地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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閻魔

 咳や喉の痛みなどは見受けられないがどうも頭がぼうっとする。

 

 すこし寝ている間に玄関先のドアノブに、佐藤さんが見繕ってくれたものがすこし大きな巾着に包まれて下げられていた。

 

 袋を開けてみると、ゼリー飲料やスポーツドリンク等が入っていてものすごく助かった。

 

 はなの様子を確認すると、すやすやと寝息を立てていた。

 

 穏やかな顔をしているが、もしかすると以前のように何かしらの変化が起きるとも言えないと以前佐藤さんから言われていたのをふと思い出した。

 

 ……そもそも、はなと繋がった “あれ” はいったい何だったのだろう。

 

 あの一連の出来事からこの地獄にすこしだけ……何かが交じったようなそんな感覚を覚えた。

 

 それを言葉にすることはできないし、証明することもできないが肌感覚として違和感があるのも確かではある。

 

 そういえば昨日あったあの人は何者なんだろう。妹に会いにきたと言っていたが……

 

 そんなことを考えていると、はなが眠りから目を醒めたらしい。ミルクを飲ませ、排泄をしたおむつを変え、また眠らせる。

 

 いつもの日常が戻ってきたように感じる今日だった。

 

 ◇◇◇

 

 翌日、体調も良くなり出勤する。はなを託児所に預け、

 佐野さんのところへ行き、執務室の鍵を借りる。佐野さんは今日も鍵束を一本づつ磨いていた。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます、種田さん。そういえば言伝を預かっています」

 

「言伝?それは一体なんでしょうか」

 

「執務室に入り業務をする前に一度閻魔様の執務室にきて欲しい、とのことです」

 

「わかりました」

 

 佐野さんから鍵を受け取り、懐に入れて、閻魔様の執務室へ向かう。大扉をノックすると、いつものように声がスピーカーで響くようにして聞こえてくる。

 

『入っていいよー』

 

「失礼します」

 

 執務室に入ると、閻魔様と佐藤さん、そしてもう一人閻魔様の向かいの席に座って書類仕事をしていた。銀縁の眼鏡をかけ、鋭い目つきで書類を確認していくその姿。

 

 それは先日、道端に倒れ動けなくなっていた彼だった。

 

 視線に気付いたのか、書類から目を離し、顔を上げると彼も気付いたのか一度会釈をした。

 

「先日はどうも。おかげで助かりました」

 

「いえいえ、たまたま通りすがっただけですから」

 

「それでも、ありがとう。ところで君はどうしてここに?」

 

「あぁ、実は閻魔様に言伝で呼ばれていたのできた次第なんですが……」

 

 当の本人である閻魔様自体は、書類に目を通しながらも、どこか別の何かを考えているようにも見えた。正直この状況で声はかけづらい。

 

「呼ぼうか?」

 

「え?」

 

「おい、お前のお客さんだろ」

 

 彼は、一度パンと柏手を打つように手を叩いた。すると、その音に気づいたのか閻魔様がぴくりと身体を揺らし、こちらに目をやる。

 

「あっ、たねちん。来てたんだね」

 

「お前が呼んだんだろ」

 

「うるさいね、兄貴は。こちとら兄貴と違って書類仕事が多いんだよ」

 

「そうか……だがこっちも変わらんぞ」

 

「一応言っておくけどそれ最低限の確認の書類だからね?急ぎのやつや通常業務のやつは全部こっちがやってるんだからさ」

 

「それはありがとう」

 

「いーえー。それよりたねちん。昨日は体調崩したみたいだけど今日は大丈夫そう?」

 

「はい、何とか」

 

「それなら良かった。それより呼んだ理由なんだけど……」

 

 閻魔様から呼ばれた理由など見当もつかなかったが、何かしら伝えることがあるのは間違いない。

 

「たしかたねちんは下層に行ったことなかったよね?」

 

「下層、ですか?」

 

「そう、地獄の下層。たしかたねちんは黒縄までいけたと思うけど色々審査終わったからその下の叫喚までいけるよ」

 

「そうなんですか」

 

「あれ?あまり嬉しそうじゃないね」

 

「ぶっちゃけて言いますと下の階層に行けるとなっても何か変わるのかなと思いまして」

 

「あぁ、そう言うことか。そこは僕より佐藤の方が詳しいから説明をよろしく」

 

「わかりました。衆合地獄はどう言う地獄か覚えていますか?」

 

「たしか性犯罪の地獄だった……であってますか?」

 

「はい。主にその認識であっています」

 

「……そういうことですか」

 

「お察しの通りです」

 

 つまり、衆合地獄にはいわゆる色街みたいなものがあるんだろう。やはりよくと言うものは溜まるものだと思うからどこもその辺りは変わらないのかもしれない。

 

「あとこれはすこし特殊なのですがこの階層は下の階層である叫喚地獄と一緒になっています」

 

「……一緒になっている、ですか」

 

「これは人類が酒を手にしてからの話になりますが性関連と酒は切っても切り離せないものなんです。犯罪の刑罰にもそれが含まれますので、ここは一緒にしておくことが何かと都合がいいんです」

 

 つまりあれだろうか。酒に酔わせて色事をするみたいなことは昔からあっていたと言うことだろう。

 

「なるほど……」

 

「まぁ、ほどほどにガス抜きをする必要があるから存在すると言った感じです」

 

 ガス抜きは確かに必要だろう。今地獄にいる間者や獄卒もそのうち寿命が終わって転生に回る時に余計な罰をつけないようにする配慮でもあるのだろう。

 

「わかりました。説明ありがとうございます」

 

「では更新しますのでそのまま動かないでください」

 

 そう言うと佐藤さんは首元のチョーカーに手元の端末を触れさせた。ピッと言う音と共に、かすかだが熱を感じる。

 

「はい、できました。これで叫喚地獄まで行くことができますよ」

 

 チョーカーに触れてみても、違和感等は特に感じない。それよりも先ほどから気になっていたことを聞くことにする。

 

「すいません。さっきから聞こうか悩んでいたんですが、あの方はどなたですか?」

 

「……種田さん、お知り合いなのでは?」

 

「顔は知っていますし道案内もしましたが名前はわからないんですよね……」

 

「そうでしたか。あの方は、ヤマ様。閻魔様の片割れと言えばいいでしょうか」

 

「そんなかんじ。よろしく」

 

「よろしくお願いします、えっと何と呼べばいいんですかね?」

 

「そうだね……ヤマでいいよ」

 

「わかりました。ヤマ……さん」

 

「さんはいらないと思うけどまぁいいや。さて、私は仕事に集中させてもらうよ」

 

 そう言うとヤマさんは、山のようになった書類を流すように読んでいった。どうやら、この書類の山を片付けなくてはいけないらしい。

 

「あーそうそう、たねちん。もし衆合地獄に行くんだったら誰かと一緒に行ったほうがいいよ」

 

「わかりました。覚えておきます」

 

「あそこは僕でも管理できていない場所があるからねー。要件はそれぐらいかな」

 

「わかりました。失礼します」

 

 踵を返し、閻魔様の執務室を出る。この地獄はまだまだ知らないことばかりで溢れてるのかもしれない。

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