超次元ゲイムネプテューヌ 銀陽の女神   作:ミオン

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Game96:駆け抜ける烈風

最後まで騎士であり続けた母と自らの夢を失い、緋色の女神の槍となるまでの過去を話した撃槍の騎士フェリア。時を越えて巡りあった二人の槍使いの間を静寂が支配する。不思議なことに先ほどまで戦場を吹き抜けていた風も今この時は止んでいた。

 

「あなたのお話を聞いて彼女の言葉の意味がよく理解できましたわ。私達が守護女神になったばかりの頃の話ですが、私も自分の部下が心に秘めていた邪な感情に気付くことができずにその暴走を止められなかったことがあります。断罪は勿論しましたが…」

 

「あなたも似たような経験があるのだな。ならばわかるだろう? 邪な心を持つ者達を断罪せずにいつまでも放置していれば私の母のような犠牲が発生することは避けられない。ファントムハート様の能力は私個人としてはあまり好いてはいないが、人を自らの望むままに操るあの方の能力はそのような屑共を駆逐するための物なのかもしれないな」

 

「仮にそうだとしても彼女の悪行をこれ以上野放しにするわけにはいきません。何の罪もない一人の少女の心と体を自らの欲望のままに弄ぶ…。できるものなら私の槍の一撃をお見舞いしたいという気持ちで一杯ですわ。と言ってもあなたに一度も攻撃を当てられない私の実力ではそれは叶わぬ願い…。先日の闘技場で舞さんの姿をした彼女が言った言葉が脳裏に甦ってきました」

 

今代のゲイムギョウに亡霊として甦った自分を倒すことができるのは真のシルバーハートとして覚醒を果たした舞のみであると言い残してその場を去ったファントムハート。あの時は舞の姿をしていたがネプテューヌにその正体を見破られた後、ファントムハートの体から漏れ出していた邪悪で異質な彼女の力をベールを含めてあの場にいた全員が感じ取っていた。

 

「あの方の本気は凄まじいの一言だよ。私はそれを過去に一度だけ間近で見たことがある。あの方と銀の女神の本気の戦いを間近で見てみたいという思いはあるが、残念ながらそれは実現しない。私達の主であるファントムハート様に逆らう守護女神を倒すことが私達六魔将に与えられた任務なのだからな…!」

 

槍を構え直したフェリアの背中に光の羽が二枚現れた。それに併せてフェリアの力が上昇したことを感じ取ったベールは槍を握る両手に力を込める。再び戦場を一陣の風が駆け抜けるとそれを合図に二人は同時に駆け出した。

 

一定の時間が経過する度に力と速度を上昇させていくフェリアにベールは少しずつ追い詰められていく。気がつけば最初は二枚だった光の羽が四枚になっている。まだ増えるのかはわからないが、最初に打ち合っていた時とは比較ならないほどに強化されている。何とか対抗してきたが、遂にフェリアの撃槍がベールの体を捉える。

 

「くっ…!」

 

「遂に捉えることができた。もう逃がさない…」

 

復活することで得たフェリアの新たな能力。それは戦闘を開始してから経過した時間に比例して身体能力が強化されていくという物。強化の度合いに応じてフェリアの背中にある光の羽の枚数が増える。全く攻撃が見えないだとか、防ぐことができないということにはならないが、守護女神にして槍術の達人であるベールでも完全に対応できないほど。それほどまでに強力な力なのだ。

 

「あなたの翼はこれで使い物にならないな。機動性が落ちた状態で回避できるほど私の槍は優しくない。四肢を刺し貫いた後であなたの心臓を貫かせてもらう」

 

「プロセッサユニットを一撃で破壊されるとは思いませんでした。確かに翼のプロセッサユニットが破壊された状態では私の機動力は落ちます。それでも、私が諦める理由にはなりませんわ」

 

