地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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衆道淫夢

しばらくしょげていた巻尾さんだったが、佐藤さんの「今度は、あなたの分まで用意しますから」の一言で、勢いよく立ち上がった。

 

「本当っスか!?絶対スよ先輩!!!!!」

 

異様にテンションの上がった巻尾さんが、鼻歌を奏でながら後ろに背負っていた風呂敷からゴソゴソと何かを取り出す。その手には、鼻の長い動物の置物と煎餅が入っていそうな缶ケース。それを取り出すと、机の上に置いた。

 

「これ、なんです?象に見えますけど」

 

「チッチッチ、こいつは象じゃなくて獏っスよ。淫魔なんかの夢に出てくる類にはこいつが一番効果的っス。で、こっちの缶の方は、パンドラの箱を模したもの。何かを封印するには、こういう箱が象徴として使い勝手がいいんスよ」

 

言うのもなんだが、見た目は完全に煎餅やクッキーが入っていそうな金属製の箱。

 

「本当はトラバサミとか用意したほうがいいんスけど種田さんが間違って踏んだらえらいことになりますから」

 

「トラバサミって……踏んだら鉄の歯が噛み付くアレですか?」

 

「そうそう、よくご存知で。アレは間違って踏んだら痛いどころじゃないっスよ。無理に外そうとして暴れれば足の肉を食いちぎる可能性もあるし、歯の部分が錆びていれば破傷風の危険性だってあるっス」

 

そんな恐ろしいものを部屋に置かれても、取り扱いに困る。用意されなかったのは僥倖だ。

 

「あとはこの二つの取り扱いを説明しないとっスね」

 

そう言うと、巻尾さんは獏の置物と缶ケースをこちらに渡してきた。受け取ると、巻尾さんは風呂敷をたたみながら説明をする。

 

「この獏の方は枕元に、缶ケースは寝台の横あたりに置いてくださいっス。多分、明日の朝までには片がつくと思うっスけど」

 

「問題は相手が食いつくかどうか……」

 

「それっス。その淫魔が相当腹ペコだった場合、すぐに結果が出ると思うんスけど……そこらへんはこっちの都合じゃ動いてくれないっスからねー」

 

「私たちは別室で待機しましょう。種田さん、部屋に押入れとかはありますか?」

 

「あっ、あります。中には何にも入ってないですけど」

 

「好都合です。私たちは押入れに入って淫魔が食いつくのを待ちます。種田さんは、いつも通りに休んでください。もし眠れないのでしたら、睡眠導入剤を使うのをお勧めします」

 

そう言うと佐藤さんは、透明なピルケースを渡して来た。中にはちいさな粒状の丸薬が2錠。

 

「これを眠る前に飲んでください。30分ほどで効き目が現れると思います」

 

現世にいた頃、就職できないストレスや周りがどんどん仕事が決まって焦り、その影響で不眠症になった際に処方された薬とは、また違っていた。見た目はほぼラムネと変わりなく、匂いは全くない。

 

「ありがとうございます」

 

佐藤さんから、丸薬入りのピルケースを受け取り、胸ポケットに収めた。

 

◇◇◇

 

その日の夜。丸薬を飲みこみ、横になっているといつの間にか眠りについていた。時計を見ると時刻は、‪2時‬過ぎ。室内を見渡すと、そこには例の黒い影。これが淫魔なのだろうか。以前と違うのは、辛うじて人の形を成している位だろう。

 

「アァ……オナカスイタ……ヤットアリツケル」

 

その影は、すすすと摺り足をしながら近寄ってくる。

スプリングの軋む音。体に覆いかぶさるようにして、淫魔が乗り上げてくる。

 

「フ、フフ……ソレジャ……イタダキマス」

 

淫魔が、首筋に指をひと撫でしたあと、舌をペロリと舐め吸い付く。首筋を舐められたその瞬間、淫魔はまるで体に電撃が走るかのようにビクンと体を震わせた。

 

「ナ……ナニコレ……シタガピリピリスル⁉︎」

 

「そこまでです!」

 

押入れから、佐藤さんと巻尾さんが勢いよく飛び出す。それに驚いた淫魔が、体を痺れさせながらも大きく体を捻らせ、物音の対象へ目を凝らす。

 

「ダ、ダレダ!!」

 

「それはこちらの台詞っス。とりあえず名称がわからないので淫魔!不法入国および不法滞在、並びに住居不法侵入、傷害の罪で現行犯逮捕するっス!!」

 

「チッ、ケイサツカ……ダケドザンネン。オンナノセイキはコノミジャナイケドシカタナイネ。アナタタチノセイキイタダクヨ!!」

 

そう言うと、淫魔は親指の腹を思い切り噛みつき、出血させた。それを、床に押し付け何か呪文めいた言葉を口から吐き出す。

 

「アッアレ⁉︎ジュツガハツドウシナイ⁉︎ドウシテ⁉︎」

 

「ハッハッハ!そう言うのはすでに対策済みなんスよ!先輩、捕縛の方お願いするっス!」

 

「わかりました」

 

「ナニヲスルッ!ヤメッ!ンンッ!」

 

佐藤さんは、淫魔に近づいていくと手慣れた仕草で捕縛していった。まるで、ベテランの梱包屋が如く。あっという間に、淫魔は亀甲縛りで床に放り投げられた。

 

「佐藤さん、そんな技をどこで?」

 

「以前、衆合地獄の研修で習いましてね。身動き取れなくするには、他の結び方もあるのですが淫魔にはこれがお似合いです」

 

