超次元ゲイムネプテューヌ 銀陽の女神   作:ミオン

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Game93:氷の女王と霧隠れの魔女

銀陽の女神と四人の女神候補生の戦いが次のステージに進んだ頃。

深い霧が立ち込めているパナンジャングルにて繰り広げられる戦い。

六魔将の一人、霧隠れの魔女エリカを相手にブランは苦戦を強いられていた。

 

様々な状態異常の効果が付加されたナイフが霧の中から飛んでくる。

その刃先に塗られているのは生命を脅かす猛毒だけではない。

麻痺や睡眠を誘発させる強力な神経毒なども含まれているのだ。

 

ブランは感覚を研ぎ澄まして飛んでくるナイフを戦斧で地面に叩き落とす。

視界に映るのは白い霧の世界のみでエリカの姿はあれから一向に映らない。

 

「どうすればアイツの姿を捉えることができる…?」

 

姿を捉えることができない理由はエリカの特異な能力にある。

エリカは自身の姿を自在に消すことができる能力を持っているのだ。

さらに女神の力を転写されたことで霧の領域を展開する能力が発現している。

 

展開した深い霧の領域に身を隠せばエリカの気配は完全に消え失せる。

彼女の領域に入った者は気付かぬ内に力を奪われ、自らの血沼に沈む。

女神化によって常人の数倍以上に感覚を研ぎ澄ましてもその姿は見えない。

 

「気配は感じる…。いるのはわかってるんだが、攻撃が当たらねぇ…」

 

反撃として絶氷の力で作り出した氷結晶をナイフが飛んできた方向に飛ばす。

直撃を取った場合は何かしらの反応が起きるかもしれないが、何も起きない。

氷結晶を飛ばした時には既に別の場所に移動しているということになる。

 

「このままだとこっちがやられる。別の手を一度試してみるか」

 

ブランは自分の体を軸にして勢いよく回転しながら戦斧を振り回した。

 

「テンツェリントロンペ!」

 

戦斧を振り回して何度も殴りつけ、最後に特大の一撃を叩きこむ技。

絶氷の力を纏った状態で使用するとブラン自身が巨大な氷の竜巻となる。

エリカの能力によって展開された濃霧を一時的ではあるが無力化した。

 

「捉えた! シュヴェーアシュラーク!」

 

誰もいないように見える場所に絶氷を纏わせた戦斧の一撃を叩きこむ。

同時に発生した鋭い氷の槍が空間に溶け込んでいたエリカを捉えた。

 

「やってくれたわね。流石は守護女神と言ったところかしら?」

 

戦斧の一撃を受けたことで透明化能力が一時的に弱まったようだ。

再び姿を現したエリカはブランの実力を認めたようで称賛を送る。

 

「敵に褒められても嬉しくねぇ。お前達はどうしてあの外道に従ってる?」

 

「ファントムハート様、当時のスカーレットハート様が私達を救ってくれたから。この一言に尽きるわ。六魔将は守護女神の統治の裏で大切な物を失い、救済を受けることのできなかった者達よ」

 

「なら、お前は私達守護女神の統治の裏で何を失った…?」

 

「家族と友達と住む場所。これは私達が共通して失った物なのよ。私の国の守護女神はね、綺麗事を言うばかりで私達のことなんか救ってくれなかったわ」

 

エリカは自分が六魔将となるまでの過去をブランに語る。

六魔将になる前のエリカは生まれつき特異な能力を持った一人の少女だったが

そんな彼女も普通に家族や友達と楽しい毎日を過ごすことができていた。

 

彼女の日常は突如現れた国を脅かす脅威によって崩壊する。

それが当時は大きな問題となっていた女神信仰に異を唱える集団の出現。

 

今代のゲイムギョウ界を騒がせている犯罪組織マジェコンヌとは違い、

犯罪神を信仰するのではない。ただ女神による統治に抗う者達である。

反抗集団を指揮する幹部の者達は特に過激な連中が勢揃いしていたようで

女神を信仰する者達が住む町や村を襲撃するなどの行為を繰り返していたという。

 

エリカが住んでいた国の女神は徹底抗戦を唱える。

そのような反抗集団には絶対に屈しない。女神を信仰してほしいと訴えた。

 

エリカ自身や彼女の家族、友人は女神のことを信仰し続けていたのだが、

国を脅かすほどの巨大な組織へと成長を遂げた反抗組織の矛先が向けられる。

彼女が暮らしていた町に襲撃をかけ、女神信仰を唱える者達を手にかけていく。

同じ人間なのかと疑うほどの狂気を持った者達の進撃は止まらない。

 

