地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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天を照らす

 深層意識の奥の奥。どのようなものでも思考があるように生物としての形を持っているのならばその奥に己の世界は広がっている。

 

 この青年の中はなんといったらいいのだろうか。まるで構成しているものが中途半端と言っていい。

 

 記憶と繋がってはいるが妙に希薄。

 

 奥へ奥へと意識を澄ましていくと、まるで牢屋のようにも見える場所へたどり着いた。そこは妙に湿っていて、鬱屈とした空気が見ているだけでも漂ってくる。

 

 誰しもが触れられたくないものだったり、見られたくないものがあったりするときは鍵を掛けたり、視界から見えないようにするといった己を守るために何かしらの保護をするものなのだが、それが一切見受けられない。

 

 この青年のこころというものは一体どうなっているんだろう。

 牢に触れると、まるで泡が溶けるかのように消えた。……どうやら、入ること自体はできるようだ。

 

 足を踏み入れるイメージを頭の中で描き、進んでいく。

 そうすると、陰鬱とした空気はさらに重くなり、気も滅入り始める。ここは一体なんなんだ。この青年の内側にはまた別の世界が広がっているとでもいうのだろうか。

 

 奥へ奥へと進んでいくと、何かがいる。そのような気配というだろうか。

 

 ……深層意識の奥にほかのだれかがいる?

 

 そのようなことは考えられないが実際目の当たりにしているのも事実ではある。

 

「……誰じゃ」

 

「答える義理もありませんが……とりあえずあなたはなぜこの場所にいるんですか?どうやら彼とは関係があるのかはわかりませんが」

 

「妙に肝が据わっているのかはたまた状況が読み取れない阿呆なのかはわからんが暇だから答えてやろう。この場所はあやつのこころであって、そうではない場所じゃ」

 

「つまり、なにかしらでつながっている?」

 

「そうとらえてもいいかもしれん。ただ、この場に踏み込んだということはそれなりに覚悟があるということか」

 

 空間がミシリミシリと音を鳴らすのがわかった。空間をゆがませるほどの力がこの声の主にあるということだけは瞬時にわかる。……どうやら眠っている獣、いや化け物を呼び起こしてしまったといったところだろうか。

 

「おちついてください。あなたとは争うつもりは毛頭ありません」

 

「それはお前さん側の考えじゃろ?こちらは違うということを考えられんのか?」

 

 まずい。さらに相手は怒っている。正直、深層心理の中で自我をつぶされると現実世界では抜け殻のようになってしまう。

 

「もうしわけありませんでした!すぐに出ていきますので!」

 

 そういう間もなく、首元に長い手が掴みかかり、喉元をえぐるように空を切ってきた。まるで、それは命そのものを狙ったような手さばきで、後ろに身を投げることしかできなかった。

 

 にげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろにげろ

 

 身体は震え、頭の中の考えはただただ逃げろという。外の空間まで逃げるように意識を逸らせると、あれだけ簡単に入れた入り口には、謎の膜のようなものが張っており、外に出ることすら難儀した。

 

 まるでもがくかのように暴れると、一瞬だが空気が変わった気がした。そこからはまるで金を借りたものが夜逃げをするかの如く意識を飛ばした。

 

 ◇◇◇

 

 しばらく意識を失っていた。どうやら先ほどの蜘蛛から何かを飲まされた後にどこかに飛んで行っていたような変な気分だった。

 

 目の前には、先ほどまで見た蜘蛛がいた。意識はあるのかわからないが空を仰いでいたこの家主が大きくびくりと身体を震わせると、まるでなにかから逃げるかのように周りをきょろきょろと見渡していた。……いったい何をしているんだろうこのひとは。

 

「はぁ……はぁ……なんとか助かりましたか」

 

 そう独り口を放つこの蜘蛛は、さきほどより一回り二回りほど年を喰ったかのように見えた。いったい何が起きたというんだろうか。

 

「はぁ……はぁ……種田さん、あなたいったい何者?」

 

「何者と言われましても……」

 

「そう、そうですね。もうすこしわかりやすく言葉を変えたほうがよさそうですね。あなたの内側にあるあれはいったいなんなんですか?」

 

 あれ?あれと言われても正直見当がつかない。ただこの蜘蛛が言いたいことはなにかしらの恐怖の対象にそれがあるのかもしれないということだった。

 

「もうしわけありませんがあなたにお聞きしたいのです。……あなたは本当に人の子ですか?」

 

「……いちおうそのはずです」

 

「そうですか……」

 

 そこからはひたすら無言の空間がつづいた。誰かからあなたは人の子なのかと聞かれたことも初めてだったしそれ以上にこの蜘蛛が妙に何かに恐怖を覚えているのもわからなかった。

 

 ◇◇◇

 

「どうやらこのあたりのようですね」

 

 地獄の各エリアにつながっているエレベーターを使い、衆合地獄までいくのは容易だった。あとは種田さんを連れ帰ればそれでいい。

 

 エレベーターが音を鳴らし、扉が開く。

 

 あいかわらずここはいろいろなものが入り乱れている。人も鬼も獣もそうではないものも。目的地まで距離は少しあったがまっすぐいけばすぐにたどり着くでしょう。

 

 ……種田さんは無事でしょうか。

 

 

 

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