地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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地に眠る

 彼女はしばらく何もしゃべらなかった。無言を貫きながらも、目線はこちらをずっと見ているので、この場を離れることもできない。

 

 さてどうしたものかと考えていると足元に小さな蜘蛛が一匹、また一匹と集まり、瞬く間に部屋を埋め尽くした。

 

 往生していると、蜘蛛は母体である彼女に集まり、チキチキと音を立てながら全身をくまなく纏っていた。

 

 いったいどうなってるんだ?

 

 そう思っていると、母体である彼女から苦悶も含めた声が漏れ聞こえる。口を開いても、そこから子蜘蛛が侵入し、振り払おうにも数が多すぎて振り払い切れていない。

 

 唯一人の形を残している上半身部分が子蜘蛛に覆われると、うぞうぞとしていた子蜘蛛が、まるで一つの個体かのように集まりつくし、形作っていく。

 

「ギギギギギギギギギギギ」

 

 それはもう、人の言葉すら話すことすらせず、ただ目の前にある存在を貪りつくさんとするただの一匹の蜘蛛になっていた。見ていて気分のいいものでもなし、このままいてもただ喰われるだけだと思い、逃げようと足を動かそうとすると、さきほどまで集まっていた子蜘蛛がこちらの脚に絡んできた。

 

 振り払おうにもあまりにも数が多すぎる……!

 

 この屋敷から逃げ出すほかないと考え、外玄関まで急ぎ足でいくと、蜘蛛も最初はゆっくりとだったが、だんだんと速い速度で追いかけてくる。それを振り払おうにも、足元には子蜘蛛がまとわりつき、思った以上に足が動かせず、つぶしながら歩くため、正直気持ちが悪い。

 

 あと少しで外が見えるところまで進んでいくと、玄関の扉が開かない。どうやら、なにかが突っかかっていて、開かないようになっているみたいだ。

 

 扉を開けるために四苦八苦していると、蜘蛛が目の前まで追いついてきた。口から粘性のある糸を吐き出す。糸は脚に絡み、バランスを崩し、身体をおもいきり地面にたたきつけるように屈した。

 

 蜘蛛は距離をどんどんと近づけていき、2歩先くらいまで近づいてきた。

 

 ……もう無理かもしれない。

 

 そんなことを考えていると、目の前の蜘蛛は何かに気を取られた。それは一瞬だったが、黒い羽根のようなものだった。

 

 その一瞬のチャンスを見逃さないように、扉を動きにくい足で思い切り蹴ると、何かにあたる感覚と「グエッ」と蛙がひき潰されたかのような声が聞こえた。

 

 べとべととした感覚があるが、まずはこの場から逃げないという選択はなかった。外玄関をくぐり、色街のほうへ足を進めると、蜘蛛は後ろから追ってはこなかった。

 

 とりあえず身の安全を確保しなければとおもい、できるだけ離れた場所へ行こうと天まで上る鉄の柱まで足を進める。途中、なんだこいつはと周りにいた者たちが稀有な目で見てきたが正直きにしてはいられなかった。

 

 鉄の柱のほうへ、近づいていくと見知った顔がいた。

 

 佐藤さんだった。

 

 習合にきて、通話はしていたから声は届いていたが、姿を見るのは不思議と懐かしく感じた。服装はいつもと相変わらずのスーツ姿だったが、今日は手元に小さなバッグを抱えていた。

 

「迎えにきました、種田さん」

 

「佐藤さん!じつは大変なことが……」

 

「その恰好である程度察することはできますが、まずは一度着替えたほうがよろしいかとおもいますがどうでしょうか」

 

 そう言われ、自分の姿を見てみると、なるほど合点がいった。着ていた衣類は破け、素足は泥と蜘蛛の巣や踏みつぶした蜘蛛の死骸で、見てもいられない状況だった。

 

「着替えるにしてもどうしましょう……」

 

「少し待っていてください」

 

 そう言うと、佐藤さんは懐から端末を取り出し、カメラをこちらに向けた。カシャッというシャッター音と共に、一瞬身体が煙に包まれた。煙はすぐに散り、残ったのはいつものスーツ姿だった。

 

「これで見た目は大丈夫ですね。種田さん、以前お渡ししたネクタイピンの場所に心当たりは?」

 

「……正直わからないです。ただ、あの屋敷にあるのかもしれません」

 

「そうですか。では、その屋敷へ……」

 

 佐藤さんがそう言いかけた時、色街の奥で大きな破裂音のようなものが鳴り響いた。二人して、その方角へ顔を向けると、そこにはさきほどよりもさらに大きくなった蜘蛛がいた。

 

「たぶんですが、ネクタイピンはあそこにあるとおもいます」

 

「そういうことですか。ひとまずは街にいる者たちをどうにかして誘導したほうがよさそうですね。一本連絡をするので少々お待ちを」

 

 そう言うと佐藤さんは、どこかへ連絡をし始めた。しかしながら遠めに見ても、あの大きさは一体何なんだ……さきほどよりも数倍、いや数十倍は大きくなっているのがみてわかる。

 

 どうやって短い時間であれほどおおきくなったのかはわからないが、今は街の喧騒をどうにかしないとらちが明かない。

 

「話がつきました。ひとまず街の者の誘導はむこうがどうにかしてくれるようなので私たちはあれをどうにかしましょう」

 

「……あれってどうやったら解決するんですかね?」

 

「これがゲームだったらあの大きな蜘蛛を倒せば勝ち、になるんですが今は現実ですし。とりあえずあれをどうにかしないとほかの区画まで進行したら始末書どころじゃありません」

 

「ですよね……」

 

 なぜこうなったのかはひとまず置いておいて、あの巨大な蜘蛛をどうにかしないといけないらしい。

 

 ……いったいどうすればいいんだろう?

 

 

 

 

 

 

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