四人の心と体を一つにしたハード・ユニゾン・フォースの力で舞の右手に握られていた魔剣ゲハバーンの破壊に成功したネプギア達。
だが、魔剣を破壊されるという事態を予測していたファントムハートが舞の体に予め仕掛けていた罠が発動したことで舞は極限女神化状態に。限りなく極みに迫りし銀の女神が四人の女神候補生に襲い掛かる。
何と舞は武器を持たずに凄まじい速度でネプギア達に接近してきた。湧き上がる邪悪な力を纏った拳と蹴りの連撃を散開して何とか回避する。
「はああああっ!」
続けてネプギアに狙いを定めると一気に距離を詰めてきた。極限女神化状態の舞の身体能力は先程まで戦っていた時の比では無い。
「うっ…!」
舞の攻撃をシェアブレイドで受け止めたが、大きく後退させられた。一人を狙うことしかできないのか、ネプギアばかりに執拗に攻撃を加える。何とかその猛攻を防いでいるが守りを突き破られるのも時間の問題。
舞の標的になっていないユニが銃撃、ロムとラムが魔法で援護するが何と銃弾はプロセッサユニットに直撃したと同時に跳ね返されてしまった。さらに魔法はその身から放出される瘴気に打ち消されて舞の体に届かない。
「そんなっ! 銃弾が跳ね返されるなんて!」
「わたし達の魔法が…! 舞お姉ちゃんに届かない…!」
「このままだとネプギアがやられちゃう!」
何とか状況を変えるためにユニは武器を弓に変えて光の矢を放ち、ロムとラムは魔法の属性を変えて攻撃を試みるが結果は先程と同じだった。止まらない舞の猛攻を前にネプギアは徐々に追い詰められていく。
(ユニちゃん達の攻撃が通らないなんて…。もしかして私の攻撃も…)
何とか距離を取って打開策を考えようとするが、舞はそれを許さない。ネプギアの剣の動きが鈍った僅かな瞬間を逃さずに強烈な蹴りを叩きこむ。
「かはっ…!」
怯んだネプギアの腕を強烈な力で掴み振り回すと何とユニの方に投げつけた。ユニはネプギアの体を何とか受け止めたが、自分達がこれまで見てきた舞の戦い方とは明らかに違っている。あまりにも暴力的な戦い方に驚きを隠せなかった。
先程の激しい動きの影響で疲労しているのか舞は胸の辺りを押さえている。追撃は加えてこないが、血の色に染まった瞳はネプギア達を見据えていた。
「ネプギア、大丈夫っ!?」
「何とか…。あの状態の舞さんには私の攻撃も通らないと思う…」
「舞お姉ちゃんを元に戻す方法は無いの…?」
「今は耐えるしかないみたい。セレナさんの言葉を信じよう」
作戦会議でセレナが魔剣ゲハバーンを破壊した後は舞の攻撃にひたすら耐えてほしいと言っていたことを思い出す。
「裏で戦っているアリアが何とかしてくれるのを待つしかないってことね…」
「それが私達に残された希望だよ。戦ってるのは私達だけじゃない!」
「アリアさんも頑張ってる…。わたし達もまだまだ頑張らなくちゃ…!」
「みんなで頑張ればきっと大丈夫よ! 今までもそうだったじゃない!」
困難な状況でもみんなで諦めずに立ち向かえば活路が見えてくる。大切な人に教わったことが女神候補生達の頭の中に甦った瞬間だった。
「ぐうっ…! うあああああっ!」
体勢を立て直したのか舞は再び叫ぶと黒い瘴気を体から撒き散らす。凶悪な極限女神化の力は舞の体にも相当な負担を掛けていると思われる。いかに自分達と同じ女神になっているとは言え、このままでは舞の体が壊れる危険も迫ってきていた。
「ネプギア。アタシとのハード・ユニゾン、行けるかしら?」
「大丈夫だよ。アリアさんが来るまで耐えてみせるから!」
「ロムちゃん、わたし達も一緒に行くわよ!」
「うん…! 舞お姉ちゃん、絶対に助ける…!」
ユニはネプギアと、ラムはロムとハード・ユニゾンを行使する。ハード・ユニゾン・フォースは使用制限があるので連続して使うことはできないのだ。
