地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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少しばかりの買い物 と卑屈な隣人

佐藤さんと巻尾さんに案内され、売店にやってきた。売店といって思い浮かんだのは、高校や少し大きい総合病院の中に併設されているものを想像していた。

 

今、見える正面は3メートル四方ほどの高さの入り口が見え、店舗名だろうか「MITOKAWA」と書いてある周囲より少しだけ目立つネオンが印象的な倉庫といったらところだろうか。

 

周囲には、同じ目的らしく数人単位のグループがいくつか見受けられる。入り口の前にある認証用の端末だろうか?それに手のひらをかざし、画面に顔を向けると通行許可と画面に表示されている。これで売店に入れるようだ。

 

中に入ると、そこは店舗というより倉庫といった印象を受ける。置かれている商品は、菓子類や飲料、たばこや酒類ととくに目立った商品というのは見受けられない。

 

その奥のほうにまるで隔離されているがごとく、小さなクーラーが置いてある。中を覗くと、そこにはあの意識を持っていかれた閻魔様監修のドリンク剤が鎮座していた。

 

「アレ……置いてあるんですね」

 

「はい。多少なりとも需要が見込めますから。ただし、飲むかどうかは自己責任の範疇ですが」

 

「アレくっそまずいんスよねー……好き好んでガブガブ飲んでるやつはたまーにみるけど正気を疑うっス……」

 

「……だーれが正気を疑われるんだい?」

 

その声に驚き、後ろを向くとそこには不動明王のような烈火の如くオーラを纏うヤミー様が腕を組んで佇んでいた。幼い見た目ではあるが、世紀末覇王のようなプレッシャーを感じ、思わず生唾を飲み込む。

 

その姿を見た巻尾さんは、鳩が豆鉄砲を食らったように驚き、佐藤さんの背後に身を隠してしまった。

 

「ぎゃああああ!!でたっす!!ごめんなさいっす!!もう悪口言わないっす!!」

 

「まったく……好き嫌いは個人の好みなんだからともかく、誰が聞いてるかわからない場所で悪口をいうのはあまり感心しないな」

 

「ヤミー様、どうされたんですか?昼食の時間はまだ先のようですが?」

 

佐藤さんが、手首につけた腕時計を確認する。そういえば先ほど間食を食べたから、そこまで空腹には至っていないが、まだ昼食には時間があるように感じる。

 

「たねちんはたしか明日が休みになると思ったから、佐藤が何かしら案内するだろうと思ってね。たねちんに施設を案内するんだとしたら、ここに来るだろうと思って行動しただけさ」

 

「お、恐ろしき思考回路っす……灰色の脳味噌もビックリの思考回路っす……」

 

口には出さないが、そこは巻尾さんと同意見である。もしかすると閻魔様、地獄全体のスケジュール把握してたりするのだろうか。

 

「ヤミー様、でしたらお戻りください。まだ、業務も残っているんじゃないですか?お昼でしたら、一緒に食べますから」

 

「えぇー、佐藤たちだけズルイよー……しょうがない。少し買いものしたら持ち場に戻ることにするよ……あと、まっきー。次、悪口言ったら全力デコピンだからね」

 

そういうと、閻魔様はクーラーボックスからドリンク剤を一本取り出し、腰に手を当ていっきに流し込んだ。

ちなみに巻尾さんは、この世の終わりかというほどにガタガタと震えていた。

 

「じゃーねー、佐藤。たねちん。まっきー。また、お昼に会おう!」

 

◇◇◇

 

まるで台風のように閻魔様が過ぎ去ったあと、商品を眺めていく。一見した際の商品の印象としては、とくに変わった点は見受けられない。おそらく、少しパッケージが違うだけで現世に流通してるものとそうは変わらないのだろう。

 

なのでいくつかのものを身つくろい、会計をすまそうとする。が、周りを見てみると、会計が見当たらない。買い物を済ませたと思われる獄卒たちは各々、商品を手に持つなり風呂敷に包むなりして入り口から出ていく。

 

「佐藤さん、レジってどこにあるんですかね?」

 

「種田さん、そのまま正面からでて大丈夫ですよ。その際に、支払いは完了しますから」

 

