地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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至らずされど伺えず

「さて、お仕事するっスよ。お仕事!」

 

どうやら今から審問開始のようだ。机に置いてるタブレットに情報が送られ、亡者が獄卒に連れられやってくる。

見た目は70前後の女性。一見した印象は、人あたりが良さそうで善人感が強く感じる。こちらを見ると一礼をした。

 

こちらも一礼して、タブレットに送られた情報を見る。

 

 

江野川 はつゑ:享年66 死因:多臓器不全における心不全。

 

罪状:当人が経営していた飲食店において、酒類を水で薄め販売していた模様。その際、酒の料金は通常の1.5倍ほどの値段に設定した模様。

 

 

今回は、以前の後藤の時よりわかりやすい方か。酒類を薄めて販売し、多額の利益を与えていた場合は叫喚地獄の火末中処が当てはまったはず。

 

ただ、この判断で良いのだろうか。少しだけ、なにか違和感を感じてしまう。例えるなら、木を見て森を見ずと言ったところだろうか。そう考え、タブレットに手を伸ばし、詳細を調べる。

 

……あった。これが違和感の正体だろう。

巻尾さんにいちおう確認してもらうと、

 

「種田さんはこういう風に判断したんすね。こっちからいうことは特にないっすよ。判決はお任せするっす。」

 

「そんな感じでいいんですか?」

 

「種田さんがちゃんと考えて、決めたのならそれが一番っスから。間違ってたらあとでネチネチ言われると思うっスけど……」

 

そういうことらしいので、判決を決め、タブレットに打ち込む。いくつかの地獄が選択肢にあるのが伺えたが、今回はその上のタグをクリックする。

 

天国行き:罪状は変わらないが、罪を犯した時期が戦時中〜戦後のため、情状酌量の余地ありと判断。

 

罪状を述べ終えると、彼女は来た時のように、だがその時以上に深く一礼をし、獄卒が亡者を連れ扉の奥に下がっていった。

 

◇◇◇

 

以前のように、顔見知りではなく全くの他人だとこういう感覚になるのだろうか。経験が少ないため、今回の判決が正しかったのかどうかは正直なんとも言えない。その事を巻尾さんに聞くと、しばらく一考した後答えてくれた。

 

「うーん、大丈夫だと思うっスけどねー。彼女の場合、亡くなった後の法要がきちんとされているようですし。犯した罪を償うというよりは、犯してしまった行動を反省するのが大事なんスよ。だから今回の判決も妥当と判断することもできるっス」

 

やはり地獄にも情状酌量という考えがあったようだ。もしそうだとすると彼女自身がきちんと反省できていれば、天国に行き、次の生につながる。そういうことなのだろう。

 

 

その後、先ほどの亡者と同じような罪状の亡者を裁き終えると、誰かが扉をノックする。訪問されるような間柄は、片手で数えるより少ない。

 

疲労困憊の中、扉を開けると紙袋を携えた佐藤さんが立っていた。

 

「お疲れ様です、種田さん。審問はちゃんとできましたか?」

 

「ええ、なんとか。まさか佐藤さんが直接来るとは思ってませんでした。メールが送られて来た時は、どうしたのだろうと思いましたが」

 

「いえ、少し天国の方に用がありまして。ついでに、私用もいくつか済ませて来たと言ったところでしょうか。巻尾は、ちゃんと業務できてましたか?」

 

そう言われ、巻尾さんを見て見るといつの間にか隣で待機していた。さしずめ、主人を待つ犬といったところか。よく見ると、犬耳と尻尾が出ており、尻尾はモーターが壊れたワイパーのごとく振れていた。

 

「ちゃんとできてたっスよ!!ところでそれ食べ物っスか?なんかめっちゃいい匂いするっス!」

 

「ええ、カステラをいただきました。あなたの分もちゃんとありますよ。食べたいのでしたら巻尾は、お茶の準備をしてください。私は、取り分けますから」

 

佐藤さんが紙袋から箱入りのカステラを取り出し、人数分の皿に取り分ける。それは、黄金色の眩い後光がさすような見事なカステラだった。少し離れていても、甘い香りが-室-の中を充満していく。

 

目の前に、取り分けられたカステラを頬張る。それは、上品な甘さで少しもくどくなく、口の中でホロリと溶けるような口溶けだった。

 

「美味しいですね、このカステラ。こんなに美味しいのは、初めて食べます」

 

「お気に召したのなら良かったです」

 

「いやー、ホントに美味いっスね!!こっちに住んでても、天国のカステラはそう滅多にお目にかかれないっすから今日は味わい尽くすっス!!」

 

湯飲みに注がれた、渋みの強い緑茶をすすり、口の中を整える。こっちに来てから、美味な物ばかり食べている気がする。元々の基準点が低すぎたのだろうか、それともこちらの食べ物がどれもレベルが高いのだろうか。

 

それに関しては、未だによくわからない。が、ひび割れた心を満たすような不思議な感覚を味わった。

 

 

 

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