地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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そこからは皆総動員で鏡を元の形に戻す作業をしていく。時間がかかったが徐々に形が成っていくのがわかる。

 

気づくと、誰かの腹の虫が空腹を訴えた。

 

「……少し休みましょうか」

 

「そうですね。食堂にでも行きますか」

 

「確か今日は全体清掃で今の時間は空いてなかったはず……一応確認してみます」

 

佐藤さんはそう言うと、端末を操作して確認をしていた。腕全体を伸ばすと、どこかしらの関節から音が鳴る。周りを見渡すと皆疲れているようだった。

 

そういえば何時間も集中していたから仕方ないか……そんなことを考えていると、いつのまにか轟が横に座り込んで遠くを見るようにしていた。

 

「なぁ……少しいいか」

 

「ん?何かあったか」

 

「この鏡を組み立てることはいいんだけどよ……その、だな」

 

「はっきり言えって」

 

「……わかった。なんで犯人たちはこの鏡を欲しがってるのか。それが分からねぇんだ。色々と考えたがそこだけが抜けててどうもな……」

 

そう言われると何も言えなかった。犯人たちの目的も今回の鏡も点と点であって線では繋がっていない。どことなくモヤモヤとしてしまう。

 

「まぁ、理由なんてものはどうだっていいんだよ」

 

「そういえばどうして手伝いにこようと思ったんだ?」

 

「そうだなぁ……一つはちょっとした勘だな。なんかわかんねぇけど昔から勘だけはいいんだよ」

 

「そうか……」

 

「後はほら、あの犬の人。名前なんて言ったっけ」

 

「巻尾さん?」

 

「そう、あの人が忙しなく走っていくのをみたからもしかしてお前関連のやつかなと思ってな。ちょうどそのタイミングで仕事も落ち着いたし後ろをつけてきたってところだ」

 

「そうだったのか……ありがとう」

 

「よせよ。手が届く範囲だったら助けるのが俺の信条なんだ」

 

「……なんかそれ、いいな」

 

「そうか?」

 

「あぁ、すごくかっこいいよ」

 

轟とそんな話をしていたら、佐藤さんがため息をひとつついた。その様子だと、どうやら食堂は空いていないらしい。

 

「どうでした?」

 

「やはり清掃が行われてますね。……少し待っていてください。今からだったら米くらいなら炊けるはずです。巻尾!」

 

「何スか、先輩」

 

「今から米を炊くので手伝ってください。後、色々と添えるものを準備しようと思います」

 

「わかったっス!じゃあ急いで準備してくるっス!」

 

「ということなので、少しの間だけ失礼します」

 

「わかりました。残りを頑張って仕上げればいいんですよね?」

 

「その通りです。では、お願いします」

 

佐藤さんと巻尾さんは、いつもとは違う鍵を使い扉を開け、そそくさと出ていった。後に残ったメンバーは全員総出で鏡を元に戻す作業に従事していく。

 

いつ終わるのかはわからない。犯人たちからの連絡も来ない。終わりの見えないというのはとても辛いことなのだと嫌でもわかった。

 

◇◇◇

 

「さて、まずは米を研いで釜に入れて給水させましょう。巻尾は冷蔵庫の中にあるもので適当に作ってください。足りなければ取り寄せるよりも走っていった方が早そうですね」

 

「了解っス!そうっスね……とりあえず玉子を使って玉子焼きを作るとして後は漬け物とかウインナーとかあるといい感じっスね」

 

「漬け物は先日あげたものがあったはずなので……ウインナーは冷凍庫になかったらないですね」

 

「冷凍庫冷凍庫っと……うーん、どうやら見当たらないっスね。先輩が米研いでる間に汁物の準備しておくんでそれが終わったらちょっくら走って行ってくるっス!」

 

「お願いします。たしかミトカワが今の時間でも空いてるはずなので」

 

「わかったっス!あっ、レシートはどうするっス?」

 

「一応領収書を貰ってきてください。名義は閻魔様名義で」

 

「わかったっス!」

 

そう言った後、手慣れた様子で汁物の下準備を始めた。冷蔵庫から厚揚げと塩漬けのワカメを取り出し、厚揚げは賽の目より少し大きめに切り、ワカメはボウルに水を張ってそこに漬け、塩を落とすように何度か繰り返す。塩を落とし終えると、程よい大きさに切り、ざるに広げた。

 

「こっちは準備オッケーっス!」

 

「こちらも研ぎ終えました。しばらく浸水させます」

 

「じゃあちょっと買い出し行ってくるっス!」

 

「お願いしますね」

 

静かになった部屋を見渡す。どうやらいいのか悪いのか昔とは変わってきているのかもしれない。ただ、まだ自覚というものは正直わからない。

 

地獄に流れ着いてからけっこうな時間が経った。ここは、ある意味とても新鮮で現世とはまるで違う世界だ。

 

いい思い出ばかりではない。辛酸をなめるようなことも一度や二度ではないし今思い出してもかなりきついくらいだ。

 

でも、それでもあの日、ここに流れつかなければ……少なくとも今の私はここにいなかったかもしれない。

 

少し、昔のことをふと思い出す。

 

「もし」とか「たら」とか「れば」とかいうことは自由だけどその選択をとったことを後悔しないように生きようと決めたあの日。

 

生涯忘れることはないであろうあの日。

 

私が私であることを決定づけた日。

 

少しだけ振り返ってみようと思う。

 

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