エリカの能力のことを知っていた両親は彼女に国を出るように言った。

両親は彼女に生き延びて欲しいと一言告げた後に凶弾に倒れてしまう。

能力を使って空間に溶け込むとエリカは持てる全力を尽くして走った。

国を出たエリカが数日かけてたどり着いたのが緋色の大地である。

 

到着した時には所持金は底を尽き、極度の空腹により意識も朦朧としていた。

気を失い倒れる前に彼女の視界に映ったのは緋色の髪を持った少女の姿。

 

「目が覚めたかい?」

 

「ここはどこ…?」

 

「私が守護する緋色の大地の教会さ。驚いたよ。気晴らしに街の外に出ようとしたら街の入口のところに君が倒れていたんだから。君は他の国から逃げてきたのかな?」

 

「女神の統治に抗う奴らが私の住んでいた町を襲撃してきたの。父さんと母さんはあいつらに殺された。最後まであの女神を信じたのにどうして殺されないといけなかったのかな。女神は結局来てくれなかった。私が逃げた後に来たのかは知らないけど」

 

「なるほどね。君の事情は理解できた。君や君の両親が信仰していた女神はどうやら来なかったみたいだよ? この記事を見てみるといい。言うだけのことは言ってるけど、結局のところ何もできていないことが顕著に表れている」

 

緋色の女神が差し出したのはゲイムギョウ界の情勢が書かれた新聞だった。

一面には女神の統制に反抗する集団が町を襲撃したとの記事が載せられている。

エリカはその記事に目を通していき、悲しい現実を目の当たりにした。

 

襲撃を受けた町の生存者はゼロ。一緒の町に住んでいた友人達も命を散らした。

瞳から大粒の涙があふれ出し、部屋には彼女の泣き声だけが響き渡る。

 

「どうしてっ…! あの人が反抗集団に絶対に屈しない。最後まで女神を信じてほしいって言ったから私達は女神のことを信じていたのにっ! それなのにどうして殺されないといけないのよ!」

 

「残念ながら彼女のことを信仰した君達は間違いだった。自分の力だけではできもしないことばかり口にして、国民の前で振る舞い続けた結果、君の大切な物を奪った反抗集団を生み出した。君の大切な人達は国と彼女に殺されたと言っても過言ではない」

 

「あなたも守護女神なのよね…? あなたも私の国の守護女神みたいにできもしない事ばかり言うつもり?」

 

「私は自分にできないことは口にしないよ。言った以上はどんな手段を使っても現実にしてみせる。流石に国から逃げてきたばかりの君に信じてもらえるとは思ってはいないけど」

 

「私はこれから誰を信じればいい…? 行き倒れていた私を助けてくれたことには感謝してるわ。でも、あいつと同じ守護女神のあなたを信じることは今の私にはできない」

 

エリカの心は守護女神に対する不信感で満たされていた。

その心情を見抜いたのか、緋色の女神はエリカの瞳を見ながら次の言葉を紡ぐ。

 

「信じていたものに裏切られた気持ちは私にもわかるよ。君と出会ったのも何かの縁かもしれない。ここで私は守護女神に対する不信感を募らせている君に一つの賭けを持ちかけたい。話を聞いてもらってもいいかな?」

 

「賭け? 守護女神のあなたに賭けれる物なんて私にはないわよ? お金も無いし…」

 

「私が欲しいのは君の能力さ。私は人の本質を見抜くのが得意でね。君と話をしている合間に探らせてもらったよ。自在に姿を消す能力とは随分と面白い能力を持っているじゃないか。私が賭けに勝ったら、その力を私に貸してほしい。言い方を変えると私の部下になってほしいのさ」

 

「それであなたは私に何を賭けてくれるの?」

 

「命を賭ける。実は前々からある国を私の物にするための作戦を立てていてね。その作戦の実行が明日なのさ。私がその国を落として帰ってきたら私の勝ち。失敗して帰ってきたら君の勝ちとしよう。君が勝った時にはこれで私を殺すといい」

 

緋色の女神が差し出したのは血のような赤色の刃を持った一本のナイフ。

 

「なに、これ…」

 

「アンチクリスタル。守護女神の力の源であるシェアを喰らう結晶があってね。そのナイフの刃はアンチクリスタルで作られている。私が失敗して帰ってきたらそのナイフで私の心臓を刺すといい。嘘を吐く守護女神なんて世界にはいらないだろう?」

 

「あなた、本気で言ってるの?」

 

「私はいつだって本気だよ。さて、明日は私の命と君の運命を賭けた大勝負だ。私は最後の調整に入らせてもらうとしよう。君はもう休むといい」

 

緋色の女神はエリカに告げると部屋を出て行った。

何時間か待って見たが、帰ってくる気配が無かったので眠ることにした。

 

