絶氷を最終段階にシフトさせたブランとその実力を認めて本気を出したエリカの決闘。
ブランは体を蝕む毒に耐えながら攻撃を戦斧で受け流しつつ反撃の機会を窺う。
不可視の刀身を持つ太刀の攻撃は自分の戦斧と互角に打ち合えるほど重い。
特に恐ろしいのは時折入れてくるアンチクリスタルのナイフの刺突である。
「私の毒と攻撃にどこまで耐えられるかしら?」
「私は絶対に折れない…。お前をブッ倒して、この夜を越えてみせる…!」
心に宿した確固たる意志で抗い、僅かに生じる隙を見逃さずに反撃を叩きこむ。
「こいつはどうだ! フォルシュラーク!」
極低温の冷気を纏った戦斧の四連撃に加えて右足による蹴りを叩きこむ。
戦斧の攻撃は太刀で受け流されてしまったが、最後の蹴りはエリカの体を捉える。
「凄まじい冷気ね…! 蹴りの一撃で私の防護服の一部を凍らせるなんて…!」
絶氷の力によって極低温の氷を纏ったプロセッサユニットは
氷による高い防御力と接触した物質を凍結させる効果を持っているのだ。
「もう時間が無い…。次の攻撃で決めてやる…!」
「ここに来て大きく出たわね。なら、その言葉を現実にしてみなさいっ!」
「ほんの少しだけど制御ができるようになってきた…! お前の体に刻んでやるよ…。こいつが私と白の大地の力だっ!」
ブランは戦斧にシェアを纏わせるとそれを地面に叩きつける。
叩きつけた場所を中心に地面が一瞬で凍結して氷の領域を作り出した。
「これは…!」
エリカの両足は氷で覆われて身動きが取れない状態になっていた。
後は彼女に自分の最高の一打を届けるのみ。ブランは一気に距離を詰める。
「まだ終わってないわ…!」
距離を詰めてきたブランの戦斧の一撃を何とか太刀で止める。
「毒が全身に回っているのに、一体どこからこれだけの力を…!」
「女神の力は私一人の力じゃない! 私を支えてくれるルウィーの皆と一緒に戦ってる仲間達の思い! それが私達の本当の強さなんだ!」
「私は認めないわ! ファントムハート様以外の女神の力なんてっ!」
アンチクリスタルのナイフの刺突が襲い掛かる。
何とブランはアンチクリスタルのナイフを左手で直接止めた。
エリカの怒りを乗せた赤き刃が絶氷の守りを貫き、血が漏れ出していた。
「認めさせてやるよ…! これでとどめだ!」
痛みに耐えながら左手に力を込めてナイフを奪い捨てると戦斧を両手で握る。
「叩きのめす! まだのめす! 更にのめす! それが!」
絶氷の力とありったけのシェアの力を纏わせた戦斧による五連撃。
背中のプロセッサユニットに力を込めて飛び上がると内に秘めた力を解放する。
「ファイナルプレイヤー!」
ブランの体から放たれた白の波動がエリカを飲み込む。
着地と同時に女神化が解除され、氷の領域もそれに合わせる形で消滅した。
舞と鍛練した際に見せてもらったある斧使いの秘奥義の一つである。
「かはっ! これ以上は戦うのは無理ね…」
女神化状態を解除しても毒に代表される状態異常は引き継がれてしまう。
これは逆も然りで女神化を行使する前に毒を受けても同じ結果を生むのだ。
「やって…くれたわね…! ここまで痛い攻撃を受けたのは初めてよ…!」
ブランの最大の攻撃を受けたエリカは地面に仰向けに倒れていた。
おとぎ話の魔女を連想させる紫の防護服は至る所が破れてしまっている。
身を守る役割はもう果たしてくれそうにない。そんな状態だった。
「どうして…! これだけの力を持ちながら、私達を助けてくれなかったの…!」
「女神だって完璧じゃないわ…。私にだって救えなかった命はあるもの…」
ブランが守護する白の大地ルウィーは魔法文化が非常に発達している雪国。
黒の大地ラステイションとの国境付近の地域は比較的温暖な気候なのだが、
首都より北の地域は標高の高い山が多い極寒の豪雪地帯として知られている。
ブランが救えなかった命は豪雪地帯で多発する雪崩による犠牲者のことだ。
女神として救出活動に参加したことはあるのだが、救えなかった命も当然ある。
自分がもっと早く駆けつけていれば状況は変わっていたかもしれない。
ルウィーの守護女神になった当初は後悔に苛まれていた時もかなりあった。
女神なのに国民の命も守れないのかと酷い批判を受けたこともあったくらいだ。
「どれほど強い力を持っていたとしても、できないことはある…。自分の言ったことをあなた達の前で現実にしてきた緋色の女神は確かにすごいと思う。でも、彼女の行いは決して許されることじゃない。セレナの国を滅ぼして大勢の人の命を奪って、国を賭けた大戦争を引き起こした。彼女の部下として戦争に参加したあなたも彼女と同罪よ」
戦争に参加したエリカもまた数えきれないほどの命を奪っている。
