銘秤を手に龍の元へと歩いていく。最初は目にも止めていなかった龍だったが、何かの勘が働いたのだろうか。
九つの首が一斉に、視線をこちらへ向けた。
「あ、危ない!!!」
誰かがそう言うと龍は口を大きく開き、炎を前方向へ向けて吐き出そうとする。だが、一瞬だけ隙ができたので懐へ潜り込むように滑っていった。
その挙動に反応できなかった龍の首の右端の二つは、喉元から裂くようにして鋏で切られた。
首が別れていても神経はあったのだろう。龍は痛そうに蠢き、書棚にその巨大な体躯を叩きつけた。
先ほどとは打って変わって、首を落とすところを見た者は全員が口を噤んで見守るばかりだった。
「あと7つ!!!」
龍は怒り狂ったようにして襲ってくるが、そこをスルリと避けることができた。跳躍すると、まるで別の生き物のように人ではあり得ないほどに飛び上がることができた。
重力から解放されたようにふわりと身体が浮いたが、天井を蹴り、重力が落ちる方向へ加速していく。
床に落ちる瞬間に真下にあった竜の首の一つに、頭蓋が貫くようにして銘秤を突き刺す。刺すと同時に、その首は形だけを残して、ページの塊になっていく。
親指の先を噛み、血を出して掌を2回拍手する。
「ライデン、マツナガ」
名を呼ばれた二匹はボンという音と共にこの場に召喚をされた。
二匹は一瞬不思議そうにしていたが、瞬時に状況を理解したようで、あっという間に臨戦態勢を取った。
禁書エリアの床を駆け回るようにして、二匹は走り回る。それに気づいた龍は口を大きく開き豪炎を吐こうとするが、それはこちらの目論見通りだった。
大きく口を開いた瞬間に、顎を横に蹴り上げ吹っ飛ばす。脳が揺られた龍は、頭を床に伏せるようにして倒れ込んだ。
その隙を待っていたかのように、マツナガとライデンは龍の喉元に噛みつき、あっという間に首を噛み切った。
倒れていた龍の首を切り取るようにして、残りの首は中央の一本のみを残すばかりになった。
言葉はいらない。龍の瞳は痛みを耐えるようにしているが、戦意を失ってはいなかった。
◇◇◇
「どうしたんだアイツ?急に恐ろしく強くなったぞ」
「理由はわかりませんが……先ほどの一瞬離れた時に何かあったのでしょうか?」
江藤と佐野って人が不思議そうにしていたが、俺は見ていた。喋る蝙蝠が飛んできて、契約だなんだと言っているのをこの目と耳でちゃんと知ったからだ。
そして、アイツの担当官である佐藤だったか?その人がさっきから少しも口を割らずに何もしゃべってこないのが恐ろしかった。その目は、アイツの戦いを後方でずっと見ているようで、何かを観察しているようにも見えた。
くそっ、種田……アイツに協力できないのが辛い。
アイツは1人であの龍を相手に善戦しているってのに俺は……
「悔しいですか?」
そう言ったのは佐藤だった。
俺は思わず首を縦に振った。
「そうですか……ですが、あなたにはこの後重要な仕事が残っています。それを忘れないようにしてください」
重要な仕事?一体なんのことだろうか?