不安定な状態で浮遊していれば格好の的になるのは明らか。翼のプロセッサユニットを部分解除してベールは地に足を着ける。烈風の力を槍と両足に纏わせると同時に駆け出した。例え自身の翼を折られたとしてもその体が朽ちるまで最後まで立ち向かう。銀の大翼を持つ彼女も同じ選択をするに違いない。彼女と再び楽しく過ごせる日常を取り戻すという決意を胸に反撃の一手を繰り出す。

 

「狂乱怒涛の槍撃! レイニーラトナピュラ!」

 

それは音速に匹敵する槍の七連撃。最後の七連撃目がフェリアの体を捉えた。

 

「見事な槍術だ。だが、私の槍は音速を超える…!」

 

「負けませんっ…!」

 

常人には見えない程の速度で二人の槍がぶつかり合う。次の瞬間にはいつの間にかお互いに距離を取っていた。凄まじい戦闘の影響なのか体には無数の掠り傷が刻まれている。休む間も無く再び駆け出して激突する二人の槍使い。二人が交差した瞬間に強烈な突風が吹き抜けた。

 

「うあっ…!」

 

「くっ…!」

 

お互いの体にまた一つ傷が刻まれた。二人の力は微妙な均衡を保っている状態。このままぶつかり合い続けるといい結果で相打ち、悪い結果で自分の敗北となると言ったところだが、それでは駄目なのだ。何が何でも勝たなければならない。ベールは女神候補生達と舞が帰ってくる場所を守るために、フェリアは忠誠を誓った主の敵の一人であるベールをこの手で倒すために。フェリアの光の羽は最大数である六枚に到達して身体能力が限界まで引き上げられるがベールも負けてはいない。緑のクリスタルがベールの体の中に入ると、烈風が最終段階へとシフトした。強い雨が戦場に降り注ぐ。

 

「お互いに今出せる全力を発揮している状態と言ったところでしょうか。今の私に出せるのはここまでです。さあ、決着をつけましょう」

 

「そうだな。これではっきりすることだろう。どちらが生き残るのか」

 

烈風を最終段階にシフトさせたベールの髪の色は灰色に変わっていて、身に纏う黒いプロセッサユニットに美しい銀色のラインが走っている。大地を吹き抜ける風がベールの体を守るように包み込む。この状態のベールにはそう簡単に接近することはできないと言ってもよい。

 

さらにプラネテューヌの方角からは雷の音が聞こえていた。雨が降るのは烈風の能力の仕様なのだが、雷は烈風の能力では発生させることはできない。離れたこの場所まで聞こえてくる雷の音に強敵とぶつかり合っている一人の女神の姿が脳裏に浮かぶ。

 

自分を除いた五人の守護女神と四人の女神候補生も明日を迎えるためにそれぞれの強敵に立ち向かっている。自分もまた目の前の撃槍の騎士を倒さなければならない。

 

次に二人の攻防が止まるのはどちらかが敗れる時。フェリアは烈風の守護を前にしても物ともせずに攻め込んできた。音速をも超える刺突は目で見ることは叶わない。研ぎ澄ました感覚を最大限に活かして見切るしかないのだ。

 

「私はもう守護女神に負けるわけにはいかない…! あの方の槍となって守護女神の代わりに邪な者達を断罪する! それが私の全てなのだから!」

 

「私も負けるわけにはいきません! 悲しみを乗り越えて大切な人を救うために頑張っている妹達が帰ってくる場所を守るために、あなたを倒しますわ!」

 

ベールの槍の刺突がフェリアの速度を一瞬だけ上回り、槍を握る右腕を貫いた。直撃によって生じた隙を見逃さずに次の一手を即座に叩きこむ。

 

「キネストラダンスッ!」

 

すれ違い様に槍の一撃をお見舞いすると追撃で無数の風の刃が襲いかかった。

 

「そんなっ…!」

 

「これで止めですわ!」

 

終幕を飾るのはアリアが舞の記憶から引き出して再現してくれた槍使いの秘奥義。

 

「我に仇名す物を冥府へと送る…! 朧月の棺…!」

 

蹴りと槍による斬撃のコンボを叩きこみ、フェリアの体を宙に浮かせるとシェアの力で作り出した球状の結界に閉じこめる。最後に烈風とシェアの力を纏わせて巨大化させた槍を投げつけて結界ごとフェリアの体を貫く。

