ひとまず目の前の問題は解決できた。あとは、最終日に犬たちを使えるかどうか判断してもらおう。
巻尾さんのところへ行こうとすると、端末の通知が光った。画面を見てみると、佐藤さんからだ。
『言い忘れていました。犬たちを裁判に使用するのでしたら首輪を用意しておくように』
首輪、か。たしかに誰かの所有物としてのアイコンだし必要だろうな。
「わかりました。そういえば首輪ってどこで買えますかね……首輪と言ったらペットショップとかでしょうか?」
『ペットショップですか。なくはないですが……そもそもが地獄で愛玩動物を飼うこと自体がそんなにないんですよ。飼うと言ったら猫や犬くらいで』
「犬用があるんだったらそれ使えないですかね?」
『どうでしょうか……一般用に使えても裁判の審理に使えるかはわかりかねませんね。なんでしたら取り寄せることもできますがどうされますか?』
「いえ……ちょっと自分で調べてみようと思います」
『そうですか……わかりました。進展がありましたらまた報告してください』
「わかりました」
『それでは後日改めてよろしくお願いします』
佐藤さんとの通話のやり取りが切れ、頭を使って考える。
どうする。どうする。どうする。
いつのまにか歩みを進めていたのだろうか。気づくと自室の扉の前にいた。
そう言えば今着けているチョーカーもたしか技術開発部が作ったんだよな……ダメ元で日下部さんに聞いてみるのはどうだろう?
そう考え、隣室の扉をノックした。するとドアノブが回り、軋むような音を出しながら扉が開く。
「やぁやぁどうもどうも。本日はどうされましたか?」
「日下部さんに相談があって来ました。時間の都合大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。親しき隣人のためでしたらこの身削ってでも聞き入れましょう」
◇◇◇
とりあえず上がってくださいと言われたので、お言葉に甘えて部屋に上がった。相変わらずジャンクパーツの山ばかりだが、以前来た時よりも少なくなっている?
「少し待っていてください。飲み物を持って来ます」
「ありがとうございます」
日下部さんは、奥の部屋へと足元を見ずに進んでいった。しばらくすると、ペットボトルのお茶を2本持ってこちらにやってくる。
「どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
ペットボトルのキャップを捻り、喉を潤す。お茶は、いつもと変わらない味だったがそれが逆にありがたかった。
「ふぅ……今日はお願いがあって来ました」
「ええ、なんでしょう」
「日下部さんに首輪を作って欲しいんです」
「それは人間用の?それとも動物用の?」
「犬用です。それを二つ」
「ふーむ、犬の首輪ぐらいでしたら地獄でも売ってますからね。それを私に求める理由が知りたい」
「それは……」
考えてはいるが、その答えはまだわかっていない。ただ今言えることは一つだけだ。
「理由があるのでしたら聞きましょう。理由がないのでしたらそれはそれでまぁ……」
「日下部さんに作ってほしいんです」
「それは……技術屋に言っちゃずるい言葉ですよ。少し待っていてください」
そう言うと、日下部さんは部屋の奥へと足を進めていった。しばらく待っていると、戻ってきた日下部さんは化粧箱を持って向かい側に座った。
「これを犬の首に巻いてみてください。そうしたら、自動で調整されるはずです」
「はず?」
「はい、なにぶん作っては見たのですが周りに犬を飼っている者が居なくてですね……さすがに飼い犬の首が絞まるかもしれないとは私も言えませんよ」
「……たしかに」
「だから最終調整が出来ずに埃を被っていたのを先ほど思い出したんです。さぁ、どうしますか」
どうする、か。これをあの犬達に使えるかどうか……
「わかりました。やってみます」
「もしも首が絞まった場合は、刃物などで首輪ごと切ってください。そうすれば糸がほつれて解けるようになっています」
「わかりました」
「さぁ、急ぐのでしょう。行ってください」
「ありがとうございます!」
日下部さんに礼を言い、部屋を後にした。これで首輪の問題も解決した。一度、巻尾さんのところへ戻り、報告をしよう。
◇◇◇
「これがその首輪っスか……」
「はい。どうやらそうらしいです」
「そうらしいって……なにか含みのある言い方っスね」
「含みのある言い方というか……最終調整がされてないらしいんですよね。だから渡されたと言ったほうが正しいのかもしれません」
「そんな危なっかしい物よく貰って来たっスね」
「ははは……すいません」
「まぁ、何かあった時の対処法知れてるから良しとするっスよ。私は二匹を連れてくるっス」
そう言った巻尾さんは、小屋の中から二匹を連れ出して来た。……警戒はされていないようだ。
二匹を首周りに一度触れて、確認をする。そして、首輪を巻こうとした瞬間、犬たちがウウウウウウウウウウウウッと唸った。
臆せずに首周りを一周させると、カチリという音が鳴り首輪の形になった。首輪には、彼岸花の刺繍が施されていて、それがピンと一緒の柄だったのには少し後に気づいた。
「大丈夫……そうですかね?」
「そうっスね……苦しんではいないようっスから大丈夫かと思うっス」
「よかった……あとは訓練だけですね」
「そうっスね。何を覚えさせるかが重要っスけど……何を覚えさせるっスか?そんなに時間はないっスよ」
「こういうのはどうでしょう……」
巻尾さんの耳元へ行き、こそりと呟いた。それを聞いた巻尾さんは、うんうんと首を縦に振った。どうやら了承してもらえそうだ。
そうと決まったらその訓練をする。期限としてはかなり短いからできるかどうかはまだわからないが、これが出来なければ裁判で使えそうにもない。
心を鬼にして訓練することになった。