封印した本を、佐野さんに渡すと佐野さんは深々と頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました!今回の件は私一人では絶対に解決できなかったので……本当にみなさんのおかげです!」
「お疲れ様でした。種田さん、帰って今回の報告書を書きますので覚悟しておいてください」
「……それ、明日以降じゃダメですかね?」
「報告書の類いは情報が新鮮なうちにまとめるのが一番です」
「……わかりました」
「ではみなさん。私が禁書エリアの入り口までご案内しますのでついてきてください」
佐野さんはそう言うと、くるりと背を向け入口の方へと歩みを進める。それについて行く形で全員が疲れた身体に鞭打ちながらも一緒に進んでいく。
すると、横に佐藤さんが沿うように歩幅を合わせてきた。一体なんだろう?と思っていると少し小声で話を始めた。
「種田さん。今回の件に関することなのですが、後でお話しよろしいでしょうか?」
「あ、はい。わかりました」
「それでは後ほど」
今回の件?一体どれのことだろうか?そんなことを考えていると、禁書エリアの入り口が見えてきた。
「はい、着きました。もう一度お礼を言わせていただきます。本日はありがとうございました」
「あっ、佐野さん。このあと報告書を書くので執務室の鍵、借りてもいいですか?」
「わかりました。こちらをどうぞ」
渡されたのはいつもの真鍮製と思われる鍵。それをポケットに入れる。佐野さんに挨拶をし各自解散となった。
そのあと佐藤さんと一緒に閻魔様へ上げる報告書を作りに行こうとしたが、ふらふらと脚が震えて力がうまく出せない。
廊下で倒れそうになったところを佐藤さんに支えてもらう形でなんとか立っていられるような状態だった。
「大丈夫ですか、種田さん」
「ええ、なんとか」
「とりあえずこれでも舐めててください」
そう言って渡されたのは、小さな飴玉だった。それを受け取り、口に入れようと封を開けようとするが、やはり力がうまく入らない。
「少し待っててください」
佐藤さんはそう言うと、飴の包み紙を剥がし指先に持って口に近づけてきた。
「口を開けてください」
そう言われ、断ることもできずに口を開けた。飴は苺味だった。
「この時間だと食堂は空いていますが簡単なものしか出せないと思われますね」
「え?今何時ですか?」
「今は夜の10時過ぎです」
「10時……あっ、はなの迎え行かなくちゃ!」
「落ち着いてください。そこは禁書エリアに行く前に巻尾に頼んでいるので安心してください。今頃、休憩室あたりで寝ていると思いますよ」
「ほ、本当ですか?巻尾さんならまぁ安心かな」
「ええ、ですので報告書の作成に集中してくださいね」
「わかりました」
執務室に入る扉に鍵を差し、扉を開く。その先には、いつもと何も変わらない執務室。
そこに置いてあるタブレットに今回の騒動の原因、解決策、問題点等をまとめ報告書を書き上げた。
書き上げ、背中を伸ばすと小気味良い音が鳴る。どうやら、だいぶ疲れているようだ。
目を擦り、あくびを殺しながら印刷をする。刷り上がった報告書はまだ暖かく、インクの匂いがしていた。
それを佐藤さんに渡すと、きちんと文章を読み込んでいた。
「はい、これなら大丈夫ですね。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。あっ、そう言えば禁書エリアで耳打ちしてたアレ、なんだったんですか?」
「あぁ、アレですか。種田さん、何かと契約しましたよね?」
「えっ……わかるんですか?」
「詳細は不明ですが、種田さんは人間ですから。あのような力が出るとは到底思えません。それを踏まえて、何かしらと契約したと考えるのが妥当かと思いました」
「実は……」
今回のアルカとの仮契約のことを佐藤さんに話した。佐藤さんは、一言も発さず最後まで話を聞いていた。
「そのアルカと言った蝙蝠、呼び出すことはできますか?」
「えっ、どうなんでしょうか?やり方がわからないです」
「なるほど……種田さん、今後気をつけてください。そのアルカという蝙蝠危険かもしれません」
「えっ?」
「今後、本契約した際にどうなるかはわかりません。ただ……」
「ただ?」
「そうなった時、あなたは人ではなくなる可能性が非常に高いと予測されます」
「つまり、人間を辞めるってことですか?」
「はい、ですので本契約をする前にはよく考えてください。……あなたには私のようになってほしくないので」
最後の私のようになってほしくない、という言葉が耳に残った。一体、どういう意味なのだろうか?