を使うんだな…」
「それが私の戦い方だもの。命を賭けた戦いにおいては綺麗も汚いもない。どのような卑怯な手段を用いても最後に残った者が勝者なの」
少女の持論は正論である。戦場においては卑怯と言う言葉は一切通用しない。
守護女神として数多の戦いを経験したブランもそれは十分に理解していた。
「私の霧の領域に入った以上、あなたは六魔将エリカの獲物。簡単に狩られるような獲物では面白味が無いわ。私の期待を裏切らないでよね」
「上等だ。お前との勝負受けて立つぜ。私達の役目はあの外道の部下であるお前達六魔将を倒すことだ。舞を取り戻すために一生懸命頑張ってる妹達の邪魔は勿論、ゲイムギョウ界もお前達の好きにはさせない!」
内に秘めていたシェアの力を解き放ち通常の女神化を行使する。
強烈な氷の魔力、絶氷をその身に纏い白の女神ホワイトハートが降臨した。
「夢見る白の大地が守護女神、ホワイトハート。お前達のくだらない企みもこの夜で終わりにしてやるよ!」
「言うだけなら誰にでもできる。あなた達に私達を止めることができるかしら? 精々抗って見せなさい。次に私の姿を捉えることができたら褒めてあげる」
エリカはブランに告げると再び立ち込めた霧の中に姿を消した。
ブランは得物である戦斧を両手でしっかりと握ると再び感覚を研ぎ澄ませる。
霧隠れの魔女を引き摺り出し、戦斧の一撃を叩きこむことはできるのだろうか。
一方、繭から解き放たれた舞とネプギア達との戦いは熾烈を極めていた。
魔剣ゲハバーンの凶刃を何とか回避しながらその刀身に攻撃を加えていく。
「この剣の破壊が目的かな? あなた達の思い通りにはさせない…!」
ネプギア達の狙いを見抜いた舞はゲハバーンを粒子に変えた。
その代わりに具現化させたのは濁った銀色の光を帯びた大剣。
銀の女神として覚醒したことで力が上がったのか、片手で持ち上げている。
舞の武器は魔剣ゲハバーンだけではない。ネプギア達もわかっていたこと。
あらゆる武器の扱いと魔法の扱いを会得している舞の強さは身に染みているのだ。
それに対抗する形でネプギアは銀と金の長剣を重ね合わせて輝剣を作り出した。
「「はああああっ!」」
二人の大剣がぶつかり合い、鍔迫り合い状態になる。
ネプギアの背中を押すのはロムとラムの補助魔法。
「「ハイパーウェポン!」」
二人から放たれた赤い光がネプギアの中に入り込み、その力を上昇させる。
物理攻撃力を倍化させる魔法の効果により上昇した力で舞の大剣を弾き飛ばした。
隙が生じたところに追撃を加えたいところだが、ネプギアは即座に後退した。
先程まで自分がいた場所を再び姿を現した魔剣ゲハバーンが薙ぎ払った。
手から離れているところを見ると舞が魔法で操作していると思われる。
空を切るだけに終わった魔剣ゲハバーンに一発の銃弾が直撃した。
それは着弾と同時に爆発を引き起こし、その刀身に僅かではあるが亀裂が走る。
「爆砕弾の威力はどうかしら?」
「やってくれるね。ほんの僅かな隙を狙い撃ってくるとは思わなかった。やられた分は反撃させてもらうよ」
舞は弾き飛ばされた大剣を拾うと詠唱を開始する。
その足元に展開されているのは銀色の魔法陣。
「銀の炎よ、私の敵を焼き尽くせ! 」
無数の濁った銀の炎が地面を縦横無尽に跳ねる。
対象を執拗に追い回す炎はネプギア達を捉えた。
「きゃあっ!」
濁った銀の炎はネプギア達に火傷を負わせ、その体を蝕む。
敵と見なした対象を焼き尽くすまで消えることのない怒りの炎。
自分達の体を蝕む銀の炎の侵食を止めるには舞を倒すしかない。
「私の受けた痛みはこんなものじゃないよ?」
ファントムハートが見せた悪夢の中で舞が味わった痛みは計り知れない。
ネプギア達の幻影に攻撃され続けた結果、どれほどの血を流したのだろうか。
「あなた達には私が受けた以上の痛みを味わってもらわないと気が済まない」
舞は武器を銀の槍に変えると、銀翼のプロセッサユニットを使って飛翔する。
対するネプギア達も銀の炎の侵蝕による痛みに耐えながら立ち上がった。
空中にいる舞を力強い輝きを宿した瞳で見つめている。
「まだ抵抗するつもり?」
「私達の体はまだ動きますから。諦めるという選択肢は始めから無いですよ」
「最初に言ったでしょ? アンタをここから連れて帰るって」
「傷ついて痛い思いをしても、みんなで手を繋いで何度でも立ち上がる…」
「わたし達の思いは一緒なの。この思いの強さは誰にも負けないわ」
ネプギア達の体から力強いシェアの輝きが立ち上る。
四人のシェアの輝きは一つとなってその体を包み込んだ。
「ハード・ユニゾン・フォース!」
シェアの光が弾け飛ぶと四人の女神候補生の姿は無かった。
光の中から姿を現したのは新たな姿を獲得したネプギアだった。
薄紫色の髪は黒色に。さらに右目が水色、左目が桃色に変化していた。
プロセッサユニットは白に薄紫色のラインが入った明るめの配色になっている。
右手に握られた長剣の刃を構成するのはアンチクリスタルを上書きした結晶。
四人の女神候補生の力強い意志と輝きを宿した刃に断ち切れぬ物など無い。
「力が上がった…? それがあなた達の真の力なの?」
「今の私達に出せる最大の力。これも強いあなたに勝つためです」
「それを使ったところであなた達の運命は変わらない」
「変えてみせます。四人の女神候補生と七人の守護女神の力でこの夜を越えてみんな一緒に明日を迎える…。その中には舞さん、あなたもいるんですよ」
ネプギアは背中のプロセッサユニットを使い、舞と同じ高さまで上昇する。
お互いに目が合った次の瞬間、二人の少女が空中で激しくぶつかり合った。
目の前にいる大切な人に自分達の思いが届くことを信じて剣を手に飛翔する。
銀陽の女神と四人の女神候補生の戦いは次のステージに進むのであった。