次の日の朝。緋色の女神は大軍を引き連れて街を出発した。

彼女が向かった方角にあるのは煌めく金の大地。

セレナが守護していた国はこの日に陥落したのである。

 

煌めく金の大地が陥落したという情報はゲイムギョウ界中に一気に広まる。

最初は疑っていたが、本当に彼女は自分が言ったことを成し遂げて帰ってきた。

緋色の女神の直属の部下となったエリカは女神の力の転写実験を受ける。

 

彼女は自分にできもしないことを言うばかりの守護女神ではない。

緋色の女神こそが自分が信仰するべき女神であるとエリカは改めて認識した。

これが霧隠れの魔女、六魔将エリカが誕生するまでの物語である。

 

「スカーレットハート様は自分が言ったことは全て現実にしてきた。それなのに、どうして国を賭けた戦いで、できもしない綺麗事ばかりを言う守護女神達に敗北したのかが不思議なくらい。全てはあの二人が現れたからよ。あいつらさえ現れなければ私達に負ける要素は何一つなかったと言ってもいい」

 

「それがアリアとセレナ…。銀の女神と金の女神ってわけか…」

 

「そういうことよ。私も銀の女神に葬られたからね。あなたは私に勝つことができる? それができると言うのならばその体で証明してみせなさい。今のゲイムギョウ界を守護する女神の強さという物をね」

 

エリカの体から不気味な赤色と紫色の霧が現れると戦場を満たしていく。

戦場を満たした怪しげな霧はブランの体に早くも異変をもたらしていた。

 

「なんだ、この霧は…!」

 

ブランは体内から込み上げてくる不快感に苛立ちを隠しきれなかった。

合同鍛練でアンチクリスタルを手にした時の物と非常に似ている。

 

「ごほっ!」

 

手を自分の口に当てて咳き込むとその手には少量ではあるが血がついていた。

 

「どうかな? 私の新しい霧の領域は?」

 

「前の私だったら女神化が解けてリタイアになってたところだぜ…。これが復活することで得た新しい能力ってやつか…?」

 

「正解。ファントムハート様からもらったアンチクリスタルから発せられるアンチエナジーを私の新しい能力で霧に変えて展開させてもらった。女神化を維持できるとは大した物ね?」

 

「もう二度と負けないって誓ったからな…。三年前、私達四人の守護女神は犯罪組織の奴等を倒しにギョウカイ墓場に乗り込んだ結果、返り討ちにあって捕まったよ…。今でも本当に情けないと思ってる。あの時の私達はまさにお前の言うできもしないことを言ってるだけの守護女神だったと思う…」

 

「ふ~ん。自分の弱さを認めてる点は称賛せざるをえないわね。でも、あなたと残った守護女神。銀の女神と戦ってるあなたの妹達の命運も尽きるわ。喋る余裕はまだあるみたいだけど毒も十分に回ってきたでしょ?」

 

「ごほっ…! 確かにお前の言う通りだ。女神化を維持できてることが奇跡みたいなものだからな…。でもな、ここで立ち止まるわけには行かねぇんだよっ!」

 

ブランが持っていた白の結晶が体内に入るとその体に変化が起こる。

髪が白銀に変化するとプロセッサユニットが極低温の氷を纏った新たな姿に。

体と得物である戦斧からは視認できるほどの白銀の冷気が漏れ出していた。

 

その姿はまさに白き雪の大地に君臨する氷の女王。

これが絶氷を最終段階にシフトさせたブランの姿なのだ。

 

アンチクリスタルを上書きした白の結晶の力で一時的に顕現している上に

ブランの体は毒に蝕まれているので戦闘が継続できる時間はあと少しだ。

 

「綺麗ね…。それがあなたの真の力というわけね? なら、私もあなたに全力で立ち向かわせてもらうわ」

 

エリカは能力を完全に解除すると新たな武器を具現化させた。

どうやら剣のようだが、柄から先にあるはずの刀身が何故か消えている。

刀身が空間に溶け込んでいるようで見た限りではそのリーチを把握できない。

 

「最後はこれであなたの命を奪ってあげるわ。光栄に思いなさい」

 

エリカの左手に握られていたのは血のような赤色の刃を持ったナイフ。

緋色の女神が賭けに敗れた際に自身の命を奪わせるために渡した物。

アンチクリスタルで構成された刃は不気味に光り輝いている。

 

「なら、お前には超ド級の戦斧の一撃をお見舞いしてやるよ」

 

「それが口だけでないことを証明してみせることね。始めましょうか」

 

「上等だ…! やってやるぜっ…!」

 

ブランとエリカの戦いは第二ラウンドに突入する。

氷の女王と霧隠れの魔女の戦いの決着の時もまた近づいていた。

 

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