朝の光が窓から差し込む病室は静かだった。はなはまだ眠っている。昨夜の激しい出来事が嘘のように、彼女の呼吸は穏やかで安らいでいた。
隣に座る佐藤さんが、小さなため息をついて言った。
「もうすぐ退院ですね。でも、無理はさせられませんよ」
「そうですね……これからが本当の勝負かもしれないですから」
窓の外を見ながら答えた。地下施設での戦いは終わった。しかし、はなの体と心の状態はこれからどうなるか、まだわからない。けれど目の前の彼女は確かにあのはなであり、これからも守っていかなければならない存在だ。
その時、はながゆっくりと目を開けた。瞳はまだ少し眠そうで、それでも確かな意思が宿っているように感じられた。
「おはよう、はな」
「……おはよう」
その声は少し落ち着いていて、あの子のままだった。以前よりもずっとしっかりと。
「気分はどう?」
「ちょっと疲れてる。でも、大丈夫」
その答えに、ほっと安堵した。どんなに変わっても、はなははなだ。けれど無理は禁物だ。
朝食の時間、佐藤さんと改めて話した。
「この先のこと、どう考えていますか?」
「体の変化はまだ落ち着いていません。それに回復には時間が必要だろうし、精神面のケアも不可欠です。焦らずゆっくり進めるしかありません」
佐藤さんの声には冷静さと優しさが混ざっていた。
「それに、普通の日常に戻ることも大事です。はなちゃんが安心できる場所を守ってあげることが、なによりも大切だと思います」
黙ってうなずいた。そうだ、焦ってはいけない。
退院の手続きを終え、病院を出た。外は晴れ渡り、風が心地よく吹いている。
はなは少し歩きづらそうにしていたが、一歩一歩を確かめるように前へ進んでいた。
「ゆっくりでいいからな」
そう声をかけると、はなが少し笑った。
「うん、ありがとう」
帰り道、端末が震えた。巻尾さんからの連絡だ。
『報告書、確認したっス。特に問題はないっスね。はなちゃんの体調も引き続き注意しながら、しっかり見守ってほしいっス』
俺は画面を見つめて、少し安堵した。
家に戻ると、はなは窓の外をじっと見ていた。
「なにか考えてる?」
声をかけると、彼女は少しの間黙ってから答えた。
「外の世界は……怖い。でも、それでもここが私の場所なんだって思う」
俺はそっと肩に手を置いた。
「怖いのは当然だ。これからも守るから、一緒に進もう」
はなは小さく頷き、そして微笑んだ。
「ありがとう。……これからもよろしくね」
その笑顔を見て、俺はわずかな光を感じた。未来はまだ見えないけれど、確かに始まっている。
外の世界は変わらず動いている。色々と変化することもあるだろう。それでも、はなと共に、新しい日常を築いていくのだ。