薄暗い部屋の片隅で端末の画面を見つめていると、不意に胸の奥がざわついた。観測装置のログに混じるノイズが、ただの技術的誤差とは思えなかった。
何度も波形を見返すうちに、心の中に冷たい違和感が広がる。こんな些細なことで、これまで築いてきた秩序が崩れるのか。
端末が震え、佐藤さんからのメッセージが届く。丁寧な口調の文章が、逆にこの異常さを際立たせていた。
彼女の部屋に向かう足取りは重かった。心のどこかで、この調査が自分の知らない闇に触れることを予感していた。
これまで経験してきた不穏な事象が脳裏をよぎり、恐怖と好奇心が入り混じる。だが、目をそらすわけにはいかなかった。
佐藤さんの言葉は冷静だったが、その目には隠しきれない焦りが滲んでいた。
「ノイズの件ですが……観測データに異常な信号が混入しておりまして、原因の調査をお願いしたいのです」
種田は疑念を隠せずに尋ねる。
「単なる機器の故障とは思えませんか?」
彼女は首を振り、深いため息をついた。
「ここ(地獄)も一枚岩ではないということです。いろんな思惑が絡んでいる可能性が高い」
その言葉が胸を締めつけた。自分たちが守ろうとしている秩序が、内側から揺らいでいるのかもしれない。
ログに戻り、ノイズのパターンを再び解析する。神格化システムの反応と重なる時間帯に集中している。偶然ではない。
あの夢のような接触の感覚が甦る。あの時の圧迫感、言葉にできない不安。ノイズと繋がっている可能性に、思わず震えが走った。
心は揺れていた。調査を進めるべきか、それとも知らぬふりをして過ごすべきか。
だが、沈黙は許されない。真実を見つけ出すことで、さらなる混乱を防げるかもしれない。
報告をまとめる手が震えた。これを伝えれば、自分の身にも影響が及ぶことは明白だった。
だが、役目を果たすためには動かなければならない。重い決意を胸に、種田は歩み出した。
薄明かりの中、揺れる自分の影が映る。新たな局面の始まりを告げる予感が、静かに迫っていた。
◇◇◇
佐藤さんからの報告を終えた直後、次の指示が届いた。
「点Aと点Bを観測してこい」
だが、その指示を告げたのが誰なのかはわからなかった。上層部の誰かの名前もなく、送られてきたメッセージは冷たく無機質だった。
その瞬間、胸の奥に冷たい違和感が走った。命令を出す者の姿が見えないということが、これほどまでに不安を呼び起こすとは思わなかった。
「誰なんだ……」
疑念が渦巻く中、種田は渋々準備を整え、点Aへ向かった。
現場に着くと、見た目は何も変わっていなかった。建物も風景も、普段通りのはずだ。
しかし、肌に触れる空気はざらつき、脳の奥でピリピリとした刺激が走った。
目に映るものと身体が感じる違和感のギャップが、ますます不安を増幅させた。
「これはただのノイズじゃない」
観測端末は異常なデータを拾い続けている。心の中の焦りを押し殺し、冷静に作業を続けた。
点Bに移動すると、異変はさらに強まった。肌の感触はより鋭くなり、脳の刺激は波のように押し寄せてきた。
それと同時に、指示の出どころが見えないという事実が重くのしかかる。誰が、何のためにこんなことを?
胸の奥で、疑念と恐怖が混ざり合い、心を締め付けた。
点Bの現場で端末を操作していると、突然端末が震え始めた。
心臓が跳ね上がるのを押さえつけながら画面を見つめる。だが、画面はバグのように乱れ、映像がひどく揺れていた。
その中に、ぼんやりと文字が浮かび上がる。
「気づいて」
短く、単調な言葉だった。感情のない機械的な文字が、不気味な冷たさを伴って心に刺さった。
続いて、また文字が現れた。
「ここは違う」
簡潔すぎて意味が掴みづらかった。しかし、その言葉は何かを伝えようとしているのは確かだった。
端末の画面は再び乱れ、文字は消えていった。
胸のざわつきが収まらない。ノイズの正体は単なる障害ではない。何か意志を持つ存在が関わっているのかもしれない。
肌に感じるざらつきと、脳のピリピリした違和感が強まる。恐怖と好奇心が入り混じる中、立ち尽くした。
深呼吸を繰り返しながら、これから何をすべきかを考えた。