地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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契約と悪霊

業務を終えて、部屋に戻ると綺麗に片付けられていた。ベッドは、マットレスごと交換されているようで新品になっており、現世から持ってきた少ない家具家電も元の形を保っている。

 

「そういや一人暮らし始めたときに買い揃えたこれもだいぶくたびれてきたな……そろそろ買い替えの時期か?」

 

そう言うと、電子レンジが勝手に起動しオーブントースターに熱が入る。洗濯機は、モード切替を繰り返し、掃除機は何もしていないのに吸引を始めた。

 

状況に追いつけず、頭が混乱してしまいそうになるが、落ち着いて対処をする。これは家電製品なのだから電源自体を抜けば対処できるはず!

そう思い、全てのコードを電源タップから外す。が、先ほどまでと何も変わらず、家電の暴走は止まらない。

 

どうしようと頭を抱えるが、相談も兼ねて佐藤さんに電話を掛けるとすぐに出てくれたのでかなりありがたいと思ってしまった。

 

『はい。どうかしましたか、種田さん?』

 

佐藤さんに現状、わかっていることを懇切丁寧に説明をする。何が起こったかを説明し終えると、聴き終えた佐藤さんが質問を投げかけてきた。曰く、部屋に帰ってきてからどんな行動をしたか。どんな発言をしたか。そう言われ、先ほどの行動を思い出す。

 

「……そういえば家電を買い替えようか、と一人つぶやきました」

 

『おそらくそれですね。先日の淫魔の力を封じた箱、部屋にありますか?』

 

箱?室内を見ると缶ケースがあるが、フタが若干空いている。箱の中には、小さな飴玉のようなものがふたつ、残っているだけである。

 

「飴玉のようなものがふたつあるだけですね。これがどうかしたんですか」

 

『……そうですか。おそらく、昨夜の種田さんの部屋での一悶着あった際に蓋が外れてしまったのでしょう。そして、その力が部屋にあった家電製品に拡散されたのだと思われます。とりあえずテープのようなものでフタが開かないようにしてください』

 

言われた通りに、アルミの缶ケースの蓋を部屋にあったガムテープでグルグルと巻き、養生する。なんとまぁはた迷惑な話だと頭を抱えていると、部屋に自分以外誰もいないのに声をかけられた。周りを見渡して見るが誰もいない。

 

「おい人間、こっちだこっち」

 

見ると、一人用の小さな冷蔵庫の扉に二つの目玉が付いている。ギョッとしていると、冷蔵庫は大きく溜息をひとつし、言葉を発する。

 

「そこまで驚くな。と言っても無理だろうがな。ここら辺は、慣れてくれとしか言いようがない」

 

「いきなり冷蔵庫が喋り始めたら誰でも驚くって……」

 

「驚くのはこちらもだ。生まれてわずか数年で付喪神になるとは……この世界は分からんもんだ。何が起きるか予想が付かん」

 

そう言うと冷蔵庫は、ゲラゲラと響くような笑い声を出し、さらにこちらを驚かせる。それに呼応するかのようにほかの家電製品もゲラゲラと笑い始める。正直言ってやかましい。

 

「……佐藤さん、今の会話聞き取れました?」

 

『ええ、こちらからもちゃんと聞こえましたよ。まさか付喪神になるとは……これは想定外ですね。種田さんは、その冷蔵庫と話をつけてください』

 

冷蔵庫を見ると、ウォッホンと大きな咳をしこちらを見て欲しそうに見ている。

 

「分かりました。何があるかわからないので通話したまま会話しますね。……おい、冷蔵庫。要求はなんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれた。こちらからはふたつ。ひとつは、週に一度の頻度で我々を磨いてほしい。埃が上に乗ったままというのは、外聞も良くないしこちらの性能も落ちる」

 

「わかった。それは本来だったらちゃんとやらなきゃとは思っていたところだ。それと、もう一つの要求は?」

 

「もう一つの要求は、できれば買い替えると言わないでくれ。我々も道具で生まれたこの命、尽き果てるまでは全うしたいと思っている。だから、最後事切れるその時まで我々を使ってくれ。こちらからの要求は以上である」

 

「わかった。もし故障しそうになったら、壊れる前に言ってくれ。そうすれば、直ぐに治せるかもしれん」

 

「了解した。これで繋がりは成ったな。これからもよろしく頼む」

 

仰々しく、冷蔵庫が目を閉じる。そうすると、すぅっと消えるように二つの目が消えて、黙した。冷蔵庫だから頭を下げるというのができないからか、これが正しい挨拶なのかは分からない。ただ、こちらもひとつ頭を下げた。

 

◇◇◇

 

「……終わりました。とりあえず何とかなったようです」

 

『お疲れ様でした。種田さん、缶ケースを持って室に来てもらえますか』

 

