地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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残穢と紅白最中

「さて、この部屋どうしましょう」

 

そう、今室内は撒いた塩と残穢で見るも無残な状態である。塩はともかく、この残穢が水場のカビのようにどうやっても取れそうにない。

 

「こういう時こそ、餅は餅屋に頼むのが一番です」

 

佐藤さんが、そういうとどこかに電話をかけ始めた。しかも、端末ではなく部屋に置いてあるアンティーク調の電話機だ。おそらく、いつも使ってる端末は外線で、今使ってるのが内線なのだろう。

 

しばらくすると、防護服を纏った集団が現れ、こちらに足を向け敬礼をする。

 

「佐藤さん、お疲れさまです」

 

「ええ、お疲れさまです。ではよろしくお願いします」

 

「はっ!清掃開始!」

 

「こいつは掃除のしがいがありますなぁ」

 

「お二人は外に出ててください。あとは、我々が」

 

彼らはそういうと、テキパキと仕事にかかった。大型の噴霧器を背中に背負い込み、業務用であろう掃除機で床に散らばった塩を片付ける。残穢の方は、まるで意思があるかのように、蠢き散らすが慣れた様子で処理をしていく。

 

「彼らは?」

 

「防疫班、通称《掃除屋》です。まさか、今日二回も使うとは思いませんでしたが」

 

佐藤さんは、苦笑いしながら「佐野さんには、後で菓子折りでも持っていかなきゃいけませんね」とポツリと口に出した。

 

◇◇◇

 

室内から出ると、ひとまず閻魔様へ報告へ行く。その足取りは重く、気は沈む。

 

「とりあえず種田さんは、自分で見たまま感じたままを率直に報告してください。それが一番ですから」

 

「そう言われてもですね……」

 

「悪いことをしたんじゃないです。今回、たまたま巡り合わせが悪く、失敗した。ただ、それだけなんですから。それと……」

 

佐藤さんはそう言うと、思いっきり背中を叩いた。パアアンと音が響くが、痛み自体はそれほどでもない。

 

「背中が曲がってます。それでは、良運も巡ってきませんよ」

 

それもそうか、と思い背中をまっすぐに。起きたことをくよくよするよりも今は現状を報告する。それが今求められてる仕事だ。

 

閻魔様の仕事部屋に行くと、合いも変わらず捺印の仕事に追われていた。もう一つの机は、相変わらずの書類の山である。ただ、高さが違う。以前は、もう少し低かったような……

 

「やぁやぁたねちん、佐藤もお疲れ様。どう、ちょうどいいからお茶でも飲む?」

 

「お疲れさまです。先に報告を済ませます」

 

「ん、わかった」

 

そう言うと、閻魔様は書類仕事の手を辞め、こちらに顔を向ける。その目は、澄みきり心の奥底まで見られている。そんな感覚になった。

 

 

「………報告は以上です。閻魔様」

 

「ん?」

 

「俺、間違ってたんでしょうか。亡者とちゃんと話して理解して判決を下す。そのやり方が間違ってたんでしょうか」

 

ちゃんと仕事ができない悔しさよりも、自分自身の愚かさ、不甲斐なさに思わず泣きそうになってしまう。

 

しばしの無言、閻魔様が少しの息を吐いて口に出す。

 

「タネちんさ、何事も失敗しない生き方ってあると思う?」

 

「それは……ないと思います」

 

「そう、失敗しないやつなんてあの世にもこの世にも、いいや六道輪廻総てを見てもどこにもいないんだよ。どんな聖人君子でも、生きていれば絶対になにか失敗する。失敗しない人間なんてなんの面白みもないよ」

 

「それでも……今回は……」

 

「だったら次に生かしなさい。それが貴方のためにも、他の誰かのためにもなるのだから」

 

何かが、一つ剥がれ落ちる音がした。それは、心の中の凝り固まった概念が一枚、だが確かに剥がれ落ちる音だった。

 

今までは、失敗しちゃいけないと焦っていたのかもしれない。せっかく、拾ってもらったのだから、せめて役に立ちたいと……そう思っていたのかもしれない。その考えが、今回の失敗を招いたと言うのに。

 

「タネちんさ、肩の力抜いて、ちゃんと一つ一つ目の前の仕事をしようよ。そうしたら、結果はついてくるって」

 

そう言われると、目の奥から熱いものが吹き出すように、何かを払い落とすように涙が溢れた。

 

「……はい」

 

その返事は、鼻声交じりの情けない返事だった。

 

◇◇◇

 

「さーて、報告を聞き終わったからお茶にでもしよっかなー。佐藤ー」

 

「準備は終わってますよ。種田さん、お茶にしましょう」

 

そう言うと佐藤さんは、茶盆を二つ。急須、茶筒に湯呑みともう一つには皿の上に最中。桃色と白の二種類が3つずつ並んでいる。

 

「頂き物ですが、湿気る前にいただきましょう。種田さんもどうぞ」

 

いただきます、と言い最中を頬張る。桃色の最中は桜風味の餡。変わり種だが、意外とあっている。白い方を頬張ると、こちらも餡子かと思っていたら、想定外のものだった。

 

「これ、チョコレートですか?」

 

「ええ、試作品だそうです。チョコレートも変わり種と見なせばそれはそれで美味しいかと」

 

ともすれば駄菓子感覚に陥りそうなものだが、不思議とそうはならない。チョコレートの風味がそこまで主張せず、最中と渾然一体となって喉元を過ぎていく。

 

茶を一飲み、口の中を調える。ああ、すごく満足感のある最中だ。これは最中単体でも、茶のみでもダメだ。この二つの組み合わせで、一つの味と感じる。

 

しばらく呆けていると、ドタタタタタと何かが駆ける音がする。振り向くと、巻尾さんが息を切らしながら走ってきたようだ。

 

「ハァ…ハァ…先輩、言われた物用意してきたっスよ。あぁっ、3人ともずるい!!!わたしの分は……」

 

「ごめんなさい。あなたのぶんは用意するのを忘れてました」

 

そう言われると、巻尾さんはグギギギと歯ぎしりしながら床に突っ伏した。

 

食べずに渡してあげたほうがよかったかな………

 

 

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