融合で強化された身体能力を最大限に活用して舞の猛攻に耐え続ける。裏で戦っているもう一人の銀の女神がこの状況を変えてくれることを信じて。
その一方でトリニティ湿原にて六魔将のフェリアとの決闘を繰り広げるベール。フェリアの高速の突きを回避しながら反撃の刺突を繰り出すが直撃が取れない。
回避が遅れた場合は致命傷になる危険があるので集中力は決して切らさない。お互いに直撃を取ることができていない拮抗状態が決闘の開始から続いていた。ベールとフェリアの槍がぶつかり合う度に凄まじい風が戦場に吹き荒れる。
「流石だ。やはり私の目に狂いはなかったよ。あなたは素晴らしい槍の使い手だ。私は既に死んだ身だが、あなたのような人に巡り合えて本当に嬉しい。お互いに敵同士でなければあなたの槍として仕えるのも悪くはないと思えるほどだ」
「敵で無ければ私の騎士としてお迎えしたいところですわ。私も守護女神として長年生きてきましたが、あなたほどの槍の使い手は見たことがありません。守護女神の騎士だったと言うあなたのお母様も相当な槍の使い手だったということでしょうか?」
「その通りさ。女神の力を得た私でも母様には敵わない。大戦争で母様が忠誠を誓っていた守護女神に敗北したことが何よりの証拠さ。祖国に叛逆した私の前に現れたあの人は全ての責は騎士達の暴走を止めることができなかった自分にあると言った。私はあの人を最後まで許すことができなかったけどね…」
自らの過去を振り返るフェリアの表情には暗い影がさしこめていた。
「騎士達の暴走を止められなかったというのは…」
「あなたになら話してもいいかな。長い昔話にはなるけど、聞いてくれると嬉しい」
ベールの実力を認めたフェリアは自らの過去を語る。
フェリアの母は守護女神の騎士という職に就いていた。フェリアの母は若くしてこの世を去った夫の形見である純白の撃槍で主の道を阻む物を貫き、忠誠を誓った主とたった一人の娘を守り通した。しかし、母が守護騎士になって十年が経過したある日に悲劇が起きる。
偶然にもその日はフェリアの十五回目の誕生日だった。守護騎士として前線で活躍し続ける母の姿を見て槍術を学びたいと娘が言い出したのは彼女がまだ十歳の時のこと。定期的に入る休日には付きっきりでフェリアに槍術を教えていた。
迎えた十五回目の誕生日。この日は守護騎士の任務が母に課せられていた。夜には必ず帰ってくると母は言って家を出る。フェリアも笑顔で母を見送ったが、それが幸せに暮らしていた親子の最後の会話となった。
母の帰還を待っていたフェリアの耳に飛び込んできたのは任務に出ていた母が行方不明になったとの報。家を飛び出して教会に向かい、女神に会いたいと訴える。代わりに現れた教祖が現状をフェリアに説明してくれた。母の捜索には女神を筆頭とした調査団が現在向かっているとのこと。現在は調査団の報告待ちの状態だった。それから数時間、母の無事を祈り吉報を待ったが、その祈りは叶わなかった。任務の目的地だった辺境の雪原でフェリアの母の遺体と撃槍が発見されたのだ。
体には無数の傷が刻まれていて見るに堪えない状態だった。特に酷いのが心臓のある胸部分。何か鋭利な物で心臓を貫かれた形跡があった。母の遺体を調べた結果、モンスターの仕業である可能性が高いことがわかったのだが、任務に出かけてから遺体が見つかるまでの経緯を調べると不審な点がいくつか見受けられたのである。
守護騎士の任務は言い換えればギルドから教会に回ってくるクエストのことだ。フェリアの母が受けた任務は雪原でのモンスター討伐クエスト。彼女の部隊に所属してある直属の部下の騎士達は同行を申し出たのだが、フェリアの母は何故かその申し出を断って単独で討伐クエストに出撃したという。さらに教会に回ってくるクエストを受けた際には誰がいつそれを受注したのかという履歴が残るのだが、その日の履歴にフェリアの母がクエストを受注したという履歴自体が存在していなかった。