自分の能力を使い、主に逆らう者達の暗殺を繰り返していたのだから。
「これは私の勝手な想像に過ぎないけど、緋色の女神にはあなた達が抱いていた世界や女神に対する憎しみさえもオモチャに見えていたのかもしれないわね…」
「私達のことをオモチャとして見ていたとしても、六魔将としてあの人の部下になれたことに後悔はないわ…。あなたは戦う前に言ったわね。私達とファントムハート様を倒してみんなで明日を迎えるって…。なら次はその言葉を現実にしてみせてよ。その結果を見ることができないのが心残りではあるけどね…」
戦いに敗れて消滅の時を迎えようとしているエリカ。
ブランは地面に倒れているエリカに近づいてその手を優しく握る。
「言った以上は現実にしてみせるわ。私達は一人で戦っているわけじゃない。自分の力だけで実現するのが無理なら周りに頼ればいい。妹達のもう一人の姉とも呼べる私の親友が教えてくれたことよ。私も守護女神としてはまだまだと言ったところね」
「あなたみたいな人が守護女神だったら私は大切なものを失わずに済んでいたのかもしれないわね…。全てを救ってほしいとは言わないけど、苦しんでいる人達にはきちんと手を差し伸べなさいよ…。じゃないと私はあなたを絶対に許さないから…!」
「あなたと交わした約束は絶対に忘れない。あなたの心からの願い、白の女神ホワイトハートが確かに受け取ったわ。だから安心して眠りなさい」
「そう言ってくれて嬉しいわ。これで安心して眠りに就くことができそうね。さよなら、白の女神…。最後にあなたと出会うことができてよかったわ…」
ブランに自らの願いを託したエリカは目を閉じると光となって消滅した。
消滅した後に残されていたのは星型の水晶が先端についている杖だった。
杖の先端についた星型の水晶は見る角度を変えると様々な色に変化する。
「今の私にこれが使えるかしら…?」
ブランは星の杖を手に握るとセレナに教わった解毒魔法の詠唱を行う。
流石にエリカとの決闘の最中に使う余裕などは持ち合わせていなかった。
星の杖のおかげなのか普段より以上に短い時間で発動することに成功する。
暖かい白の光がブランを包み込み、体内の毒素を完全に浄化した。
「受け取った願いに応えるためには、さらに強くならないといけないわね。騒ぎが落ち着いたら妹達の練習にでも参加させてもらおうかしら…」
幼い二人の妹達はセレナの指導の下で魔法の鍛練に励んでいる。
ブランが魔法の練習を積極的に頑張るのはもう少し先の話だ。
ヒナとエリカが倒されたことで残る六魔将はあと四人となった。
時を遡って次の決闘の舞台はリーンボックスのトリニティ湿原に移る。
トリニティ湿原に到着したベールの視界に映った一人の少女。
桃色の長髪を持ち、どこかの国の姫にも見える純白のドレスを着ている。
少女の右手に握られているのはドレスと同じ輝きを放つ純白の撃槍。
「緑の女神、あなたに会うことができて私は本当に嬉しいよ」
「そう言って貰えて光栄ですわ。理由を教えていただいてもよろしくて?」
「私達は昨日の夜の公開模擬戦を見させてもらっていた。あの時のあなたの槍技を見て思ったよ。同じ槍技を嗜む者同士、全力で戦ってみたいとね。こんな気持ちを抱いた相手は今は亡き私の母様とあの銀の女神に続いてあなたで三人目になる。残念ながら私はあの時に銀の女神と戦うことはできなかったけど」
銀の女神アリアはあらゆる武器の扱いに長けた武術の達人である。
全盛期の彼女の槍技は前に立ちふさがる愚者を次々と貫いたと云う。
「アリアさんの強さは存じていますが、あなたのお母様と言うのは…」
「母様は私の国の女神の守護騎士だった。私も当時は母様のようになりたいと守護騎士を目指していたけど、所詮それは叶わぬ夢だった。任務中の事故に見せかけて母様を殺して私の住む場所まで奪い取った屑共のせいでね。スカーレットハート様はそんな私の夢を叶えてくれた。故に私はあの方に忠誠を誓っているのだよ。私はあの方の槍だ。あの方の障害となり得るものは全て貫くのみ」
母と住む場所を奪われ、夢を壊された少女は撃槍を構える。
ベールは自身の得物である槍を握る両手に力を込めて彼女と向き合う。
戦場で巡りあった二人の槍使いの間を一陣の風が駆け抜けた。
「心地よい風が吹いているな。これがあなたが守護する大地の風なのか。戦いを初める前に名乗らせてもらうとしよう。私の名はフェリア。六魔将の一人にして我が主、ファントムハート様の槍」
「フェリアさん、ですわね。私の名はベールと言います。そしてもう一つ、この姿になった時の私の名は…」
女神化を行使したベールの体が眩いシェアの光に包まれる。
大地を駆け抜ける風を身に纏い彼女は大地に降り立つ。
「雄大なる緑の大地が守護女神、グリーンハート。全力でお相手させていただきますわ」
