地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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ハレーション

犬達の訓練をすること一週間。朝食を食べに食堂へ行くと、食堂の入り口の前に佐藤さんがいた。こうして顔を合わせるのも久しぶりだ。

 

「おはようございます」

 

「おはようございます、種田さん。今日はテストの日ですが、準備は万端ですか?」

 

「はい、大丈夫……だと思います」

 

「そうですか。期待していますよ」

 

食堂で朝食を食べ終えると、すぐにその足で犬達のところまで歩いていく。先週から犬たちにつきっきりで訓練をしていたので、今週あったことを報告する。簡略して説明しながら足を進めていくと、目的地である小高い丘の上の開けた広場のような場所に、巻尾さんと犬達がいた。

 

「あ、先輩、種田さん。おはようございますっス。今日はよろしくお願いするっス」

 

「まずは犬たちを見せてもらいましょうか」

 

「わかったっス」

 

二匹を佐藤さんの前へ出すと、犬達は自然と伏せの体勢をし、佐藤さんと目を合わせるようにして佐藤さんの方へ顔を向けている。どうやら、見ただけで立場がどちらが上かわかったようだ。

 

「こっちの赤い方がライデンで、白い方がマツナガっス」

 

「なるほど……毛並みはいいようですね」

 

佐藤さんはそう言うと、二匹の頭を撫でた。犬達は、気持ちよさそうに目を細める。

 

「ところで種田さん。この二匹は、どのような特徴があるのでしょうか」

 

「そうっスね……種田さんはどう思うっスか?」

 

「ライデンの方は、足が速い……でいいんですかね。マツナガの方は、耳がいい?」

 

「耳、ですか」

 

「はい。耳がいいと言うのが正しい言い方なのかはわかりませんが、二匹を比べたら明らかに違っていますね」

 

「なるほど……少し待っていてください」

 

佐藤さんはそう言うと、どこかに連絡をし始めた。しばらくすると、目の前に扉が現れ、獄卒に両腕を掴まれた亡者が引き連れてきた。

 

「この亡者は今日、不喜処地獄に落ちることになった亡者です。話の流れを切るようで申し訳ありませんが、今から犬達の最終試験を開始します」

 

「最終試験ですか?」

 

「ええ、これができなければ正直使い物にならないと言っても過言ではありません。試験内容は……」

 

ごくり、と生唾が喉に落ちた。最終試験とは聞いていたが実際何をやるのかは聞かされていない。

 

「この亡者を殺せるかどうか……この二匹に果たして出来きますか?」

 

◇◇◇

 

亡者を殺せるかどうか……そんなことはこの一週間まったく考えていなかった。本当にそれが必要なのだろうか?その判断さえ俺にはわからなかった。

 

「亡者を殺せるか、ですか」

 

「はい。判決を言い渡された亡者は、時たま判決を不服に思い裁判を抜け出そうとしたり裁判官に襲いかかってきたりと色々あるんです。ですので、その際は強制的に黙らさねばなりません」

 

「それは……必ず殺さなければならないんですか?」

 

「いいえ、必ずとは言いませんが……亡者を大人しくさせることが出来るのならば、殺さずに済ませることができます。この際、重要なのはどのような手段を用いても刑場に堕とすことが最優先事項になりますから」

 

「あとはこの二匹が出来るかどうか、なんですよね」

 

「ええ、そうなります」

 

二匹を見てみると何を言っているのかわかっていない。そんな顔をしていた。これはある意味難しいぞ……そんなことを思っていると、巻尾さんが肩をポンと叩いた。

 

「とりあえずやってみて考えるっスよ。できたらできたでその時は褒めてあげればいいっス」

 

「それもそうですね……でもどうやって命令を送りますか?訓練でもこの命令は教えてないですよ」

 

「うーん……この首輪の取扱説明書ってあるっスか?」

 

「取扱説明書ですか……そういえば日下部さんにもらった時に箱があったはず……もしかしたらその中かも」

 

「じゃあ取りに行くっス。で、どこにおいてきたんスか?」

 

「確か自室に置いてあったはずです。佐藤さん、時間をもらえますか?自室に荷物を忘れてきちゃったみたいで……」

 

「ええ、どうぞ」

 

急ぎ足で部屋に帰り、荷物を探そうとすると、ちゃぶ台の上に箱が置いてあった。……今朝、見た時は確かに箱は物置代わりにしている押入れに入れていたはずだが。……今は、そんなことを考えている場合ではない。

 

部屋の鍵が閉まっているかを2度確認し、荷物を持って急いで戻る。とりあえず犬たちの試験が終わったら、鍵を変えたりしてみよう。それでも、物が動いていたら、佐藤さんたちに相談すればいい。

 

「持ってきました」

 

「ちょっと見てみるっスよーっと……ふんふん……なるほどっスねー……」

 

巻尾さんは、取扱説明書に上から下まで目を通すと、眉間に皺を寄せた。どうやら、何かがあったらしい。

 

「種田さん、これ……書いてあること本当っスかね?」

 

「えっと……読ませてください。なになに……」

 

取扱説明書に目を通すと、そこには、

 

心から願いながら命令すれば通じるかもしれない。

 

とだけ書いてあった。これは本当にそうなんだろうか?

 

「と、とりあえずやってみましょうか?」

 

「そうっスね」

 

心の中で念じるようにして、犬たちの方を見る。すると、点と点がつながり一つの線になるような感覚があった。そして、亡者の方をみて命令を出す。

 

【噛みつけ】

 

そう命令すると、犬たちは威嚇をして勢いよく噛みつきにいった。ライデンが左腕に食らいつき、マツナガが右脚に噛み付いた。首を左右に振りながら噛んではいる。が……これはちゃんと命令が伝わっていることになるのだろうか?

 

亡者は、犬たちを振り払おうとするが一向にそれができない。バタバタと手足を振り払うようにすると、ライデンとマツナガは亡者の喉元へ噛みついた。

 

それが致命傷だった。

 

亡者は、ばたりと地面に倒れた。首からは、ダクダクと赤黒い血が流れ、ぴくりぴくりと一瞬動いたが、そこからは早かった。

 

まるで、糸が切れた操り人形のように亡者は動かず、辺りには静寂が蔓延る。

 

「これで……いいのか?」

 

テストに合格したかどうか全く分からない。頭に疑問を抱いていると、佐藤さんが手を合わせ小さな声で何かを唱えた。すると、動かなくなっていた亡者は時間を巻き戻すかのようにして元の人の形へと戻っていった。

 

「試験の結果はまずまずと言ったところでしょうか。使えなくはないですが、速攻性が少しばかり足りなかったですね。まぁ、それは今後の訓練次第と言う感じでしょう」

 

「つまり……合格ですか?」

 

「いくつか問題はありますが、まぁ規定範囲内には収まっていますね」

 

「そ、そうですか」

 

よかった。とりあえず試験は合格のようだ。そう思っていたらどっと疲れが出てきた。そういえば、この一週間犬達にかかりっきりで自分のことは後回しにしていたような気がする。

 

気づくとばたりと倒れ、地面に伏していた。誰かが激しく体を揺すっているが、それが誰なのかはわからない。ただ、手足の感覚が痺れて失われていくのを感じながら意識を失っていく感覚を感じていった。

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