「技術開発部ですか?」
「あっ、はい。口で説明するより見てもらう方が早いと思うので、どうぞ入ってください」
そう促され、日下部さんの部屋に入るとそこはジャンク品の山、山、山。うずたかく積まれた山脈のようである。壁側には、機械工作用の旋盤や名称がわからない機械がいくつも並んでいる。
「ちょっとまってくださいねっと……おっとっと」
ジャンクの山をかき分けると、奥に約2畳ほどのスペースが見受けられる。そこに、どこから持ってきたのか座布団を敷いて、座るように促されたので座った。
「何も出せず申し訳ない。多分どこかにはあると思うんですが、いかんせん探すのに手間取りそうでして」
「すごいですねこの山は……どれだけ溜め込んでいるんですか……」
「うーん、どれぐらいでしょうかね。これでも、実家の方に比べるとまだまだマシなんですが。あっちは2つの蔵使い切ってもまだまだ足りないくらいでしたよ。」
目測だけでも、この部屋にあるのは俺の部屋を埋めつくすほど。これ以上になったら蔵2つ分は必要な量なんだろうとは想像に難くない。
「このジャンク品の山も、使い回せるパーツだらけですから。そう考えると、捨てるのはもったいないと感じてしまうんです」
「せめて、足の踏み場くらい作りましょうよ」
「面目ありません……いかんせん、この部屋に訪ねてきたの種田さんが初めてでして」
誰も訪ねてこなかったということは、今までトラブルはなかったということだろうか。だとすると、さっきの騒音も今まで隣には聞こえていなかったことになる。
「そもそも、隣人なんてここに入ってから初めて見たんですよ。今までは、空室のようでしたし」
……うん、思った以上に簡単な理由だった。
◇◇◇
以前にもここにきたことがある。 そう、それは夢。
足元はおぼつかずぬかるみ、滑りそうになってしまう。血と汚物と何かが腐ったような臭いは変わらず、辟易としてしまう。
ただ、以前とは違うのは視線の先が以前来た時よりも、少しばかりハッキリしている。目を凝らし、視界を集中させるとそこには火の玉というべきだろうか、こぶし大ほどの炎が見えた。
火の玉に触れようとすると、意志を持っているのだろうか。触れようとした手を振り払うように、スッと逃げてしまう。
触れるのを諦め、火の玉を見ていると何かの意思を感じる。まるでついてこいと言っているかのように。
その意思に従い、ついていくと以前は見えなかったものが見えてきた。
そこには、とても大きな石が積まれていた。高さは、3メートル弱あるだろうか。むろん、人力では歯が立たないどころかかなり大きな重機を持ってきても持ち上がるか怪しいところだ。
その石に触れようとすると、『また来たのか』と以前も聞いた声が響いた。
『人の子は去れ、と以前言ったはずだが。これは二度目の通告だ。三度目はもうないぞ。その時は、貴様の魂をもらいうけることにしようかの……取られたくなかったらもうくるな』
そう、何者かがいうと引っ張られるように意識が消えていった。
◇◇◇
相変わらずよくわからない夢だ……行きたくていっているんじゃないというのに……そう考えていたら、先日知り合った隣人の部屋からまたしても凄まじい音が響く。まるで、銅羅を鳴らすが如く響くその音は寝起きの頭にビリビリと響き、イヤでも意識を覚醒へと促せる。
イヤな夢で寝起きが最悪なのに、この騒音である。
流石に何かの線がプツンと切れる音がした。
自室を出て、隣の部屋の扉を叩く。叩く。叩く。まるで少年院に送られた少年が隻眼の老人からもらった手紙を読んだあとのように……
しばらくすると、部屋の主人である男が扉を開いた。
昨日見た時と変わらず、青いつなぎを着て頭には、溶接用のバイザー、首には防音用のイヤーカフが下がっていて、メカニックグローブを着けているのがわかる。
「おや、種田さん。今日はどうしました?」
「日下部さん、あんまり言いたくないんですが音が響いてですね……いったい何してるんですか?」
「あぁぁぁあぁあ、す、すいません。夢中になってて気づきませんでした。申し訳ありません」
「いえ、夢中になるのは結構ですが気をつけましょう。こういう小さいことの繰り返しで、取り返しのつかないことになったりしますから……」
ほんの小さいことでも、積もり積もればなんとやら。溜まった怒りの矛先は、どう向くかわかったものじゃない。
流石にこれ以上言う必要もないだろう。そう思って、自分の部屋に戻ろうとすると、日下部さんから声をかけられた。
「……お詫びと言ってはなんですが、よかったらこれからお昼一緒にどうですか?今回は、種田さんのぶんも私が出しますので」
「いや、そんな悪いですって……そこまでしなくていいですから。」
「いいえ、気づきを与えてもらったのならばそれはわかる形で返さねばなりません。それに……」
「それに?」
「親族以外の誰かと一緒に食事をする……今までしたことなかったのでやってみたいんです。なのでお願いします。」
そう言われたら弱い。そういえばこっちにきてからは佐藤さんや閻魔様、巻尾さんと一緒に食事が常だったけど、それ以前はそうじゃなかったな。
それに、まだ知り合って日の浅い人間を食事に誘う。それだけでも、結構な勇気が必要なのにおそらく彼は、初めての経験なのだろう。
「わかりました。一緒に行きましょう。着替えてくるので、少し待っていてください」
「あっ、ありがとうございます」