地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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夢と現

出生の届出を出すために書類を書いていくが、慣れてないからか書き損じが多く出てしまう。

 

何よりも、契約をしたことであの子-ーーはなが自分の娘になったという事実さえ、まだうまく認識出来なていない現状だ。

 

ふと気づくと茶の甘い香りがした。見ると、佐藤さんが急須と湯呑みを用意していたところだった。

 

「書類は週末まで期限がありますから、そんなに焦らないでいいですよ」

 

「それはそうなんですけどね……できれば早めに書いておきたいんです」

 

「それは立派な考えです」

 

佐藤さんが、急須から茶を湯呑みに注いでいくと、はながぐずり出した。

 

どうやらミルクの時間のようだ。

若干重たい腰を上げ、ミルクの準備をしようと立ち上がると、佐藤さんがすでに準備を完了させていた。

 

ミルクの温度も熱すぎず冷たすぎずちょうどいい温度で、正直かなり助かった。

 

はなを抱き上げ、哺乳瓶の乳首を口元へ持っていくと、勢いよく咥えて吸い始めた。

 

よし、ちゃんと飲んでる……

10数分ほど飲ませると、哺乳瓶の中身は空になり全て飲み終えたことにホッとする。

 

すぐさまおくびを促し、ゲフッと口から出させる。

そのまま、ウトウトとし始めたので眠らせるためにバスタオルでおくるみを作り、包んでいく。

 

スヤスヤと寝息を立てて眠るはなを見て一息つくと同時に、これを毎回するとなると母親の存在というものを大きく感じる。

 

「……眠ったようですね」

 

「ええ、すんなり眠くなってくれて助かりました」

 

「そういえば夕食どうしますか?」

 

「あー、食堂に行くしかないですかね?一応この子がいますから……目を離すのはちょっと怖いです」

 

「では少し待っててください。今日の夕食、詰めてもらってきます」

 

「あ、お願いします」

 

こうなってくると今度佐藤さんにお礼も兼ねて何かしなくちゃいけないと思ってしまう。仕事の間に赤ん坊の手伝いまでしてもらって頭が下がる。

 

「ふわぁ……」

 

大きなあくびが、口から漏れていく。

そうか……風呂にも入ったし眠気がすごい。

少し……少しだけ眠ってしまおう……

 

意識は微睡みの中に沈んでいった。

 

◇◇◇

 

「種田さん、種田さん」

 

肩を揺らされ、体を伸ばしながら生欠伸を噛み殺す。

どうやら少し眠っていたようだ。

 

「ふわぁっ……あっ、すいません」

 

「いえ、お疲れでしたので……三途の川の清掃ご苦労様でした」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「さぁ、ご飯食べましょう?」

 

2段のお重には今日の献立だった豚の生姜焼き、筑前煮、野菜サラダ。

 

下のお重には俵形のおにぎりが6つ並んでいる。

 

「あっ、皿と箸ないですね……持ってきます」

 

「種田さんは座っていてください。私が準備しますから」

 

お言葉に甘えて、佐藤さんに準備をしてもらう。野菜サラダの横に、照りの濃いしょうが焼きと平鉢の器には筑前煮が美しく盛られている。

 

佐藤さんは、椀の中に茶色い玉状のものを入れ、お湯を注ぐ。この香りは……みそ汁?

その香りを嗅いだ瞬間、腹が減り、腹の虫が鳴き出した。

 

「いただきます」

 

「めしあがれ」

 

まずは、筑前煮から食べる。味がよく染みていてとても美味しい。少し塩味が薄く感じるのは、それだけ汗を流したからだろう。

 

次にしょうが焼き。

 

こちらは、味付けが濃厚でたまらずおにぎりを頬張る。

具材は何も入っておらず、帯状に海苔が巻いてあっただけだが、そのシンプルさがありがたかった。

 

そして、さっき佐藤さんがささっと作っていたみそ汁。

それを口の中に含むと、海藻の香りと出汁のいい味が混ざりすごく美味しいと感じる。

 

「今日の夕食美味しいですね。箸が止まらないですよ」

 

「そうですか、それはよかった」

 

ぬるくなったお茶で流し込み、腹具合はひたすら満足だった。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまです。では私はこれで……お重は私が持って帰って洗いますから種田さんはどうぞご自由にしててください」

 

「すいません、何から何まで」

 

「いえ、私がやりたいだけですから」

 

そう言った佐藤さんは、ふふっと微笑んでいる。

その後、佐藤さんは名残惜しそうにしながら帰っていった。

 

今日はいろんなことがあった……よし、今日はもう寝てしまおう。

 

寝巻きにしているスウェットに着替え、歯を磨いて就寝。もし、はなが夜泣きして起きてしまってもいいように、ベビーベッドの隣あたりに眠る。

 

今日は色々なことがあったな……風呂に行ったり名前を決めたり……

 

ひとまずはこれで落ち着いてくれるといいんだが……そうはならない気がしてるのは気のせいだろうか。

 

◇◇◇

 

夢を見た。またこの夢だ。

 

苔まみれで足元は悪く、側壁は岩を削り取ったようにボコボコとしている。

 

ただ、目の前にある人魂のような物の数が一つまた増えている。そのおかげで以前より視界ははっきりと見えた。

 

岩を囲むように縄と紙垂が付けられており、一見するとなんでもなさそうだがこれは立派な封印だ。その岩戸の前に立つと、凛とした声で何者かが話しかけてきた。

 

「また来たか、人の子よ」

 

「どうも」

 

「来るなと言ったのになんで貴様はくるのだ」

 

「理由なんてわかりませんよ。ただ、何かに引き寄せられているようです」

 

「ふむ、そうか……では仕方ないか」

 

「あなたは誰……と聞くのは少々野暮というやつでしょうか」

 

「うむ、名前は知られているがアイツからしか呼ばれても私は返事はせんよ」

 

「この夢を見るのは3回目だったと思うんですけど、なんか態度柔らかくなっているような気が」

 

「まぁ、こんな場所に3度もきたのならば多少は扱いにも気をつけろう。お主は……」

 

「はい」

 

「お主は一体なぜこの場に呼ばれたのだろうな……不思議なもんだ」

 

「それはこちらが聞きたいです。まぁ現実に影響が出ていないからいいようなものの……」

 

「はっはっは!そうかそうか!だったらもっと楽しめ!そしたら道は開かれるであろう」

 

「楽しむ?」

 

「その答えはおまえさんの中にしかない。だから探せ。……おや、その顔はまだ納得していないようだな。だが、そろそろ目覚めの時間のようだ」

 

「待ってください。まだ何も現状は解決していないです」

 

「お主がこことつながったのも縁じゃ。またきたら話を聞かせておくれ」

 

そう言うと、夢から追い出されるようにして目が覚めた。

スンスンと鼻を鳴らすと、どうやらはなが粗相をしてしまったらしく泣いて訴えている。

 

きちんと拭いておしめを替えると、ぐずらずに眠ってくれた。

 

時間は一時過ぎ……約3時間ぐらい寝たことになる。

そろそろ腹をすかせることだろうと逆算し、ミルクを作って冷ましておく。

 

15分ほど経った頃、カン高い泣き声が部屋に響いた。

急いで抱っこし、ミルクを飲ませる。

おくびをさせ、眠くなるまでゆらゆらと体を揺らしていると、すぐに寝ついたようだ。

 

……これがあと1年弱続くのか。そう考えると、言えば誰もが手助けしてもらえる今の環境はありがたいと思ってしまう。

 

はなを寝かせ、もう少し眠るとしよう。

朝まではまだ長いのだから。

 

 

 

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