「おいおいおいおい、なんだアレ!?」
「俺の気のせいじゃなければ龍、だよな……?」
「ええ、アレは龍ですね」
「アレをどうしろと!?まさか倒すのか!?」
「それしか道はないでしょうね……気をつけてください、来ますよ」
皆がこの状況に追いついていない中、佐藤さんは慌てずに行動を開始した。それに倣うようにして皆、書棚の影に身を隠す。
ひとまずこれでなんとかなるか?そう考えていたら龍は蛇のような鎌首をもたげ、のしりのしりと近づいてくる。
息ができなかった。
もし、息をして自分の居場所が知られたら?そんな恐怖からか身体の奥底から震えが出てきた。
しばらくすると龍は、何物すらも我関せずと言ったばかりのようにして円を描くように丸まった。瞳を閉じ、鼻息のみがこちらに伝わる。
全員が一度龍と距離を取り、少し離れた場所に集まった。
「あそこにいられたら動けないな……」
「ですね。どうすればいいんでしょうか?」
「この場合、あの龍を倒す、というよりは無力化しなくてはいけませんね」
「無力化、ですか?」
佐藤さんは手に持っていたコンパクトを見やすいようにして、説明を始めた。
「ええ、まず大前提としてあの龍は先ほど見た通り禁書のページから生まれたものと見て間違いないと思われます。そして、その禁書を封印もしくは力自体を弱めることはできるかと」
「……それがさっきあの袋に手を突っ込んででてきたやつってこと、か?」
「それであってます」
「……ちょっと待て。俺、何も引けてねぇんだけど!?」
「あなたの場合は素手でどうにかできると判断されたのでしょうね……出来ますか?」
「で、出来らぁ!」
「よろしい、ならばあなたにはあの龍を起こす役目をお願いします。無闇に突っ込みすぎるとこちらも回収出来なくなりますので気をつけて」
「おう」
「それと江藤さん。あなたはもしページが弾けた時にそれを吸い込んでもらう仕事があります。言っている意味はわかりますね?」
「わかった。あいつの身体がほつれてページ単体になり始めたら吸い込めばいいんだな?」
「その通りです。今回の龍の場合、私と佐野さんの道具はどうも相性が悪いようなので主に行動するのは3人になってしまいますが……よろしくお願いします」
「わかりました」
「わかった」
「おう」
「ご武運を」
◇◇◇
佐野さんと佐藤さんから少し距離を取り、3人ばらけて龍の様子を見る。瞳を閉じてはいるが、髭はウネウネと動いており警戒をしているのがよくわかる。
すると、その龍の前に轟が大股で近づいていったと思ったその瞬間、龍の鼻っ柱を思いきり蹴り上げた。それには流石の龍も怒ったのか、怒号と共に大暴れする。
「よし、起こしたぞ!!!」
「ちょっ、お前!もう少しやり方というもんがあるだろうが!!!」
「とりあえずこいつ、狸寝入り決め込んでたからな。さて、戦闘開始だ!」
「……こいつ、やっぱり阿保だ」
轟と江藤さんの掛け合いを見ながら微笑ましいと思ってしまうと同時に、この現状をどうにかしないといけないということが頭の中で駆け巡る。
そんなことを考えていると、目の前に何かが恐ろしい速さで現れた。それは、先ほど怒号を発していた龍の尾だった。
それを避け切れるわけもなく、思い切り身体に打ち付けられ、空を飛んだ。何が起きているのか、まるでスローモーションかのように時間が引き延ばされた感覚の後に、書棚に思い切り打ち付けられた。
「ガッ!!!」
「おい、大丈夫か!?」
「痛つっっ……轟、お前はとりあえず目の前のあいつのことだけ見ろ!俺のことは、その後でいい!」
「わ、わかった!」
痛みで身体が震えるがなんとか歯を食いしばる。自分の容体を確認する。どうやら書棚に打ち付けられた際に思い切り打ち身をした以外はなんとか大丈夫そうだ。
肺から空気を出し、思い切り息を吸う。よし、まだ身体は動かせる。プルプルと脚は震えるが、これ以上この場の居続ける方が部が悪い。
「轟!!!」
「なんだ!!!」
「お前はそいつをしばらく引きつけといてくれ!!!」
「とりあえずわかった!!!」
轟は拳をゴキリと言わせ、指を鳴らす。江藤さんの方をチラリとみると、軽く会釈をしていた。どうやら、説明は不要のようだ。
轟が書棚を利用して、縦横無尽に駆け回る。その速度は並の人間の速さとは比較にならないほどに早い。
こうみると、あいつも普通の人間じゃない、と思ってしまったが今は目の前の龍に集中する。
ある程度動きを抑えている間に、後ろから回り込み、龍の背を蹴りながら思い切り駆け上がる。
すると龍は、首をこちらに向けて何かを吐き出そうとしている。これは何かまずい!!!そう思ったが、この状態から避けることも難しかった。
「種田ぁぁぁっ!!!」
熱。熱。熱。
それはもはや熱いという感覚すら超えて痛覚を遮断する。龍の口から放たれたそれは、身体を焼く。
(口が開いている……鋏で切ればなんとか……あぁ、でも刃渡が足りない……くそっ……)
すると、銘秤が鈍く光った。次の瞬間、鋏は形を変え鈍く光る刀身を持つ短刀になった。それを両手で持ち、龍の顎から喉の下まで振り下ろす。
言葉に表せないような悲鳴が龍から上がったと思ったら、それは次の瞬間には無くなっていた。頭の方から真っ二つに切り裂かれたそれは、元の姿である本のページの状態にバラバラと花吹雪のように空を舞った。
それをすかさず江藤さんが掃除機で吸い込んでいく。よし、なんとかなりそうだ。
少し、少しだけ、目をつぶろう。今はものすごく眠たい。