地獄の沙汰も君次第   作:Marks_Lee

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仮契約

「おい、そっち飛んで行ったぞ!」

 

「わかりました!せーのっ!」

 

全員が各所にばらけて本を捕まえようと必死になるが、中々捕まえることができない。

そうしていると轟がまた何かを見つけた。

 

「おい、アレって」

 

「アレ?」

 

轟が指を差した方を見てみると、そこにはバラけたページが空に舞い上がっていた。しばらくするとそれは何かに形成されていく。

 

鰐のような大きな口、鹿のような立派な角、長い長い髭。体躯はとても大きく、それが何を形成しているのかは一目で分かった。

 

それはさきほど四苦八苦しながらやっとの思いで倒した龍だった。

しかも龍単体ではなく、幽霊と混じってしまったせいか、紫色の体表をしている。

 

その龍の頭には、黒い封印対象の本がビタリとくっつき、大きな眼をギョロリと光らせる。

 

「おいおいおい、どうすんだアレ」

 

「とりあえずアレをどうにかしないことには封印が出来ないみたいですね。みなさん、戦闘準備を」

 

全員が構えていると、龍が雄叫びを挙げた。その雄叫びで、書棚に納められていた本たちが床に叩きつけられるようにして落ちていく。

 

先ほどと同じようにして散り散りになって行動し、ターゲットを絞り切れないように行動した。

 

それを分かっていたかのようにして龍は、首を横に大きく振る。すると、竜の首が分たれて九つの首が生えてきた。

 

中央の首には、本体の証拠である封印対象の本がへばりついている。

 

その姿を見ていると、龍が何かしらの行動にで始めた。なんだろう。すごく嫌な予感がする。

 

「全員気をつけてください!何か嫌な予感がします!」

 

そうこうしていると、龍は一呼吸すると同時に口を大きく開き、豪炎を吐き出した。

 

全員が書棚から離れていたおかげで被害は最小限に済んだが、書棚は焼かれ炭化していた。

 

「おい、どうするんだアレ」

 

江藤さんがそう言ったが最後、全員の口から言葉すら出なかった。

 

それは絶望だった。

 

それは悲哀だった。

 

それは無情だった。

 

人のようなちっぽけな生き物が、敵うはずもない。そう思わせてくるプレッシャー。

 

全員が口を噤んでいると天井付近の空間から突如、蝙蝠がバサリバサリと飛んできた。しばらくするとその蝙蝠は、目の前に羽ばたきながら人の言葉を話す。

 

「どうしたどうした。え?」

 

「……こ、蝙蝠がしゃべった!?」

 

「力のある蝙蝠だったらそりゃ喋るさ。さて、ピンチなんだろ?俺様が力を貸してやろうか?」

 

「……力を?」

 

「そうともさ。俺様の力を借りれば百人、いや百万人力と言ったところだろうね。さて、どうする?」

 

「どうすると言われても……素性の知れない相手に力は借りられない」

 

「そうか……いやー、この状況を変えれるのは俺様しかいないぜ?どうするよ?みんな死なせたくないだろ?」

 

「それは確かに……」

 

「スンスン、それにお前さんは特別変わった匂いがする。その味を試してみたい」

 

「……分かった。同期がどうあれこの状況をどうにかできるのならば。で、どうすればいい?」

 

「いい決断だ。とりあえずお試しってところで仮契約しておこう。ほら、手のひらを前に出せ。はーやーくっ!!!」

 

「わ、分かった。こ、こう?」

 

「そうそう、それじゃいただきまーす」

 

すると、蝙蝠は手にガブリと噛み付いた。鋭い痛みと同時に、噛まれた場所から何かが染み込んでくる。

 

「痛っ……」

 

「これで仮契約が済んだ。どうだ、力が溢れてくるだろう?」

 

「確かに……」

 

「そいじゃ、いっちょアイツを倒しましょうかねー」

 

「一つだけ聞いていいか?」

 

「なんだい?」

 

「お前の名前を聞いておきたい」

 

「俺の名前はアルカ。まぁ、ちょっとだけ力のある蝙蝠さ」

 

「そうか……」

 

「さぁ、いっちょやってしまおうぜ」

 

「分かった」

 

銘秤を手にして、龍の前に歩いていく。その姿を見ていた全員が口々に何かを言っていたが、その声の中に佐藤さんの声だけはなかった。

 

ただ、小さな声で。

 

「どうしてあなたはそう辛く過酷な道を選ぶのでしょうか……」

 

そう言った佐藤さんの声だけがかすかに耳に残った。

 

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