「それがあなたの真の姿なのか。私の槍技、あなたに見切れるかな?」
「見切ってみせますわ。あなたを打ち倒して、大切な人を取り戻すために戦っている女神候補生達が帰ってくる場所を守ること。それが私が成すべきことですわ」
「ならば私はその理想を全力で砕かせてもらう。ここから先は下手な言葉は無用だな。私達の戦いを始めるとしよう」
「望むところですわ!」
次の瞬間に緑の女神と撃槍の騎士の槍が凄まじい速度でぶつかり合う。
二人の決闘を彩るかのように戦場を再び風が駆け抜けていた。
新たな局面に突入した銀陽の女神と四人の女神候補生の戦い。
黒い瘴気に覆われた空で火花を散らして激しくぶつかり合う少女達。
「行きます! 驟雨双破斬っ!」
大切な人の記憶から習得した無数の剣技の内の一つ。
シェアブレイドで連続突きを放った後に斬り上げと下ろしの連撃に繋げる。
「くうっ…! 調子に乗らないでっ!」
怒った舞は銀の槍で凄まじい速度の突きで反撃してきた。
ネプギアは冷静さを保ちながら槍の連撃を受け流していく。
「怒りに任せた闇雲な突きでは今の私達には届かないですよ?」
「なら、これならどう?」
再び舞の手の中に顕現した魔剣ゲハバーン。
ユニの爆砕弾が直撃したことで刀身に僅かではあるが亀裂が走っている。
依然として最も脅威となるのは変わりない。融合状態で貫かれたら終わりだ。
「はああああっ!」
舞はゲハバーンでネプギアに斬りかかる。
シェアブレイドを握る手に力を込めてゲハバーンを受け止めた。
凶刃が目の前に迫っていることに当然のことながら恐怖を感じてはいるが、
それに屈するわけにはいかない。心を一つにして乗り越えるのだ。
「私達は絶対に負けませんっ! あなたと一緒に帰るんです!」
お互いに拮抗していたが、シェアブレイドの力がゲハバーンを上回った。
舞の手から魔剣が弾き飛ばされた瞬間を見逃さずに攻撃を加えようとする。
「させないっ…!」
ゲハバーンに攻撃を加えようとしているネプギアの背中を銀の銃で狙撃するが
銀の魔力弾は黒の魔力弾に相殺され、魔力で作られた鎖が舞の体を拘束した。
「銃の扱いじゃ、アタシの方がまだ上よ。簡単には追い越させないわ」
舞の銃撃を防いだのはネプギアから分離したユニの銃撃だった。
黒の女神候補生の銃技の右に出る者は中々いないと言ってもいい。
「ネプギアちゃん、行って…!」
「舞は私達が抑えるわ! ちゃんと決めなさいよね!」
水色と桃色の魔力の鎖で舞の動きを封じるのはロムとラム。
融合時の分離は自分達の意志で自由自在に行うことができるのだ。
フォースの場合は一度分離すると再度ユニゾンできないが今はこれでいい。
「離してっ…! あの剣がないと、私はまた…!」
ネプギアは舞の手から離れた魔剣ゲハバーンに最大の一撃をお見舞いする。
「プラネティックディーバ!」
銀と金の長剣を魔法で操ってゲハバーンの刀身を何度も切り刻む。
最後にシェアブレイドから放たれた四色のシェアがゲハバーンに直撃した。
亀裂が刀身全体に一気に広がるとガラスが割れるような音を立てて砕け散る。
「そんなっ…!」
ゲハバーンが破壊されたことで力が抜けたのか舞はその場に倒れ伏した。
纏っていたプロセッサユニットが解除され、元のモノクロパーカーワンピに戻る。
髪も元の黒色に戻ったので戦いが終わったように思えたが、まだ終わりでは無い。
地面に倒れ伏した舞の体から禍々しい黒紫色の瘴気が立ち上り始める。
「きゃはははっ! ゲハバーンの破壊、おめでとう! でもまだこの祭りは終わらない。ここからが本番と言ってもいい。さあ、君達の絆の力とやらがどこまで通用するかを見せてもらおうじゃないか!」
ファントムハートはゲハバーンが破壊されることを見越してある罠を仕掛けていた。
「舞さんに何をしたんですか!」
「狂女神化だったかな? 舞は随分と面白い女神化を持ってたから、それをさらに凶悪な女神化に改竄させてもらったよ。ゲハバーンの破壊を発動の鍵にしていたのさ。こうなった舞はもう私にも止められないよ」
黒紫色の瘴気が舞の体を包み込み、新たな女神化を発現させた。
髪は黒色のままだが瞳は銀色では無い血のような赤色に変わっている。
漆黒のプロセッサユニットが体に装着され、体からは瘴気が立ち上っていた。
「名付けて、極限女神化と言ったところかな? 限り無く極みに迫りし銀の女神に君達はどこまで立ち向かえるか見せてもらうとしよう」
「うあああああっ!」
凶悪な力に体と心が蝕まれているのか悲痛な叫び声を上げる舞。
極限女神化状態となった舞は目に移る敵を全て駆逐するまで止まらない。
果たして四人の女神候補生は彼女を元に戻すことができるのだろうか。