服を着替え終えると、女中と思われる人に声をかける。
……相変わらずだが、この建物は薄寒いというかのだろうか。空気が妙に冷えついてるのが気になる。
そんなことを考えていると家主がいる部屋の前にたどり着いた。
周囲を見渡しても埃ひとつなく、おそろしく手入れされているのがわかる。
「失礼します。お客様をお連れしました」
そう女中が言うと襖が少しだけ開いた。女中は手を差し出し、中に入るように催促をする。
部屋の中に入ると、襖の奥から家主が少しだけ乾いた声で口開いた。
「よく眠れましたか?」
「なんとか。お聞きしたいことがいくつかあるのですが聞いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
姿勢を正し、一呼吸おく。
「それでは。あなたはこの家の主とお聞きしましたが合っていますか?」
「はい、合っています」
「そうなるとこの家の周囲の空気が少し気になります。夜になると街中の喧騒は聞こえますが酒に酔ったものが入ってきてもおかしくないです。ですが、その様子はなかった。つまり、この建物自体何かしらがあったりしますか?」
「そうですね……どちらかといえば私の力と言うより土地の問題なのかもしれません」
土地の問題……つまり、この人は何かしらの力でどうにかしているわけではなく、土地の影響が強いのかもしれない。
「では次の質問を。ここは衆合地獄であっていますか?」
「はい、合っています」
嘘は言っていないようだった。つまり、ここは衆合地獄の一部であり、切り離された場所ではないと言うことでもある。
「お聞きしたいことはそれだけですか?」
「他にも聞きたかったことはありますが、とりあえずこれくらいでいいかなと」
「そうですか。たしかあなた様は上長との連絡をとっていましたよね?」
「はい」
「では、質問に答えた礼としてですがその上長とお話しを繋げることはできますか?」
「……それは大丈夫だと思います。この場で連絡すればいいですか?」
「はい、お願いします」
そう言われ、佐藤さんに連絡を取ると数コールで出てくれた。事情を説明すると、端末をスピーカーに切り替え、差し向けた。
「はじめまして、でよろしいでしょうか。あなた様が上長ということでしたがあっていますか?」
『はい。今回の件はあなたが重要な点だとこちらは思っています』
「なるほど。今のところはその見解であっていますよ。それでは、こちらからは伝えることは他にはありませんがそちらはなにかありますか?」
『ひとつだけ明言してよろしいでしょうか?』
「なんでしょう?」
『あなたは蜘蛛ですか?蛇ですか?』
そう佐藤さんが言うと空気がひりつくのを感じた。まるで内臓がキリキリと締め付けられるように感じた。
「今はお伝えできません。これでよろしいでしょうか?」
『わかりました。最後に一言だけ。』
『種田さんはちゃんと返してもらいます。傷ひとつつけたらわかっていますね?』
「ふふっ。ええ、わかりました。そちらはお約束できます」
そう言うとノイズが走るかのように連絡がつかなくなった。どう言う仕組みなのかわからないがこれ以上話すことは困難なようだ。
「ありがとうございました。お話しした限り、あの人と私は似たもの同士なのかもしれませんね」
……はたして似ているんだろうか。そこは正直わからない。
「約束は明日ですが大丈夫ですか?」
なんとも言えなかった。それでも、現状どうにかできるかもわかっていない。
ただ、周囲を囲まれている感覚に陥っているのは気のせいなんだろうか。
もしかすると、もうすでに詰み状態なのではないだろうか。
わからない状態で頭を回しても答えは出なかった。