 

「覇王籠月槍っ!」

 

フェリアの体を貫いたと同時に槍が折れると、光となって消滅してしまった。守護女神になってからずっと使ってきた槍だったが、この激しい攻防に耐え切れなかったのだろう。ベールは落ちてきたフェリアの体を受け止める。それと同時に烈風の維持できる時間の限界に達したことで女神化が解除された。

 

「負けてしまったか…! 悔しいな…。大戦争で私の国の守護女神に負けた時と同じ気持ちだ…。あの時も今も私はどうして負けてしまったのだろう…?」

 

「今回の結果はリーンボックスの大地の力と私を信仰してくれている国民の皆さんの力があって掴むことができた勝利ですわ。当時のあなたを倒した女神も同じ理由だったと思います。彼女は自分を信仰してくれている国民の皆さんの思いだけでは無く自分の犯した罪もしっかりと背負っていたと思います。彼女の強い意志の力があなたの槍術を上回ったのでしょう」

 

「背負っていた物の大きさだけではなく、意志の強さでも私は既に負けていたと言うことか…。私は亡き母様の思いを背負っていたつもりだったが、母様を殺した奴らに対する憎しみが心の大半を占めていたと言ってもいい…。今の私を母様が見たら何と言われることやら…。怒られるのは間違いないだろうな…。母様の撃槍を使って多くの人の命を奪ってきたと言う罪は長い時が過ぎても決して消えることは無いのだから…」

 

「これは私個人の意見ではありますが、その撃槍は相手に自分の思いを届けるための槍なのではないかと思います。一度でその思いが届かなければ何度でも挑戦すればいい。決して諦めない強い意志の力と共にそれを振るう時に何者をも貫く無双の一振りになるのではないのでしょうか?」

 

「憎しみに呑まれているようでは母様のような騎士になることは到底叶わないということだな…。緑の女神よ、最後に私の願いを聞いてほしい」

 

「なんでしょうか?」

 

「私という存在はここで消滅するが、もし奇跡が起きて生まれ変わることができたとしよう。そしてもう一度あなたと巡りあえた時は私をあなたの騎士にしてほしい…。それが起こり得る可能性など無に等しいのかもしれないが…」

 

「例え無に近い可能性であったとしても、ゼロでない限りは信じる価値はあると私は思います。あなたの願い、緑の女神グリーンハートが確かに受け取りましたわ。いつの日かあなたと再び巡りあう時を楽しみにしています」

 

「あなたに出会えて本当によかったよ…。どうやら、時間のようだな…。いつの日かまた会えることを願って眠りに就くとしよう。ベール、この世界のことを頼んだよ」

 

ベールに願いを託したフェリアは光となって消滅した。消滅した後に残されていたのは純白の撃槍。これを今度は自分の騎士となった彼女に渡せる日が来ることを願ってベールは純白の撃槍を手に取る。

 

「彼女の願いに応えるためにもまだまだ死ぬわけには行きませんわね…」

 

守護女神は人々の信仰心によって生まれ、その信仰心からなるシェアエナジーを自らの力とすることで国を守護して国民を導く。人々の信仰が途絶えない限りは守護女神として存在することができるが、それは完全なる永遠ではないのだ。人々が新たな守護女神を望み、自分達は忘れ去られてしまうということも十分にあり得る未来の可能性の一つ。かつてゲイムギョウ界を守護していた古の女神達もそうやって消滅していったのだから。

 

今を精一杯生きるということも守護女神である自分達に課せられた義務なのかもしれない。時には対立することもあれば、バカみたいに笑って楽しむこともある。そんな日常をこれからも守り続けて行けば、彼女ともいつか再び巡りあうことができるかもしれない。ベールは純白の撃槍に誓いを立てる。

 

「少し休んでから帰りましょうか…。それにしてもまだ鳴り響いているようですわね…」

 

プラネテューヌの方角から聞こえてくる雷の音。強い雨は烈風を解除したことで止んだのだが、未だに鳴り響いている雷は彼女がまだ戦っていることを示している。

 

