地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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少しの変化と気遣いを

カステラを食した後、今日の審問で疑問に思った事を佐藤さんに聞く。巻尾さんに聞こうと思っていたが、佐藤さんがいるのなら両人に聞けるタイミングはここしかないだろう。

 

「そういえば今日の審問で、数人のおそらく死後40年以上たった亡者の審問をしたんです。もしかして、いまだに裁けていない亡者ってかなりいたりします?」

 

「あぁ、それですか。そう疑問に思われるのも仕方ないと思います。種田さん、面接をした時にお話ししたことを憶えていますか?」

 

面接のとき?たしかこの間のことだったはず……思い出そうと頑張ってみるがどうもハッキリしない。思い出そうと記憶を遡るために頭を捻るが、うんうん、と唸るばかりで一向に思い出せないでいると、佐藤さんが口を開く。

 

「以前もお伝えした通り、亡者の数は数が常に多く裁ききれていない状況というのは教えたとおりです。ところで、亡者が増える条件というのはいくつかあると思いますがわかりますか?」

 

「亡者が増える、ですか?うーん、景気が悪くなったりとかですか?」

 

「それだと首の皮一枚の赤点回避といったところですね。答えは、争いと病です」

 

「争いと病‥争いは戦争で多くの死人が出るのはわかるんですが、病ってそんなに死ぬんですか?」

 

そう聞くと、佐藤さんの表情は暗く、若干ながら目が濁っているように見え、巻尾さんに関しては呆れ顔を隠せていないように見える。雰囲気を察し、話題を変えようとすると、佐藤さんが重い口を開いた。

 

「そう言えば種田さんは、罹災経験者ではなかったんでしたね。たしかにここ数十年は、種田さんの周囲では戦争や病は起きていませんが、実際はいつ起きてもおかしくないんですよ」

 

「ほんっと何も大きなことが起きてなくて幸運だと思わなくっちゃダメっスよ。目の前で、知らない他人も知ってる身内もみーんな死んじゃうのは思い出すだけでもキツイっスから」

 

「……失礼なことを言ってすいませんでした。」

 

「……別にいいっスよ。忘れたくても忘れることなんてできっこないんスから。こんな記憶でも誰かに言えたらそれはそれで楽になるんスよ。なんで気にしないでいいっス」

 

どうやらこの話題は、二人に特に巻尾さんにとって踏み込んではいけないラインのようだ。迂闊にも踏み込んではいけないところに踏み込んでしまった……そう気付いた時にはもう遅く、空気は重く心臓の音さえ耳に響いていた。

 

◇◇◇

 

「そういえば種田さん、明日はお休みですがご予定は?」

 

重くなってしまった空気を崩すように佐藤さんが話を振ってきた。正直凄くありがたいと感じると共に、フォローしてもらいっぱなしなのは悪く感じてしまう。

 

「あれ?明日は休みなんですか?」

 

「はい。こちらも、面接の時に説明させてもらいましたが、とくに今の種田さんには休息が必要だと思います。」

 

「特に予定はないのですが……」

 

「そうですか。では、なにかしたいことはありますか?」

 

したいこと……とくにこれといって思いつかない。現世にいた時は、適当にスマホで時間を潰してた気がする。が、何がしたいと言われてすぐに答えられない。

 

「その様子だと、とくにやりたいことはないようですね。わかりました。では、時間を潰せるような場所をいくつか案内しましょう。巻尾、あなたもついてきなさい」

 

「わかったっス。ところでどこから行くっスか?」

 

「そうですね……まずは図書室あたりでしょうか」

 

◇◇◇

 

佐藤さんと巻尾さんに案内され、図書室と呼ばれた場所についた。そこは、両開きのかなり大きな扉があり上には金属製のプレートに『図書室』と彫り込んであった。

 

「では、入りましょうか」

 

