地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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JIGOKU NO OWARI

医務室から外に出ると50メートル置きに扉がある廊下に出た。廊下は綺麗に清掃されているらしく、埃ひとつ見当たらず見渡すと何人か獄卒がいるのが確認できる。

 

「では、約束してましたので今から閻魔様のところに行きましょうか」

 

「わかりました。何か注意というか気をつけなくちゃいけないことはありますか?」

 

「そうですね……そうそうないのですが閻魔様の機嫌が悪くなると大変なことになるので気をつけてください」

 

「大変なこと?」

 

「ええ。例えばですが閻魔様が機嫌を悪くし貧乏ゆすりをすると地獄が揺れ、涙は炎の雨となって地獄に降り注ぎます。地団駄なんて踏んだ日には、おそらく下の階層まで一気に無くなって最終的に地獄が無くなるという結果だけが残ります……なので絶対に避けなければなりません……」

 

「……それはマズいですね。なんとしても機嫌悪くしないようにしないと」

 

「えぇ、ですので種田さんも気をつけてください。地獄の終わりなんて笑えませんよ」

 

◇◇◇

 

廊下をしばらく歩くと、ひときわ大きい観音開きの扉が見えて来た。漆塗の表面はよく磨かれているらしく、鏡のように二人の姿が写っている。

 

「此方が閻魔様の執務室になります。では、行きましょう」 

 

扉を開けるとそこも室というより空間というのが正しい場所だった。奥には樺色の執務机が2つ並んでいて、片方の机は書類の山が出来ていて、もう一方の机は綺麗に整頓されている。

 

「おっ、来たねー。たねちん。佐藤もお疲れー」

 

「お疲れ様です、閻魔様。休憩ですか?」

 

「まぁーねー。ちゃんと休まないと怒られるんだよねー」

 

見ると、閻魔様は休憩に入ったタイミングらしく折りたたみの円卓を用意してくつろぐところだった。

 

「今日は飲茶の気分かなー。たねちんと佐藤もどう?」

 

「……お茶だけいただきます。」

 

胃は空腹のサインを出していたが、まだ目上の人間相手に緊張が勝っているせいか、率先して食べようと思えなかった。さらに先ほどのドリンク剤もあって、今は喉を潤したいというのが優っている状況である。

 

「あれ、たねちん。お腹すいてないの?執務室に入って佐藤にしごかれたって聞いたけど?」

 

「閻魔様、お言葉ですがしごいてはいません。ただ、必要になった際にすぐに対処できるように教育しただけです」

 

「いや、佐藤の場合それが人一倍どころか二十倍ぐらいたいへんだからね?そこらへんは自覚持とうよ」

 

たしかにアレはすごく大変だった。終わりがなく、永遠と続いたならば場合によっては、精神を崩壊させていたかもしれない。なにせ、例えるなら図書館にあるすべての蔵書を頭に叩き込んだといえば分かりやすいか。常軌を逸脱してる情報量だった。

 

「と、いうことでどうだったかな、種田くん。これからやっていけそうかい?」

 

閻魔様が先ほどより、ほんの少しだけ真面目な表情で問いかけてきた。呼び方もたねちんから種田くんになってるから切り替えたんだろう。この人は、オンオフのスイッチがきちんと出来ている人なんだと今日初めてあった俺でも認識できた。

 

「えぇ、なんとか。うまくやっていけそうです」

 

「そうかそうか。よかったよ。よろしくね。種田くん。さ〜て、さぁ飲茶を楽しもう。ちょうどできあがったようだからね〜」

 

円卓の上にはいつの間にやら、準備ができていたらしく小さなセイロが4つほど重なったモノと茶器が準備されていた。小さな鬼?小人?が自分の身体より大きな茶器をカタカタと小さく音を鳴らしながら、あっという間に人数分の茶が準備されていく。

 

そうして、用意してもらった席に着きお茶を頂く。この香りは、ジャスミン茶か。香りが良く、先ほどより少しだけ緊張が和らいだのを感じる。たった、半日だが今までの人生の比じゃなく、疲れたのはいうまでもない。そんな中、そのジャスミン茶は身体に沁み渡るような美味しさだった。

 

◇◇◇

 

「そういえば、ヤミー様。さっきの小さな鬼?のような小人のようなものはなんですか?」

 