缶ケースを両手で落とさないように持って、佐藤さんの元に向かう。

 

室に行くと、扉の前に佐藤さんと巻尾さんがいた。二人とも、目が合うと会釈しこちらへ足を揃えてやってくる。

 

「業務時間外にお手数かけて申し訳ないありません。本当でしたら、こちらから出向かなければいけなかったんですが…」

 

「こっちもやけに手間取ったんスよー。あ、缶ケース受け取るっス」

 

巻尾さんに缶ケースを渡し終えると、その上に何やら読めないが達筆に書かれた札を貼り付けた。

 

「よし、ひとまずこれで一安心っスね!これで内側からは絶対に開かないっスよ」

 

「内側からってことは、外からでは開けられるんですか?」

 

「必要になった時に開けられないとなるとそれはそれで困りますから。どんな猛毒でも、用法用量を変えれば難病を克服できる万能薬になり得ますから」

 

たしかにどんな良い薬でも、量を間違えたら毒にしかなり得ないな。そういえば、現世でも自殺のやり方に市販薬の多量摂取なんてのもあったっけ…

 

そんなことを考えていると、佐藤さんのポケットに入れている端末が震える。冷静にそれに応じると、顔色を変えた。その変化に、巻尾さんも気づいたようで聴き漏らさぬように人差し指を口の前で添えていた。

 

「ええ、ええ、はい。わかりました。ええ、当人も連れていきます。はい、はい。それでは、後ほど」

 

「佐藤さん、何かあったんですか?」

 

「例の悪霊化した亡者が意識を取り戻したのですがどうやら未決監で暴れたようです。種田さん、一緒に来てください」

 

◇◇◇

 

ここはどこでしょう…たしか私は…誰かに連れられて…話をしたところまではおぼえておりますが…誰かのことを思い出そうとするとひどく頭が痛むのです…なぜ…なぜなんでしょうか…

 

頭がまだボウっとしますが手首に違和感を覚えましたのでみてみますと、おおきな手枷がつけられているのがわかります。

 

どうしてこんなものが?と考えようとしますが、熱病にうなされるように考えがまとまりません。

 

手枷を外そうと、はしたないですがバタバタとあばれていると子供のころ、お寺さんの地獄絵で見たような鬼がこちらにやってきました。

 

それを見ているとわたしは恐ろしく感じ、まるで気狂いのようにあばれました。

 

その鬼は、まるでお医者さまのように手慣れた手つきで、脈をとりはじめました。そして、わたしの腕にセロハンのようなものを貼り付けると気分がスゥっと良くなり、まるで葡萄酒を飲んだ後の酩酊感のようなものがやってきました。

 

ああ、おそろしい。きっと、わたしはこの鬼に食べられてしまうのでしょうか…それとも手足をちぎられ、芋虫のようにして晒し者にでもされるのでしょうか…

 

ああ、恐ろしや恐ろしや……

 

そんなことを考えていると気が遠くなっていきます……

 

ああ、恐ろしや恐ろしや……

 

◇◇◇

 

「ひとまず、安定化はさせておきました。ですが、いつどうなるかこちらにもわかりません。くれぐれも、取り扱いに気をつけてください」

 

白衣を着た獄卒が、フラリと立ち上がると頭を下げ出ていく。今回は何とかなったようだが、次はどうなるかわからない、と言われたような気がした。

 

「さて……あの亡者どうすればいいんでしょう?」

 

「酷な話になりますが、あそこまで行くと強制的に除霊するしか我々には対処できませんね。種田さん、あなたはあの亡者をどうしたいですか」

 

一目し、瞑想するように瞼を落とす。悪霊になったきっかけは裁判での俺の行動だったかもしれない。だけど、その前の原因は何だ?悪霊になるまで恨みを募らせてしまったこと?それとも心中相手の男のことを今でも思ってること?どうしたい……

 

「悪霊化した魂を浄化し別の器に入れて裁判するってできますか?」

 

「できないことはないですが、触媒と器となり得るものを用意しないといけませんね。それはどうしますか?」

 

器…容器…入れ物…連想されたワードをひっくり返して頭の中で結び直す。人……器……人の形……人形……

 

「佐藤さん、器の形って何でもいいですかね?」

 

「ええ、そのものに魂が乗り移ればいいだけですから。何か思いつきましたか」

 

「悪霊化してる部分を切り取って、人形に封印し、残った善性の部分は天にあげればいいんじゃないかと。

以前、人形供養のお寺の特集を見たことがあってそれで思いついたんですがどうですか?」

 

「ええ、やって見ましょうか。今後、悪霊化した際の対処法になり得るかもしれません」

 

必要なものを用意してきます、と佐藤さんはどこかへ駆け出していった。待ちぼうけになってしまったが、こちらもいつでも始められるように心の準備だけはしておく。

 

 

 

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