そう言いながら、微笑む佐藤さんの目は、冷ややかな視線とは対照的に怒髪烈火の如く、真っ赤に燃えていた。

 

◇◇◇

 

「で?種田さんを狙った理由は?」

 

床に転がされた淫魔を起こし、椅子に座らせる。起こす際に、色々な場所に干渉するためか蠱惑的な声を響かせ、翻弄された。その度に、佐藤さんがハリセンで思いっきり叩く。

 

「イヤー、タンジュンニオイシソウダナッテ。リユウハソレダケヨ」

 

「そうですか。ではもう一つ。なぜ、あなたは密入国してまで、ここに居るのか。それを吐くまでは、こちらも其れ相応の行動をするまでです」

 

そう言うと、佐藤さんは胸ポケットから裁縫セットを取り出した。その中の、まち針を淫魔に向ける。

 

「今から、このまち針をあなたの指の爪の間一本一本に刺していきます。もしくは、あなたの体にある穴という穴を開きっぱなしにして元に戻らないようにすることも出来ますが……どちらがよろしいですか?」

 

「ヤバイ、コイツアタマオカシイネ!ソトカラキタヤツハカンゲイスルモンジャナイノ!?」

 

「あいにく、うちはそういうところはすごく過敏でしてね。過去のなにかしらも関係しているのかもしれませんが……おっと、これはあなたには関係のない話でした。さあ、言いなさい。どちらがよろしいですか?」

 

うぐぐと唸りながら淫魔は、大きく息を吸い込み吐き出した。まるで、内側に溜め込んでいたなにかを吐露するように。

 

「……イエナイネ。イッタラコキョウノカゾク、メイワクカカルヨ」

 

「……そうですか。それならば仕方ない」

 

そう言うと、佐藤さんは淫魔の鼻をつまむ。鼻で呼吸できなくなったので、呼吸をしようと口を開く。その隙を逃さず、佐藤さんは、懐から何かを取り出して飲み込ませた。

 

「うぉええええーーーーーーーなんなのこのクソマズ液体は⁉︎あ、あれ言葉が⁉︎」

 

「佐藤さん、なに飲ませたんですか⁉︎」

 

「閻魔様監修特製ドリンク(アメリカンドッグ味)です。いちいち片言で喋られても困りますからね。他にも色々と効果がありますが……さてあなたが密入国までして来た理由は?」

 

「そんなの決まってるね。霊薬を見つけて持ち帰ることよ」

 

「霊薬ですか……」

 

「そう、崑崙山のある方向に黄金の国があって、そこには不老長寿の霊薬があるって昔から言われてるね。だから、それを持って帰って売れば、故郷の家族みんな安心して暮らせるよ!……なんで私、言っちゃいけない秘密喋ってるね!?」

 

「先ほど飲ませた液体には、自白剤が入ってるんですから当然です」

 

自白剤!?あのドリンクに!?今後、あのビンを見たら口をつけないように気をつけないと……さもなくば言いたくないことも口走ってしまう。そう考えると、佐藤さんはニコリと微笑んだ。

 

「種田さんには使いませんよ。使っても効くとは思えませんし」

 

「えっ、効かないんですか?」

 

「ええ、おそらく。最初に飲んだドリンク剤が強すぎて抗体が出来てるんだと思われます」

 

あぁ、アレか。アレは、もう二度と口にしたくないと思えるような味だった。おそらく、体が拒絶する。その証拠に、思い出しただけで体の震えが止まらない。

 

「そろそろですか……」

 

佐藤さんが、袖をめくり左腕につけている腕時計を見てそう言った。そろそろ?なんのことだろうと思っていると、淫魔の顔が青ざめていく。脚をくねくねと絡ませながら、体を震わせる。

 

「おいっお前、一体なにをしたね!?」

 

「先ほどのドリンク剤の効果ですよ。自白剤と一緒に利尿剤と下剤を混ぜたんですが効き始めましたね」

 

ぐぎゅるるるるると、聞くだけでどんな状態か想像できる音が響く。かなり辛いらしく、顔からは脂汗がダラダラと流れて来ている。

 

「わ、わかったね。誰に言われて来たか言うよ。だから、これどうにかするね」

 

「残念ですね、それ全部出すまで止まらないんですよ。あぁ残念」

 

「ああああああやばい出る出る!!!!!これはまずい!!!!!」

 

「佐藤さん」

 

「はい」

 

「た、助かったね?」

 

「さすがに部屋で爆発霧散されるのも困るんでここじゃない場所に連れて行ってください」

 

「アイエエエエエッ!助けてくれるんじゃないのね!?」

 

「それはそれ、これはこれです。佐藤さん、どうすればいいですか?」

 

「掃除屋に待機してもらっているのでもう来る頃かと」

 

部屋の扉が大きく開かれ、防疫服をまとった「掃除屋」が、駕籠を担いでやって来た。昨日から、散々の登場である。バタバタと駆けてきて、淫魔を駕籠の中に押し込み、なにも言わず外へ出ていく。

 

「じゃあ私も一緒について行くっス。種田さん、それと先輩もおやすみなさい!!!!!」

 

巻尾さんと掃除屋が、一緒に部屋を出て行く。室内を見渡すと、色々あったからか部屋の中がぐちゃぐちゃにかき乱された状態になっている。せめてもの救いは、物がもともと少なかったぐらいだろうか。

 

「……種田さん、掃除屋使います?」

 

「……いや、自分で片付けます」

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