地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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あんみつと緑茶

翌日。体調もすっかり良くなり、無理せずに体を起こせるぐらいには体力が回復した。まだ日は昇っておらず、吐く息は僅かながら白い。はなの様子を確認してみると、2時間前に目が覚めていたからあと1時間ぐらいは起きないだろう。起きる前に部屋を温めておくことにする。

 

部屋の隅に置いてある暖房器具は、閻魔様が使わないから使っていいよ貰い物だけどと言われ、ありがたく譲り受けたものだ。その暖房器具のスイッチをオンにする。

 

……ここ数週間を振り返ってみれば色々な人に世話になりっぱなしだったな、と思ってしまった。特にあの2人ーーー 佐藤さんと巻尾さんには、本当に色々と迷惑をかけたと思っている。倒れて意識がはっきりしなかった時も、はなの世話をしてもらったり……今度何かお礼をしないとな。

 

部屋が温まってくると、何かを察したのだろうか。はなが目を覚ましたようだ。おそらくお腹を空かせているのだろう。

 

「はいはーい、ミルクですよーっと。へい、お待ち」

 

ミルクを飲ませた後にゲップを促し、うとうととしてくるまで抱いておく。しばらくすると、眠くなってきたのか、とろんとし始めた。

 

「そう言えばはなの服、あんまし替えがなかったな。とりあえず佐藤さんに相談してみよう」

 

◇◇◇

 

はなを託児所に預け、執務室の鍵を借りにいく。しばらく探していると、ロング丈のクラシックなメイド服をきた女性が1人。佐野さんが窓を拭きながら、物思いに耽っていた。

 

「おはようございます、佐野さん。執務室の鍵をお借りしたいんですがよろしいですか?」

 

「あらやだ私ったらぼうっとしちゃって……ええ、おはようございます。なんだか随分とお久しぶりな気がしますねぇ……ふふっ少々、お待ちください」

 

そう言うと佐野さんは袂から鍵束を取り出し、その中の一本を差し出した。鍵を借り、礼を言うと佐野さんは頭を一度だけ下げて奥の扉へと戻っていった。

 

扉の鍵を開ける。そこは、いつもと何も変わっていない。いや、忘れてはいけない。この部屋も誰かが手入れして初めて何も変わらない部屋になるんだ。……そう言えば佐野さん何かに悩んでいたのかな?時間があったらタイミングをみて話を聞いてみることにしよう。

 

ひとまず椅子に座り、報告書を書き上げていく。

昨日の夜から先日の研修を振り返り、メモを数枚取っていたのでその情報をまとめ、印刷する。

 

書類ができたので、業務用のプリンターにデータを飛ばすと、すぐに印刷が始まった。刷りたてのプリントは、まだほんのり温かい。その書類をまとめ、角の部分を針なしのホッチキスで止める。

 

書類は用意できたので、あとはこれを閻魔様に渡せば終わりだ。閻魔様の執務室までしばらく歩いていくと、どうやら先客がいるようだ。扉をノックして反応を見ると「入っていいよー」との声がした。

 

「やぁやぁ、たねちん。ひさしぶりー」

 

「お久しぶりです、閻魔様」

 

「うん、久しぶり。んっ、それは?」

 

「これは先日の研修の報告書です」

 

「うん、わかった。そこに置いといてー」

 

小さな山になった書類のうえにその報告書をおくと、閻魔様は対面の相手との話を再開させた。背丈は佐藤さんより少し小さいぐらいだろうか。顔は整っていると思うが、いかんせん髪を伸ばしっぱなしにして後ろで纏めているため、少々野暮ったく見えてしまう。

 

「うーん、この予算案じゃ通るのは難しいかなぁ……もっと具体的に書いて再提出してちょうだい」

 

「え、あ、はい。わかりました……失礼します」

 

そう言うと、その女性は扉の奥へと帰っていった。それを横目にしながら、閻魔様にそれとなく聞いてみる。

 

「閻魔様、彼女は?」

 

「おや、たねちん。彼女が気になったかい?」

 

「気になった、と言いますかなんか雰囲気重たいな、と思ってしまいました」

 

「彼女は衆合地獄の新人だよ。多分、上司から言われて書類を届けに来たってところかな」

 

