はなを引き取りに託児所がある賽の河原まで歩いていくと、多数の子供の声が聞こえる。元々、賽の河原は早逝した子供の供養の受け皿も担っていたから、託児所ができたらしいとは佐藤さんから聞いた話だ。
どうやら以前のはなの誘拐事件をきっかけにして、セキュリティーの強化をしたらしい。
なので、託児所の前にはガードマンが二人立っていて目に見える範囲で以前より監視カメラの台数も倍以上に増えている。
ガードマンとはここしばらくで顔見知りになっていたし、ここではある意味有名人なのでいやでも覚えられたようだ。
軽く挨拶をし、託児所の入り口にある機械に手をかざすと読み込みが完了し、扉が通れる仕組みになっていた。
どうやらこれもここ最近追加されたものらしい。
「あら、今日はもうお迎えですか?」
託児所の門構えの前には宮田さんがいて、背中に預かった子供を背負い紐で結んであやしていた。
「こんにちわ。今日は早めに終わったので迎えに来ました」
「そうだったんですね。ちょっと待っててください。はなちゃん連れてきますので」
そう言うと宮田さんは奥の間へ下がっていった。しばし待ちぼうけしていると、空を鳥の群れだろうか。空を黒く染め、蠢くようにして飛んでいった。
◇◇◇
家に帰る道すがら、はなを抱いて歩いていると植木の周囲からガサゴソと音が聞こえていた。おそるおそる覗いてみると、誰かが倒れていた。
背丈や肩幅からしておそらく男。
放っておくこともできたが、それはそれで後々いやな感じが残るかもしれないと思い、声をかけた。
「あのー……大丈夫ですか?」
「……はら」
「はら?」
「はらへった……」
どうやら空腹で生き倒れになってしまっているようだ。助けなくてもいいけど、それはそれでさっきも考えた通り、後で振り返った時にいやな思いはしたくない。
「ちょっと待っててください。たしか食べ物あった気がするんで……」
今日たまたま身につけていたリュックの中を調べると、エナジーバーが一本と小袋のクッキーが入っていたのでそれを渡した。ついでに、喉を詰まらせたらあれなのでいつも常備しているペットボトルに入った水も一緒に渡す。
小袋を開ける力すらなかったようで、封を開けて渡すと彼は口に含んだ。一口、また一口とゆっくりと咀嚼し、飲み込む。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
「それはよかったです。それよりもこんなところで行き倒れなんて何かあったんですか?」
「ん?あー……実は妹のところへいこうかと思っていたんだが久しぶりにくると道や景色が変わっていてね」
「なるほど、そうだったんですね」
「景色が変わるということは悪いことじゃないんだけどね。まぁ私は保守的なところがあるから色々考えてしまうんだけど」
「色々な考えがありますからね」
「そう、そうなんだよ。人も、獣も、鬼も多様性が大事だなんだ。それをひとつにまとめることはまた話が変わってくるんだけどね。さて、そろそろ私はいくことにするよ」
「大丈夫ですか?」
「なーに、君が先ほどくれた施しのおかげだよ。ゆっくりと歩いていけば明日には辿り着くことができると思う」
「そうですか……それでは、ここで失礼しますね」
「うん、これからの君に幸あれ」
そう言うと彼は、ゆっくりと立ち上がり道を歩いていく。先ほどとは違って、足取りはしっかりとしているようにも感じる。
「不思議な人だったな……」
懐で眠っているはながフフッと笑った気がした。
◇◇◇
翌日、起きると体調が芳しくないと思ってしまった。寒気はしないが、どうも調子が悪い。
熱を測ると、すこしだけ平熱を超えていた。この状態のまま執務に就いても良かったが、もし何かあった時誰に何を言われるかわかったものじゃない。
ひとまず佐藤さんに連絡をすると、『わかりました。今日は休んでいてください。取り急いで必要な案件もありませんので』と言われ、休ませてもらうことにする。
この時間に、眠ることなんてかなり久しぶりな気がする。それこそ、大学時代に惰眠を楽しんだあの頃を懐かしむように思い出した。