「待て!!」
「伏せ!!」
「おすわり!!」
2匹は命令された行動をきちんととる。ここまではいい。問題は、この先だ。
「とりあえず、最終日に佐藤さんが来てくれることにはなりました。それまでにある程度できるようにはなりたいところですが……どうでしょうか?」
「うーん、厳しいっスねー。あの子たちは覚えるのは早いんスけど本番でちゃんとできるか不安要素がまだまだ大きいっス」
「そうなんですよね……」
2匹を見てみるとおすわりの状態で待機しているが、それ以外を知らないからこそこの行動をとってるとも考えられる。
「ん?」
ふとポケットを探ると、自室の鍵がない。……コレはマズい。このとても広い場所でどこで落としたのか全く見当もつかない。
「巻尾さん、自室の鍵無くしたっぽいです……」
「えっ。じゃ、じゃあ急いで探すっスよ!とりあえず歩いてきた道を探すっス!!」
一応通った場所を念入りに探してみたが、やはり見当たらない。これじゃ自室にも戻れないぞ……
焦っていたのを見ていた2匹は目を合わせていた。すると、2匹は立ち上がり、こちらに近づいてきて手の臭いを一心不乱に嗅ぐとバウと大きく吠えた。
「もしかして落とした場所がわかるのか?」
「とりあえず着いて行ってみるっス」
ライデンが左側を、マツナガが右側を先だって歩いていく。地面の匂いを嗅ぎながら、目的の場所を絞り込んでいっているようだ。
しばらく歩を進めて行くと、2匹が止まった。そこをみてみると、鍵が落ちている。それを確認するために拾うと、間違いなく自室の鍵だった。
「よ、よっしゃ見つかった!!!」
無意識にライデンとマツナガの頭を撫でる。
2匹はこれぐらいできて当然だとでも言うように、鼻をスンと鳴らした。
「はー、この子達鼻がいいんスねー。コレは想像以上っスよ」
「ですね。とりあえず鍵が見つかってよかったです」
鍵を見てみると、特に目立った傷跡等もない。いつ、ここで落としたのか。それはわからないが、ひとまずは見つかってよかった。
「巻尾さん、この2匹裁判で使えそうじゃないですか?」
「えっ、裁判で!?」
巻尾さんの顔を見てみると、明らかに驚愕と言った表情をしている。たしかに常識外れではあると思うが、人慣れした犬2匹をこのまま飼い殺しにするのもどうかと思ってしまう。
「うーん、問題はこの2匹をどう使うかなんスよ。あと前例がないから申請書をどれだけ書かなくちゃいけないかそれも未知数っス」
「申請書ですか?でもたしか、食堂に色々な動物いましたよね?」
「アレは一応裁判官っスからね。それ以外の動物もいるにはいるっスけどそれは会社で言うならば上役みたいなものっス」
「……難しそうですか?」
「とりあえず閻魔様と先輩にも相談したほうがいいと思うっス。コレに関しては私一人じゃどうにもならないっス」
「ちょっとアポイント取ってみます」
まずは佐藤さんに連絡を入れる。通話するためにコールするとすぐに出てくれた。
『どうされましたか?』
「お疲れさまです。実は、佐藤さんと閻魔様に同時にアポイントを取りたいんですが都合のいい時間はありますか?」
『すこしお待ちください……今日はかなり厳しいですね。明日の午後でしたら時間を取れると思います』
「では、明日の午後にお願いしてもいいですか?」
『分かりました。他に伝えることはありますか?』
「いえ、今話したこと以外はないです。ではよろしくお願いします」
『承知しました。閻魔様にもお伝えしておきます』
……ふぅ、ひとまず今回の件のアポイントだけは取れた。今日明日は、目の前の業務を遂行するだけだ。
◇◇◇
翌日、アポイントを取ってもらい二人に今回の事を相談するために閻魔様の執務室に足を向けた。
「その2匹を裁判に使いたい、ですか……」
「たねちん、なかなか面白そうなこと考えたね。たしかに常識外だけどできなくはないよ」
「本当ですか!?」
「うん、ただ前提条件がいくつかある。1つは、他者にーーーこれは他の裁判官に危害を与えない。もう1つは、一応検疫にかけることになる。それは了承できるかい?」
「検疫ですか?」
「そう、いくら獄卒だって地獄の土壌をそのまま持ち込んでたらあっという間に病気になっちゃうからね。その2匹は、等活地獄にいたんでしょ?だったら申請が通ったら二週間弱は検疫にかけなくちゃいけない。その費用はたねちんの実費になるんだけどそれは大丈夫?」
「じ、実費ですか……」
「うん、軽くコレぐらい」
閻魔様が懐から電卓を取り出すと、必要経費を見積もって行く。その数字を見せられて目玉が飛び出るような感覚になった。
「一応最低限の値段だからね、ソレ。プラス色が乗ると思ってくれたらいい」
「うーん」
「一応分割もできるけどどうする?」
「地獄のローンですか……」
「はっはっは、なかなかいい表現をしてるね。ただ、わかってほしいのは新しいことをやるためにはそれだけ先行投資が必要になるってこと。それだけは忘れないでね」
「種田さん、閻魔様はやるなとは言ってませんからね。やるならちゃんと覚悟を持って行動を取れと言っているのだと思います」
「覚悟ですか」
いつかの、後藤の裁判の時もそんなことを言われたっけ……よし、腹は括った。
「わかりました。佐藤さん、ここあたりでお金借りれるところありますか?」
「種田さん?人の話をちゃんと聞いていましたか?」
「なぜそっちの考えに至るんだい、たねちん」
「いや、お金が足りないなら借りるしかないじゃないですか。だから……」
「「それはやめておいたほうがいい。あなたの為です(だよ)」」
二人の声が足並みを揃えたように揃った。やはりお金を借りると言うことはあまり相談しない方がいいのか?
「このあたりの金利はすさまじいからね。裁判官だからすぐに借りられるとは思うけど、返済がいつ終わるか正直わかったものじゃないよ」
「ええ、ですのでおすすめしません。それだったら、私が貸しますよ」
「えっ」
佐藤さんにお金を借りる。その方法もなくはなかったが、やはり顔見知りに借りるのは躊躇してしまう。
「返せる時に返してもらえればいいので」
佐藤さんはそう言うと、懐のポケットから紙束を取り出した。どうやら銀行の小切手のようだ。それにさらさらと書いて、近くにあった朱肉で親指の拇印を証明した。
「これでよし……種田さん、受け取ってください」
「え、でも」
「いいから受け取りなさい」
「あ、ありがとうございます。絶対に返しますんで」
佐藤さんから渡された小切手をなくさないように懐に入れ、深く頭を下げた。