「あぁ、たねちんははじめて見たのかい。アレは小鬼衆だよ。まあ、妖精さんだと思ってくれればいい。炊事と家事に特化したのを何人か専属に雇ってるんだ」

 

彼等は、ほかの獄卒に比べて体躯が小さく育つらしく、アレで成人の状態らしい。一昔前までは、ほかの獄卒に蔑まれ肩身の狭い思いをしていたらしいが、閻魔様が能力を見出して纏めて雇用したようだ。

 

「使える人材は貴重だからね〜。何事も振り分けがだいじだよ」

 

こういう所が、この人が上に立てる人間なのだ、とあらためて思った。見えていない所や見えないようにしていた所をさらけ出して、分別していく。場合によっては、悪手になる可能性も十分あるんだろうけど、結果は現実に現れている。

 

ふと、先ほど室に入った時に疑問に思った点を聞いて見ることにした。

 

「ヤミー様、あの大量の書類の山が出来ているアレは一体?」

 

「あぁ、アレね。バカ兄貴の机だよ。今は流浪中だったっけ?たまーにしか帰ってこないんだよね〜」

 

お兄さんの机か。流浪中とは心配ではないのだろうか、と疑問に思うと佐藤さんが教えてくれた。

 

「大丈夫ですよ、いつもの事なので。閻魔様の兄上様は不定期に帰ってきて仕事を終わらせ、またすぐどこかに消えてしまいます。もし姿を見かけたらその日に幸運な事が起きると地獄の七不思議にもありますから」

 

閻魔様のお兄さん、七不思議に入ってるのか。いつかお会いできたらいいな、と思ってしまう種田だった。

 

◇◇◇

 

「では、閻魔様。そろそろ失礼します。飲茶ご馳走様でした」

 

「はいはーい、またね〜。さーて、もう一仕事がんばりますか!」

 

 

閻魔様に挨拶をして、執務室を出てしばらく歩くと佐藤さんが話を振ってきた。

 

「本日の業務は以上です。お疲れ様でした。そういえば種田さん、まだ此方に住居を移してませんよね?現世から通いますか?けっこう大変だと思いますが」

 

「一応は、あっちから通おうと思ったんですが……なにか問題がありました?」

 

今住んでるアパートは、大学に通う際に半ば無理やりに一人暮らしをさせてもらい、住まわせてもらっている家だ。1Kの小さな部屋だが、住めば都とはよく言ったもので慣れてしまえば、わりかし居心地のいい空間になっている。

 

「いえ、あちらから通うこともできるんですがそうなると入口が喫茶店にしかないので不便かな、と思いまして。店の営業時間を気にしなければいけませんし、何より人目を憚らないといけませんから」

 

そうか、その問題を失念していた。いつも喫茶店からコッチに来るのも目立つだろうし今住んでる家から待ち合わせの場所まで電車に30分以上乗っていた。その上、喫茶店がある場所までの道のりを迷わずにこれるか、というのも甚だ怪しいものがある。

 

そう考えると、居住地を地獄に移したほうがまだマシなのかもしれない。

 

 

「でも流石に引越し業者は呼べないですよね」

 

「大丈夫ですよ、必要な家具等にこのシールを貼っておいてください。それを貼ると日時指定でこっちに飛ばせますので」

 

すごいな、地獄。これ向こうであったら引越し業者泣かせじゃん。最悪、物流革命どころじゃない話になりそう。

 

「わかりました。あと引越しの際の書類等ってどうすれば……」

 

「其れは此方におまかせください。其方も福利厚生の中に入ってますので」

 

至れり尽くせりとはこのことだな、と思うと同時に現実だったらここら辺は会社負担ではなく自己負担になるんだろう。そう考えると、地獄ってすごくホワイト。

 

 

「では、失礼します。明日の朝に御自宅に迎えに伺いますので」

 

佐藤さんに喫茶店で別れた後、電車に揺られ自宅に帰る。すると、自分が思っている以上に肉体は疲労していたらしくジャケットをハンガーに通したあと部屋着に着替えたらそのままベッドに横になった。

 

「つ、つかれた……今日はもう無理だ……意識が」

 

たった半日、されど半日。また明日から始まる地獄ライフ。

 

 

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