佐藤さんがそう言いノブをひねると、そこには高さ数メートルはあるであろう大きな本棚がいくつもあるとても広い空間が広がっていた。天井までの高さは、数10メートルはあるだろうか。その天井には、クラシックなデザインの照明がいくつも吊り下がっている。

 

「これは……すごいですね」

 

「ここは、図書室といいましたが実際は資料室といったほうが分かりやすいでしょうね。ここには、ありとあらゆる書物が揃っています。おそらくですが、現世にある本とよべるものはほぼほぼあるのではないかと」

 

全ての本……そう聞くと圧倒されてしまうほどの量だ。一番近くのラックを覗くと、文芸誌にゴシップ誌、はたまた学術誌まで多くのジャンルをフォローしてある。

 

「ここにある本ってアーカイブ化されてないんですか?」

 

「分類分けや逆引きはしていますが、書籍のアーカイブはまだまだ追いついていない状況ですね。アーカイブ化も、元々は有志が個人的にやり始めたのがきっかけですし、そもそもタブレットなどもここ最近使いこなせるようになったくらいですから」

 

「そもそも地獄だと、本は現物で読みたいってやつが結構な割合でいるんスよ。だから、あんまり熱心にアーカイブ化してるやつの方が少数派なんス」

 

地獄も、現物派とデジタル派で別れてはいるようだ。が、おもっていた通り現物派が優勢のようである。そもそも、タブレットですぐに読める状況ならここまで図書室も盛況ではないだろう。

 

ちなみに俺は、漫画などはデジタルでもいいが、その他の雑誌は選べるのならば現物派である。なお現世にいた時は、面接に落ちまくってけっこう切り詰めた生活だったから手持ちの書籍等はほぼほぼ売り払っていた状況なだったが。

 

「種田さんもなにか借りてみてはどうですか?」

 

「うーん、今とくに読みたいという本は思いつかないんですよね……」

 

「そうですか。種田さんの私室にもありますが、タブレットの中のアプリで借りることができるのでよかったら使ってください」

 

「アプリで貸借できるんですか?それは便利ですね。読みたい本が思いついたら、借りてみることにします」

 

今すぐに読みたい本は見つからないが、何か読みたくなったら使わせてもらうことにしよう。

 

◇◇◇

 

佐藤さんと巻尾さんと一緒に、図書室を後にし次の場所に案内してもらうことになった。

 

「今すぐに案内できる場所はそうですね……近場ですと案内できるのは売店ぐらいでしょうか」

 

「あー、そうっスね。よく使う場所というとそこは外せないっス。他にも案内したいところはいくつかあるっスけどちょっと面倒なんスよねー」

 

「なんかめんどくさい事情があったりするんです?」

 

「そういう訳ではないんですが……種田さんは地獄にきてまだ日が浅いですよね?ですから申請の書類等がまだ揃ってない状況なんです。ですので、本来ならば案内したい場所はまだ下の階層にあるのですが、種田さんにはまだその権限が譲渡されていない、という状態になります。なので、現状案内できる場所というと売店ぐらいしか残っていないんです。そういうことなのでよろしいですか、種田さん?」

 

「そういう理由だったんですね。だったら、案内をお願いします」

 

もともと現世から地獄に就職した身だ。本来ならもっと時間がかかってもおかしくない、と考えれば多少は気が楽になる。たしか大学の同期で、入社してから3ヶ月は正規採用扱いにならないとかいっていたやつもいたからそれよりかは幾分マシだろう。

 

そう考えれば、マシーーいつからこういう考え方に至るようになっただろうか。記憶ははっきりとしないが、昔……子供の頃は、こんな考え方はしていなかったと思う。少なくとも、希望が叶わず絶望するデメリットよりも自分の望むメリットの方が大きく輝いて見えたものだ。

 

今よりも少しだけーーほんの少しだけ前向きに考えれば、今よりもいい状況になるのだろうか。なるのだとしたら、これは今までの自分を変えることができる……気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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