「え!?」

 

驚く俺を尻目に、佐藤さんと巻尾さんは堂々と正面から店を出ていく。本当に大丈夫だろうか、と心配になりながらも2人の後ろについていくと、何事もなく店を出ることができた。

 

「入り口の認証端末に触れた際に、指紋・瞳孔・チョーカー・ピンの紐付けが完了し、入店できるようになります。支払いは、個人の支払い口座から自動で引き下ろしされますよ」

 

「へぇー、便利ですね。このネクタイピンとチョーカーにそんな機能あったんですね」

 

「厳密にいえば、チョーカーにその機能は付いていません。どちらかといえば、ピンについてると考えてください」

 

「え、じゃあこのチョーカーは?」

 

「そのチョーカーには、バイタルなどの情報を常に捉え、異常があれば責任者……現状は私になりますが、通知が送られるようになっています。ですので、もし緊急を要する場合速やかに駆けつけることができるようになってます」

 

チョーカーにそんな機能があったとは……まぁ、チョーカーといってはいるが実質首輪なんだよな、これ。見た目スタイリッシュになってはいるが。

 

「……チョーカーは現世から地獄にきた人間に、全員つけるようになってるんです。以前、食堂で奇異の視線に晒されたような経験はありませんか?」

 

「初日の食堂で、視線は感じましたが……あれってそういう視線だったんですか?」

 

「説明が足りず、申し訳ありません。できれば、もっと早く伝えておけばよかったのですが」

 

「別にいいですよ。何かしら必要だからつけているんでしょう?だったらそれでいいです」

 

そう言ったが、佐藤さんは申し訳なさそうに視線を流す。

佐藤さんも、何かしらの責任を感じているのだろう。

 

◇◇◇

 

その後、閻魔様含め4人で昼食をとった。とくに変わったことはなかったが、視線というものは意識すれば感じるもので、晒されている感覚はすごく感じた。例えるならば、動物園のパンダといったところだろうか。

 

その後、自室に戻りベッドに横になる。以前と変わらず、部屋は思った以上に殺風景で物足りない印象を受ける。

 

明日はどうしようか……そう、頭の中で考えていると隣の部屋だろうか、金属を削るような音や何かを打ち砕く、そんな大きな物音に意識が持っていかれた。

 

しばらくすると、音は鳴り止んだ。が次の瞬間、大きな破裂音が窓から響き、窓ガラスが震え、思わず身を守る体制に入った。

 

またしばらく後、伏せた状態から体を起こし部屋を確認する。よかった、なにか壊れているようなものは見受けられない。

 

音は、先ほどの隣室からだろうか……様子見と少しばかりのクレームを胸に、廊下を出て音が聞こえた右側の部屋の扉をノックする。

 

しばらく待つと、蝶番からきしむような音とともにわかりやすく技術屋といった印象を受ける男が出てきた。背格好は少し痩せ気味、顔色は悪くなかったが、目の下にはクマが広がっている。声をかけるのも戸惑ったが、心配にもなったので思い切って話しかけた。

 

「だ、大丈夫ですかっ!?」

 

「あ……はい。なんとか。あなたは?」

 

「えーと……いちおう、隣のものです。先ほどの破裂音は一体?」

 

「あー、すいません。新しい発明品を作っていたら盛り上がってしまって……ご迷惑をおかけしたなら謝ります。」

 

なんだろう、この人……不思議というか変な人だな。

人というか獄卒といったほうが正しいんだろうか。よく見ると、額には片方に角のような突起が見える。

 

「いえ、大丈夫ですが……いちおう気をつけてくださいね。俺はともかく、他の人になんて言われるかわかんないですから」

 

「はい、すいません。あ、お名前よろしいですか?ここでこうなったのも何かの縁ですし……あっ、嫌ならそれでいいんですよ。私なんかに関わってくれるひとなんかいないんですし……」

 

「そこまで卑下しなくても……種田っていいます。なにかあったら、遠慮なくいってください」

 

「ありがとうございます。あっ、申し訳ありません。私、日下部と言います。技術開発局に所属してます」

 

 

 

 

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