不審な点はもう一つある。それはフェリアの母からの救援要請が一度も無かったということ。任務中に危険な状態に陥った時は教会の騎士団に救援を要請することができるのだが、任務に出かけてから遺体が発見されるまでの間に母からの救援要請は一切無かったのだ。不審な点が多く見受けられる中でフェリアは一つの仮説を立てる。母は何者かに任務中の事故に見せかけて殺されたのではないかと。自分が立てた仮説が真実ならば母を殺した人間も教会の中にいる。フェリアは決意した。憧れた母と同じ守護騎士になって、闇に葬られた真実を暴いてみせると。
今や父と母の形見となった撃槍と母から教わった槍術を駆使して功績を積み重ねていく。二年の時を経て守護騎士候補生となったフェリアはとあるクエストを受ける。それはモンスター討伐クエスト。指定地は辺境の雪原。それは母が死んだ場所だった。このクエストを受ければあの日の手掛かりが掴めるかもしれない。そんな気持ちを抱いてフェリアは準備を整えるとクエストを受注して目的地に向かう。
目的地である雪原に到着したフェリアは辺りの様子に驚きを隠せなかった。雪原を闊歩するモンスターの数が異常に多い。雑魚モンスターだけではない、危険種も多数混ざっている。誰が見ても異常とも言える状態だがフェリアは逃げずにモンスターの群れに立ち向かった。雑魚モンスターは弱点部位を的確に貫いて一撃で葬る。危険種については攻撃に注意しながら冷静に対応していくが、どれだけ倒してもモンスターの数が一向に減らないのだ。倒した瞬間に別のモンスターが出現する。まさにキリが無いと言える状態。いつの間にか吹雪まで強くなり戦闘を始める前は良好だった視界が遮られる、自分がどこにいるのかもわからなくなっていた。
教会に救援を要請しようと通信機を起動するがノイズが走るのみで使い物にならない。クエストに出発する前に異常がないことを何度も確認したにも関わらずだ。明らかにおかしい状況ができあがっていた。母も今の自分と同じ状況に置かれていたのだろうか。モンスターの数は増え続ける一方でフェリアはモンスターの群れに取り囲まれていた。この状況から推測するに自分は恐らく母を殺した者が仕掛けた罠にかかったのだろう。とは言え一方的にやられるのは性に合わない。立ち向かう決意を固めたフェリアはモンスターの群れに突撃する。
モンスターの群れとの激闘の末にフェリアの体には無数の傷が刻まれ、さらに吹雪に体力を奪われ命の灯火は消えかかっていた。それでも立ち向かう意志は絶やさない。目の前のモンスターに攻撃を加えるが、背後に潜んでいたモンスターの鋭い爪がフェリアの腹部を貫く。激しい痛みが体中を駆け巡り、フェリアは地面に倒れ伏した。薄れ行く意識の中でフェリアの視界に最後に映ったのは緋色の髪を持った少女。
「諦めたらそれまでさ。まだ立ち向かう意志が君にあるのなら私が力になるよ」
彼女の言葉を聞いた後に意識を失ったフェリアが次に目覚めたのは自分の知らない部屋だった。不思議なことにあの時に受けた傷がほとんど消えている。鋭い爪に貫かれた腹部には傷跡が残っていたが痛みはまるで感じない。
「目が覚めたようだね? 気分はどうだい?」
「私は…あれからどうなった…? 私は生きているのか…?」
「混乱しているようだね? あの日、何が起きていたのかを順を追って説明していこうかな。こちらも君が眠っている間に色々と調べさせてもらったよ。まず君が受けたあのクエストだが、あれは君が所属していた騎士団の中にいる過激派と呼ばれる連中が君を殺すために仕組んだダミークエストだったのさ。あの場に潜んでいた奴を捕らえて問い詰めたら素直に吐いてくれたよ。二年前、君の母親が死ぬ原因となったダミークエストも自分達が仕掛けたとね」
