地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

185 / 186
喧騒

 日が暮れ、周りが賑やかになってくる頃合い。明るいうちは子供の声も聞こえていたが、時間が経つにつれ大人たちの喧騒が入り混じりはじめ、夜になる頃には賑わいの色が目立っていた。

 

 地獄で働き始めてしばらく経ったが、喧騒も含めこんなに人、いや鬼がひしめき合っているのを初めて見た。

 

 朱、青、黄。

 

 肌の色はそれぞれだが皆々目的があってこの場所に集まったのは言うまでもないだろう。

 

 色々と観察しているとわかったことがある。

 

 今いるこの場所は、どうやらこの衆合地獄の中でも格が高い場所であると言うこと。それは部屋にある調度品やよく手入れされた庭を見ても明らかだ。

 

 部屋に置いてあるお香だろうか。それも嗅いだことのない香りがして気を落ち着かせてくれている。

 

 あれから佐藤さんからの連絡はない。佐藤さんたちは別視点で現状をどうにかしてくれるとは思うが、次に連絡が来た際の情報交換のために色々と集めなくては……

 

 そうこうしていると先ほどの女性が襖を開け、食事を持ってきた。

 

 一見小鉢が並んでいるくらいに思えたが、それ以上はよくわからなかった。

 

 食事に手を出そうにも本当に信用していいのか。

 

 膳を置くと、彼女は襖を閉め戻って行った。

 

 箸を取り、おそるおそる口に運ぶ。

 

 おいしかった。

 

 ただ、それだけだった。

 

 ◇◇◇

 

 またこの夢だ。

 

 目の前に現れたそれは小さく、だがはっきりと言った。

 

「久しぶりだな」

 

 友人のように声をかけられたが、これをどう捉えたらいいのかいまだにわかっていない。

 

 わかっているのはここが夢の中ということ。

 

「以前のように気に入らなさそうにすればいいという顔だな。……ふん、気が変わったんだ。どうもお前さんは色々な禍に首を突っ込みたがる傾向があるらしい」

 

 ガサリ、ガサリと何かが落ちた。暗くてよく見えなかったが、何かの塊であることは間違いなかった。

 

「そうだな……ひとつ明言しておこう。おまえさんは、世界の点の一つではある」

 

「ただ、いささか異常でもある」

 

「考え、反芻し、己の中で理解しろ」

 

「そうすれば世界は変わる」

 

「おっと、そろそろ日が出る時間みたいらしい。忘れるな。私は見ている。ずっと見ているぞ」

 

 目が覚めると、身に纏っている服が汗で湿っていた。……何度目だろうかあの夢は。

 

 ただ、以前より少しだけ角が落ちているような気がしていた。

 

 ◇◇◇

 

 着替えを持ってきてもらい、服を着替える。朝の空気の冷たさが汗で湿った肌にひんやりと接する感覚をおぼえた。

 

 彼女が言っていた数日のうちの1日を使ってしまった。

 

 ……何もしなければ彼女との契約が果たされ、身売りが成立してしまうだろう。

 

 ……自分一人の身体だったらそれでも良かったかもしれない。だけど今は、はなもいるし色々と世話になった人達もいる。

 

 ここで、現状を飲み込みそのままぼうっと呆けている選択肢はなかった。

 

「着替え終えましたか?」

 

 閉じられた襖越しに、侍従である女性が声を掛ける。

 

「はい、着替え終えました」

 

「そうですか。目算でしたが寸法は合ってましたか?」

 

「はい、それも大丈夫です」

 

「それはよかった。家主がお呼びですので準備でき次第お声かけてください」

 

 2回目の接触、相手と話して何か切り口を見つけられるだろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。