「書類ですか?」

 

「そっ。彼女がさっき持ってきたのが予算案の書類ね。ただ、少しつめが甘かったから持って帰らせたと言うわけさ」

 

「なるほど、そう言うことだったんですね……あ、書類ここに置いておきました」

 

「はいはーい、ありがとう。あとの時間は、自由にしていいよー」

 

「え?」

 

「たねちんの今日の仕事はそれだけ。裁判関係は明日から再開だからがんばってねー」

 

「わかりました!」

 

◇◇◇

 

閻魔様の執務室を出ると、どうも手持ち無沙汰になってしまった。……そう言えば今朝、佐野さんが何か話したそうにしていたことを思い出した。

 

今朝、鍵の受付をしてもらった場所にいくと、そこに佐野さんはいた。鍵束の鍵を一本一本見ながら、鈍く光っている鍵を磨く作業をしていた。

 

「佐野さん、少しお時間よろしいですか?」

 

「はい、種田さん。この通り、時間はありますよ。それで、どう言うご用件でしょうか?」

 

「実は今朝方の佐野さんの様子、気になっちゃったんですよね。なにか相談に乗れればいいなと思って話しかけました」

 

「まぁ、そうだったのですね。……うーん、この問題は種田さんお一人だけでは解決できないかもしれません」

 

「本当ですか?……じゃあ、誰かもう一人くらいいればいいんですかね?」

 

「ええ、あと一人以上。誰か連れてきてくださればお話ししましょう」

 

「わかりました」

 

佐野さんと話を終え執務室に一度戻る道中で誰かに頼れるかを考えてみる。巻尾さんは、通常業務で忙しいだろうし佐藤さんも同じく……いや、巻尾さん以上に忙しいだろう。

 

他に頼れて時間がある人といえば……轟達だろうか?

以前、連絡先を交換していたと思うので端末のリストを確認すると、轟の連絡先があった。

 

コールすると、3コールほどで出てくれた。

 

「もしもし、忙しいところすみません。種田です。今、お時間大丈夫でしょうか?」

 

「あっ?あぁ……ちょっと待てよっと……あと30分ほどで仕事納めだ。そこからなら大丈夫だ」

 

「わかりました。では、どこで落ち合いましょう」

 

「あー、そうだな。とりあえず食堂で集合ってのはどうだ?」

 

「わかりました。では、40分後ぐらいに食堂で」

 

「あいよっ。あと、電話の時も敬語はいらねぇぞ」

 

「すいません、善処します」

 

「わかった。じゃあ、40分後に食堂な。江藤も一緒でいいか?」

 

「あ、大丈夫ですよ。それではまた」

 

そう言うと画面に映ったコールサインを切る。よし、先に食堂に行って待っておくことにしよう。

 

◇◇◇

 

食堂へ行くと、ピーク時とは時間がズレたおかげか席についているものはかなりまばらな状態だった。

 

どこか空いている場所に座ろうと、席を探していると閻魔様がいつもいる定位置の席に佐藤さんがいた。

 

「あれ、佐藤さん。どうしたんですか?こんな時間に」

 

「種田さんこそ。私は、先ほど出先から戻ってきたので遅めの昼食を取っていたところです」

 

「そうなんですか。ここで人と待ち合わせなんですが、実を言うと早く来すぎてしまって……」

 

「そうですか。でしたら、何か甘いものでもいただいたらよろしいかと」

 

「甘いものですか。なにがあるかな……」

 

壁に貼ってあるメニューを眺めてみると、言われた通り甘味ものがいくつかある。その中でどれがいいかなーと考えていると、佐藤さんが口を開いた。

 

「ちなみに私のおすすめはぜんざいです」

 

「ぜんざいですか……そりゃまた渋い」

 

「あとはお腹が減っていたら赤飯とかですかね」

 

「赤飯とかもあるんですか?」

 

「ええ、ありますよ。この食堂は24時間空いていますから誰のどんな要望でもすぐに答えることができると言うのがここの柱のようになっていますね」

 

「え、でもそうなると作っている人とかはどうなるんですか?」

 

「そちらもシフト制で回っているようですよ。時間帯によって料理の味付けがバラバラにならないように日々切磋琢磨されてます」

 