過激派というのは騎士団の中でも問題視されている集団のことである。表面上は守護女神に忠誠を誓っているように見えるが、裏では国の頂点に立つ守護女神を引き摺り下ろして自分達が国を支配しようと目論んでいるらしい。過激派の幹部クラスの連中は他国の犯罪者と秘密裏に繋がりを持っているようで、自分達の目的の妨げとなる守護騎士及び守護騎士候補生の殺害を過去に繰り返していたのだと言う。
「自分の部下の手綱も握れないというのは国の頂点に立つ守護女神として致命的な欠陥と言ってもいい。そんな愚かな考えを抱かせないようにしないといけないよ。そんな屑共を放置し続けた結果、君の母親は殺され、君もまた殺されそうになった。これが事の真相さ。君が戦っていた場所を調べたらこんな物が仕掛けられていたよ」
緋色の女神が見せたのは半分に割れた何の変哲もないディスクだった。
「モンスターディスクと呼ばれる代物さ。正確にはそれを改竄した物と言ったほうが正しいかな。普通のモンスターディスクは雑魚モンスターを無限に発生させる物だけど、これは危険種が無限に発生するように改竄されているよ」
「危険種の数が明らかに多かったのはそれが原因だったのか。倒しても、倒した瞬間に別の危険種が現れるからおかしいとは思ってはいたけど、逃げる理由にはならなかった。私は母様の死の手掛かりが掴めると思ってクエストを受注したからね」
「君の意志の強さは私もあの場で直に感じ取ったよ。亡き母の意志を継いで真実を明らかにする…。絶対的に不利な状況だとわかっていても諦めずに立ち向かった君はすごい。自信を持つといい。それは私が持っていない君だけの強さなのだから」
緋色の女神は物欲しそうな視線をフェリアに一瞬だけ向けると説明を再開した。
「私の部下に調べさせた結果、召喚魔法の術式を改竄してディスクに組み込んでいることがわかった。そんなことができる奴等がいる可能性のある場所は魔法大国の煌めく金の大地しかない。罠を仕掛けた過激派の奴等はそいつらと繋がりがあったんだろうね。これを仕掛けた戦場に妨害魔法を張れば獲物を狩る為の巨大な檻ができるって寸法さ」
「救援を呼ぶための通信機が使えなかったのはその妨害魔法が原因だったということか…。母様はあの時の私と同じ状況下で戦い続けて…」
「本当に酷い話だ。君や君の母親は女神に忠誠を誓っていただけだというのにね。勿論一番悪いのはその過激派の屑共だろうけど、見て見ぬフリをして過激派の連中を断罪しなかった彼女も同罪さ。君はこれからどうしたい?」
「女神がそいつらを断罪しないと言うのなら、私が女神に代わって直接裁きを下してやる。母様を殺して私を殺そうとした屑共は勿論、そいつらの仲間も一人残らずに…!」
「女神に代わって裁きを下すと来たか…。面白いことを言うね。私が手に入れた情報だと過激派の連中と繋がっている奴等は煌めく金の大地だけではない。この緋色の大地や他の国にもいることがわかってるから規模は相当な物だよ? それでも君はやるというのかい?」
「何人いようと関係ない。邪魔をする奴らは母様と私の怒りが宿った撃槍で貫いてみせる」
「その純粋な怒りを宿した瞳、気に入ったよ。よかったら私の守護騎士になってくれないかな? 君がよければの話だけど…」
フェリアは緋色の女神の瞳を見ながら無言で頷いた。それから女神の力の転写実験を受けて見事に適合した彼女は後に六魔将と呼ばれる部隊の一員となる。緋色の女神の槍となり、主に逆らう愚者は勿論のこと、母を殺した過激派と繋がりを持つ者達を一人残らず貫いた撃槍の騎士。これが六魔将フェリアが誕生するまでの物語。
そして時は現在に戻る。緑の女神と甦った撃槍の騎士の決闘が再開されるのであった。