「私が乗り越えられたのです。あなたが乗り越えられないことはありませんよね? そうでしょう? ネプテューヌ…」

 

レツゴウアイランドにて六魔将リリムとの決闘を繰り広げるネプテューヌ。魔神の烙印である彼女の凶悪な能力に苦戦を強いられていた。

 

「きゃあっ!」

 

「うふふ…。だいぶいい声を出すようになってきたわね? いかに女神と言えども私の能力に長時間耐え続けるのは厳しいでしょう?」

 

ネプテューヌの背中には鋭い爪で引っかかれたような傷が刻まれていた。甦ったことで得たリリムの能力は相手に与えた傷を時間と共に広げる能力。女神化を行使したネプテューヌに対抗する形で魔神化と呼称される能力を行使したリリムの双角と黒翼からは禍々しい紫光が漏れ出している。さらに両手は人間の物ではない狂気を紡ぐ悍ましい魔神の物に変化していた。ネプテューヌの背中の傷は時間と共に広がっていき、その体を蝕んで行く。

 

「まだっ…! 私は倒れるわけには…いかないのよっ…!」

 

「あなたは今まで私が引き裂いてきた奴らとは一味違うようね。そんなあなたに敬意を表して私の真の姿を見せてあげる」

 

リリムの体から禍々しい黒の霧が放出され、星空を塗りつぶし始めた。さらに右の角と翼と腕が漆黒と対を成すかのような白金色に染まる。まるで左側が闇、右側が光を体現しているかの如く。

 

「驚いたかしら? 主様や他の六魔将が言うには大戦争の時に本気でブチ切れて我を忘れていた私はこの姿で暴れまわっていたらしいわ。甦ったことで自在に操れるようになったから自分から進んで見せるという芸当ができるようになったわけだけどね。私のこの姿を見た敵の兵士達はこう言ったそうよ」

 

―存在してはならない者。この世界に生きる全てと相容れない者―と。

 

「勿論、そんなことを言った奴等は一人残らず引き裂いてあげたわ。あんな奴らに私の存在意義を決められてたまるかって話なのよ。現に私はあなたとこうして言葉を交わすことができているというのにね…。だからあなたが友達になってあげる、傷つけようとする奴等から守ってあげるって最初に言ってくれた時は本当に心の底から嬉しいと思うことができたわ」

 

「なら私はあなたの友として、あなたを倒してみせる。これ以上、人の命を奪わせるわけにはいかない…。今のあなたは間違っている。あなたの主であるファントムハートは必ず舞が倒す。私はそれを支えるだけよ」

 

「その体で果たしてどこまで持つのかしら? 背中の傷の痛みもかなり激しくなってきたでしょう? 諦めて大人しく降参するというの選択肢の一つよ?」

 

「それは丁重に断らせてもらうわ。私達に諦めるという選択肢は初めからないのよ…!」

 

ネプテューヌが持っていた紫のクリスタルが姿を現すとその体に入る。星空を覆い尽くした黒の粒子を突き破って飛来した紫の雷がネプテューヌに直撃した。髪の色は舞と同じ黒色に変化してその体からは紫色の粒子が漏れ出している。バチバチと音を立てているそれは非常に密度の濃い雷属性の魔力。黒と紫を基調としたプロセッサユニットは淡い青緑色になった。激しく明滅を繰り返しているプロセッサユニットの表面には電気が走っている。これが紫電の最終段階である。

 

「その状態から一段階上の能力を発動させるとはね…。本当に恐れ入るわ。それが主人公の力という物なのかしら?」

 

「この場は敢えてこう言わせてもらうわ。これが私達の力よ。この力は私一人の物じゃないわ。勿論、私が普段から振るっている力も同じ。決着を着けましょう。魔神の烙印リリム」

 

「望むところよ! ネプテューヌ! いや、紫の女神パープルハートっ!」

 

戦場の空には雷鳴が轟いていた。雷神と魔神の激闘も終局へと向かい始める。

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