地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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金華液糖

朝食を食べていると、巻尾さんが遅れてやって来た。

相変わらず、盆の上には山のようなごはんと味噌汁に玉子焼き。いつもと変わらないと思っていたら、今日のはしょっぱめの玉子焼きだと胸を張って答えた。

 

その玉子焼きをつつきながら、もりもりとごはんを食べていたが、その手を止め、こちらへ話を進めてきた。

 

「いやー、昨夜はご苦労様っス。例の淫魔、どうやら強制送還になりそうなんスよ。で、後日調書を書くんで事情聴取へのご協力をっスね……」

 

「ああ、その件だったら話は聞いてますよ。ぜひ協力させていただきます」

 

「あー、よかった。これでひとまず難題は解決しそうっスね。っと、そういえば種田さん、報告書書いたっスか?」

 

報告書?そんな話は聞いていないぞと佐藤さんの方へ目をやると、当の佐藤さんは味噌汁にひょうたんに入った七味をかけている。

 

「巻尾、それはこの後に説明しようと思っていたのですが」

 

「あー、そうだったんスねー。やっば、私やらかしたっスか?」

 

「いえ、先に説明していなかった私に非がありますので。種田さん、今日の業務は報告書の作成で丸一日使うかと思われます。よろしいですか?」

 

短い付き合いながらも、佐藤さんの言いたいことがなんとなくはわかってきた。よろしいですか、ということは相当ハードだが大丈夫か?と言っているようなものである。

 

佐藤さんのいうハードが、今まで経験したことのないくらい大変なものだという事も。

 

「わかりました。今日は、報告書を書き上げるんですね。あ、それと亡者の悪霊化の件は?」

 

「そちらは現在、協議中でして。なにぶん前例がないので、結論はしばらくかかると思われます。それよりも、早く食べてしまいましょう。せっかくの温かい食事も冷めてしまいます」

 

それもそうか、と思い三人は黙々と食べていった。佐藤さんがやっているように、味噌汁に七味をかけてみると意外や意外、味変になって食がすすむ。

辛味の中に一種の爽やかさを感じ、唐辛子の辛味が鼻をツンとさせながらも最後の一滴まで呑み干した。

 

◇◇◇

 

執務室の鍵を借りに佐野さんに会いに行く。

佐野さんは、窓ガラスを古新聞で丁寧に磨いていた。窓に息を当て磨いている姿を見ると、ひとつの絵画のようにも見える。

 

「あら、お会いするのは随分とお久しぶりですね。お元気にされていましたか?」

 

「ええ、なんとか。今日は、執務室の鍵を借りにきました」

 

「ええ、どうぞ。こちらです。あとドリンク剤はいりますか?」

 

「いえ、結構です」

 

もしあれを飲んだらそれこそ天国行きに成りかねない。もしかして、佐野さんもあのドリンク剤気に入っているのだろうか?

 

「そうですか……」

 

悪いことをしている気にもなってしまうが、アレは命に関わる。できれば今後も避けていかないと命がいくつあってもたりはしない。

 

室内に移動し、作業机に着座する。報告書と学生時代のレポートは似てはいるが、別物として考え書いていく。ちゃんとしたものを書けているのかはわからなかった。幾度か書き直しをし、感覚としては丸々一日かかって報告書を書き上げた。

 

それを最後に佐藤さんに渡す。佐藤さんは、報告書を一読して一言。

 

「初めてにしては良く出来ています。これで大丈夫ですよ」

 

そう言われた時、不甲斐なくにもガッツポーズをして喜んでしまった。それぐらい大変だった報告書だった。

 

◇◇◇

 

報告書を渡し終えると、どっと疲れが溜まっていたようで指先がプルプルと震えている。そういえば、集中し飲まず食わずで丸々一日過ごしていたのを思い出した。

 

ふと、あまい香りが漂う。

 

みると、佐藤さんは机の上にティーセットを広げ、大型のスキレットの柄を鍋つかみで持ってきている最中だった。

よくよく見ると、焼き菓子のようなものがふっくらと膨らんでいるのが見える。

 

「佐藤さん、それは?」

 

「時間に余裕がありましたから、作ってみました。以前、絵本を読んだ時に作ってみたいとおもっていたので」

 

それは、赤と青のネズミが森の中で焼いた大きな大きなカステラだった。

 

真上から見ると、まるで満月のように大きく丸い。さすがに、原作のように大きさは無理があるがそれでも拡げた掌より大きい。

 

スキレットの縁にスッとナイフを入れ、一周させると綺麗に取り外すことができた。2人分の皿を用意しようとすると、佐藤さんが手を止めた。

 

「種田さん、少し待ってもらえますか?そろそろ匂いを辿って来る頃だろうと思いますから」

 

来る?いったい誰がと思っていると大きく扉が開かれた。

 

「呼ばれてないけど参上っスよ!!先輩、その量を2人で食べるのはキツいんじゃないんすか?最近、体重気にして……アダダダダダダダッ!!!!アイアンクローはキッツいいいいいいい!!!!」

 

「巻尾、次はないと言いましたよね?」

 

「ちょっ待って……あああぁあああああ!!!!!!」

 

メリメリッと人体から出ているとは思えない音を響かせながら巻尾さんを飛ばし、いつの間にか現れたクッションに放り投げられた。

 

◇◇◇

 

「あー痛つつつつっ、先輩やり過ぎっスよ。元の形に戻らないかと思ったスよ」

 

「あなたが言葉を選ばないからそうなるんです」

 

頭を抑えつつ、呻き声をあげていた巻尾さんだったが、本来の目的であったカステラの匂いを嗅いだ瞬間にすぐさま復活した。その様子はまるで、飢えた獣のようだった。

 

人数分に切り分け、バターを載せる。カステラの持った熱でバターが溶け始めるとその上から、更に蜂蜜をかける。

溶け出したバターと、蜂蜜が混じり合いまるで黄金のように光り輝いてるようにも見える。

 

それをナイフとフォークで切り分け、口に入れるとまさに至福の一言だった。

 

「うぉぉぉん!!!!先輩、これやばいっスよ!!!!めちゃくちゃ美味しい!!!!」

 

「材料はいいものを使いましたがここまでとは……我ながらすごいものを作ってしまいました」

 

「いや、本当に美味い……佐藤さん、天才ですね」

 

「お褒めいただきありがとうございます。さ、早くいただきましょう」

 

そういった佐藤さんは、恥ずかしそうに笑い頬は薄化粧よりもさらに紅く染めていた。

 

 

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