「す、すごい……」

 

とりあえず佐藤さんの話を聞き終え、厨房まで聞こえるように注文をした。大きな声で

 

「あんみつと緑茶!」

 

と頼むと、厨房の裏から

 

「アイヨッ!あんみつと緑茶ね!」

 

という元気すぎる声が返ってきた。どうやら、声からして今の時間仕切っているのは女性の獄卒のようだ。

 

しばらくすると、手元にあるブザーがなり、あんみつと湯気がたった熱めの緑茶がカウンターに置かれた。それを受け取り、元の席に着く。

 

あんみつを食していると、佐藤さんが話しかけてきた。なんだろう?急ぎの案件かな?と思い、あんみつを食べるのを一度止める。

 

「種田さん、なにか私にお話しすることはありませんか?」

 

「お話しすることですか……えーっと。あっ、そうだ。はなの替えの服を手配したいんですがどうしたらいいですかね?」

 

「そうですね……子供の鬼とサイズ的には変わらないのであればいいのですがはなちゃんの場合、少し小さめのサイズですよね。わかりました。私が発注しておきましょう」

 

「発注って……地獄でも作ってるんですか?」

 

「知り合いに子供服を専門に作っている人がいるので相談してみることにしますね」

 

「いやいや、そこまでしてもらわなくても……」

 

「種田さん」

 

「はい」

 

「子供の成長というのはとてもとても早いものです。ならば、その瞬間をキレイに着飾り写真に収める。それが親のあり方だと私は思います」

 

「……それもそうですね。わかりました。あと、お金はどうすれば?」

 

「少々お待ちください。連絡してみます。……返事が返ってきました。はなちゃんの写真を宣伝に使わせてくれるのでしたら代金は材料費だけでいいそうです」

 

「写真ですか……自信ないですね」

 

「そこは専属のカメラマンを雇いましょう。大丈夫です。浮いたお金の内3〜4割ほどでいい腕のカメラマンが見つかりますよ」

 

「本当ですか?」

 

「ええ、それでも見つからない場合は私が紹介します。知り合いに腕のいいカメラマンが数人いるので」

 

佐藤さんの交友関係はいったいどれだけ広いのだろうと思いつつ、同時にありがたいと感じたので深々と頭を下げた。

 

「おいーっす。種田ー……これ一体どう言う状況?」

 

「さぁ……何かしらあったんだろうな」

 

下げた頭を持ち上げ、声のした方へと振り返るとそこには轟と江藤さんがいた。轟もだが、江藤さんの銀縁のメガネのレンズが光り、只者ならぬ雰囲気を醸し出している。

 

「轟に江藤さん。ご足労様です。なにか飲みますか?」

 

「いや、俺はいい」

 

「おう、俺も。で、話ってなんだ?」

 

「うーんと、実はですね……」

 

「その話、私も聞いてよろしいのでしょうか?」

 

「多分大丈夫だと思います。じゃあ、話しますね」

 

今朝、佐野さんがため息をついていたこと。それがとても気になっていたこと。話を聞くと、1人じゃダメなようだから誰かを連れてくること、などを話した。

 

「とりあえず、頭数がいるってことじゃねぇのか?」

 

「そしてその佐野さん1人の力では解決できないと言うこともわかる」

 

「そうですね。この場合、まず佐野さんの相談を聞いてみて判断してもいいのじゃないでしょうか?」

 

3人の意見はほぼ一致した。とりあえず、この4人で佐野さんの抱えてる問題を解決できるかどうかやってみることにしよう。

 

佐野さんがいつもいる受付のところへ行くと、物思いに耽っている佐野さんがいた。

 

「あら、種田さんに佐藤さん。そしてうしろにいる方は初めましてかしら」

 

「佐野さん、力不足かもしれませんが相談してください。俺たちにできることだったら手助けぐらいにはなりますから」

 

佐野さんはしばらく考えたあと、皆の目を見て首をこくりと下げた。

 

「そうですね……みなさんでしたらこの問題をどうにかしてくれると信じています。私が今悩んでいることは一つ」

 

「皆様に幽霊退治をお願いしたいのです」

 

 

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